第47話 青晶洞の調査報告
翌日。
俺――上塚賢吾は、いつも通り銀行での仕事を終えて帰宅した。
昨日は北東草原の上流を調査し、青鉄砂の供給源と思われる蒼色鉱脈と、冒険者ギルドにも登録されていなかった《北東上流・青晶洞》を発見した。
洞窟の奥から聞こえていた低い音。
入口へ近づいただけで上昇した周囲の魔力濃度。
そして、星月に組み込まれている《魔力調整核》が、俺から魔力を流していないにもかかわらず外部魔力へ反応した。
気になることは多い。
しかし、昨日の時点で奥へ進まなかった判断は間違っていないと思う。
未知の洞窟。
内部の魔物も分からない。
推奨レベルも不明。
転移設備もない。
そんな場所へLv12の四人だけで突っ込む必要はない。
冒険者ギルドへ報告した以上、まずは調査結果を待つ。
それでいい。
夕食と風呂を済ませ、家事を終える。翌日の仕事の準備も確認してから、俺はVR機器を装着した。
《リアルコンディションチェックを開始します》
《睡眠状態:良好》
《栄養状態:問題なし》
《水分状態:問題なし》
《体温:正常範囲》
《身体活動:良好》
《フルダイブ可能》
ジョウゴ「今日も問題なし。ログイン」
視界が暗転する。
そして、次に目を開いた時には銀麦亭の客室だった。
◇◇◇
一階へ下りる。
ミナ「ジョウゴ、おかえり!」
ジョウゴ「ただいま」
カイト「待ってたぞ」
レント「ギルドから連絡が来ている」
ジョウゴ「もう?」
昨日報告したばかりだ。
思っていたより早い。
レント「青晶洞そのものの本格調査ではない。昨日提出した試料の一次分析結果らしい」
ジョウゴ「なるほど」
それなら納得できる。
俺が席へ座ろうとした時。
バルガ「ジョウゴ!」
ジョウゴ「うわっ」
横。
いつの間にか。
バルガ。
いた。
バルガ「ギルド行くぞ!」
ジョウゴ「近い」
バルガ「未知鉱石!」
ジョウゴ「昨日提出しただろ」
バルガ「鍛冶師ギルドにも分析依頼が来た!」
ジョウゴ「もう知ってるのか」
バルガ「俺も呼ばれた!」
なるほど。
昨日発見した未知鉱石は、蒼鉄系成分を高濃度で含みながら、未知の魔力成分まで検出されていた。
鍛冶師ギルドへ鑑定協力を依頼するという話だったから、《星蒼導流鋼》を開発したバルガにも声がかかったらしい。
ミナ「じゃあ今日は冒険じゃない?」
ジョウゴ「まず報告を聞いてからだな」
カイト「俺たちも行く?」
レント「発見者全員に通知が来ている」
ジョウゴ「なら行こう」
バルガ「工房じゃなくてギルドだ!」
ジョウゴ「今日は間違えなかったな」
バルガ「俺だって分かってる!」
◇◇◇
シズナ冒険者ギルド。
昨日と同じ受付へ向かうと、担当職員がすぐに俺たちへ気付いた。
受付職員「ジョウゴさんたちですね。お待ちしていました」
ジョウゴ「調査結果が出たと聞きました」
受付職員「はい。まず、昨日提出していただいた河川水と青鉄砂についてです」
奥の部屋へ案内される。
机。
地図。
資料。
そして、小さな瓶。
昨日採取した上流河川水。
その隣。
青鉄砂。
受付職員「河川水そのものに毒性は確認されませんでした。現時点では周辺環境や人体へ直接悪影響を及ぼす濃度でもありません」
ミナ「良かった」
受付職員「ただし、通常の北東草原の河川水と比較すると、魔力含有量が約二・四倍になっています」
ジョウゴ「二倍以上?」
レント「それは明確な差だな」
受付職員「はい。さらに青鉄砂についても、以前この地域から提出された試料と比較して蒼鉄成分が増加しています」
