↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
第二章 夏休み
PR
50/68

第四十五話 夏休み、終わるってよ

第四十五話です。長かった夏休みも、今回で終わりです。海に行って、夏祭りをして、お盆を過ごして、両親も帰ってきて。振り返ってみると、湊たちにとってかなり色々あった夏でした。最後くらいは大きな事件も起こさず、いつもの四人で締めようと思います。というわけで、夏休み編最終話。それでは、どうぞ。


 夏休み最後の日。朝比奈家の朝は、いつもと変わらなかった。


「ご主人、朝ですよ」


「……はい」


「起きてください」


「……起きます」


 布団の中から返事だけはする。しろはベッドの横に立ったまま、じっと湊を見る。


「返事だけして寝るのはやめてくださいね」


「……はい」


「今のも返事だけですね」


「……」


「ご主人?」


「起きますって」


 ようやく湊が布団から顔を出す。夏休み最後の日だからといって、朝は待ってくれない。カーテンの隙間から差し込む光はまだ夏らしく眩しいが、どこか空気が違う。蝉の声も、いつの間にか聞こえなくなっていた。湊は部屋着のまま階段を下りる。


「おはようございます」


「おはようございます、ご主人」


 台所では、しろが朝食の準備をしていた。テーブルにはトーストと目玉焼き、それから簡単なサラダ。


「今日で夏休み終わりか……」


 椅子に座りながら、湊が呟く。


「そうですね」


「なんか、早かったですね」


「今年は特に色々ありましたからね」


 しろが紅茶を置く。湊は少し考える。海に行った。夏祭りにも行った。お盆には両親が帰ってきた。その両親を、また空港へ送っていった。ひまりや優斗とも何度も遊んだ。そして、しろとも休日を過ごした。


