第49話 青晶鉄鉱と星月の新しい反応
青晶洞の第一次探索を終えた俺――ジョウゴたちは、銀麦亭へ戻ってきたばかりだった。
本来なら今日はここで終わりにしてもよかった。
第一分岐までの地形確認。
ブルーケイブバットとクリスタルスライムの生息確認。
青晶鉄鉱の追加採取。
そして第一分岐右側の奥に、レベルすら表示されない大型反応が存在することも確認した。
依頼評価はS。
十分な成果だ。
ただ、一つだけ放置できないことがあった。
青晶洞の内部で、《星月》に組み込まれている魔力調整核が周囲の魔力を勝手に取り込んだことだ。
星月にそんな機能はない。
少なくとも、俺たちはそんな機能を付けた覚えがない。
だからこそ。
バルガ「工房だ!」
ジョウゴ「短時間だけな」
バルガ「分かってる!」
カイト「絶対分かってない顔してる」
レント「同感だ」
ミナ「私も」
バルガ「なんで誰も信用しねぇんだ!」
日頃の行いだと思う。
◇◇◇
バルガの工房。
作業台の上には、青晶洞から持ち帰った《青晶鉄鉱》が置かれていた。
その隣。
俺の《星月》。
まずは、洞窟内で起きた現象を整理する。
ジョウゴ「青晶洞の第一分岐右側で、周辺魔力濃度が通常値の一九八%まで上がった」
バルガ「ほぼ二倍か」
ジョウゴ「その状態で星月の魔力調整核が反応した」
俺は記録を表示する。
《魔力調整核》
《外部魔力反応を検出》
《自動蓄積:微量》
《蓄積魔力:91%→92%》
バルガが表示を睨む。
バルガ「間違いねぇな」
レント「誤表示の可能性は?」
バルガ「低い。実際に蓄積量が増えてる」
ミナ「でも、今までは起きなかったよね?」
ジョウゴ「ああ」
月影渓谷。
南洞窟。
北東草原。
色々な場所で星月の試作段階を含めた試験をしてきた。
魔力調整核も何度も使った。
しかし、外部の魔力を勝手に吸収したことは一度もない。
バルガ「まず切り分ける」
ジョウゴ「青晶鉄鉱が原因か、魔力濃度が原因か」
バルガ「そういうことだ」
こういう時のバルガは頼りになる。
素材を見ると暴走するけど。
鍛冶と検証に入ると、かなり慎重だ。
◇◇◇
最初。
青晶鉄鉱単体。
バルガが小さな測定器の中央へ鉱石を置く。
《青晶鉄鉱》
《品質:普通》
《蒼鉄系成分:高》
《魔力蓄積性:中》
《魔力伝導性:高》
《周辺魔力吸収性:微弱》
バルガ「ミナ。こいつから少し離れた場所で魔力を出してみろ」
ミナ「流し込まなくていいの?」
バルガ「直接は駄目だ。周囲に放出するだけ」
ミナ「分かった」
ミナが右手を出す。
淡い光。
魔力。
工房内。
広がる。
測定器。
反応。
《周辺魔力濃度:上昇》
《青晶鉄鉱:微弱反応》
青晶鉄鉱。
ほんの少し。
青く。
光る。
ミナ「光った」
バルガ「もう少し」
ミナ「うん」
魔力。
少し。
強く。
《青晶鉄鉱》
《外部魔力吸収:微量》
《内部魔力流動:確認》
《蓄積量:極小》
レント「吸っている」
ジョウゴ「でも溜めてない」
バルガ「そこだ」
バルガが鉱石を指す。
バルガ「青月石とは違う」
青月石。
魔力。
溜める。
そして。
ゆっくり。
放出。
する。
青晶鉄鉱。
違う。
吸う。
でも。
大量。
保持。
しない。
取り込んだ魔力。
内部。
流す。
そして。
少しずつ。
外。
逃がす。
ジョウゴ「導線に近い?」
バルガ「ただの導線より面白い」
嫌な言い方。
バルガ。
目。
輝いてる。
カイト「また始まった」
◇◇◇
次。
青月石。
比較。
以前の研究用。
小さな欠片。
残っていた。
同じ。
条件。
ミナ。
魔力。
周囲。
放出。
《青月石・欠片》
《外部魔力反応:極微弱》
