第五十二話 体育祭中編④(ビーチフラッグ、騎馬戦)
第五十二話です。午後の競技が始まり、ビーチフラッグに続いて騎馬戦が開幕! 作戦を立てて勝利を目指す湊たちだったが、体育祭はそう簡単にはいかないようで……? それでは、どうぞ。
昼休憩が終わり、午後の競技開始を告げるアナウンスが校内に響き渡った。午前中の疲れが残っているらしい生徒もいれば、昼食を食べてすっかり元気を取り戻した様子の生徒もいる。グラウンドには再び生徒たちが集まり、体育祭の熱気が戻り始めていた。
「午後の部も頑張ろうね、湊!」
「そうだな。 まあ、午前中に結構走ったし、午後はほどほどに頑張るよ」
「おいおい、せっかくリレーで優勝したんだぞ? その勢いを午後にも持ち込もうぜ!」
優斗が、やけに張り切った様子で言った。
「お前は午後、何に出るんだっけ?」
「……あれ?」
「いや、忘れたのかよ」
「いやいや、違う! ちょっと確認しただけだ!」
「はいはい」
湊は呆れながらも、笑みを浮かべた。午後の競技には、クラス代表が出場するものもあれば、特定の生徒だけが参加するものもある。湊たちが次に参加する競技までは、まだ少し時間があった。ひまりもグラウンドを見渡す。
「次はビーチフラッグだって」
「ビーチフラッグ?」
「うん、砂浜でやるやつ……じゃなくて、グラウンドでやるんだよね」
「そりゃ学校の体育祭だからな」
「分かってるよ!」
ひまりが頬を膨らませる。もちろん、学校に砂浜があるわけではない。グラウンドの一角に設けられた競技スペースで、ビーチフラッグを模した競技が行われるのだ。各クラスから代表者を一名選出。競技者全員がうつ伏せになってスタートの合図を待ち、少し離れた場所に置かれた旗を目指して一斉に走る。ただし、用意されている旗の数は競技者の人数より一つ少ない。つまり、最後まで旗を取れなかった者は脱落。これを繰り返し、最後まで勝ち残った者が勝者となる。
「単純だけど、結構盛り上がりそうだな」
「だよね。 足の速さだけじゃなくて、反応も大事そう!」
「俺が出たら優勝できたかもしれないな……」
優斗が、遠い目をしながら呟いた。
「お前、代表に選ばれてないだろ」
「分かってるよ! 可能性の話だ、可能性の!」
「可能性だけなら誰でも優勝できるな」
「湊、お前たまに容赦ないよな……」
そんな会話を交わしているうちに、競技スペースの準備が整った。各クラスの代表者たちが集まり、先生の指示に従って位置につく。選ばれた生徒たちは、緊張した表情を浮かべながら、少し離れた位置に並べられた旗を見つめていた。
『それでは、ビーチフラッグを始めます!』
放送部の声がグラウンドに響く。
『各クラスの代表者は、スタートラインについてください!』
代表者たちは一斉にうつ伏せになった。旗までは十数メートル。ほんのわずかな距離だが、そこには勝者と敗者を分ける境界線がある。周囲の生徒たちも、自然と競技スペースへ視線を向けていた。
「おお、始まるぞ」
湊も足を止める。
「誰が勝つかな?」
「やっぱり陸上部とかじゃないか?」
「でも、こういう競技ってスタートの反応も大事だよね」
ひまりの言うとおりだった。いくら足が速くても、出遅れれば旗を取れない。逆に、反応が良ければ最初の一戦を突破できる可能性は十分にある。
『位置について――』
グラウンドに緊張が走った。
『よーい……』
パンッ!
