第52話 蒼き息吹の主と小さな生命反応
《大型知性体周辺に別の魔力反応を検出》
《小型生命反応:1》
銀麦亭の食堂で、その表示を見た俺たちは言葉を失っていた。
青晶洞の深部にいた《蒼き息吹の主》。
昨日までは第一分岐よりかなり奥に留まっていた巨大な存在が、今はゆっくりと第一分岐方向へ移動している。
しかも、その近くには新しく小型の生命反応まで確認された。
ミナ「子供……なのかな?」
ジョウゴ「まだ分からない」
俺――ジョウゴは表示を見ながら答えた。
小型だから子供とは限らない。
別種の魔物かもしれないし、小さな精霊のような存在かもしれない。
それどころか、観測器の誤認という可能性だって完全には否定できない。
今分かっているのは、小さな生命反応が一つ増えたということだけだ。
レント「大型反応との距離は?」
詳細情報を開く。
《大型知性体との推定距離:約4.2メートル》
《両反応は同方向へ低速移動中》
カイト「一緒に動いてる?」
ジョウゴ「その可能性は高そうだな」
ミナ「だったらやっぱり……」
ミナが言いかける。
しかし、その時。
ポーン。
新しい通知が届いた。
《シズナ冒険者ギルドより緊急連絡》
《青晶洞第一次探索参加者は、可能であれば冒険者ギルドへお越しください》
《強制依頼ではありません》
《現在、青晶洞への立入禁止措置は継続中です》
カイト「呼ばれたな」
レント「向こうも観測しているはずだ」
ジョウゴ「行こう」
今日はもう探索へ出るつもりはなかった。
ただ、状況が変わった。
それなら話くらいは聞いておいた方がいい。
◇◇◇
シズナ冒険者ギルドへ到着すると、すぐに奥の会議室へ通された。
待っていたのは昨日と同じ副支部長のグレイス。
そして数名のギルド職員だった。
机の上には《青晶洞》の地図。
さらに、俺たちが第一分岐へ設置した《定点魔力観測器》から送られてきた情報が表示されている。
グレイス「来てくれて助かる」
ジョウゴ「状況は?」
グレイス「まず大型知性体についてだが、移動は停止した」
地図。
第一分岐。
右側。
そこから約百八十メートル。
赤い印。
止まっている。
ジョウゴ「第一分岐までは来てない?」
グレイス「ああ。今のところはな」
ミナ「小さい反応は?」
グレイス「こちらも大型反応の近くで停止している」
レント「別行動はしていない?」
グレイス「確認されていない」
なら。
少なくとも。
巨大な存在に追われている何か、という可能性は低そうだ。
グレイス「もう一つ分かったことがある」
副支部長が観測記録を切り替える。
《大型知性体・魔力放出周期》
《小型生命反応確認後、平均放出量低下》
ジョウゴ「下がった?」
グレイス「約二割だ」
カイト「なんで?」
グレイス「それが分かれば苦労せん」
カイト「ですよね」
でも。
悪い。
変化。
ではない。
魔力濃度。
上がり続ける。
より。
放出。
減った。
方。
周辺。
影響。
小さい。
はず。
グレイス「さらに洞窟入口の魔力濃度も、わずかだが低下し始めている」
ミナ「落ち着いてきた?」
グレイス「可能性はある」
ただし。
理由。
分からない。
◇◇◇
グレイス副支部長が椅子へ深く腰掛ける。
グレイス「本来なら今日はこれ以上動かず、観測を続ける予定だった」
ジョウゴ「予定だった?」
グレイス「状況が変わった」
嫌な。
言い方。
グレイス「定点魔力観測器が音声を拾った」
「……音声?」
昨日。
あいつ。
話した。
なら。
あり得る。
グレイス「完全ではない。洞窟内の反響が強く、一部しか解析できていない」
記録。
再生。
される。
ザーッ。
雑音。
岩。
擦れる。
音。
そして。
低い。
声。
???『……まだ……眠れ……』
途切れる。
次。
???『……外は……危うい……』
また。
雑音。
最後。
???『……我が……守る……』
音声。
終わる。
「……」
会議室。
静か。
ミナ「守る……?」
カイト「誰を?」
答え。
候補。
一つ。
ある。
大型反応。
近く。
いる。
小型。
生命反応。
レント「小型生命体に話しかけている可能性が高い」
グレイス「我々もそう考えている」
ジョウゴ「敵対関係じゃない」
グレイス「少なくとも現在の観測結果からは、その可能性は低い」
むしろ。
守ってる。
可能性。
ある。
◇◇◇
ミナ「外が危ないって、どういう意味でしょう?」
そこ。
俺も。
気になる。
青晶洞。
外。
今。
大きな。
異変。
ない。
北東草原。
普通。
魔物。
いる。
だけ。
でも。
あの存在。
何を。
外。
危険。
判断。
している?
