第六十二話 ハロウィンの始まりは、謎の招待状から
第六十二話です。十月も終わりに近づき、ハロウィンの季節がやってきます。ひまりの提案から始まったパーティーは、町内会も協力する大規模なイベントへと発展。そんな中、朝比奈家に差出人不明の謎の招待状が。今年のハロウィンは、どうやら一筋縄ではいかないようで……?ハロウィン編始まります!それでは、どうぞ。
十月も終わりに近づき、青嶺高校の校内にも秋らしい空気が漂い始めていた。夏の暑さはすっかり落ち着き、朝晩には少し肌寒さを感じる。制服も冬服へと切り替わり、校門前の木々も少しずつ色づき始めていた。
「もうすぐハロウィンだね!」
昼休み。いつものように湊たちが昼食を囲んでいると、ひまりが唐突にそう口を開いた。
「そっか、十月三十一日だから」
「湊って、そういうところ妙に真面目だよね」
「日付を答えただけなんだけど……」
湊が苦笑すると、ひまりは気にする様子もなく身を乗り出した。
「ねえ、今年はみんなでハロウィンパーティーしない?」
「パーティー?」
「そう! 仮装して、お菓子食べて、ゲームして。 せっかくだし、ちょっと盛大にやりたいなって!」
「いいな!」
しろがいれば、きっとお菓子も料理も豪華になるだろう。そんな期待を隠しきれない優斗が、すぐさま賛同した。
「お前の場合、しろさんの手料理が目当てだろ」
「失礼だな。 もちろん、それも楽しみの一つだが!」
「否定はしないんだ……」
湊の呆れた声に、ひまりが楽しそうに笑う。
「それでね、場所は朝比奈家なんてどうかな?」
「またうち?」
「だって広いじゃない。 庭もあるし、人数が増えても大丈夫そうだし!」
「まあ、俺は別にいいけど、いつも通りしろさんにも相談しないと」
「じゃあ決まり! まずはしろさんに相談だね!」
ひまりの勢いに押される形で、湊は頷いた。
◇
その日の夕方。
「ハロウィンパーティー、ですか?」
朝比奈家のリビングで、しろは湊から話を聞いていた。
「はい、ひまりが提案してくれたんです。 うちの庭を使って、みんなで集まれたらと」
「楽しそうですね。 お料理やお菓子の準備なら、私もお手伝いできますよ」
「ありがとうございます。 まだ具体的なことは決まっていませんけど」
すると、湊のスマートフォンが震えた。画面を見ると、町内会長からのメッセージだった。以前、夏祭りで世話になったこともあり、湊も顔なじみの相手である。内容は、今度のハロウィンについて一度相談したい、というものだった。
「……ちょうどいいタイミングですね」
「どうかしましたか?」
「町内会長から連絡が来ました。 ハロウィンのイベントについて相談したいそうです」
「町内会でも何か催しを考えているのでしょうか」
「みたいですね。 せっかくですし、こちらのパーティーと一緒にできないか聞いてみます」
湊はスマートフォンを操作しながら、ふと窓の外に目を向けた。秋の夕暮れに包まれた庭は、いつもと変わらず静かだった。けれど、今年の十月三十一日は少し違った一日になるかもしれない。
そんな予感がしていた。
◇
翌日の放課後。湊は、町内会館の一室にいた。長机を囲むように座っているのは、町内会長をはじめとした地域の役員たち。そして、その隣にはしろ、ひまり、優斗の姿もあった。
「いやあ、朝比奈くんが協力してくれるなら心強いよ」
「いえ、こちらもまだ何ができるか分かりませんので」
町内会長の言葉に、湊は少し恐縮しながら答えた。今回の相談は、町内会が毎年行っている秋の催しについてだった。せっかくなら今年はハロウィンに合わせて、子どもたちが楽しめるイベントを開催したいという。そこへ、湊たちのパーティーの話が伝わったのだ。
「それなら、いっそのこと町全体でやってみてはどうでしょう」
町内会長がそう提案すると、集まった人たちの表情が明るくなった。
「商店街にも協力してもらって、お菓子を配ったり」
