表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
PR
24/36

第二十三話 お勉強しましょ

第二十三話です。梅雨明けから数日。季節はすっかり夏へと移り変わり、テスト本番も近づいてくる。そんな三人のテスト勉強のお話。

 梅雨が明けて数日。青嶺高校にも、すっかり夏の空気が流れ始めていた。朝から蝉の鳴き声が校庭に響き、教室の窓はすべて開け放たれている。時折吹き込む風は生ぬるいものの、じめじめとした梅雨の頃よりは幾分過ごしやすかった。


 ホームルーム。


「えー、それじゃあ連絡事項な」


 担任が出席簿を閉じると、教室をぐるりと見回した。


「週明けから期末テストだ」


 一瞬、教室が静まり返る。そして次の瞬間――。


「ひゃぁぁぁ……」


「あー、終わった」


「まだ始まってないって」


 あちこちから悲鳴が上がった。湊も思わず苦笑する。毎回のこととはいえ、この反応だけは変わらない。


「範囲表はもう配ってあるからな。 計画的に勉強しろよ」


「先生ぇ……」


 誰かが情けない声を上げる。


「泣き言を言っても範囲は減らん」


 教室が笑いに包まれた。その笑いが落ち着いた頃、優斗がゆっくりと湊の方へ顔を向ける。


「……湊」


「なに」


「助けて」


「嫌だ」


「即答!?」


「まだ何も聞いてないけど、勉強教えてって話だろ」


「なんで分かった!?」


「顔に書いてある」


 優斗は机に突っ伏した。


「だって数学分かんねぇし、英語も分かんねぇし、古文なんて日本語なのに読めねぇし……」


「それ、ほとんど全部じゃん」


 隣で聞いていたひまりが吹き出す。


「優斗、授業ちゃんと聞いてた?」


「聞いてた!」


「寝てたでしょ」


「……少し」


「正直だね」


「でも聞いてたんだって!」


「寝ながら?」


「……」


「図星か」


 教室中からくすくすと笑い声が漏れる。優斗は観念したようにため息をついた。


「なあ湊、本気で頼む。 今回は本気なんだ」


「毎回本気って言ってるよね」


「でも今回はいつもの二倍本気!」


「信用できないな~」


「頼むって!」


 両手を合わせて頭を下げる優斗に、湊は呆れたように息を吐いた。


「……今日の放課後ならいいよ」


「ほんとか!?」


「ただし、三時間だけ」


「十分!」


「あとゲーム禁止」


「持っていかない!」


「スマホも最低限」


「……それは」


「やっぱり没収で」


「厳しい!」


 また教室が笑いに包まれる。すると、ひまりが机に肘をつきながら口を開いた。


「じゃあ、私も混ざろうかな」


「ひまりも?」


「うん。一人でやるより、みんなで勉強した方が集中できそうだし」


「確かに」


 湊は頷く。優斗はというと、


「よし! 三人なら百人力!」


「いや、勉強する人数が増えるだけだから」


「気持ちの問題!」


 そう言って拳を握る。


 ……本当に大丈夫だろうか。


 そんな不安を抱きつつも、湊はどこか楽しみでもあった。友達と机を囲んで勉強する。それもまた、高校生活らしい時間なのかもしれない。窓の外では、真夏を思わせる青空がどこまでも広がっていた。来週はいよいよ期末テスト。夏休みまで、あと少しだった。



 放課後。終礼が終わると同時に、教室は帰宅する生徒たちで賑わい始める。


「じゃ、図書室行くか」


 湊が鞄から教科書を取り出しながら言う。


「おう!」


「私はノート持ってくるね」


 ひまりが自分の席へ戻っていく。数分後。三人は校舎三階にある図書室へやって来ていた。なかなかに大きく、冷房の効いた室内は静かで、ページをめくる音だけが小さく響いている。