グレイス「二つの可能性を考えている」
副支部長。
指。
一つ。
立てる。
グレイス「現在の北東草原そのものを危険だと判断している」
そして。
二つ目。
グレイス「あるいは、あの存在にとっての『外』が、我々の考える洞窟の外とは違う」
レント「もっと広い意味?」
グレイス「そうだ」
ジョウゴ「青晶洞のさらに深部に、別の場所がある?」
グレイス「可能性の話だ」
洞窟。
内部。
まだ。
二十七%。
程度。
しか。
調査。
できてない。
深部。
何。
ある。
分からない。
◇◇◇
その時。
ギルド職員。
一人。
部屋。
入る。
ギルド職員「副支部長」
グレイス「どうした」
ギルド職員「観測器に変化です」
全員。
表示。
見る。
《大型知性体:移動再開》
《移動方向:第一分岐》
《小型生命反応:随伴》
カイト「また動いた」
距離。
百八十。
百七十。
百六十。
ゆっくり。
近づく。
でも。
《敵対反応:なし》
変わらない。
グレイス「速度は?」
ギルド職員「極めて低速です」
グレイス「……」
副支部長。
考える。
そして。
俺たち。
見る。
グレイス「ジョウゴ」
ジョウゴ「はい」
グレイス「君ならどうする?」
「俺?」
まさか。
聞かれる。
思ってなかった。
ジョウゴ「俺なら……」
考える。
こちら。
敵意。
ない。
相手。
敵意。
ない。
しかも。
一度。
会話。
成立。
している。
なら。
ジョウゴ「まず待ちます」
グレイス「待つ?」
ジョウゴ「向こうから第一分岐まで来るなら、こっちから深部へ入る必要はありません」
相手。
領域。
奥。
勝手。
入る。
より。
向こう。
来る。
待つ。
方。
いい。
ジョウゴ「第一分岐より手前の安全が確認されている場所で待って、向こうが止まったら話しかける。ただし武器は抜かない」
レント「俺も賛成だ」
ミナ「私も」
カイト「盾も背負ったまま?」
ジョウゴ「ああ」
戦う。
姿勢。
見せない。
それ。
大事。
グレイス「……なるほど」
副支部長。
少し。
考える。
そして。
頷く。
グレイス「ギルドとしても同じ判断だ」
◇◇◇
《特殊依頼が発生しました》
《《蒼き息吹の主》接触調査》
《依頼区分:特殊》
《目的:大型知性体との意思疎通》
《副目的:小型生命反応の確認》
《戦闘:原則禁止》
《対象への攻撃:禁止》
《深部への進行:禁止》
《第一分岐周辺で接触してください》
普通。
討伐。
依頼。
全然。
違う。
でも。
AWO。
らしい。
依頼。
だと思う。
グレイス「無理に受ける必要はない」
ジョウゴ「みんなは?」
ミナ「行く」
カイト「ここまで来たらな」
レント「一度接触している俺たちの方が適任だろう」
なら。
ジョウゴ「受けます」
《《蒼き息吹の主》接触調査を受注しました》
◇◇◇
今回は。
ギルド。
用意。
する。
もの。
ある。
まず。
通信。
魔道具。
《遠隔音声記録石》
俺。
持つ。
会話。
ギルド。
リアルタイム。
聞ける。
でも。
向こう。
ギルド。
声。
聞こえない。
俺たち。
会話。
邪魔。
しない。
ため。
らしい。
さらに。
《緊急帰還石》
四人。
一個。
ずつ。
ただし。
青晶洞。
転移設備。
ない。
から。
通常。
帰還。
ではない。
緊急。
専用。
使用。
十秒。
静止。
必要。
戦闘中。
使いにくい。
それでも。
保険。
ある。
方。
いい。
グレイス「そして最後に」
副支部長。
俺。
見る。
グレイス「相手が会話を拒絶した場合、すぐ帰れ」