《自然吸収:ほぼなし》
《直接入力時の蓄積性能:高》
ジョウゴ「やっぱり」
バルガ「ああ」
青月石。
魔力。
直接。
流し込む。
必要。
ある。
一方。
青晶鉄鉱。
周囲。
漂う。
魔力。
自分。
吸う。
弱い。
けど。
確実。
吸う。
ミナ「じゃあ青晶洞に青晶鉄鉱がたくさんあるから、洞窟の魔力を吸ってる?」
レント「だが、それでも魔力濃度は上昇していた」
ジョウゴ「つまり供給量の方が多い」
「……」
全員。
少し。
静か。
あの。
黄色い。
目。
思い出す。
カイト「やっぱり、あいつが魔力出してるとか?」
ジョウゴ「可能性はある」
レント「まだ断定はできない」
バルガ「魔物かどうかも分からねぇんだろ?」
ジョウゴ「ああ。《???》だった」
バルガ「なら触るな」
「……」
俺。
バルガ。
見る。
バルガ「何だ?」
ジョウゴ「いや」
バルガ「何だよ!」
ジョウゴ「バルガから『触るな』って言葉が出るとは」
バルガ「俺だって命は惜しい!」
カイト「素材絡まなければまともなんだな」
バルガ「絡んでる!」
◇◇◇
そして。
次。
本題。
星月。
作業台。
置く。
魔力調整核。
蓄積。
現在。
《蓄積魔力:92%》
昨日。
青晶洞。
勝手。
増えた。
そのまま。
残っている。
バルガ「まず普通の環境」
何も。
しない。
一分。
二分。
三分。
《蓄積魔力:92%》
変化。
なし。
バルガ「当然」
ジョウゴ「次は?」
バルガ「ミナ」
ミナ「また私?」
バルガ「頼む!」
ミナ「はいはい」
ミナ。
少し。
笑う。
そして。
周囲。
魔力。
放出。
弱。
《周辺魔力濃度:通常値比118%》
星月。
変化。
なし。
中。
《周辺魔力濃度:通常値比137%》
変化。
なし。
さらに。
《周辺魔力濃度:通常値比151%》
魔力調整核。
ほんの。
僅か。
反応。
《外部魔力反応:微弱》
ミナ「反応した!」
バルガ「まだ吸ってねぇ」
さらに。
少し。
上。
《周辺魔力濃度:通常値比164%》
《外部魔力反応を検出》
《自動蓄積:極微量》
「……」
全員。
表示。
見る。
《蓄積魔力:92%》
まだ。
数字。
変わらない。
でも。
反応。
出た。
バルガ「もう少し」
ジョウゴ「無理させるなよ」
ミナ「まだ大丈夫」
ミナ。
魔力。
増やす。
《周辺魔力濃度:通常値比181%》
《自動蓄積:微量》
しばらく。
待つ。
《蓄積魔力:93%》
カイト「増えた」
レント「再現した」
ジョウゴ「青晶洞じゃなくても起きる」
つまり。
原因。
青晶鉄鉱。
直接。
ではない。
高い。
周辺魔力濃度。
それ。
星月。
反応。
する。
バルガ「止めろ」
ミナ「うん」
魔力。
止まる。
《周辺魔力濃度:低下》
《自動蓄積:停止》
《蓄積魔力:93%》
星月。
異常。
なし。
◇◇◇
バルガ「分かった」
ジョウゴ「何が?」
バルガ「星月が周囲の魔力を吸ってるんじゃねぇ」
ミナ「え?」
バルガ。
星月。
鍔元。
指す。
バルガ「正確には、星蒼導流鋼が周囲の魔力を拾ってる」
ジョウゴ「芯材?」
バルガ「ああ」
星蒼導流鋼。
魔力伝導。
非常に高い。
内部。
魔力経路。
形成。
している。
さらに。
自己安定。
する。
バルガ「普段の魔力濃度じゃ拾うほどじゃねぇ。でも周囲の魔力が濃くなると、刀身表面から微量の魔力が経路へ入る」
レント「それが経路を通って魔力調整核へ?」
バルガ「そうだ」
そして。
青月石。
蓄積。
する。
だから。
結果。
外部。
魔力。
勝手。
充填。
される。
ジョウゴ「設計したわけじゃない」
バルガ「素材の性質が組み合わさった結果だ」
