↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
PR
35/41

第三十二話 今日の海は、もっと騒がしい

第三十二話です。海旅行二日目。海を満喫する湊たちは、ちょっとした出来事に遭遇します。しろが男性二人組に声をかけられているのを見つけた湊と優斗。果たして二人はどうするのか。そして、湊の口からまさかの一言が――。楽しかった二日間の締めくくりです。それでは、どうぞ。


 翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日が、湊の顔を直撃していた。


「……暑い」


 目を開ける。昨日あれだけ遊んだというのに、朝は容赦なくやってくる。窓の外からは、波の音。そして鳥の声。都会の朝とは違う、静かな夏の朝だった。


「……海か」


 湊はぼんやり呟いてから、昨夜のことを思い出した。父親。母親。しろから聞いた話。真剣に聞くひまりに、寝ぼけた優斗。


「……なんなんだ、あいつ」


 思わず笑う。少し重かった気持ちも、朝になればいくらか軽くなっていた。支度を済ませてリビングへ向かう。


「おはようございます、ご主人」


「おはようございます、しろさん」


 しろはすでに起きていた。昨日と同じく私服姿だが、今日は髪を少しまとめている。


「昨晩はあのような話をしましたが、眠れましたか?」


「まあまあです」


「それは何よりです」


 そこへ、


「おはよー!」


 ひまりが勢いよく入ってきた。


「朝から元気だな」


「だって今日は海二日目!」


「昨日も似たようなこと言ってなかった?」


「昨日は一日目!」


「威張るなよ」


 最後に、優斗が眠そうな顔で現れる。


「……おはよう」


「お前、まだ寝てるだろそれ」


「起きてる」


「目が半分も開いてないぞ」


「開いてるから起きてる」


 昨日の夜のことを、優斗はほとんど覚えていないらしい。


「朝飯はどうするんだ?」


 優斗が尋ねる。


「近くにカフェがあるらしいよ!」


 と、ひまり。


「それなら行きましょうか」


 しろが答える。


「車で?」


「はい」


「また注目されるんじゃ……」


 湊が呟いた。


「気にしない!」


 ひまりが即答した。そして数十分後。昨日と同じスポーツカーが、海沿いの道を走っていた。朝の海は、昨日とはまた違った顔をしている。山側から昇った太陽が、海面をきらきらと照らしている。窓を少し開ければ、潮の香りが車内まで入ってくる。


