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起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
第三章 二学期
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第五十九話 ご主人/しろさんは、少しずるい

第五十九話です。楽しかった富山旅行も、いよいよ終盤。お土産を選び、帰りの新幹線に乗り込んだ湊としろ。旅の疲れから眠ってしまった湊の隣で、しろは思いがけない行動に出ることに……?そして、朝比奈家に帰ってきた二人。たくさんの思い出と、ちょっぴり秘密の出来事を胸に、二人の特別な旅行が幕を閉じる。それでは、どうぞ。

 昼食を終えた湊としろは、宇奈月温泉の街を再び歩き始めた。


「さて、まずはお土産ですね」


「はい。 皆さまに喜んでいただけるものを選びたいです」


 しろは、手に持った小さなメモ帳を開いた。そこには、朝比奈家の人々や、湊の友人たちの名前が並んでいる。名前の横には、簡単な候補まで書き添えられていた。


「……しろさん、いつの間にそんなものを?」


「今朝、少しだけ考えておきました。せっかくの旅行ですから、皆さまにも富山のおいしいものをお届けしたいと思いまして」


「準備がいいですね……」


 湊は感心した。自分など、帰りの新幹線に乗る直前までお土産の存在を忘れている可能性がある。しろはこういうところが本当にしっかりしている。もっとも、昨夜のお酒の件については、少々例外だったようだが。


「まずは、こちらのお店を見てみましょう」


 二人が入ったのは、富山のお菓子や名産品を扱う土産物店だった。店内には、銘菓や地元の食品、かわいらしい雑貨などが並んでいる。観光客で賑わう店内を、二人はゆっくりと見て回った。


「うーん……これはおいしそうですね」


 湊が手に取ったのは、富山の名産を使ったお菓子だった。


「ご主人は甘いものがお好きですものね」


「まあ、嫌いじゃないです」


「ふふっ。 では、ご自分用にもおひとついかがですか?」


「……そうですね、せっかくだし、買っておこうかな」


 言いながら、湊は商品をかごへ入れた。お土産を買いに来たはずなのに、早くも自分用の商品が追加されている。旅行先でのお土産選びとは、なぜこうも自分の欲望との戦いになるのだろうか。


「ご主人、こちらはいかがでしょう?」


 しろが持ってきたのは、個包装になったお菓子だった。


「これなら、皆さまにもお配りしやすいと思います」


「ああ、いいですね。 保存もききそうですし、父さんたちもこういうの好きだと思います」


「では、こちらにしましょうか」


 二人で相談しながら、朝比奈家へのお土産を選んでいく。母には甘いものを。父には日持ちのするものを。家族で楽しめるものもひとつ。普段は海外で仕事をしている両親だが、帰国したときに渡せば喜んでくれるだろう。……もっとも、今回の旅行を勝手に手配した件については、帰宅後に一言くらい言わせてもらうつもりだった。お土産を選んでいると、しろがふと思い出したように顔を上げた。


「そういえば、優斗さまとひまりさまにも買うのでしたね」


「そうですね。 二人とも、旅行の話をしたら絶対欲しがります」


「では、お二人には何がよろしいでしょうか……」


「優斗は食べ物なら何でも喜びそうですけど」


「では、おいしいものを選びましょう」


「ひまりには……うーん」


 湊は棚を見回した。ひまりは甘いものも好きだったはずだ。見た目のかわいいお菓子なら、きっと喜ぶだろう。


「これなんか、ひまりが好きそうですね」


 湊が手に取ったのは、包装のかわいらしいお菓子だった。


「まあ、素敵ですね。 ひまりさまにぴったりだと思います」


「じゃあ、これにしましょうか」


 湊は商品をかごに入れた。その様子を見ていたしろが、ふんわりと微笑む。


「ご主人は、皆様のことをよく考えていらっしゃるのですね」


「普通じゃないですか? せっかく旅行に来たんですから、何か買って帰ろうかなって」


「私は、素敵なことだと思います」


「……そうですか?」


「はい」


 しろは、まっすぐに頷いた。その言葉に、湊は少しだけ照れくさくなった。別に、特別なことをしているつもりはない。ただ、旅行先で見つけたものを、帰りを待っている人たちにも楽しんでもらえたらと思っただけだ。けれど、しろにそう言われると、何だか自分が少し立派な人間になったような気がする。……単純だな、俺。