合図と同時に、代表者たちが一斉に飛び出した。
「うおおおおっ!」
「速っ!」
地面を蹴る音と、応援する生徒たちの歓声が重なる。先頭を走る生徒が、迷わず旗へと手を伸ばした。その隣では、別の生徒が身体を滑り込ませるようにして旗をつかむ。次々と旗が持ち上げられ、最後の一本をめぐって二人の生徒が競り合った。そして――一本の旗が、勢いよく引き抜かれた。
『勝者、決定!』
放送部の声が響き渡る。
「おおーっ!」
観客席から歓声が上がった。惜しくも旗を取れなかった生徒は、悔しそうにしながらも立ち上がり、勝ち残った生徒たちへ拍手を送る。
最初の一戦が終わり、競技は次の段階へと進んだ。残った代表者たちが再びスタート位置につき、旗の数も減らされていく。競技者が減るたびに、勝負の緊張感は増していった。最初は勢いよく飛び出したものの、途中で足がもつれてしまう者。旗を目の前にして一瞬迷い、わずかな差で取り逃がす者。反対に、最後まで冷静に周囲を見て、確実に旗を手にする者。勝負の行方は、最後まで分からなかった。
「こうして見ると、結構面白いな」
湊が感心したように言う。
「うん! 出てる人たちも楽しそう!」
ひまりも手を叩いて応援していた。優斗はというと、いつの間にか競技を見ながら自分が参加しているかのように身体を前後させていた。
「そこだ! 行けっ!」
「お前、応援に熱が入りすぎだろ」
「こういうのは本気で応援するもんだろ!」
「まあ、それはそうだけど」
湊は苦笑した。やがて競技は最終戦を迎え、残った代表者たちが最後の旗を目指して駆け出した。勝者が決まると、グラウンドには大きな拍手が広がった。代表者たちは互いに健闘を称え合い、先生たちも満足そうに頷いている。こうしてビーチフラッグは無事に終了した。
なお、二年C組の代表者が何位だったのかについては、ここでは割愛させていただく。いや、だって、主要人物が誰も参加していない競技の順位を全クラス分書き始めたら、作者の体力が先に尽きるので。体育祭はまだまだ続くのだ。
『続きまして、次の競技の準備をお願いします!』
放送部の声が響き、グラウンドでは次の競技に向けた準備が始まった。湊は軽く肩を回しながら、午後のプログラムを確認する。
「次は……騎馬戦か」
「男子だけの競技だね」
ひまりが言った。
「おう、ここは男子の見せ場だな!」
優斗が胸を張る。
「お前、騎馬戦に出るんだっけ?」
「……出るぞ!」
「今、ちょっと間があったけど」
「気のせいだ!」
湊は小さく笑い、グラウンドへと目を向けた。ビーチフラッグが終わり、次はいよいよ騎馬戦。午後の体育祭は、まだ始まったばかりだった。
◇
ビーチフラッグが終わり、グラウンドでは次の競技に向けた準備が進められていた。次の種目は、騎馬戦。男子生徒のみが参加するこの競技は、体育祭の中でも特に盛り上がる種目の一つだ。各クラスの選手たちが騎馬を組み、相手の帽子を奪い合う。最後まで帽子を守り抜いた者、あるいは相手の帽子を多く奪った者が勝利へと近づく。グラウンドの一角には、参加する男子生徒たちが集まり始めていた。
「よし、C組もそろそろ集まろうぜ!」
クラスメイトの一人が声を上げる。湊たちもそれに従い、クラスの待機場所へと移動した。
「騎馬戦かあ……」
湊はグラウンドを見渡した。周囲では、すでに作戦を話し合っているクラスもある。腕を組んで真剣な表情を浮かべる者、友人と笑いながら騎馬の組み方を相談する者。雰囲気はさまざまだったが、どのクラスも勝利を目指していることに変わりはなかった。
「湊、騎馬戦ってどういう作戦がいいと思う?」
