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起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
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第三十三話 波の次に襲い掛かるのは、宿題

第三十三話です。海旅行から帰って二日。楽しかった海の思い出もそこそこに、湊たちは夏休みの宿題と向き合うことに。……とはいえ、四人集まれば当然すんなり終わるはずもなく。海の次に待っていたのは、夏休み最大級の強敵でした。それでは、どうぞ。

 海から帰ってきて、二日。夏休みの空は、今日も腹が立つほど青かった。蝉は朝から元気に鳴き、窓の外では入道雲が大きく膨らんでいる。まさに夏休み、どこからどう見ても夏休み。……ただし。


「あー……」


 机の上に積まれたプリントの山を見つめ、湊はため息をついた。


「宿題……」


 海から帰ってきたその日は、疲れてすぐ寝てしまった。昨日は、なんとなく休んでしまった。そして今日。ついに現実が追いついてきた。


「夏休みって、もっと自由なものだと思ってたんだけどな……」


 湊は一枚目のプリントを手に取る。


 数学。問題数、三十問。

 その隣には国語。

 さらに英語。

 そして、夏休みの課題として提出する作文。


「……多くない?」


 誰に言うでもなく呟く。もちろん返事はない。しばらく問題を眺めていた湊は、スマホを手に取った。そして、ひまりと優斗とのグループチャットを開く。


『宿題やった?』


 送信。数秒後。


『やってない!』


 ひまりは即答だった。湊は頭を抱えた。


『なんでそんな元気なんだよ』


『だって夏休みだよ?』


『宿題も夏休みのうちだよ』


『それは違う』


「どう違うんだよ……」


 さらにメッセージが届く。


『今日みんなでやろうよ!』


 湊は画面を見つめた。少し考える。確かに、一人でやるよりは効率がいいかもしれない。それに、ひまり一人に任せたら、おそらく八月末に大惨事になる。


『優斗もくるかな?』


『呼んだら来るでしょ』


『しろさんは家にいるよ』


 既読がつく。そして、


『今すぐ行くわ!』


 返事が早い。湊は苦笑した。


『じゃあ、うちでいいね』


『決まり!』


 数分後。優斗も、


『了解』


 のスタンプだけ返ってきた。


「……さて」


 湊は立ち上がる。


「ちょっと掃除するか」


 今日は、みんなで宿題を片付ける日。少なくとも湊は、そのつもりだった。しかし――昼過ぎ。


「お邪魔しまーす!」


 玄関から、ひまりの元気な声が響いた。


「早いな」


「だって宿題やるんでしょ?」


「その割には手ぶらじゃないか?」


「え?」


 ひまりが自分の手を見る。何も持っていない。


「……」


「宿題は?」


「忘れた」


「帰れ」


「あああ待って待って!」


 ひまりが慌てて靴を脱ぐ。


「ちゃんと持ってきたから!」


「最初からそう言え」


「ごめん!」


 その後ろから優斗も入ってくる。


「こんにちは」


「おう」


「ひまり、宿題忘れたって聞こえたけど」


「忘れてない! さすがに冗談!」


「顔が本気だったけど」


「優斗うるさい!」


 二人のやり取りを聞き、笑いながら、湊はリビングへと向かう。


「こんにちは、皆さま」


 しろの手には、準備していたのだろうか、飲み物にちょっとしたお菓子。


「……準備がいい」


「皆さま、集中すると水分補給を忘れがちですので」


「ありがとうございます!」


 ひまりが嬉しそうに受け取る。


「お菓子もある!」


「そちらは休憩用です」


「今食べちゃダメ?」


「まだ始まっていませんので」


「ですよねー」


 湊は三人を見回す。海旅行から帰って、まだ二日。ついこの前まで四人で砂浜を走り回っていたのに、今日は全員で机を囲んでいる。


「じゃあ、やるか」


 湊がプリントを並べる。


「今日中にある程度終わらせよう」


「おー!」


 ひまりが拳を上げる。優斗も続く。


「おー」


 しろも小さく頷いた。


「はい」


 四人の前に、夏休みの宿題が並ぶ。蝉の声が聞こえる。窓の外には、青い空。そして机の上には、大量の問題集。


「……」


 ひまりが問題集を開き、最初の一問目を見る。


「湊」


「何?」


「これ、どういう意味?」


「まだ一問目だぞ」


「だから聞いてるの」


「まず自分で考えろ」


「じゃあ二問目」


「早い!」


 夏休みの宿題との戦いが、今、始まった



 宿題を始めてから、およそ三十分。三人は一応、真面目に机へ向かっていた。……最初の三十分だけは。


「…………」


 湊は黙々と数学の問題を解いている。隣では優斗も、教科書をめくりながら問題を進めていた。しろはというと、自分の宿題など当然のように持っていないので、湊たちが分からないところを聞かれたときのために参考書を眺めている。そして、問題のひまりはというと。