昨日。
俺たち自身。
気付いていた。
上流へ進むほど。
青鉄砂。
濃くなった。
受付職員「問題はこちらです」
机。
小さな。
石。
置かれる。
俺たちが採取した《未知鉱石片》。
昨日は。
《蒼鉄系成分:高》
《未知魔力成分:微量》
そこまでしか分からなかった。
今。
表示。
変わっている。
《青晶鉄鉱》
《品質:普通》
《蒼鉄系成分:高》
《魔力蓄積性:中》
《魔力伝導性:高》
《周辺魔力吸収性:微弱》
「……吸収?」
俺。
その文字。
見る。
バルガ。
もう。
顔。
近い。
バルガ「触っていいか!?」
受付職員「どうぞ」
バルガ。
石。
持つ。
鑑定。
そして。
「これ……」
急に。
静か。
ジョウゴ「どうした?」
バルガ「蒼鉄と違う」
ジョウゴ「表示でも違うな」
バルガ「そうじゃねぇ。中身だ」
バルガが鉱石片を光へかざす。
バルガ「蒼鉄は魔力を通しやすい。青月石は魔力を溜める。でも、こいつは……」
ミナ「吸ってる?」
バルガ「ああ」
周囲。
魔力。
少しずつ。
取り込む。
ただし。
青月石。
違う。
大量。
蓄積。
するわけではない。
吸収。
そして。
内部。
流れる。
レント「自然に魔力を取り込んで、内部へ流している?」
バルガ「たぶんな」
俺。
星月。
見る。
星蒼導流鋼。
内部経路。
魔力調整核。
青月石。
そこ。
もし。
青晶鉄鉱。
組み合わせたら。
いや。
まだ。
早い。
ジョウゴ「バルガ」
バルガ「分かってる!」
ジョウゴ「まだ何も言ってない」
バルガ「すぐ混ぜねぇ!」
ジョウゴ「……成長したな」
バルガ「俺を何だと思ってんだ!」
カイト「何でも炉に入れる人」
ミナ「新素材を見ると目が変わる人」
レント「工房へ走る人」
バルガ「お前ら!」
◇◇◇
受付職員が咳払いする。
受付職員「そして、ここからが《青晶洞》についてです」
全員。
地図。
見る。
昨日。
俺たち。
見つけた。
入口。
そこ。
赤い。
印。
そして。
その先。
少し。
線。
伸びている。
ジョウゴ「中に入ったんですか?」
受付職員「調査員三名と護衛冒険者六名による先遣調査を実施しました」
カイト「早いな」
受付職員「未知の探索地点ですので、深部へは進んでいません。入口からおよそ三百メートルまでです」
それなら。
昨日。
俺たちより。
少し。
奥。
程度。
受付職員「内部には青晶鉄鉱の鉱脈が複数確認されました。また、青鉄砂が形成される原因もほぼ判明しています」
ジョウゴ「青晶鉄鉱が水で削られて?」
受付職員「その可能性が高いと考えられています」
鉱脈。
地下水。
削る。
細かい。
粒。
川。
流れる。
蒼鉄系成分。
含む。
青鉄砂。
なる。
理屈。
通る。
レント「では魔力濃度上昇も青晶鉄鉱が原因?」
受付職員「それだけでは説明できません」
「……」
やっぱり。
そうなる。
受付職員「青晶鉄鉱は周囲の魔力を微弱に吸収します。しかし、洞窟内部では外部よりも高い魔力濃度が確認されています」
ミナ「吸収する石があるのに?」
受付職員「はい」
矛盾。
している。
吸う。
石。
大量。
ある。
なら。
周囲。
魔力。
減る。
方。
自然。
でも。
実際。
増えている。
受付職員「つまり、青晶鉄鉱が吸収する量を上回る魔力が、洞窟内部のどこかから供給されている可能性があります」
ジョウゴ「発生源が別にある」
受付職員「そのように考えています」
◇◇◇
さらに。
地図。
先遣隊。
到達地点。
