↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
PR
32/39

第二十九話 ただそれだけ

第二十九話です。夏休み、始まりました!……と言っても、まだ二日目です。なのにひまりはもう遊ぶ気満々。湊と優斗を巻き込み、さらにはしろまで連れて、さっそく夏休みのお出かけが始まります。四人の何気ない夏休みの一日を、どうぞ。

 夏休み二日目。朝から蝉がうるさい。窓の外では、太陽が「今日も暑くいこうぜ!」とでも言わんばかりに輝いている。湊は自室の机に向かっていた。


「……」


 机の上には、昨日持ち帰った夏休みの課題が積まれている。まだ一ページも進んでいない。正確には、昨日の夜に数学を三問だけ解いた。そして眠くなった。つまり、ほぼ何もしていない。


「……まあ、まだ二日目だし」


 誰に言い訳するでもなく呟いたそのとき、スマホが震えた。


『起きてる?』


 ひまりだった。


『起きてる』


『よかった!』


『何?』


『今日遊ぼう!』


 湊は画面を見つめた。


「……早いな」


 昨日、夏休みの予定を考えようと言っていた。しかし、まさか翌日には決まっているとは思わなかった。


『どこ行くの?』


 返信すると、すぐにメッセージが返ってくる。


『駅前!』


『ざっくりしすぎだろ』


『細かいことは会ってから決める!』


『それ予定って言わないぞ』


『じゃあ集合は十時!』


「……人の話聞く気ないな」


 湊は苦笑した。すると、別の通知が届いた。


『俺も行くことになった』


 優斗だった。


『お前も誘われたのか』


『まあ断る理由もないし』


『じゃあ三人?』


『たぶん』


 たぶん。なんとも頼りない。湊はスマホを置き、時計を見る。まだ八時半。


「……十時か」


 出かける準備をするため、立ち上がる。すると、廊下から声がした。


「失礼します」


 扉を丁寧な所作で開けて入ってくる。


「ご主人、お出かけですか?」


 しろだった。


「はい。 今日、ひまりたちと出かけることになりまして」


「そうでしたか」


「駅前で遊ぶみたいです」


 しろは少し考えるように首を傾げた。


「それは楽しそうですね」


「はい」


「では、お気をつけて」


「ありがとうございます」


 湊は机に向き直ろうとした。しかし。


「……」


 ふと動きを止める。


「しろさん」


「はい?」


「……一緒に来ませんか?」


 しろが目を瞬かせた。


「私も、ですか?」


「はい」


「ですが、私は……」


「ひまりたちもたぶん大丈夫って言うと思いますよ」


 湊は少し笑った。


「それに、せっかくの夏休みですし」


「……」


 しろはしばらく考えたあと、


「では、お言葉に甘えて」


 と頷いた。


「よかった」


 湊も笑う。そして十時、駅前。


「遅い!」


 開口一番、ひまりが言った。


「集合時間ぴったりだろ」


「私は十五分前に来てた!」


「知らないよ」


 その隣には優斗が立っている。


「おはよう」


「おはよう」


 湊が手を上げる。


「……って」


 優斗の視線が湊の後ろへ移る。


「しろさんも来たんだ」


「はい。 お邪魔いたします」


「いやいや!」


 ひまりが嬉しそうに駆け寄る。


「しろさん来てくれたの!?」


「ひまりさまにお誘いいただいたわけではありませんが、ご主人に誘っていただきましたので」


「湊ナイス!」


「なんで俺が褒められるんだよ」


 ひまりはしろの手を取る。


「じゃあ今日は四人で遊ぼ!」


「はい」


「何する?」


 ひまりが三人を見回す。


「まだ決めてない」


 湊が答える。


「え?」


「さっき言ってただろ。 『細かいことは会ってから決める』って」


「そうだった!」


「忘れてたのかよ」


 優斗が呆れたように笑う。


「でも、せっかく夏休みなんだし!」


 ひまりは駅前を見回した。夏の日差し。人通り。商業施設、ゲームセンター、映画館、カフェ。選択肢はいくらでもある。


「じゃあ――」


 ひまりが笑う。


「今日は全部行こう!」


「無理でしょ」


「即答!?」


「時間が足りない」


「じゃあ行けるところまで!」


 湊はため息をついた。けれど。不思議と嫌ではなかった。夏休みは始まったばかり。予定なんて、まだ何も決まっていない。だからこそ。今日という一日が、どこへ転がっていくのかも分からない。