◇


 お土産を買い終えた二人は、店を出て温泉街を歩いた。帰りの新幹線までは、まだ少し時間がある。


「せっかくですし、もう少しだけ街を見て回りませんか?」


 しろが提案した。


「いいですね」


 昼食を済ませたばかりではあったが、温泉街には気になるものがまだまだある。通りを歩いていると、湯気の立つ店先が目に入った。温泉まんじゅうをはじめ、食べ歩きにぴったりの品が並んでいる。


「あ、あれおいしそうですね」


 湊が足を止めた。


「温泉まんじゅうですか?」


「はい。 せっかくだから、ひとつくらい食べていきませんか?」


「そうしましょう」


 二人は温泉まんじゅうを購入し、近くの休憩スペースでひと息つくことにした。湊がひと口かじると、ふんわりとした生地の中から甘い餡が顔を出した。


「……うん、おいしい」


「本当ですね。 甘さもちょうどよくて、お茶が欲しくなります」


「わかります。 こういうところで食べると、余計においしく感じますね」


 しろも嬉しそうに頷き、まんじゅうを味わった。特別に珍しいものではない。けれど、旅先で見つけたものを、隣にいる人と一緒に食べる。それだけで、いつものおやつとは少し違う味がする。


「……ご主人」


「はい?」


「こうして一緒に歩いていると、なんだか不思議な気持ちになります」


「不思議、ですか?」


「はい。 普段は朝比奈家でご一緒していますけれど、こうして家の外で、二人だけで過ごす時間は、また違った楽しさがありますね」


 しろは、温泉街の景色を眺めながら言った。


「家では、どうしても家事のことや、次にしなければならないことを考えてしまいます。 でも、今日はご主人と一緒に景色を見て、おいしいものを食べて……それだけでとても幸せです」


「……俺も、楽しいですよ」


 少し考えてから、湊は答えた。


「しろさんと一緒に来られて、よかったです」


 しろは一瞬、目を丸くした。それから、ふわりと笑う。


「……ありがとうございます、ご主人」


 その笑顔を見た瞬間、湊の胸が少しだけ温かくなった。昨夜のことを思い出してしまうのは、相変わらずだった。けれど、今はそれだけではない。こうして一緒に旅行を楽しんでいることが、素直に嬉しい。それでいいのだと思った。


◇


 温泉街の散策を終えた二人は、駅へ向かうことにした。


「そろそろ戻りましょうか。 新幹線の時間もありますし」


「名残惜しいですが、仕方ありませんね」


 しろは、歩いてきた街並みを振り返った。昨日到着したときには、これから始まる旅行への期待で胸がいっぱいだった。そして今日。トロッコ電車に乗り、雄大な峡谷の景色を眺め、富山のおいしいものを味わい、お土産も買った。振り返ってみれば、あっという間の二日間だった。


「……また来たいですね」


 しろが、ぽつりと言った。


「そうですね。 今度は、もう少しゆっくりできるといいかな」


「はい。 次は、違う季節の景色も見てみたいです」


「紅葉の時期もよかったですけど、春とか夏もきれいそうですね」


「春なら新緑が楽しめそうですし、夏は川の景色もまた違って見えるのでしょうか」


「どうでしょうね……まあ、いつか、また来ましょう」


 湊は、何気なくそう言った。しろは足を止め、湊の顔を見つめた。


「……はい。 ぜひ」


 その声は、いつもより少しだけ嬉しそうだった。湊は、その表情を見て思う。今回の旅行は、両親が勝手に用意したものだった。最初は、なぜ自分としろの二人だけなのかと不思議に思ったし、正直、少し戸惑いもした。けれど、今となっては感謝している。こうして二人で過ごす時間がなければ、気づかなかったこともあったかもしれない。しろが旅行を楽しんでくれたこと。自分も、しろと一緒にいる時間を心から楽しんでいたこと。そして――隠れている気持ち。