見る。
入口。
細い。
通路。
その先。
小規模。
空洞。
さらに。
右。
左。
分岐。
まだ。
未調査。
受付職員「魔物も確認されました」
カイト「何が?」
受付職員「《ブルーケイブバットLv.12》と《クリスタルスライムLv.12》です」
ミナ「スライム?」
受付職員「はい。ただし通常のスライムより魔力耐性が高く、物理攻撃には比較的弱いという報告です」
ジョウゴ「逆なんだ」
魔法。
耐える。
物理。
弱い。
ミナ。
少し。
嫌そう。
ミナ「私、攻撃役できない?」
ジョウゴ「回復と補助頼む」
ミナ「分かった」
レント「ブルーケイブバットは?」
受付職員「集団行動を確認しています。単体では大きな脅威ではありませんが、暗所で上方から襲撃します」
洞窟。
コウモリ。
分かりやすい。
でも。
集団。
面倒。
受付職員「そして、先遣隊はこれ以上進まず撤退しました」
ジョウゴ「何かあった?」
受付職員。
少し。
間。
置く。
受付職員「昨日、皆さんが聞いたという低い音です」
ゴォォォ……。
あれ。
受付職員「内部でも確認されました。さらに、一定間隔で洞窟内の魔力濃度が上昇する現象も確認されています」
ミナ「一定間隔?」
受付職員「およそ十分から十五分ごとです」
レント「音と同時?」
受付職員「ほぼ一致しています」
音。
魔力。
増加。
周期。
ある。
なら。
生物。
可能性。
機械。
魔法装置。
自然現象。
どれも。
あり得る。
カイト「でかい魔物が息してるとか?」
「……」
全員。
カイト。
見る。
カイト「何?」
ジョウゴ「ありそうだから怖い」
ミナ「呼吸するたびに魔力出してる?」
レント「否定できない」
カイト「俺、適当に言ったんだけど」
ジョウゴ「こういう時だけ当てるなよ」
◇◇◇
受付職員。
次。
資料。
出す。
受付職員「ギルドでは《北東上流・青晶洞》を暫定探索区域として登録しました」
システム。
ポーン。
《新規探索区域が登録されました》
《北東上流・青晶洞》
《暫定推奨Lv:12~15》
《危険度:C+》
《内部調査率:14%》
《転移設備:未設置》
《深部危険度:不明》
ジョウゴ「十二から十五」
俺たち。
Lv12。
下限。
月影渓谷。
似てる。
でも。
内部。
調査率。
十四%。
深部。
不明。
だから。
実際。
もっと。
高い。
可能性。
ある。
受付職員「現在、一般冒険者による入口周辺の探索は許可されています。ただし第一分岐より先は調査依頼受注者のみ立ち入り可能です」
レント「今回の依頼は?」
受付職員「こちらになります」
新しい。
依頼。
《青晶洞・第一次探索協力》
《推奨Lv:12~15》
《目的:第一分岐周辺の地形確認》
《魔物分布調査》
《青晶鉄鉱の追加試料採取》
《異常魔力発生源の方向確認》
《深部への進行は非推奨》
《危険を感じた場合は即時撤退》
カイト「倒せじゃなくて調べろ、か」
ジョウゴ「ああ」
俺。
依頼。
見る。
無理。
する。
内容。
ではない。
第一分岐。
周辺。
まで。
それなら。
Lv12。
俺たち。
できる。
レント「受ける?」
ジョウゴ「みんなは?」
カイト「行く」
ミナ「私も」
レント「問題ない」
なら。
決まり。
ジョウゴ「受けます」
《《青晶洞・第一次探索協力》を受注しました》
◇◇◇
その時。
バルガ。
手。
上げる。
バルガ「俺も」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「まだ最後まで言ってねぇ!」