「……まあ、いいか」


 湊は笑った。


「今日は全力で遊ぼう」


「やったー!」


 ひまりが両手を上げる。優斗も笑い、しろはそんな三人を眺めながら小さく微笑んだ。こうして。夏休み二日目。予定表には何も書かれていなかった一日が、始まった。



 駅前に集まった四人は、とりあえず商業施設の中へ入った。外は蝉が騒ぐほど暑かったが、建物の中は冷房が効いていて、入った瞬間に全員の表情が緩む。


「涼しい……」


 優斗が呟く。


「それな」


 湊も頷いた。汗がすっと引いていく感覚がした。


「ここから出たくない」


「まだ何もしてないよ?」


 ひまりが笑う。


「今日はどこ行く?」


「さっき全部行こうって言ってただろ」


「じゃあまず買い物!」


 ひまりは迷うことなく歩き始める。


「何買うんだ?」


「特に決めてない!」


「それ買い物じゃなくて徘徊だろ」


「いいじゃん、夏休みなんだから」


 その後ろを、しろと湊が並んで歩く。


「ひまりさまはお元気ですね」


「そうですね。 多分夏バテを知らないと思います」


 湊は少し笑った。


「昔からあんな感じなんですか?」


「文化祭の頃より、さらに元気になった気がします」


「……それ、しろさんの影響じゃないですか?」


「私の?」


「文化祭以来、ひまりとよく話してるじゃないですか」


「そうですね」


 しろは少し考える。


「ひまりさまは、とても話しやすい方ですので」


「ですよね」


「それに、いろいろ教えてくださいます」


「何を?」


「高校生の流行などを」


「……」


 湊は一瞬黙った。


「しろさん」


「はい」


「ひまりから何を教わってるんですか?」


「秘密です」


「なんで!?」


 前を歩いていたひまりが振り返る。


「何の話?」


「いや、何でもない」


「怪しいね~」


 ひまりは笑いながら、しろの隣へ戻ってくる。


「しろさん、こっち!」


「はい」


「これ見て!」


「可愛らしいですね」


「でしょ?」


 二人はそのまま店の中へ入っていく。


「……」


 湊はその背中を見送る。


「仲良くなったな」


 優斗が隣で言った。


「だよな」


「文化祭のときから?」


「たぶん」


「湊が知らない間に」


「なんか置いていかれてる気分だな」


「分かる」


 男二人で微妙な顔をする。その一方で、女子二人は楽しそうに店内を見て回っていた。


「ひまりさま、これは何でしょう?」


「スマホにつけるやつ!」


「なるほど」


「しろさん、こういうの持たないの?」


「持っていませんね」


「じゃあ買おうよ!」


「ですが……」


「記念!」


「記念ですか?」


「うん!」


 ひまりは嬉しそうに笑う。しろは少し困ったような顔をしながらも、結局その小物を手に取った。


「……では、一つだけ」


「やった!」


 少し離れたところから見ていた湊は、思わず笑った。


「しろさん、押しに弱いな」


「セールスとかに負けないかな」


 優斗も笑う。買い物を終える頃には、昼を少し過ぎていた。


「お腹空いた!」


 ひまりが言う。


「じゃあ何か食べるか」


「賛成!」


 四人は施設内のカフェへ向かった。席につくと、それぞれ飲み物と軽食を注文する。


「夏休み初日にして、もう結構遊んだな」


 湊が言う。


「まだお昼だよ?」


「……そうだった」


 ひまりが笑う。


「午後は映画見ようよ!」


「映画?」


「うん! ちょうど見たいのやってる!」


 ひまりがスマホを見せる。


「どう?」


 優斗が画面を見る。


「俺はいいよ」


「湊は?」


「俺も」


 そして、しろを見る。


「しろさんはどうですか?」


「皆さまがよろしいのでしたら」


「じゃあ決まり!」


 ひまりが嬉しそうに手を叩いた。四人で映画館へ向かう。夏休みの昼、映画館はいつもより人が多い。子どもたちの笑い声、家族連れ、友達同士。そして、自分たちもその中の一組だった。