「……確かに色々あったな」


「宿題も、色々ありましたね」


「それは思い出さなくていいんですよ」


「まだ確認してませんよね?」


「終わってるって」


「本当ですか?」


「本当だよ」


 しろが少しだけ疑うような目を向ける。


「では、朝食の後に確認しましょう」


◇


 朝食を終えると、湊は自分の部屋へ戻った。机の上には、夏休みの宿題がまとめて置いてある。


「……よし」


「本当に終わってますね」


 後ろから覗き込んだしろが、少し意外そうに言った。


「だから言ったじゃないですか」


「最後の二日で全部終わらせるのではないかと思っていました」


「俺をなんだと思ってるんですか」


「ご主人です」


「そういう意味じゃなくて」


 しろが小さく笑う。宿題を確認し終えると、湊は椅子にもたれた。


「これで、明日から学校か」


「はい」


「二学期ですよね……」


 窓の外を見る。青い空。白い雲。まだまだ夏らしい景色なのに、暦だけが先へ進んでいる。


「今年の夏、長かったような短かったような……」


「私は、短かった気がします」


「しろさんも?」


「はい」


 しろは窓の外を眺めた。


「海にも行きましたし、夏祭りもありました。 お盆には旦那さまと奥さまも帰ってきましたし」


「それに……」


 しろが少し考える。


「私も休日をいただきましたので」


「ああ」


「ひまりさまと一緒に出かけました」


「そうだったんですか。 俺、あの日どこ行ったか知らないんですよね」


「秘密です」


「なんで?」


「女子会でしたので」


「女子会に秘密ってあるの?」


「あります」


 しろは少しだけ楽しそうに笑った。湊も笑う。


「来年も、また海とか行けるかな」


「来年?」


「はい」


 湊は何気なく言った。


「今年みたいに、みんなで」


 しろは一瞬だけ黙った。それから、穏やかに頷く。


「……そうですね」


「夏祭りも」


「はい」


「あと、また母さんたちが帰ってきたら、みんなで飯食って」


「楽しそうですね」


「はい」


 湊は机の上に置かれた夏休みの予定表を見る。たった一枚の紙。そこに並んでいた予定は、もうほとんど終わっている。楽しかった時間も、こうして一つずつ過ぎていく。


「……夏休み、終わるんだな」


「終わりますね」


 しろが静かに答えた。寂しいような。でも、少しだけ楽しみなような。二学期になれば、また学校でみんなに会える。新しい季節が始まる。湊は立ち上がった。


「……じゃあ、最後の日ですし」


「はい?」


「ちょっと出かけません?」


「どちらへ?」


「決めてないですけど」


「……ご主人らしいですね」


「褒めてます?」


「どうでしょう」


 二人は顔を見合わせる。そして、笑った。夏休み最後の日は、まだ始まったばかりだった。


◇


昼前。湊としろは、特に目的地を決めることもなく街を歩いていた。


「結局、どこ行くんですか?」


「だから決めてないんですって」


「ずいぶん計画性のないお出かけですね」


「夏休み最後の日くらい、そういうのもいいでしょう」


「まあ、それもそうですね」


 駅前の通りを歩く。夏休みも今日で終わりだというのに、街にはまだ夏の空気が残っていた。店先には夏物の商品が並び、道路の向こうでは蝉が鳴いている。


「そういえば」


「宿題は大丈夫ですか?」


しろが言った。


「さっき確認したでしょ」


「念のためです」


「大丈夫だって」


 そんな会話をしながら歩いているうちに、いつもの喫茶店の前まで来た。


「……ここでいいんじゃない?」


「賛成です」


 二人は店内へ入った。ドアを開けると、聞き慣れたベルの音が鳴る。


「いらっしゃいませ――」


 店員の声。そして。


「あっ」


 聞き慣れた声が、店の奥から聞こえた。湊が顔を上げる。


「……ひまり?」


「湊じゃん!」


 窓際の席に座っていたのは、ひまりだった。そして、その向かいには――


「よう」


 優斗がいた。


「なんでお前らがここにいるんだよ」


「こっちの台詞なんだけど」


 ひまりが笑う。


「私たちも夏休み最後だから、ちょっとお茶しようって来たの」


「へえ」


「湊こそ、しろさんとデート?」


「違う」


「即答なんだ」


「普通に散歩してただけ」


 湊が答える。その隣で、しろが小さく頭を下げた。


「こんにちは、ひまりさま、優斗さま」


「こんにちは、しろさん!」


 ひまりが嬉しそうに手を振る。


「しろさんも一緒なら、こっち来てくださいよ!」


「いいんですか?」


「もちろん!」


 ひまりが隣の席を指差す。湊としろは顔を見合わせた。


「……座ります?」


「そうですね」


 二人が席につく。


「なんか久しぶりだな」


 優斗が言う。


「この前会っただろ」


 優斗が遠い目をする。


「夏休み……終わるんだな」


「急に寂しそうになるなよ」


「だって夏休みだぞ? 学生にとって一年で最も自由な期間だぞ?」


「宿題は?」


「……」


 優斗が黙った。


「お前、まさか」


「終わってる」


「今の間は何?」


「終わってるって」


 ひまりが笑う。


「優斗、昨日の夜までやってたじゃん」


「お前言うなよ!」


「やっぱりか」


 湊が呆れる。しろも笑っている。注文した飲み物が運ばれてくる。四人でテーブルを囲む。夏休み最後の日、特別なことをするつもりはなかった。ただ少し街を歩いて、いつもの喫茶店に入っただけ。


 でも。


「明日からまた学校かー」


 ひまりがストローをくるくる回しながら言う。


「二学期も楽しみだね」


「……そうだな」


 湊が答える。しろはそんな二人を見ながら、静かに微笑んだ。夏は終わる。けれど、明日になれば、またいつもの日常が始まる。それが少しだけ楽しみに思えた。


 こうして、長かった夏休みが終わった。海へ行き、祭りを手伝い、家族と過ごし、たくさん笑った。楽しかった夏の日々は、思い出の中へ。そして明日からは、二学期。季節は少しずつ、秋へ向かっていく。――夏が終わっても、物語はまだ続く。

第四十五話でした。夏休み編、終了です。長かったですね。本当に長かった。海に行って、夏祭りをして、お盆になって、両親が帰ってきて、しろの休日があって、最後はまた喫茶店。こうして並べてみると、湊たち、夏休みをかなり満喫しています。最初は「夏休みだから海でも行かせるか」くらいの気持ちだったはずなのに、気がつけば恒一と美咲まで帰ってきました。しかも恒一とポルシェ944出会いまで描きました。……親の過去編までやるとは、最初の頃の自分に言っても信じてもらえなさそうです。そして今回の夏休み編では、しろについても色々描けたかなと思います。朝比奈家に来た五年前の話。両親との再会。ひまりとの休日。そして、最後は湊と二人でいつもの喫茶店へ。しろにとって「朝比奈家で過ごす」ということが、五年前と今との対比として、当たり前の日常になっていることも描けた気がします。湊たちも、海に行ったり祭りに行ったりしているうちに、少しずつ時間を重ねています。特別な出来事だけじゃなくて、何気ない一日も含めて、全部がこの物語の思い出になっていく。そんな夏だったのかなと思います。そして最後は、ひまりと優斗がいるいつもの喫茶店。結局、夏休み最後の日でもこの四人は一緒です。夏が終わっても、湊たちの日常は終わりません。ここから少しずつ季節が変わっていきます。二学期。秋のイベント。そして、冬へ。夏の間に積み重なったものが、これからの日常の中でどう変わっていくのか。そのあたりも、ゆっくり描いていければと思っています。まずはここまで、長い夏にお付き合いいただきありがとうございました。作者もそろそろ秋服を出したいです。それでは、次回から二学期始まります。『起きてください、しろさん』秋編も、よろしくお願いします。長くなってすみませんでした。感想、ブックマーク等いただけると幸いです。次回、第四十六話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。