「朝の海って、なんかいいな」


 湊が呟く。


「そうですね」


 しろも前を見たまま答える。やがて海沿いの小さなカフェに到着した。店の前に車を停めると、


「……」


「……」


「……」


 昨日と同じ現象が起きた。


「……また見られてる」


 湊が小声で言う。


「まあ、あの車だからな」


 優斗が苦笑い。そこへしろが降り、ひまりも降りる。スポーツカーから出てきた四人組は、海沿いの朝ということもあって、妙に絵になってしまう。


「……なんか恥ずかしいな」


「今さら?」


 ひまりが笑う。


「昨日もそうだっただろ」


「昨日は海に夢中だったからさ」


 四人は店内へ入った。窓際の席からは海が見える。モーニングのセットを注文すると、ひまりは窓の外を眺めながら言った。


「今日もいっぱい遊ぼうね!」


「また同じこと言って……」


 朝食を終え、別荘へ戻る。そして――。


「じゃあ、着替えて海行こ!」


 ひまりが部屋へ駆けていった。


「俺は昨日と同じ格好でいいかな」


 湊はそう言って着替えに向かった。しばらくして、


「お待たせー!」


「おう」


 湊が振り返る。


「……」


 止まった。ひまりは昨日と違って、今日はちゃんと水着に着替えている。


「昨日は着替えるの面倒だったから、そのままだったけど!」


 本人は何でもない様子。


「今日は本気で遊ぶ!」


「……そっか」


 湊は視線を逸らした。


「湊、どうしたの?」


「いや、何でもない」


 そこへ優斗もやってくる。


「……」


 優斗も固まった。


「優斗?」


「……いや」


 明らかに動揺している。


「大丈夫?」


「大丈夫」


「顔赤いけど」


「暑いだけ」


「ここ室内だよ?」


「海だから暑いんだよ」


「意味分かんない」


 さらに、続いてしろが出てくる。


「お待たせしました」


 こちらも昨日は私服のまま海に入ったため、水着には着替えていなかった。今日は動きやすそうな水着に着替えている。


「……」


 湊と優斗が同時に固まった。


「「……」」


 ひまりが二人を見る。


「二人とも大丈夫?」


「まあ」


 湊は慌てて顔を背ける。


「ダイジョウブ」


「オレモ」


 優斗も同じように視線を逸らした。


「?」


 しろは不思議そうに首を傾げる。


「何かおかしかったでしょうか?」


「「何でもないです!」」


 二人の声が見事に重なった。


「……そうですか?」


 しろは首を傾げたまま。何かに気づいたひまりは、二人を見てニヤニヤしている。


「男子って面白いね」


「ひまり、何か言ったか?」


「何も言ってませーん」


「絶対なんか思ってるだろ」


「思ってないよ?」


 そんなやり取りをしながら、四人は再び海へ向かった。昨日より強い日差し。青い空に、きらめく海。


「よーし!」


 ひまりが砂浜へ駆け出す。


「今日は昨日以上に遊ぶよ!」


「昨日以上って……」


 湊の顔に苦笑いが浮かぶ。


「まあ、いいか」


 夏休み二日目。海編は、まだ始まったばかりだった。


 

 午前十一時を少し回った頃。海はすっかり賑やかになっていた。太陽は高く昇り、朝よりも強い日差しが砂浜を照らしている。波打ち際では子どもたちが走り回り、少し離れたところでは若者たちが浮き輪を抱えて海へ飛び込んでいく。そんな中で。


「湊、見てろよ!」


「何する気だよ」


「この波をギリギリまで避ける!」


「昨日もやってただろ」


「昨日の俺とは違う!」


 優斗が波打ち際へ駆けていく。大きめの波が迫ってくる。


「今だ!」


 優斗が走る。


「うおおおお!」


「お前、何やってんだよ!」


 湊も笑いながら追いかけた。しかし、次の瞬間。


 ザバァッ!


「うわっ!」


「はははは!」


 波の反撃にあい、優斗の足元が思い切り濡れた。


「お前、全然避けられてないじゃん!」


「今のは練習だから! もう一回!」


「やめとけって!」


 二人で砂浜を走り回る。高校二年生にもなって、やっていることは小学生と大差ない。ひまりなら絶対に混ざってくるだろうが、今は少し離れた場所で飲み物を買っている。


「……平和だな」


 湊が笑いながら呟いた、そのときだった。


「……ん?」


 優斗が足を止めた。


「どうした?」


「いや、向こう」


 優斗が海の家の近くを指差す。そこには、しろがいる。そして、その前にそこそこガタイのいい男性が二人。


「……」


「……」


 二人とも、少し黙った。距離があるため会話までは聞こえない。ただ、男性の一人がしろに話しかけ、もう一人も横から何か話しているように見える。しろは困ったように首を横に振っている。


「……あれ、ナンパじゃない?」


 優斗が言った。


「たぶん」


「どうする?」


「……」


 湊は迷った。相手は二人、こちらも二人。ただ、相手のほうが年上だろう。しかも、向こうがしつこく声をかけているのか、それとも普通に話しているだけなのかも分からない。


「……もうちょっと様子見る?」


 優斗が言う。湊も一瞬そうしようと思ったが、昨夜のことが頭をよぎった。


 父親。

 母親。

 危険な場所へ向かう二人。


 そして、しろ。


 湊は立ち上がった。


「いや、行こう」


「え?」


「しろさん、困ってるっぽい」


「でも……」


 優斗が少し不安そうに相手を見る。


「……正直、俺はちょっと怖い」


「俺も怖いよ」


「じゃあ――」


「でも行く」


 湊は砂を払って歩き出した。


「わかった、待て」


 優斗が慌てて追いかける。


「俺も行く!」


「いいのか?」


「一人で行かせるほうが怖いだろ!」


 二人は小走りで近づいていく。


「しろさん!」


 湊が声をかける。しろが振り返った。


「……ご主人?」


 その瞬間、男性二人も湊たちを見る。


「知り合い?」


 一人が尋ねる。


「はい」


 しろが答える。


「一緒に来てるんです」


「そうなんだ」


 男性は笑った。


「いや、さっきから一人でいるように見えたからさ。 よかったら彼らも一緒に――」


「彼女です」


「……え?」


 いつの間にかやってきた湊の言葉に、全員が止まる。湊自身も、言ってから固まった。


 (しまった)