「なんか……」


 湊が歩きながら呟く。


「本当に夏休みって感じだな」


「何それ」


 ひまりが笑う。


「分かるだろ」


「分かるけど」


 しろが隣で小さく笑った。


「楽しそうですね、ご主人」


「はい」


 湊も笑う。


「今日は、楽しいです」



 映画が終わった頃には、外はすっかり夕方になっていた。


「面白かったー!」


 映画館を出たひまりが、大きく伸びをする。


「最後、あれどういう意味だったんだろ」


 ひまりが問いかける。


「結局主人公は父親ってわかってうれしかったんじゃない? それが宿敵だったとしても」


 優斗が答える。


「え、そうなの?」


「俺はそう思ったかな」


「湊は?」


「俺は寝てたから分からない」


「寝てたの!?」


「ちょ、ちょっとだけ」


「一番ダメなやつじゃん!」


 ひまりが笑いながら湊の肩を叩く。


「だって昼飯食った後だったし」


「言い訳になってないよ!」


 そんな二人を見て、しろが小さく笑った。


「ご主人、映画館で眠ってしまうとは珍しいですね」


「……すみません」


「いえ、楽しそうでしたので」


「寝てるのが?」


「はい」


「それは楽しそうって言わないですよ」


 四人はそのまま施設を出た。夕方になっても外は暑い。それでも昼間よりは少しだけ涼しくなっていた。


「このあとどうする?」


 ひまりが聞く。


「帰る?」


 湊が答えると、


「えー」


 ひまりが露骨に不満そうな顔をした。


「まだ遊びたい」


「もう結構遊んだだろ」


「夏休み二日目だよ?」


「だから何だよ」


「もっと夏休みしたい!」


「意味が分からない」


 ひまりは少し考えてから、しろの腕に手を添えた。


「しろさんはどうしたい?」


「私ですか?」


「うん」


「私は皆さまと一緒なら、どこでも」


「ほら!」


 ひまりが湊を見る。


「しろさんもこう言ってる!」


「いや、それは『どこでもいい』って意味だろ」


「じゃあ決めて!」


「俺!?」


 湊は頭を抱えた。優斗が笑う。


「もう少し歩こうぜ」


「それならいいか」


 四人は駅とは反対方向へ歩き始めた。特に目的地はない。ただ、夕方の街を歩く。途中でコンビニに寄って、冷たい飲み物を買う。


「暑い……」


 湊がペットボトルを額に当てる。


「湊、溶けてない?」


「人間は溶けません」


「でも顔赤いよ」


「暑いんだよ」


「どうぞ、ご主人」


 しろがハンカチを差し出す。


「ありがとうございます」


 湊が受け取る。


「……」


 その様子を、ひまりがじっと見ていた。そして、ひまりはニヤッと笑う。


「仲いいなー」


「普通だろ」


「そうかな?」


「そうだよ」


 しろも特に気にした様子はない。


「ひまりさまも暑いのでしたら、こちらをどうぞ」


「え、いいの?」


「はい」


「ありがとう!」


 ひまりは嬉しそうに受け取った。


「……」


 湊はその光景を見て、少しだけ首を傾げる。やっぱり、文化祭の頃から、ひまりとしろの距離が妙に近い。自分が知らない間に、二人だけのやり取りまで増えている気がする。


「……仲いいな」


 湊がぽつりと言う。


「何が?」


 ひまりが振り返る。


「いや、何でもない」


 ひまりは笑った。しばらく歩いていると、駅が見えてきた。


「そろそろ解散か」


「うん」


 ひまりが頷く。


「今日は楽しかった!」


「俺も」


 優斗も笑う。


「夏休み初日としては上出来だな」


「二日目だけど」


「細かいこと言うなよ」


 湊も笑う。駅前で四人は別れることになった。


「じゃあ、またね!」


「またな」


「お気をつけて」


 しろが手を振る。湊も軽く手を振った。


「じゃあ帰りましょうか、しろさん」


「はい」


 二人で歩き始める。


「今日は楽しかったですね」


 しろが言った。


「はい」


「ひまりさまも、優斗さまも」


「そうですね」


 湊は夕焼けの空を見上げた。


「……夏休み、まだ始まったばかりなんですけど」


「なんか、もう一日終わっちゃいました」


「夏休みとは、そういうものなのかもしれません」


「……それ、ちょっと寂しいですね」


「では、明日も何か楽しいことをすればよろしいのでは?」


「明日も?」


「はい」


 しろは穏やかに笑った。


「まだまだ夏休みは長いですから」


「……そうですね」


 湊も笑う。夏休み二日目。特別な出来事があったわけではない。ただ、友達と出かけて、映画を見て、街を歩いて。ただそれだけ。でも、こういう何気ない一日こそあとになって思い出すのかもしれない。湊はそんなことを考えながら、しろと並んで家への道を歩いていった。


 ――夏休みは、まだ始まったばかりだった。

二十九話でした。まずは、最近更新サボっててすいませんでした。夏バテになってました。お盆休みだってのにチクショー。コウメ太夫も泣いてますね。さあ、物語は夏休み二日目。早くも遊びに行きました。……宿題?まだいいっしょ。今回のお話は、特に大きな事件が起こるわけでもなく、四人(ほぼ二人だったね)で買い物して、映画を見て、街をぶらぶらして帰るだけのお話です。でも、個人的にはこういう回が結構好きです。何か特別なことをしたわけじゃない。ただ友達と一緒に出かけて、くだらない話をして、笑って、一日が終わる。湊、主人公なのに置いてかれてますね。優斗も相変わらずしろに一目惚れ中。こっちはもう通常運転です。さて、夏休みはまだまだ始まったばかり。海、夏祭り、宿題……。湊たちは楽しい夏を過ごせるのか。作者はPVを見て泣かずに済むのか。感想、ブックマーク等よろしくお願いいたします。次回、第三十話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。