優斗が隣から尋ねた。
「そうだな……とりあえず、突っ込めばいいってもんじゃないだろ」
「なるほど。 つまり、突っ込めばいいってことだな!」
「どこをどう解釈したらそうなるんだよ」
「考えるより先に動け、っていう教えだろ?」
「俺はそんな教えを説いた覚えはない」
湊が呆れたところで、クラス委員が手を叩いた。
「はいはい、みんな注目! とりあえず、騎馬の組み合わせと作戦を決めよう!」
集まった男子生徒たちが、彼の周囲に集まる。
「まず、騎馬をどう組むかだな。 体格や身長のバランスもあるし、無理のない組み合わせにしよう」
「上に乗る役はどうする?」
「帽子を取るのが得意なやつがいいんじゃないか?」
「でも、上に乗るやつだけじゃなくて、下の三人との連携も大事だろ」
次々に意見が飛び交う。騎馬戦は、単純に力が強ければ勝てる競技ではない。上に乗る騎手が相手の帽子を狙い、下の三人が安定した騎馬を維持する。互いの動きが合わなければ、相手に帽子を取られるどころか、まともに動くことすら難しくなる。
「じゃあ、俺たちはどうする?」
湊が尋ねると、クラス委員は少し考えてから答えた。
「まずは守りを固めるのがいいと思う。 いきなり全員で突っ込んで、早い段階で脱落者が増えたら厳しいからな」
「確かに」
湊は頷いた。
「最初は無理に攻めず、相手の動きを見る。 隙ができたところを狙うってことか」
「そうそう。 湊、意外と分かってるじゃん」
「意外とは余計だろ」
クラスメイトが笑う。
「でも、守ってばかりじゃ勝てないだろ?」
優斗が口を挟んだ。
「どこかで攻める必要はあると思うぞ。 相手が守りに入ったところを狙うとかさ」
「それもそうだな」
クラス委員は頷いた。
「じゃあ、基本は守備重視で、相手の騎馬が孤立したら攻める」
「深追いはしない」
「この方針でいこう」
「賛成!」
何人かの声が重なる。具体的な騎馬の組み合わせも、少しずつ決まっていった。体格の近い者同士で下の三人を組み、バランスを取るのが得意な生徒を中心に配置する。騎手役には、周囲をよく見て判断できる者や、腕を伸ばして帽子を狙える者が選ばれていった。結局、湊と優斗も同じ騎馬に入ることになった。
「お、湊と一緒か!」
優斗が笑顔を浮かべる。
「よろしくな!」
「うん。 まあ、足を引っ張らないように頑張ろう」
「おい、俺が足を引っ張る前提なのか?」
「いや、念のため」
「念のためって何だよ!」
優斗が抗議する。その様子を見ていたクラスメイトが、苦笑しながら言った。
「お前ら、作戦会議中くらいは真面目にやれよ」
「俺は真面目だぞ!」
「湊も?」
「……まあ、一応」
「そこは即答してくれよ!」
再び笑いが起こった。もっとも、ふざけてばかりいるわけではない。湊たちは騎馬を組んだ際の動きや、どの方向から攻められたらどう対応するかについても確認していた。
「正面から相手が来たら、無理に追いかけない。 まずは騎馬を安定させる」
湊が言う。
「相手が横に回ってきたら?」
「下の三人で方向を変えて、騎手が帽子を取られないようにする。周りの味方とも離れすぎないようにしたいな」
「なるほど。じゃあ、攻めるときは?」
「一人で突っ込まないこと。 近くの味方と一緒に動いて、相手が対応しきれなくなったところを狙う」
優斗は感心したように頷いた。
「お前、こういう作戦を考えるの得意なんだな」
「そうか? 普通じゃない?」
「いや、俺なら『気合いで勝つ!』で終わってた」
「それは作戦じゃなくて精神論だろ」
「精神論も大事だぞ!」
「否定はしないけどさ……」