「ここなら集中できそうだな」


「寝れそう」


「寝るな」


「冗談だって」


 優斗は笑いながら席へ座った。向かいには湊、隣にはひまり。三人で机を囲む。


「じゃあ、まず何からやる?」


 湊が範囲表を広げる。


「数学」


 優斗は即答だった。


「そこだけは迷わないんだな」


「だって一番やばいし」


「どれくらい?」


「公式がもう分からん」


「そこから?」


「うん」


 湊は思わず額に手を当てた。


「ひとまず、この一次関数からだな」


「……」


「聞いてる?」


「聞いてる」


「じゃあ、傾きって何?」


「……坂?」


「間違ってはない」


「正解?」


「半分くらい」


 ひまりがくすくす笑う。


「優斗らしい答え」


「だろ?」


「褒めてないよ」


 優斗は首をかしげた。


「じゃあ、ちゃんと説明するな」


 湊はノートへ直線を書きながら、一つずつ説明していく。


「ここがこうなるから、傾きはこの数字になる」


「ほうほう」


「で、この式に代入すると……」


「あっ」


「分かった?」


「なんとなく!」


「なんとなくじゃ困る」


「七割くらい!」


「あと三割は?」


 そんなやり取りを繰り返しているうちに、優斗も少しずつ問題を解けるようになっていく。


「おっ」


 優斗が目を丸くした。


「解けた!」


「本当だ」


 湊が答案を見る。計算も答えも合っていた。


「やるじゃん」


「やればできる男だからな!」


「やるまでが長いけど」


「そこは言わないお約束だろ」


 ひまりが笑いながら自分の問題集を閉じる。


「じゃあ次、英語やろうかな」


「ひまり、分かんないところある?」


「この長文」


 問題集を湊へ向ける。


「ここの訳がいまいちで」


「ここは『because』があるから――」


 説明を始めると、ひまりは何度も頷きながらメモを取っていく。


「なるほど」


「分かった?」


「うん、すっきりした。 さすがは湊先生」


 優斗が茶化すように言う。


「先生じゃないって」


「でも教えるの上手いよな」


「そうそう」


 ひまりも頷く。


「授業より分かりやすい」


「それ先生に聞かれたら怒られるぞ」


 三人は声を抑えながら笑った。気付けば、二時間半近く経っていた。


「……あれ」


 優斗が時計を見る。


「もうこんな時間?」


「集中してたからな」


「意外とあっという間だった」


 ひまりは伸びをする。


「ねえ、せっかくだし帰りにコンビニ寄らない?」


「賛成!」


 優斗が真っ先に手を挙げる。


「アイス食べたい!」


「さっきまで勉強本気出すって言ってた人とは思えない発言」


「頭使ったら糖分補給!」


「都合のいい理屈だな」


 それでも、湊は笑って立ち上がった。


「じゃあ少しだけ寄って帰るか」


「やった!」


 図書室を出る三人の足取りは、来た時よりもずっと軽かった。期末テストはまだ終わっていない。それでも、友達と机を囲んで過ごした放課後は、不思議と苦ではなかった。夏休みまで、あと少し。そんな期待が、三人の背中をそっと押していた。



 三人で図書室を出ると、西日に照らされた廊下が橙色に染まっていた。


「結構やったなぁ」


 優斗が大きく伸びをする。


「お前、途中からちゃんと集中してたじゃん」


「だろ?」


 胸を張る優斗に、ひまりが半眼を向ける。


「途中まではね」


「そこは言わなくていいんだよ」


 三人は笑いながら昇降口へ向かった。外へ出ると、夕方になっても熱気は衰えず、むしろアスファルトからむっとした暑さが立ち上っていた。


「アイス、アイス」


「子どもか」


「子どもじゃありません、高校二年生です」


「言ってることは子どもだけど」


「ひまり、ひどい」


 駅前のコンビニへ入り、それぞれアイスを選ぶ。優斗はチョコモナカ。ひまりは白くまアイス。湊は氷菓子を手に取った。


「湊って、昔からそれ好きだよね。」


「そうだっけ?」


「去年も一昨年も見た気がする」


「覚えてるんだ」


「毎年同じこと繰り返してるってワケ」


 ひまりは笑いながらアイスの蓋を開ける。三人でコンビニの前に並び、しばらく他愛もない話をしたテストのこと。夏休みのこと。今年は何をしようかということ。そんな何気ない時間が、どこか心地よかった。



 それから数日。放課後になると、三人は自然と図書室へ集まるようになっていた。数学を教えては、優斗が頭を抱え。英語ではひまりが単語帳をめくり。社会になると、今度は湊まで年号を思い出せず苦戦する。


「ほら、あれだよ」


「何?」


「えっと……」


「説明できてないじゃん」


「分かってるんだけど名前が出てこない」


「あるある」


 三人で顔を見合わせ、思わず吹き出した。勉強ばかりでは疲れてしまうからと、途中で購買のパンを食べたり、自動販売機のジュースで一息ついたり。時には集中できず、十分ほど雑談ばかりしてしまう日もあった。それでも、不思議と勉強は進んでいった。



「じゃあ、また明日」


「おう」


「帰ってもちゃんと復習しろよ」


 湊が言うと、


「あたぼうよ」


 優斗は力強く頷く。しかし、その目は泳いでいた。


「……ゲームする気だろ」


「三十分だけ」


「一時間だろ」


「三十分!」


「その言い方は一時間だな」


「なんで分かるんだよ!」


 ひまりが笑いをこらえながら言う。


「優斗分かりやすすぎ」


「もう信用ゼロじゃん……」


「普段の行いがちょっと」


「反論できねぇ……」


 夕焼けに染まる駅前へ笑い声が響いた。



 そして――。あっという間に、一週間が過ぎた。教室の黒板には大きく書かれていた。


**『期末テスト 一日目』**


「……来ちゃったな」


 優斗が嘆く。


「結局、緊張するんだよな」


「ここまで来たらやるしかないだろ」


 湊は筆箱の中身を確認しながら答えた。


 シャープペンシル。


 消しゴム。


 定規。


 忘れ物はない。ひまりも深呼吸をひとつして席へ着く。


「なんか、勉強したのに不安」


「それはみんな同じ」


「湊でも?」


「もちろん」


「少し安心した」


 そんな会話を交わしていると、教室の扉が開く。


「席着けー」


 試験監督の先生が問題用紙を抱えて入ってきた。さっきまで賑やかだった教室が、一瞬で静まり返る。問題用紙が前の席から順番に配られていく。机の上に裏返しで置かれた一枚の紙。それを見つめながら、湊は静かに息を吐いた。


(よし)


 一週間、みんなで勉強した。あとは、その成果を出すだけだ。


「それでは始めます」


 先生の声が、静まり返った教室に響いた。

二十三話でした。今回は「期末テスト前」の日常回でした。文化祭が終わり、いよいよ高校生らしいイベント(?)であるテスト週間へ。勉強会を開いて、友達とわいわい問題を解く──そんな何気ない時間も青春の一ページなんじゃないかなと思いながら書いていまた。毎回「今回は本気!」と言っているやつがいますが、ああいうお調子者が一人いるだけで、場の空気が明るくなるので作者としても動かしやすいキャラクターです。一方で、湊とひまりも少しずつ自然な距離感になってきました。三人でいる時間が、これからもっと「いつもの日常」になっていけばいいなと思っています。さて、次回はいよいよ期末テスト本番!果たして三人は無事に夏休みを迎えられるのでしょうか。感想、ブックマーク等お待ちしております。次回、第二十四話もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