「……ご主人?」


「はい?」


「どうかなさいましたか?」


「いえ、何でもありません」


 湊は、穏やかに笑った。


「帰りましょう、しろさん」


「はい、ご主人」


 二人は並んで歩き出した。やがて、黒部宇奈月温泉駅に到着する。駅構内では、帰りの新幹線を待つ観光客たちが、それぞれ旅の余韻に浸っていた。湊としろも、改札へ向かう前に荷物を確認した。


「お土産も、ちゃんとありますね」


「忘れ物もなさそうです」


「よかったです」


 湊は切符を取り出し、乗車案内を確認した。東京へ向かう新幹線の発車時刻が近づいている。


「それじゃあ、ホームへ行きましょうか」


「はい」


 二人は改札を通り、ホームへと上がった。ほどなくして、東京方面へ向かう北陸新幹線がホームに入ってくる。静かに停車した車両を見上げ、しろは少しだけ寂しそうに微笑んだ。


「……もう、帰る時間なんですね」


「そうですね。 でも、楽しい旅行でした」


「ええ、本当に」


 湊は、しろの手元にあるお土産の袋を見た。その中には、家族や友人たちへの贈り物が詰まっている。そして、自分たちの思い出も。


「しろさん」


「はい?」


「帰りの新幹線で、少し寝てもいいですか? 昨日、あまり眠れなかったので……」


 しろは心配そうに顔を覗き込む。


「では、東京に着くまで少しお休みになってください。 何かあれば、私が起こしますから」


「……ありがとうございます」


 優しい言葉だった。けれど、湊は心の中で思った。


 ――しろさん、あなたが昨夜、何を言ったのか。それを覚えていないのは、きっと幸せなことなんでしょうね。


 そう考えながら、湊は新幹線へ乗り込んだ。二日間の富山旅行は、まもなく終わりを迎える。けれど、旅先で過ごした時間が、二人の心に残したものは――きっと、帰宅してからも簡単には消えないだろう。


◇


 東京へ向かう北陸新幹線の車内。窓の外では、富山の山々が少しずつ遠ざかっていった。湊としろは、並んで座席に腰を下ろしている。足元には二人分のお土産が入った袋が置かれ、座席のテーブルには、先ほど買った飲み物が並んでいた。


「ご主人、お飲み物はいかがですか?」


「ありがとうございます。 いただきます」


 湊はペットボトルを受け取り、ひと口飲んだ。


「……ふう」


「お疲れですか?」


「なんだかんだ結構歩きましたし、ね」


「そういわれてみるとそうですね」


「……じゃあ、ちょっとだけ寝ます」


「はい。 おやすみなさいませ、ご主人」


「おやすみなさい、しろさん」


 湊は窓側に身体を預け、目を閉じた。新幹線の心地よい揺れと、車内に響く控えめな走行音。昨日から続く旅行の疲れもあってか、眠気はすぐにやってきた。数分もしないうちに、湊の呼吸は穏やかなものになった。


「……もう、お休みになったのですね」


 しろは小さな声でつぶやいた。隣を見ると、湊はすっかり眠っていた。普段の湊は、学校でも家でも、どこかしっかりしている。年齢相応にふざけたり、優斗とくだらない言い合いをしたりすることはあるけれど、朝比奈家のご主人として、自分なりに頑張っていることを、しろはよく知っていた。けれど、こうして眠っている姿を見ると、やはりまだ高校生なのだと思う。少しだけ幼く見える寝顔。気の抜けた、無防備な表情。


「……ふふっ」


 しろは、思わず微笑んだ。昨日から今日にかけて、湊はずっと自分を気遣ってくれていた。旅行の予定を一緒に楽しんでくれたこと。景色のいい場所では写真を撮ってくれたこと。自分が行きたいと言った店にも、嫌な顔ひとつせず付き合ってくれたこと。そして、昨夜。お酒を飲んだ自分が、何かとんでもない失敗をしてしまったのではないかと、しろは少しだけ心配していた。しかし、湊は何も責めなかった。それどころか、今朝も普段どおりに接してくれた。その自然な優しさが、しろにはとても嬉しかった。