 とっさに出た言葉だ。しかし、もう遅い。


「俺の彼女です」


 湊は言い切った。ちらりと隣の優斗を見る。優斗も一瞬目を丸くしたが、すぐに湊の意図を察した。


「あぁ、そうそう!」


 優斗が勢いよく話を合わせる。


「俺たち、友達なんですけど、こいつ彼女と来てるんですよ!」


「俺を差し置いて、ね! ほら、ひどいですよねコイツ~」


 湊は心の中で優斗に感謝した。しろは完全に状況についていけていない顔をしている。


「なんだ、そういうことだったんだ」


 男性の一人が苦笑する。


「ごめんね。 彼氏さんいるって知らなくて」


「いえ」


「じゃあ、俺たち行くわ」


 もう一人も軽く手を上げる。


「楽しんでね」


「ありがとうございます」


 二人はそのまま、海の家の方へ歩いていった。湊たちも、その背中を見送る。


「……」


「……」


「……」


 しばらく三人の間に流れる沈黙。


「……意外と普通の人たちだったな」


 優斗が言った。


「うん」


 湊も頷く。


「最初からそうだったのかもしれない」


「でも、しろさん困ってたし、止めに行ったのは正解だと思う」


「……そうだな」


 湊はしろを見る。


「すみません、しろさん。 勝手に彼氏とか言って」


「いえ」


 しろはまだ驚いた表情のまま固まっていた。


「助けていただいて、ありがとうございました」


「いや、それは……」


 湊は照れくさそうに頭を掻く。


「困ってるように見えたましたから」


 しろは微笑んだ。


「ありがとうございます」


 その横で、優斗が湊の肩を叩く。


「しかし湊」


「何?」


「お前、よくあそこで『彼女です』って言えたな」


「……自分でもびっくりしてる」


「俺なんて、何て言えばいいか分かんなかったし」


「でも話合わせてくれただろ」


「まあな」


 二人で顔を見合わせる。


「……俺たち、結構いいコンビじゃない?」


「今さらかよ」


 二人は笑った。少し離れたところで、しろが首を傾げる。


「……彼氏」


「しろさん?」


「いえ。 何でもありません」


 その表情は、いつもと変わらない穏やかなものだった。ただ、湊だけが。自分の口から出た「彼女」という言葉がつっかかっていた。



 その後は、何事もなかったかのように海へ戻った。……と言いたいところだったが。


「湊」


「何?」


「さっきの『彼女です』ってやつ」


「忘れろ」


「いや、別にいいけど」


 優斗がニヤニヤする。


「結構堂々と言ってたな」


「だから忘れろって」


「顔真っ赤じゃん」


「暑いんだよ!」


「海だから?」


「そうだよ!」


「俺と同じこと言ってるぞ」


「うるさい!」


 そんな二人のやり取りを聞いて、ひまりが笑う。


「『彼女』って何の話?」


「何でもない」


「怪しいね~。 名探偵ひまり様の勘が怪しいと言っている。」


「本当に何でもないってば」


「ふーん?」


 ひまりは納得していない顔をしながらも、それ以上は聞かなかった。しろはというと、いつも通り穏やかな顔で波打ち際に立っている。


「しろさん、入らないんですか?」


「少し休憩しております」


「疲れてません?」


「昨日は少し張り切りすぎましたので」


「しろさんでも疲れるんだ」


「私も人間ですので」


「知ってます」


 そんな会話をしながら、四人は再び海で遊んだ。浮き輪を使って波に揺られたり、砂浜で簡単な砂の城を作ったり。ひまりが作った砂の城を湊がうっかり踏み潰してしまい、ひまりに追いかけ回されたり。