湊は苦笑した。やがて、クラス委員が全員に向かって声を張り上げた。
「よし、作戦は決まったな! 無理に突っ込まず、連携を大事にする。 勝てそうな場面では攻めるけど、深追いはしない。 全員、怪我には気をつけていこう!」
「おう!」
男子生徒たちの声が重なる。それぞれが騎馬の組み合わせを確認し、準備を始めた。少し離れた観覧スペースでは、ひまりが湊たちの様子を眺めていた。隣にいるしろも、真剣な表情でグラウンドに目を向けている。
「湊、頑張ってほしいね」
ひまりが言った。
「はい。 ご主人が怪我をなさらないとよいのですが」
「ふふっ、しろさん、心配?」
「もちろんです。 私の大切なご主人ですから」
しろはごく自然に答えた。ひまりはその横顔を見て、ほんの少しだけ笑みを浮かべる。
「……そっか」
それ以上は何も言わず、再びグラウンドへと視線を戻した。その頃、湊たちは騎馬を組む準備を終え、競技開始の合図を待っていた。
「湊」
「ん?」
「勝とうぜ」
優斗が、今度はふざけることなく言った。湊は一瞬だけ目を丸くし、それから小さく笑った。
「……ああ。そうだな」
午前中の綱引きとリレーでは、二年C組が勝利を収めた。玉入れでは三位に終わったものの、クラス全体の士気は高い。ここで騎馬戦でも結果を残せれば、午後の競技にも勢いがつくはずだ。やがて、放送部の生徒がマイクを手に取った。
『それでは、これより騎馬戦を開始します! 参加する選手は、所定の位置についてください!』
グラウンドに歓声が広がる。湊たちは顔を見合わせ、騎馬を組んだ。作戦は決まった。あとは、それを実行するだけだ。
二年C組の騎馬戦が今、始まる。
◇
――パンッ!
開始の合図とともに、グラウンドに集まった騎馬が一斉に動き出した。
『それでは、騎馬戦スタートです!』
放送部の声が響き、観覧スペースから歓声が上がる。各クラスの男子生徒たちは、騎馬を組んで相手の帽子を狙い始めた。正面から堂々とぶつかる騎馬もあれば、相手の隙をうかがいながら周囲を回り込む騎馬もある。
その中で、二年C組は事前に立てた作戦どおり、まずは守りを固めていた。
「湊、右から来てる!」
「分かってる! 慌てずに動こう!」
湊たちの騎馬は、相手の動きを見ながら少しずつ位置を変える。湊は騎手として上から周囲を見渡し、相手の動きに注意を払っていた。近くの味方が攻め込まれそうになれば声をかけ、隙ができた相手には積極的に手を伸ばす。
「今だ、前の騎馬がこっちを見てない!」
湊が声を上げた。
「よし、行くぞ!」
優斗たちが息を合わせ、前進する。湊は相手の帽子へ手を伸ばした――が、あと少しというところで相手が身を引いた。
「うわっ、惜しい!」
「深追いするな! 一度戻ろう!」
湊はすぐに指示を出した。相手を追いかけたい気持ちはあったが、ここで無理をすれば、別の騎馬に横から狙われかねない。作戦どおり、いったん味方の近くへ戻る。
「おお、湊、ちゃんと指示出してるな!」
優斗が感心したように言った。
「そりゃ、作戦会議したからな」
「俺たち、意外といけるんじゃないか?」
「その『意外と』って何なんだよ」
湊は苦笑しながら、再び周囲を見渡した。しかし、騎馬戦はそう簡単にはいかなかった。開始からしばらくすると、他クラスの騎馬が次々と動きを速め始めた。守りを固めていた騎馬も、勝負を仕掛けるために前へ出てくる。その結果、グラウンドのあちこちで騎馬同士が入り乱れる展開となった。
「左、来てる来てる!」
「こっちも気をつけろ!」
C組の騎馬たちも、少しずつ対応に追われ始めた。湊たちの近くを、別のクラスの騎馬が勢いよく通り過ぎていく。その直後、背後から別の騎馬が迫ってきた。