「……ありがとうございます、ご主人」


 眠っている湊に向けて、そっとつぶやく。もちろん、返事はない。しろは窓の外へ視線を向けた。景色は次から次へと移り変わり、旅の終わりが近づいていることを告げていた。楽しかった。本当に、楽しい旅行だった。またいつか、こんな時間を過ごせたらいい。できることなら、これからも――


「…………」


 そこまで考えて、しろは口を閉じた。胸の奥が、ほんの少しだけくすぐったい。自分は、何を考えているのだろう。湊は、自分にとって大切なご主人だ。長い時間を一緒に過ごしてきた、かけがえのない存在。そのことに、間違いはない。けれど。しろは、もう一度、隣で眠る湊を見た。


 整った寝顔。

 少しだけ下がった眉。

 呼吸に合わせて、ゆっくりと動く肩。


 いつもは自分のほうが早く起きて、朝食の準備をしている。湊が眠そうに目をこすりながら起きてくる姿を見ることも多い。


「……ずるいですね」


 しろは、誰にも聞こえないほどの声で言った。こんな無防備な顔を見せられたら、普段は心の奥にしまっている気持ちまで、顔を出してしまいそうになる。しろは周囲をそっと見回した。通路を挟んだ向こう側では、乗客が静かに本を読んでいる。少し離れた席では、家族連れが小声で話していた。誰も、こちらを気にしてはいない。しろは、湊へ視線を戻した。


「…………」


 ほんの少しだけ。ほんの、ほんの少しだけなら。そんな考えが、頭をよぎった。すぐに、しろは小さく首を振る。何を考えているのだろう。相手はご主人だ。しかも、まだ高校生。自分は二十三歳で、朝比奈家に仕える立場でもある。そんなことは、ちゃんとわかっている。わかっているのに。


「……ごめんなさい、ご主人」


 しろは、ほとんど息だけの声で謝った。そして、そっと身をかがめた。湊の頬に、ほんの一瞬だけ唇を触れさせる。柔らかな感触。あまりにも短い、誰にも気づかれないほどの小さなキスだった。しろは、すぐに顔を離した。


「…………っ!」


 次の瞬間。自分が何をしたのかを理解したしろの顔が、一気に赤くなった。


「わ、わわわ……っ!」


 声が出そうになり、慌てて両手で口を押さえる。幸い、車内の乗客たちは誰もこちらを見ていなかった。そして、湊も。


「…………」


 すやすやと眠っている。起きる気配はない。それを確認して、しろは座席に深く腰を下ろした。両手で頬を押さえる。熱い。自分でもわかるほど、顔が熱かった。


「わ、私……今、何を……」


 小声でつぶやく。やってしまった。やってしまった、やってしまった、やってしまった。何をしているのだ、自分は。よりにもよって、ご主人の寝顔を見て、勝手にキスをするなんて。普段の自分なら、絶対にしない。いや、そもそも、そんなことを考えたことすらなかったはずだ。 ……本当に?


「…………っ」


 しろは、さらに赤くなった。考えるな。これ以上、考えてはいけない。自分の胸の内にあるものに名前をつけてしまったら、今までどおりにはいられなくなる気がした。湊は大切なご主人だ。それだけでいい。それだけで、十分なはずなのに。


「……どうしましょう」


 しろは、そっと湊の様子をうかがった。湊は相変わらず眠っている。何も知らず、何も気づかず、穏やかな寝顔を浮かべていた。


「……忘れてください。 今のことは、どうか忘れてください……」


 本人が聞いていないことを承知で、しろは小さくお願いした。もちろん、湊が忘れるも何も、そもそも気づいてすらいないのだが。しろは深呼吸を繰り返し、どうにか気持ちを落ち着かせようとした。しかし、一度意識してしまうと、隣にいる湊の存在が気になって仕方がない。肩が触れそうな距離。手を伸ばせば届く場所。いつもなら何とも思わないはずの近さが、今は妙に落ち着かなかった。


「…………」


 しろは、そっと窓の外へ顔を向けた。流れていく景色を眺めていれば、少しは気が紛れるだろう。そう思ったのだが。窓に映った自分の顔が、まだ真っ赤だった。


「……もう……」


 しろは、恥ずかしさのあまり、体を座席に預けた。


 こうして、富山旅行最後の新幹線は、二人を東京へと運んでいった。片方は、幸せな眠りの中へ。もう片方は、自分の行動を思い出すたびに、しばらく悶えることになるのだった。