「公園に屋台を出すのもいいねえ」
「子どもたちの仮装コンテストなんかも面白そうだ」
次々と意見が飛び交う。
「なんだか、思っていたより大きな話になってきたね」
隣に座るひまりが、小声で湊に話しかけた。
「最初はうちで集まるだけの予定だったんだけどな」
「いいじゃない! 賑やかな方が楽しいよ!」
「そうだな。 まあ、みんなが楽しめるならいいか」
湊が苦笑すると、優斗も身を乗り出した。
「俺は大賛成だ! しろさんの作るハロウィンのお菓子を、町中の人に食べてもらえるんだろう?」
「優斗さま、まだ私が何を作るか決まっていませんよ」
「何を作っても最高に決まってます!」
「はいはい、話を聞こうな」
湊の冷静な突っ込みに、周囲から小さな笑いが起きた。
◇
打ち合わせはその後も続いた。商店街では各店舗がお菓子を用意し、子どもたちが仮装して店を巡る。公園では屋台やゲームコーナーを設け、夕方には仮装コンテストを開催する。朝比奈家の庭も会場の一つとして開放し、休憩所とお菓子の配布場所を設けることになった。
「朝比奈さんのところには、昔から随分とお世話になっていますからね」
町内会長が懐かしそうに言った。
「先代の頃から、地域の行事にはよく協力していただいていました。 今回もぜひお願いしたいと思いまして」
「そうだったんですね」
「ええ。 朝比奈さんは、この町にとって大切な存在なんですよ」
湊は少し照れくさそうに頭を下げた。その横で、しろも静かに微笑んでいる。
「私も、できる限りお手伝いさせていただきます」
「おお、雪代さんがいてくれるなら、料理のことはもちろん、当日の運営も安心だ」
「そんな、大げさですよ」
しろは恐縮したが、町内会の人たちはすっかり頼りにしている様子だった。
◇
打ち合わせが終わる頃には、イベントの大まかな形が決まっていた。帰り道、ひまりは満足そうに両手を広げた。
「いやあ、すごいことになったね!」
「最初の話からだいぶ規模が変わったな」
「でも、楽しみですね」
しろが穏やかに言う。
「当日は私も頑張ってお菓子を用意します。 子どもたちが喜んでくれるといいですね」
「しろさんのお菓子なら、きっと大人気ですよ!」
「優斗さまは食べる側でしょう?」
「もちろんです!」
「そこは否定しないんだな……」
湊たちは笑いながら歩き続けた。今年のハロウィンは、どうやら朝比奈家だけの催しでは済まなくなりそうだ。その頃、朝比奈家の郵便受けには、差出人の書かれていない一通の封筒が届いていた。表には、ただ一言。
――朝比奈家のみなさまへ
そう記されていた。
◇
町内会との打ち合わせを終えた翌日の夕方。湊が学校から帰宅すると、玄関先でしろが一通の封筒を手にしていた。
「お帰りなさいませ、ご主人」
「ただいま戻りました……って、それ、何ですか?」
「郵便受けに入っていたものです。 差出人のお名前がないのですが、ご主人宛てのようですよ」
差し出された封筒は、少し厚手のクリーム色の紙でできていた。表には丁寧な文字で『朝比奈家へ』とだけ書かれている。
「僕宛てですか?」
「はい。ほかには何も書かれていませんでした」
湊は不思議そうに封筒を裏返した。封はされているものの、差出人の住所も名前もない。ひとまずリビングへ向かい、封を開けてみる。中から出てきたのは、一枚の古びたカードだった。黒い紙に金色の文字で、こう記されている。
『ハロウィンの夜、朝比奈家に眠る宝物を探せ。
町に散らばる謎を解き、最後の場所へたどり着いたとき、汝は本当の宝物を見つけるだろう
十月三十一日、日没のあとに待つ』
「……宝物?」
湊はカードを読み返した。
「何でしょうね。 ここに、何か隠されたものがあるのでしょうか」
「少なくとも、僕は知りませんね。 父さんや母さんなら何か知っているかもしれませんけど」
湊はスマートフォンを取り出し、海外にいる両親にメッセージを送ってみることにした。しかし、すぐに返事が来るわけでもない。