ミナ「偶然?」
バルガ「半分はな」
半分。
ジョウゴ「もう半分は?」
バルガ「俺たちが魔力を通す構造を作ったからだ」
なるほど。
偶然。
だけ。
ではない。
星蒼導流鋼。
魔力経路。
青月石。
魔力調整核。
全部。
意図。
作った。
でも。
高濃度。
環境。
使った。
試験。
してなかった。
だから。
知らなかった。
◇◇◇
その時。
ポーン。
システム。
《特殊武器《星月》に未登録挙動を確認しました》
《高魔力環境下における外部魔力流入を確認》
《星蒼導流鋼芯による微弱魔力捕捉を確認》
《魔力調整核への自然蓄積を確認》
《新規特性候補を検出しました》
「特性候補」
俺。
見る。
《仮称:環境魔力充填》
《高魔力濃度環境下において周辺魔力を微量に取り込み、魔力調整核へ蓄積する》
《通常環境では発動しません》
《発動効率は周辺魔力濃度に依存します》
《安全性:未確認》
最後。
重要。
《安全性:未確認》
ジョウゴ「まだ使わない方がいいな」
バルガ「ああ」
カイト「便利そうなのに?」
ジョウゴ「過充填したらどうなるか分からない」
ミナ「魔力遮断刻印は?」
バルガ「そこだ」
バルガ。
腕。
組む。
バルガ「遮断刻印は使用者から流れる過剰魔力を止めるために作った」
レント「外部から入る魔力も止められるとは限らない」
バルガ「そういうことだ」
カイト「じゃあ満タンなのに吸い続けたら?」
「……」
分からない。
それ。
一番。
怖い。
ジョウゴ「青晶洞で長時間使う前に対策必要だな」
バルガ「決まりだ」
◇◇◇
バルガ。
紙。
出す。
図。
描く。
魔力調整核。
星蒼導流鋼。
遮断刻印。
その。
間。
新しい。
線。
バルガ「外部から流れ込む魔力にも上限を付ける」
ジョウゴ「二重遮断?」
バルガ「近い」
現在。
魔力遮断刻印。
俺。
魔力。
入れすぎ。
止める。
新しい。
機構。
環境。
魔力。
流入。
一定。
以上。
止める。
レント「逆流防止も必要では?」
バルガ。
止まる。
「……」
レント。
見る。
バルガ「それだ」
レント「何?」
バルガ「もし調整核が満タンで、経路側にも魔力が残ったら?」
ジョウゴ「刀身側へ滞留する」
バルガ「最悪、経路へ負荷が掛かる」
それ。
嫌。
星蒼導流鋼。
自己安定。
する。
でも。
限界。
ある。
バルガ「外から入った魔力を、満タン時には逃がす経路がいる」
ミナ「逃がす?」
バルガ「刀の外へ」
ジョウゴ「放熱みたいなものか」
バルガ「魔力だから……放魔だな」
カイト「名前そのまま」
バルガ「分かりゃいい!」
◇◇◇
さらに。
試験。
する。
青晶鉄鉱。
今回。
星月。
混ぜない。
代わり。
性質。
使う。
外部魔力。
吸収。
流す。
青晶鉄鉱。
それ。
利用。
簡易。
実験回路。
作る。
青晶鉄鉱。
細い。
黒鉄。
導線。
小さい。
青月石。
欠片。
接続。
ミナ。
周囲。
魔力。
放出。
《青晶鉄鉱:外部魔力吸収》
《内部流動》
《青月石:蓄積開始》
「……」
バルガ。
笑う。
バルガ「使える」
ジョウゴ「何に?」
バルガ「星月じゃねぇ」
意外。
バルガ「魔道具だ」
魔道具。
周囲。
魔力。
少しずつ。
取り込む。
青晶鉄鉱。
蓄積。
青月石。
組み合わせ。
れば。
自動。
充填。
魔道具。
作れる。
可能性。
ある。
ミナ「ランタンとか?」
バルガ「できるかもしれねぇ」
カイト「魔力で光るランタン?」
レント「高魔力地域なら燃料不要になる可能性がある」
ジョウゴ「ただ普通の場所だと充填できない」
バルガ「だから研究だ!」
やっぱり。