◇


 東京駅に到着したころには、しろもようやく平静を取り戻していた。……いや、正確には、平静を取り戻したふりをしていた。


「ご主人、そろそろお目覚めください」


「ん……あれ、もう着いたんですか?」


「はい。 ぐっすりお休みでしたね」


「すみません、結構長いこと寝ちゃって」


 湊は目をこすりながら、荷物をまとめ始めた。その横顔を見て、しろの脳裏に新幹線の中での出来事がよみがえる。


「…………っ」


「しろさん?」


「は、はい! 何でしょうか!」


「……顔、赤くないですか?」


「そ、そんなことはありません! 車内が少し暑かっただけです!」


「そうですか……?」


 湊は不思議そうに首を傾げた。もちろん、何も知らない。それがありがたくもあり、なぜか少しだけ寂しくもあった。こうして二人の富山旅行は、無事に幕を閉じた。


◇


 数日後。


「湊、富山旅行どうだったんだ?」


 学校で優斗に尋ねられ、湊はスマートフォンに保存した写真を見せた。


「楽しかったよ。 トロッコ電車にも乗れたし、飯もうまかった」


「へえー! いいなあ! ……ってこれ、しろさんとのツーショットじゃん!」


「そりゃ二人で行ったんだから写真くらい撮るだろ」


「くっ……! 俺も行きたかった……!」


「お前、誘われてもないだろ」


「そこは想像力で補えよ!」


 いつもの調子で騒ぐ優斗を横目に、湊は笑った。写真を見るたび、旅行の楽しかった時間がよみがえる。ただし、夜の出来事については、相変わらず思い出すだけで落ち着かなくなるのだった。


◇


 一方、朝比奈家。しろは自室で、旅行中に撮った写真を整理していた。湊の笑顔。峡谷の景色。二人で食べたお菓子。どれも大切な思い出だ。そして、写真を眺めているうちに、ふと新幹線での出来事を思い出してしまった。


「…………」


 しろは、クッションに顔を埋めた。


「……私のばか……!」


 その声は、誰にも届かなかった。もちろん、湊は何も知らない。しろが一人で恥ずかしさに悶えていることも。そして、次に二人で旅行へ行くことがあれば、今度こそ絶対に平常心を保とうと、しろが固く決意していることも。


 ――なお、その決意がいつまで続くかについては、本人にもわからない。

 第五十九話でした。今回で、湊としろの富山旅行もいよいよ一区切りです。突然のサプライズから始まり、散歩したり、旅館の温泉や夕食、黒部峡谷の観光、お土産選び、そして帰りの新幹線。二人にとって、普段の生活ではなかなか味わえない時間になったのではないでしょうか。今回の旅行編では、いつもとは違う環境だからこそ見えてくる二人の一面を意識して描いてみました。朝比奈家で一緒に暮らしている二人ですが、家の中で過ごす時間と、旅行先で二人きりで過ごす時間とでは、やはり少し違うものがあります。普段なら何気なく流れていく会話も、旅行先では特別な思い出になる。そんな、何気ないけれど大切な時間を感じていただけていたら嬉しいです。

 そして、今回の旅行で忘れてはいけないのが、しろのあの一件ですね。普段は落ち着いていて、湊のお世話をする側のしろですが、時には思いがけない一面を見せてくれます。しかも、本人がその出来事を覚えているかどうかという問題まであるわけで……。湊が何を思い、しろが何を知らないまま過ごしているのか。二人の間に生まれた小さな秘密が、今後どのように影響していくのかも楽しみにしていただければと思います。

 さて、旅行も終わり、物語は再びいつもの日常へと戻っていきます。とはいえ、何事もなかったかのように元通り、とはいかないかもしれません。旅行を通して少しずつ積み重なった思い出が、これからの二人にどんな変化をもたらすのか。引き続き、湊としろの日常を見守っていただけると嬉しいです。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!感想、ブックマーク等お待ちしております。次回もお楽しみに。

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