「湊、後ろ!」
「えっ――!」
振り返ったときには、相手の騎手がすぐ近くまで迫っていた。湊はとっさに腕を伸ばし、相手の手をはじく。だが、相手も簡単には諦めない。何度か手を伸ばし合った末、湊は相手の帽子に指先をかけた。
「取った!」
――と思った瞬間、相手の騎馬が大きく方向を変えた。帽子は湊の指をすり抜け、相手の頭に残ったまま遠ざかっていく。
「くっ、あと少しだったのに!」
「湊、まだいけるぞ!」
「分かってる!」
優斗たちが騎馬を支え、体勢を立て直す。しかし、その間にも戦況は変化していた。グラウンドの反対側では、C組の騎馬が一つ、また一つと帽子を取られて脱落していく。
「C組、頑張れー!」
観覧スペースから、ひまりの声が飛んだ。隣では、しろも両手を胸の前で握り、真剣な表情で湊たちを見つめていた。
「ご主人……」
湊たちは、まだ帽子を守り抜いていた。だが、味方の数が減れば、それだけ一つの騎馬にかかる負担も大きくなる。
「湊、どうする?」
優斗が尋ねた。湊は周囲を見渡した。当初の作戦では、守りを固めながら孤立した相手を狙う予定だった。ところが、各クラスが一斉に動き始めたことで、味方同士の距離が開き、思うように連携が取れなくなっている。このまま守っているだけでは、いずれ囲まれてしまう。
「……少し攻めよう。 近くの味方と合流して、相手が一騎になったところを狙うんだ」
「了解!」
湊たちは、近くにいたC組の騎馬と合流しようと動き始めた。その途中、目の前を別クラスの騎馬が横切る。
「今だ!」
湊は相手の帽子へ手を伸ばした。今度は、相手もこちらに気づくのが遅れた。指先が帽子に触れ、湊は一気に引き抜いた。
「よしっ!」
帽子を手にした瞬間、周囲から歓声が上がった。
「湊、やったな!」
「おう!」
優斗も嬉しそうに声を上げる。これで一つ、相手の騎馬を脱落させた。だが、喜んでばかりもいられない。帽子を取った直後、別の騎馬がこちらへ向かってきたのだ。
「まずい、来るぞ!」
湊はすぐに声を上げた。騎馬は方向を変えようとしたが、周囲の騎馬が密集しており、思うように動けない。
「右に回って!」
「ちょっと待て!」
「はやく!」
「はやくっていわれても、周りにも騎馬がいるんだ! 変な動きはできない!」
「今そんなこと言ってる場合か!」
慌ただしくやり取りをしながら、何とか相手の攻撃をかわす。しかし、体勢を立て直したところで、別の騎馬が横から迫ってきた。湊が手を伸ばすより早く、相手の騎手が帽子をつかむ。
「あっ――!」
帽子が、湊の頭から引き抜かれた。同時に、審判の笛が鳴り響く。
『二年C組、さらに一騎脱落です!』
「うわあああっ!」
優斗の叫びがグラウンドに響いた。
「マジか……!」
湊は悔しそうに息を吐いた。あと少しだった。もう少し早く動けていれば。あるいは、周囲の状況をもっと正確に把握できていれば。そんな考えが頭をよぎったが、競技はまだ続いている。湊たちは騎馬を解き、審判の指示に従って競技スペースの外へ移動した。
「いやー、惜しかったな!」
優斗が肩で息をしながら言った。
「……そうだな。 もうちょっといけると思ったんだけど」
「でも、帽子一つ取ったじゃん。 あれはよかったぞ」
「お前もちゃんと支えてくれたしな。 ありがとな」
「おう!」
優斗は笑顔で応えた悔しさはあったが、仲間と協力して最後まで戦えたことは悪くなかったと思う。二人は競技スペースの外から、残ったC組の騎馬を見守った。しかし、戦況は厳しかった。残っていたC組の騎馬も、他クラスの騎馬に囲まれ、次々と帽子を取られていく。善戦する騎馬もあったが、数の差を覆すことは難しかった。やがて、最後まで残っていた他クラスの騎馬が脱落し、競技終了の合図が鳴り響いた。