「湊ー!」


「わざとじゃない!」


「絶対わざと!」


「本当に違うって!」


「待てー!」


「追いかけてくんなー!」


 昼を過ぎても、四人の騒がしさは変わらなかった。しかし、夕方が近づくにつれて、少しずつ帰る時間が近づいてくる。海面が夕日に染まり始めた頃。


「……そろそろ帰ろうか」


 湊が言った。


「えー、もう?」


 ひまりが残念そうな声を出す。


「二日間ずっと海にいたんだから、十分だろ」


「まだいける!」


「俺はもー無理」


 優斗が砂浜に座り込む。


「俺も限界。かな


「優斗、私より体力ないじゃん」


「海にいればスタミナ無限のお嬢様とはわけが違うんです!」


 しろも荷物をまとめる。


「では、着替えて戻りましょうか」


「はい」


 更衣を済ませ、四人は別荘へ戻った。荷物をまとめる。昨日までなら「旅行」という実感もあまりなかった。ただ海へ来て、遊んで、泊まった。それだけだった。


 けれど。


 湊にとって、この二日間は少し違っていた。


 父親のこと。

 母親のこと。

 そして、自分が今まで知らなかった家族のこと。


 帰りの車に乗り込む前、湊は一度だけ別荘を振り返った。


「……また来たいな」


「来ようよ!」


 ひまりが即答する。


「来年受験だぞ」


「来年と言わず、冬でも!」


「冬に海?」


「冬の海!」


「寒いだろ」


「それはそう」


 優斗が笑う。


「じゃあ再来年だな」


「うん」


 しろも小さく頷いた。


「また皆さまで来られるとよいですね」


「……はい」


 そして、しろが運転席へ乗り込む。エンジンが低く唸りを上げる。夕暮れの海岸を、スポーツカーがゆっくりと走り出す。窓の外では、太陽が水平線へ沈みかけていた。行きの道では、これから始まる海への期待でいっぱいだった。帰りの道では、二日間の思い出が少しずつ過去になっていく。


「……楽しかったな」


 湊が呟く。


「うん」


 優斗が答える。


「また来ようね!」


 ひまりが笑う。


「はいはい」


 湊も車外の景色を眺めたまま答えた。車内に、穏やかな空気が流れる。やがて海岸線が遠ざかり、夕暮れの街並みへと景色が変わっていく。湊は窓の外を眺めながら、父のことを、母のことを想う。

 

 いつか、父がまた日本へ帰ってきたら、この車のことを聞いてみよう。

 そして、母にも、自分が知らなかった二人の話をもっと聞いてみよう。


 そんなことを考えた。夏休みの海旅行は、終わってしまったけれど。湊の中では、ここから新しい何かが始まろうとしていた。

三十二話でした。今回は、海編の締め回でした。二日間にわたって海で遊び、別荘に泊まり、湊の家族について少し踏み込んだ話をして、最後はいつもの四人に戻る。振り返ってみると、結構いろんなことが起きた海旅行でしたね。そして今回、個人的に印象に残ったのが湊がしろをナンパから助ける場面。最初はちょっと迷うんですよね。「行ったほうがいいのか……でも怖いな……」と。そりゃ高校生ですから。知らない年上の男性二人組に向かっていくのは普通に勇気がいります(作者の中では彼らは大学生くらい)。ところが、湊は結局、「彼女です」で押し切る。……いや、そこまで言えとは誰も言ってねぇよ。作者も書きながら、「お前、もうちょっと別の言い方あっただろ」と思いました。しかも優斗まで、とっさに話を合わせてくれる。なんだかんだ、この二人はいいコンビです。ちなみにナンパしていた二人も、別に悪人ではありません。しろが一人でいるように見えたので声をかけただけ。だからこそ、湊がちょっと勇気を出して間に入ることで、変に大事件にせず終わらせられました。そして海編もこれで一区切り。海へ行って、遊んで、泊まって、家族の話をして、ナンパを撃退して……。青春してるとこ悪いけど、次回からは一転。海という青春の象徴から、「夏休みの宿題という現実の象徴」へ。人間、遊んだら働かなければならない。学生もそれに同じ。さあ湊たち、海より強敵かもしれないぞ。感想、ブックマーク等よろしくお願いいたします。次回、第三十三話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。