「……」


 ひまりだけが、完全に止まっていた。


「ひまり」


「なに?」


「ペン止まってるぞ」


「考えてる」


「十分くらい同じ問題見てるけど」


「すごく難しい問題なんだよ」


「三十分前からずっと一問目だぞ」


「……」


 ひまりは問題集を閉じた。


「休憩!」


「早い!」


「だって疲れたんだもん!」


「まだ三十分だぞ!」


「三十分もやった!」


「普通は三十分くらいじゃ疲れないんだよ」


「湊が真面目すぎるの!」


 ひまりが頬杖をつく。


「海ではあんなに遊んだのに」


「それとこれとは別だろ」


「同じ夏休みなのに」


「だからこそ宿題もやらないと」


「人生って厳しいね」


「急に人生を語るな」


 優斗が問題集から顔を上げた。


「でも正直、ひまりの気持ちも分かる」


「優斗ぉ!」


「海から帰って二日で宿題は、ちょっと現実に戻された感じするよな」


「そうそう!」


「お前まで乗っかるな」


 湊は呆れながらも笑った。


「とにかく、今日中に数学終わらせるぞ」


「え」


「終わったら休憩な」


「本当?」


「本当」


「じゃあやる!」


 ひまりが急にペンを握る。


「現金なやつめ……」


 そこからしばらくは、四人とも静かに問題を解いた。窓の外からは蝉の声。机の上には、海へ行ったときに撮った写真が置かれている。砂浜で笑っているひまり。波から逃げる優斗。少し離れたところで海を眺めるしろ。そして、自分。湊は一瞬だけ写真へ目を向けた。たった二日前のことなのに、ずいぶん昔のように感じる。


「……」


 海での二日間。父親の話、母親の話、そして、しろのこと。いろいろなことがあった。


「湊?」


「ん?」


 優斗がこちらを見ていた。


「どうした?」


「いや、ぼーっとしてたから」


「……ちょっと海のこと思い出してた」


「ああ」


 優斗も写真を見る。


「楽しかったな」


「うん」


「また行きたい」


「俺も」


 すると。


「二人とも!」


 ひまりが割り込んできた。


「海の話してるなら私も混ぜて!」


「宿題は?」


「やってるよ!」


「問題集、逆さまだぞ」


「……」


 ひまりがそっと問題集を回転させる。


「やってるよ?」


「やってないだろ」


「細かいことは気にしない!」


「細かくない」


 しろがその様子を見て、くすりと笑った。


「皆さま、本当に仲がよろしいですね」


「まあ、腐れ縁みたいなもんですかね」


 湊が答える。


「腐れ縁じゃない!」


 ひまりが抗議する。


「じゃあ何?」


「もちろん、親友!」


「自分で言う?」


「言う!」


 優斗が笑う。


「じゃあ俺も親友?」


「もちろん!」


 湊は少し照れくさそうに笑った。


「……だそうです、しろさん」


「やった!」


 ひまりが嬉しそうに笑う。そんな三人を見ながら、しろも微笑んでいた。そして。


「では、皆さま」


 しろが机の上のお菓子を指差す。


「休憩にしましょうか」


「やったー!」


 ひまりが即座に手を伸ばす。


「まだ数学終わってないだろ!」


「休憩!」


「さっきからそればっかりじゃん!」


「宿題より大事!」


「大事じゃない!」


 夏の昼下がり、宿題は思ったようには進まない。それでも。海の余韻を引きずりながら、四人で机を囲む時間は、なんだかんだ悪くなかった。――ただし、夏休みの宿題がまだ半分以上残っていることを除けば。



 午後三時。宿題を始めてから、二時間ほど経った。


「……さすがに疲れたぁ」


 湊がペンを置く。


「宿題に対する拒絶反応出そう」


 優斗も机に突っ伏した。ひまりはというと、すでに椅子にもたれかかっている。


「もう無理……」


「お前さっきから何回目だよ」


「だってェ、しょうがないじゃないかァ」


「まだ夏休み始まったばっかりだぞ」


「だからって楽しい夏休みの時間を宿題に使うのはどうなの?」


「宿題も夏休みのイベントの一つ。 海行ったり、お祭り行ったりするのと一緒」


「それは違う!」


 即答だった。しろがくすっと笑う。


「少し休憩されますか?」


「賛成!」


 ひまりが勢いよく手を上げる。三人は一度ペンを置き、机の上のお菓子をつまんだ。


「さっきも言ってたけど、やっぱり海楽しかったなぁ」


 ひまりが言う。


「また行きたい」


「再来年な」


「今年もう一回!」


「行くなら宿題終わってから、な」


「……」


 ひまりの顔が曇る。


「その話は今しない」


「現実から逃げるな」


「湊真面目すぎ~」


 優斗が笑う。


「でも作者も大変だよな」


「何が?」


「海の次に宿題回って」


「……」


 湊が妙な顔をする。


「それは言うなよ」


「だって作者、俺たちに遊ばせた直後に宿題やらせてるじゃん」


「確かに」


 ひまりまで頷く。


「夏休みネタなくなったんじゃない?」


「おい」


 しろまで小さく笑った。


「まあ、夏休みはまだ始まったばかりですから」


「そうだぞ」


 湊も笑う。


「これから何があるかは、作者次第ってことで」


「私、いっぱい遊びたい!」


「宿題終わったらな」


「……もういいって」


 ひまりのぼやきを聞きながら、二人は再び机に向かった。

 

 夏休みはまだ長い。そしてその分、宿題も、まだまだ長い。

三十三話でした。今回は夏休みの宿題回でした。海であれだけ遊んだ直後に宿題。青春とは、遊びと現実の繰り返しなのです。そして今回はちょっとだけ、キャラクターたちに作者をいじらせてみました。「海の次が宿題って、作者ネタ切れたんじゃない?」……違います。これは「あえて」です。「あえて」宿題をやらせています。本当です。なんだかんだで、まだ夏休みは意外と始まったばかり。宿題も残っている。遊ぶ予定も残っている。そして作者には、まだ考えなければならない話が大量に残っている。果たして湊たちは無事に宿題を終わらせられるのか。そして作者は無事に夏休み編を完走できるのか。感想、ブックマーク等よろしくお願いいたします。次回、第三十四話もお楽しみに。

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