ジョウゴ「一緒に行く、だろ?」
バルガ「そうだ!」
ジョウゴ「駄目」
バルガ「なんでだ!」
ジョウゴ「推奨Lv12から」
バルガ「俺は鍛冶師だ!」
ジョウゴ「だからだよ」
戦闘。
専門。
違う。
青晶鉄鉱。
見たい。
気持ち。
分かる。
でも。
連れて。
行く。
理由。
ない。
バルガ「じゃあ!」
バルガ。
俺。
肩。
掴む。
バルガ「青晶鉄鉱を採ってこい!」
ジョウゴ「依頼に入ってる」
バルガ「最低三つ!」
ジョウゴ「勝手に増やすな」
バルガ「五つ!」
ジョウゴ「増えた!」
ミナ「交渉が逆方向」
レント「バルガ式交渉術」
カイト「最終的に十個になりそう」
ジョウゴ「必要量だけ採る」
バルガ「ぐぬぬ……」
◇◇◇
冒険者ギルド。
出る。
でも。
今日は。
まだ。
行かない。
準備。
必要。
洞窟。
暗い。
コウモリ。
スライム。
魔力。
異常。
だから。
銀麦亭。
戻る。
装備。
確認。
ランタン。
予備油。
火種。
ロープ。
回復薬。
解毒薬。
食料。
水。
そして。
採掘道具。
さらに。
バルガ。
工房。
行く。
バルガ「これ持ってけ」
渡された。
板。
見覚え。
ある。
《魔力検知板・改》
ジョウゴ「改?」
バルガ「前のやつより感度上げた」
ミナ「青月石探した時の?」
バルガ「ああ。ただし今回は青晶鉄鉱に合わせて調整した」
板。
中央。
小さな。
結晶。
複数。
付いてる。
バルガ「魔力濃度が上がるほど青く光る」
ジョウゴ「方向は?」
バルガ「大雑把なら分かる」
レント「便利だな」
バルガ「壊すなよ!」
ジョウゴ「分かった」
バルガ「星月も!」
ジョウゴ「そっちが本命だろ」
バルガ「両方だ!」
◇◇◇
その夜。
銀麦亭。
明日。
探索。
決める。
今日。
行かない。
準備。
した。
それで。
十分。
ミナ。
夕食。
食べる。
そして。
デザート。
一個。
ミナ「今日は一個!」
ジョウゴ「偉い」
ミナ「満腹度八十一%だから」
カイト「理由そっちか」
ミナ「食べ過ぎ付いたら明日困るもん」
レント「学習した」
カイト。
葡萄ジュース。
カイト「俺も明日に備えて葡萄ジュース!」
ジョウゴ「いつもだろ」
カイト「健康!」
ジョウゴ「ゲーム内だけどな」
俺。
水。
飲む。
そして。
腰。
星月。
見る。
新しい。
刀。
正式採用。
直後。
また。
新しい。
場所。
見つかった。
青晶鉄鉱。
周囲。
魔力。
吸収。
性質。
持つ。
なのに。
洞窟。
魔力。
増えている。
十分から十五分。
低い音。
響く。
同時。
魔力濃度。
上昇。
その。
原因。
洞窟。
奥。
ある。
でも。
明日。
そこまで。
行く。
必要。
ない。
まず。
第一分岐。
調べる。
地図。
作る。
魔物。
確認。
青晶鉄鉱。
採る。
そして。
危険。
感じたら。
戻る。
それでいい。
その時。
俺の視界。
隅。
通知。
出る。
《北東上流・青晶洞》
《内部魔力濃度が再び上昇しました》
「……再び?」
俺。
表示。
見る。
ギルド。
観測。
情報。
《前回観測値比:108%》
昨日より。
さらに。
上。
レント。
表示。
見る。
「まだ増えている」
ミナ。
少し。
表情。
変わる。
「大丈夫かな」
ジョウゴ「分からない」
だから。
調べる。
でも。
無理。
しない。
新しい。
探索区域。
《青晶洞》。
明日。
俺たちは。
その内部へ。
初めて。
本格的に。
足を踏み入れる。




