間話 シュ。 -主役じゃない二人について-
間話です。今回の主人公は優斗とひまりです。時系列的には第二十話で解散した後にあたります。
校門を出ていく大きな白い傘を見送り、優斗は肩を震わせた。
「……ダメだわ」
「まだ笑ってるの?」
ひまりが呆れたように笑う。
「だってさ、『大切に連れて帰ります』だぞ?」
「しろさん、本気だったもんね」
「湊の顔、見た?」
「耳まで真っ赤だった」
二人は顔を見合わせ、思わず吹き出した。
「本人たちは至って真面目なんだから面白いよね」
「天然って強いわ」
笑いが落ち着くと、二人も傘を差して歩き始めた。
◇
「そういえば」
ひまりがぽつりと言う。
「もうすぐ期末テストじゃんか」
「……」
優斗は死んだ魚の目をして無言で立ち止まった。
「やめて」
「現実を突きつけないでくれ」
「まだ一か月あるよ?」
「もう一か月しかない、の間違いだ」
「そんな焦るタイプだっけ?」
「焦るだけで勉強はしないタイプ」
「あはは、一番ダメじゃん」
ひまりが笑う。
「湊なら計画立てて勉強しそう」
「いや、あいつも意外とギリギリだぞ」
「そうなの?」
「課題はちゃんとやるけど、テスト前は『もっと早く始めればよかった』って毎回言ってる」
「なんか、意外」
二人はくすくす笑った。
◇
駅へ向かう商店街へ入ると、屋根を叩く雨音が少しだけ大きく聞こえた。パン屋から焼きたての香りが漂い、本屋の店先には梅雨のファッション特集の雑誌が並んでいる。
「優斗って進路決めてる?」
ひまりが何気なく尋ねる。
「ぼんやりだけど、大学かな」
「やりたいことあるの?」
「まだ探してる途中」
優斗は苦笑する。
「好きなことはあるけど、それを仕事にしたいかって言われると分かんねぇな」
「そっか」
「ひまりは?」
「私はね」
少し考えてから笑う。
「保育士とか、いいなって思ってる」
「へぇ」
「子ども好きなんだ」
「うん」
「小さい子と遊ぶの好き」
「だから文化祭の時も――」
言いかけて、ひまりは笑った。
「また文化祭の話になっちゃうね」
「まあ、それだけ印象に残ってるってことだろ」
優斗も笑う。
「でも、お前なら向いてそう」
「ほんと?」
「面倒見いいし」
「えへへ」
照れたように笑うひまりを見て、優斗も少し笑みを浮かべた。
◇
「優斗」
ひまりがスマートフォンを引っ張り出す。
「このバンド知ってる?」
「あ、それ聴く」
「ほんと?」
「新曲めっちゃ良かった」
「分かる!」
そこからは音楽の話になった。そのあとも、好きなアーティスト。最近見た映画。ゲームの新作。休日の過ごし方。二人は意外と知らなかった、お互いの私生活が見えた気がした。
気付けば駅はもう目の前だった。
「そういえば」
改札へ向かう途中、ひまりが思い出したように言う。
「湊って、前より笑うようになったよね」
優斗も足を止めずに頷いた。
「確かに」
「文化祭だけじゃなくてさ」
「最近、肩の力が抜けた感じ」
「前は何でも一人で抱え込んでたけど、」
「今は困ったらちゃんと頼るし」
優斗は少しだけ空を見上げた。
「クラスのみんなのおかげもあるだろうし、しろさんの存在もデカいんだろうな」
ひまりは静かに微笑む。
「本人は気付いてなさそうだけど」
「百パー気付いてない」
「だよね」
二人は笑い合う。
「まあ」
優斗が肩をすくめる。
「今はあのままでいいんじゃね?」
「うん」
「見てる側も結構面白いし」
「ふふっ、それは否定できない」
ホームに電車がぬるい空気をまとって滑り込んできた。雨音に混じって、到着を知らせるアナウンスが流れる。二人は並んで電車へ乗り込む。窓の外では、六月の雨が静かに街を濡らしていた。それぞれの日常は、今日も少しずつ前へ進んでいく。
間話でした。優斗とひまり、なんだか夫婦漫才みたいですね。あ、伏線じゃありませんよ。この二人は、こんな空気感でいいんです。湊としろを見守って、時々自分たちの話をして。そんな青春もいいと思います。これからも二人の話を書くかもしれません。次は結衣ちゃんかも。次回、第二十八話もお楽しみに。