『そこまで! 騎馬戦を終了します!』
グラウンドに大きな歓声と拍手が広がった。選手たちは互いの健闘を称え合い、先生たちが結果の確認を始める。湊は額の汗を拭いながら、結果発表を待った。
『それでは、騎馬戦の順位を発表します!』
放送部の声が響く。
『第一位――二年A組!』
歓声が上がる。
『第二位――二年D組!』
続いて、三位のクラスが発表された。
そして――
『第四位、二年C組!』
「四位か……」
湊は小さく呟いた。
「まあ、悪くはないんじゃないか?」
優斗が言った。
「午前中に二回優勝してるんだし、これくらいは仕方ないって!」
「そうだな」
湊は頷いた。悔しくないと言えば嘘になる。だが、騎馬戦は個人の力だけではどうにもならない競技だ。作戦を立て、仲間と連携し、最後まで戦った。その結果が四位なら、受け止めるしかない。観覧スペースから、ひまりが二人に手を振っていた。
「湊ー! 優斗ー! お疲れさまー!」
その隣では、しろもほっとしたような表情を浮かべている。
「ご主人、お疲れさまでした」
湊はしろの姿を見つけると、軽く手を振り返した。少し離れた場所からでも、しろが笑顔を向けてくれているのが分かった。それだけで、悔しさがほんの少し和らぐ。
「……よし、次だな」
湊は顔を上げた。午前中の綱引きとリレーでは優勝。玉入れは三位。そして、騎馬戦は四位。二年C組の成績は、少しずつ波が出てきている。それでも、体育祭はまだ終わっていない。グラウンドでは、次の競技に向けて準備が始まっていた。午後の熱戦は、まだまだ続く。
五十二話でした。体育祭編、午後の部!ビーチフラッグに騎馬戦と、運動会らしい競技が続いております。ちなみに今回、湊たちのクラスは騎馬戦で四位という結果になりました。午前中は綱引きとリレーで優勝しているので、十分に健闘していると言えるでしょう。玉入れも三位でしたしね。……え? 騎馬戦でも優勝させてあげればよかったんじゃないかって?いやいや、待ってください。綱引きで優勝!リレーで優勝!玉入れ三位!そして騎馬戦でも優勝!そんなことをしたら、二年C組が強すぎるんですよ。もはや体育祭という名の二年C組による独裁政権です。ほかのクラスの生徒たちが、青春を謳歌する間もなく敗北していくことになります。それはそれで面白そうですが、さすがにかわいそうなので今回は負けてもらいました。何より、物語における勝利というものは、時に敗北があるからこそ輝くのです。……と、もっともらしいことを言ってみましたが、要するに毎回勝たせていたら展開を考えるのが大変なんです。作者だって人間なんです。キャラクター全員を活躍させ、恋愛を進展させ、ギャグを挟み、季節のイベントを消化し、なおかつ物語の整合性を保つ。これを全部やれと言うんですか。……はい、作者が自分で始めた物語ですね。自業自得でした。さて、体育祭もまだ終わりではありません。湊たちがこのあとどんな競技に参加するのか。そして、しろさんはご主人の活躍をどんな気持ちで見守るのか。……いや、しろさんは保護者として来ているだけですからね?別に湊のことが気になって仕方ないとか、そういう話ではありません。ありませんとも。作者がわざわざ念を押すと、かえって怪しくなるのはなぜでしょう。ともあれ、体育祭編はまだ続きます!感想、ブックマーク等お待ちしております。次回、第五十三話もお楽しみに。