ジョウゴ「分かりました」
グレイス「小型生命体を無理に確認する必要もない」
ジョウゴ「はい」
目的。
情報。
でも。
優先。
安全。
それ。
忘れない。
◇◇◇
青晶洞。
入口。
到着。
今日は。
ギルド調査員。
四人。
外。
待機。
でも。
中。
入る。
俺たち。
四人。
だけ。
武器。
装備。
してる。
でも。
抜かない。
星月。
外部魔力流入。
手動遮断。
維持。
《周辺魔力濃度:通常値比162%》
ジョウゴ「下がってる」
ミナ「昨日より全然低い」
まだ。
高い。
でも。
昨日。
入口。
百七十六。
第一分岐。
二百以上。
だった。
それ。
考える。
確実。
落ち着いてる。
◇◇◇
ブルーケイブバット。
二体。
見つける。
でも。
向こう。
襲ってこない。
天井。
止まってる。
クリスタルスライム。
一体。
いる。
でも。
通路。
端。
移動。
だけ。
カイト「魔物も落ち着いてる?」
レント「魔力濃度の低下と関係している可能性はある」
戦闘。
なし。
第一分岐。
到着。
《周辺魔力濃度:通常値比184%》
昨日。
二百四十八。
まで。
上がった。
場所。
かなり。
下がってる。
そして。
右。
通路。
見る。
暗い。
でも。
何か。
いる。
分かる。
ズ……。
ズズ……。
ゆっくり。
近づく。
ミナ「来る……」
ジョウゴ「武器はそのまま」
カイト「分かってる」
俺たち。
待つ。
やがて。
暗闇。
二つ。
黄色。
目。
現れる。
そして。
前回。
より。
近い。
から。
姿。
少しずつ。
見える。
巨大。
頭。
蒼黒い。
鱗。
そこ。
青い。
結晶。
混じる。
角。
後ろ。
伸びる。
首。
太い。
地面。
近く。
下げている。
やっぱり。
どう見ても。
竜。
近い。
姿。
《???》
《Lv:??》
《関係:中立》
でも。
俺。
そっち。
より。
別。
見る。
巨大。
頭。
少し。
後ろ。
何か。
動く。
「……」
小さい。
影。
青白い。
光。
纏ってる。
四本。
足。
小さな。
翼。
そして。
大きな。
瞳。
ミナ「小さい……ドラゴン?」
《???》
《Lv:1》
《状態:衰弱》
「……衰弱?」
俺。
表情。
変わる。
巨大。
存在。
黄色。
目。
俺たち。
見る。
???「……また……来たか……人よ……」
ジョウゴ「はい」
俺。
一歩。
だけ。
前。
出る。
でも。
距離。
十分。
残す。
ジョウゴ「あなたと話すために来ました」
沈黙。
そして。
巨大。
存在。
小さな。
竜。
見る。
???「……話……か……」
ジョウゴ「はい。あなたたちと戦うつもりはありません」
俺。
星月。
触らない。
両手。
見える。
位置。
置く。
敵意。
ない。
示す。
巨大。
黄色。
目。
細く。
なる。
そして。
???「……ならば……聞こう……」
《特殊イベント《蒼き息吹の主》》
《対話段階へ移行しました》
進んだ。
でも。
俺。
システム。
より。
小さな。
竜。
見る。
Lv1。
衰弱。
それ。
気になる。
ジョウゴ「その子は?」
巨大。
存在。
動かない。
でも。
空気。
少し。
変わる。
???「……我が……最後の仔だ……」
「……」
最後。
仔。
ミナ。
息。
飲む。
???「……この仔を……外へは……出せぬ……」
ジョウゴ「なぜ?」
低い。
呼吸。
洞窟。
響く。
でも。
前。
ほど。
魔力。
溢れない。
???「……この地の……魔力が……枯れ始めている……」
「え?」
俺たち。
顔。
見合わせる。
枯れてる?