目。
輝く。
でも。
今度。
武器。
だけ。
じゃない。
生活。
道具。
可能性。
ある。
青晶鉄鉱。
かなり。
面白い。
◇◇◇
そして。
システム。
また。
反応。
《新規素材利用法の研究を確認しました》
《《青晶鉄鉱》研究進行度:21%》
《魔力吸収・伝導特性の基礎利用を確認》
《追加検証により新規魔道具技術へ発展する可能性があります》
バルガ「二十一!」
ジョウゴ「まだ二十一だぞ」
バルガ「ゼロじゃねぇ!」
ジョウゴ「それはそう」
研究。
始まった。
でも。
今日は。
ここまで。
俺。
現実。
時間。
確認。
ジョウゴ「終わり」
バルガ「まだ!」
ジョウゴ「短時間って言った」
バルガ「あと一回!」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「一回だけ!」
ジョウゴ「明日仕事」
バルガ「ぐぬぬ……」
ミナ「ジョウゴ、強い」
カイト「マリアさんの次くらい」
レント「バルガ限定でな」
◇◇◇
銀麦亭。
戻る。
軽い。
食事。
俺。
席。
座る。
星月。
隣。
置く。
新しい。
特性。
候補。
《環境魔力充填》
便利。
そう。
でも。
まだ。
安全性。
不明。
だから。
正式。
使う。
わけ。
いかない。
特に。
青晶洞。
魔力濃度。
上昇。
続いている。
そんな。
場所。
勝手。
充填。
される。
武器。
持って。
深く。
行く。
危ない。
ミナ「次に青晶洞へ行く時どうする?」
ジョウゴ「ギルドの調査待ち」
カイト「また待つ?」
ジョウゴ「ああ」
レント「正しい。大型反応も確認された」
ジョウゴ「それに星月の安全対策も先」
急ぐ。
理由。
ない。
でも。
その時。
ポーン。
通知。
冒険者ギルド。
「……」
俺。
開く。
《緊急観測情報》
《北東上流・青晶洞》
《内部魔力濃度の急上昇を確認》
全員。
見る。
《前回観測値比:137%》
ミナ「百三十七……」
レント「前回から、さらに三十七%」
カイト「急に上がった?」
続く。
《第一分岐周辺の安全確認を一時停止》
《青晶洞への一般立入を一時制限します》
《調査隊の派遣準備中》
俺。
画面。
見る。
昨日。
百八%。
今日。
探索時。
約二倍。
そして。
今。
さらに。
上昇。
何か。
変わってる。
洞窟。
奥。
あの。
黄色い。
二つ。
目。
そして。
ゴォォォ……。
低い。
音。
カイト「まさか、本当にあいつ?」
ジョウゴ「まだ分からない」
分からない。
だから。
決めつけない。
でも。
何も。
起きていない。
とも。
思えない。
その直後。
もう一つ。
通知。
《シズナ冒険者ギルドより、青晶洞第一次探索参加者へ協力待機要請が発行されました》
待機。
まだ。
出動。
ではない。
俺たちは。
顔。
見合わせる。
レント「状況が変わったな」
ジョウゴ「ああ」
新素材。
研究。
していた。
だけ。
だった。
はず。
でも。
青晶洞。
奥。
何か。
起きようとしている。
そして。
俺たち。
その洞窟。
最初。
見つけた。
パーティー。
だから。
次。
呼ばれる。
可能性。
高い。
俺は。
隣。
星月。
見る。
青い。
刃文。
静か。
光。
返す。
ただ。
その刀。
新しい。
特性。
見つかった。
同じ。
日に。
青晶洞。
魔力。
急上昇。
始めた。
偶然。
なのか。
それとも。
あの洞窟。
奥。
何か。
目覚めようとしているのか。
答え。
まだ。
分からない。
ただ。
次に青晶洞へ行く時は。
これまでの。
調査。
だけ。
では。
済まない。
そんな。
予感。
していた。