「いたずらでしょうか?」
「その可能性もありますね。 でも、わざわざこんなものを送ってくる理由が分かりません」
カードを眺めていると、しろが少し首を傾げた。
「町に散らばる謎、と書いてありますね」
「そうですね。 町内会のイベントと関係があるんでしょうか」
そのとき、湊のスマートフォンが鳴った。画面には、ひまりからのメッセージが表示されていた。
『ハロウィンの企画について相談したいことがある! 今から電話していい?』
湊は思わず苦笑した。
「ちょうどいいですね」
◇
数分後。
『ええっ! 何それ、面白そうじゃん!』
電話の向こうから、ひまりの弾んだ声が響いた。
「面白そうって、まだ何も分かってないんだけど」
『でも、ハロウィンに謎解きなんてぴったりじゃない? せっかく町全体でイベントをやるんだから、そういう企画があってもいいと思う!』
「まあ、確かに」
『町内会の人たちにも相談してみようよ!』
その話を聞いていたしろも、静かに頷いた。
「参加する方も楽しめそうですね。 子どもたちにも喜んでもらえると思います」
「しろさんもそう思いますか?」
「はい。 ただ、難しすぎると小さなお子さんには大変でしょうから、いくつかの難易度に分けるとよいかもしれませんね」
「なるほど。 初級と上級みたいな感じですね」
『それいい! じゃあ、謎解きスタンプラリーにしようよ!』
ひまりの声はますます弾んでいく。湊は一度カードに目を落とした。
「でも、この招待状の謎はどうする?」
『それもイベントに組み込んじゃえばいいじゃん!』
「え?」
『町内会の人たちに協力してもらって、招待状に書いてある謎を実際のイベントにするの。 最後まで解けた人には特別な景品を用意するとか!』
「……なるほど、そういうことなら面白そうだな」
湊もようやく乗り気になってきた。
◇
翌日、湊は再び町内会長に連絡を取った。謎の招待状を見せると、町内会長はカードをじっくりと眺めた。
「これはまた、面白いものが届きましたな」
「心当たりはありませんか?」
「うーん……今のところは何とも。 ただ、せっかくですから、この謎解きをイベントの目玉にしてみましょう」
「いいんですか?」
「もちろんです。 子どもから大人まで楽しめる企画になりそうですからね」
こうして、ハロウィンイベントに新たな催しが加わることになった。商店街や公園に謎を配置し、参加者が町を巡りながら答えを探していく。最後の謎を解いた人には、特別な記念品を贈ることも決まった。ただし、招待状に書かれた最後の場所だけは、まだ誰にも分からない。
◇
十月も残すところ、あとわずか。十月三十一日のハロウィン当日に向けて、町は少しずつ準備に追われ始めていた。商店街には飾り付けの案内が貼られ、町内会館には段ボールいっぱいのお菓子が運び込まれる。朝比奈家でも、しろが料理やお菓子の準備について考え始めていた。
「今年は随分と賑やかになりそうですね」
「そうですね。 僕も楽しみです」
湊はテーブルの上に置かれた招待状を見つめた。いったい誰が、何のためにこれを送ってきたのか。そして、朝比奈家に眠る宝物とは何なのか。その答えが分かるのは、ハロウィンの夜。今年の十月三十一日は、いつもとは少し違う一日になりそうだった。
第六十二話でした。今回はハロウィン編の準備回でした。最初は朝比奈家でちょっとしたパーティーを開くつもりだったのですが、ひまりの行動力と町内会の皆さんの協力によって、いつの間にか町全体を巻き込む大イベントに。この町、思った以上にノリがいいですね(笑)。そして、最後に届いた謎の招待状。いったい誰が何のために送ってきたのか。そして、朝比奈家に眠る宝物とは何なのか。次回はいよいよハロウィン当日!賑やかなお祭りの裏で、ちょっとした謎解きが始まります。感想、ブックマーク等お待ちしております。それでは次回もお楽しみに。