逆。
だ。
今。
青晶洞。
魔力。
増えた。
それ。
問題。
なってる。
ジョウゴ「でも、洞窟の魔力濃度はここ数日で上がっています」
黄色。
目。
俺。
見る。
???「……それは……我が……与えている……」
やっぱり。
あの。
魔力。
この。
存在。
出してる。
???「……この仔を……生かすために……」
小さな。
竜。
弱く。
鳴く。
幼竜「……キュゥ……」
ミナ。
明らか。
顔。
変わる。
ミナ「……助けられないの?」
巨大。
存在。
ミナ。
見る。
しばらく。
沈黙。
そして。
???「……人の癒やしでは……足りぬ……」
その言葉。
同時。
システム。
動く。
《対象情報の一部が開示されました》
《種族情報を確認》
《蒼晶竜》
《個体名:未確認》
《古竜種》
《関係:中立》
やっぱり。
竜。
しかも。
古竜種。
そして。
小さい。
方。
《蒼晶竜の幼竜》
《Lv:1》
《状態:重度魔力欠乏》
《生命力低下》
ミナ。
口。
押さえる。
カイト「魔力欠乏……」
レント「だから親が魔力を放出している?」
古竜。
ゆっくり。
目。
閉じる。
蒼晶竜「……そうだ……」
初めて。
明確。
肯定。
した。
蒼晶竜「……我が力を……洞へ満たし……鉱脈を通し……この仔へ……戻している……」
青晶鉄鉱。
魔力。
吸う。
伝える。
鉱脈。
全体。
魔力経路。
なる。
バルガ。
予想。
合ってた。
でも。
目的。
違った。
あれ。
自然。
異常。
じゃない。
この。
親。
子供。
生かす。
ため。
必死。
魔力。
流してた。
だから。
青晶洞。
魔力濃度。
急上昇。
した。
そして。
川。
下流。
まで。
影響。
出た。
ジョウゴ「いつから、その状態なんですか?」
蒼晶竜「……三日前……」
最初。
異常。
確認。
された。
時期。
一致。
する。
蒼晶竜「……仔の……魔力核が……弱った……」
魔力核。
聞いた。
こと。
ない。
でも。
重要。
器官。
らしい。
蒼晶竜「……我では……もう……支えきれぬ……」
その言葉。
聞いた。
瞬間。
巨大。
身体。
少し。
揺れる。
そして。
初めて。
状態。
表示。
出る。
《蒼晶竜》
《Lv:??》
《状態:魔力大量消耗》
「……」
こっち。
も。
弱ってる。
子供。
助ける。
ため。
自分。
魔力。
大量。
使ってる。
このまま。
続ければ。
どうなる。
考える。
までも。
ない。
俺。
聞く。
ジョウゴ「助ける方法はありますか?」
古竜。
目。
開く。
俺。
見る。
長い。
沈黙。
そして。
蒼晶竜「……ある……」
システム。
鳴る。
《特殊イベント《蒼き息吹の主》が進行しました》
《新規クエスト条件を確認》
でも。
まだ。
依頼。
表示。
されない。
古竜。
ゆっくり。
頭。
上げる。
蒼晶竜「……人よ……もし……真に……我らと争う意思がないのなら……」
黄色。
目。
俺たち。
見る。
蒼晶竜「……一つ……頼みがある……」
その瞬間。
《特殊クエストが発生しました》
《蒼晶竜の願い》
《詳細条件:未開示》
《受注選択:保留》
俺たちが調べていた。
青鉄砂。
蒼色鉱脈。
青晶鉄鉱。
青晶洞。
異常。
魔力。
全部。
一つ。
繋がった。
でも。
その先。
待っていた。
もの。
討伐。
する。
ボス。
ではなかった。
子供を生かすために。
自分の力を削り続けていた。
一頭の。
親だった。




