間話 まあ、文化祭終わった後といえば、コレだよね
間話です。新章開幕の緩衝材にしていただければ、と。
文化祭終了から、およそ一時間後。二年C組の生徒たちは、学校近くのファミリーレストランに集まっていた。店内の一角を貸し切るような形で並べられたテーブルに、制服姿の生徒たちが次々と腰を下ろしていく。つい数時間前まで文化祭を運営していたとは思えないほど、みんな肩の力が抜けた表情をしていた。
「いやぁ~!」
「腹減った!」
「今日は食うぞ!」
「朝から動きっぱなしだったもんな!」
あちこちから笑い声が上がる。店員が料理を運んでくるたびに、「おぉ!」という歓声が起こり、誰かが「写真撮ろう!」と言い出してはスマートフォンを構える。そんな賑やかな空気の中、湊は優斗とひまりの向かいに座っていた。
「ようやく終わったね」
「いや、終わっちゃった、かな」
ひまりがオレンジジュースを持ち上げながら笑う。
「なんか、まだ実感ないけど」
「分かる」
湊も苦笑する。
「明日も学校に行ったら文化祭やってそうな気がする」
「それな!」
優斗が吹き出した。それにつられて、三人で笑い合う。その時。担任教師が席を立ち、グラスを持ち上げた。
「はいはい、静かにー」
「ヨッ、先生おいしいとこどり!」
そんなヤジもほどほどに、店内が少しずつ静かになる。
「二年C組」
「文化祭、本当にお疲れさま。」
先生は教室で見せていた笑顔とは違う、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。
「最初はどうなることかと思った」
「企画決めでも揉めたし」
「準備も予定通りには進まなかったな」
「それでも、お前たちは最後まで諦めなかった」
クラス全員が静かに耳を傾ける。
「先生は、そんなお前たちを担任として誇りに思う」
一拍置いて、
「じゃあ」
「二年C組に!」
「乾杯!」
「乾杯ー!!」
グラスが一斉にぶつかる。炭酸の弾ける音。ジュースを飲む音。そして、大きな笑い声。文化祭は終わった。でも、この瞬間だけはまだ「二年C組の文化祭」は続いているようだった。
◇
料理が運ばれ始めると、会話はさらに賑やかになった。
「湊、その唐揚げ一個ちょうだい」
「やだ」
「ケチ」
「自分で頼めよ」
「じゃあ、ポテト一本!」
「一本だけな」
「やったー」
そんなやり取りを見ていたひまりが笑う。
「男子って本当に子ども」
「女子だって早すぎるデザート交換してたじゃん」
「それは別!」
すぐに反論が返ってくる。教室では見られなかった、気の抜けた会話。文化祭を乗り越えたからこその空気だった。
◇
「そういえばさ」
誰かが大きな声で言った。
「文化祭MVP決めようぜ!」
「いいじゃん!」
「先生、表彰してください!」
担任は笑いながら肩をすくめる。
「勝手にやれ」
「じゃあ推薦制!」
あちこちから名前が挙がる。
「受付頑張ってたひまり!」
「大道具班!」
「会計!」
「呼び込み!」
どの名前にも拍手が起こる。
そして――
「やっぱ朝比奈じゃね?」
誰かの一言で、空気が変わった。
「確かに」
「企画決めたの朝比奈だし」
「中心になって動いてたもんな」
「MVP!」
「MVP!」
いつの間にか手拍子まで始まる。
「いやいや!」
湊は慌てて両手を振った。
「違うって!」
「一人じゃ何もできなかったから!」
「またまた」
優斗がにやりと笑う。
「謙遜しちゃって」
「本当だって」
湊は真剣な表情になる。
「俺が一人で考えただけじゃ完成しなかった」
「優斗たちが作ってくれて」
「ひまりたちがまとめてくれて」
「みんなが毎日残ってくれたから完成したんだ」
店内が少し静かになる。
「だから、」
「MVPがいるなら……」
湊はクラス全員を見渡した。
「二年C組全員だと思う!」
一瞬の静寂。そして、
「……まあ、湊らしいかな」
優斗が笑った。
「ほんと」
ひまりも微笑む。誰からともなく拍手が始まった。今度は、一人のためではない。二年三組全員へ向けた拍手だった。店内は再び、大きな笑顔と拍手に包まれた。
◇
料理も一通り運ばれ、テーブルの上はすっかり賑やかになっていた。ポテトの皿はいつの間にか空になり、ピザも残りはあと一切れ。ジュースのおかわりを取りに行く生徒の姿も減ってきた。そんな中、自然と話題は文化祭の思い出へ移っていく。
「じゃあ、一番焦ったのは?」
誰かがそう切り出すと、
「開場五分前!」
「ネジ一本見つからなかった時!」
「俺、心臓止まるかと思った!」
あちこちから笑い混じりの声が飛ぶ。
「私は当日の朝!」
「列ができ始めた時、本当に人が来るんだって思った」
「分かる!」
ひまりも大きく頷く。
「受付やってて、最初のお客さんが来た時は手が震えてたもん」
「え、そうだったの?」
湊が驚く。
「全然そんな風に見えなかった」
「見せないように頑張ってたの!」
ひまりは少し照れたように笑う。
「でも途中から楽しくなっちゃって」
「気付いたら『次のお客様どうぞ!』って叫んでたわ」
「確かに」
優斗が笑う。
「後半なんか完全にベテラン受付だった」
「でしょ?」
「てか、褒めても何も出ないよ?」
「いや、ポテトくらいならあるぞ!」
どこかから声が飛ぶ。
「いらんわ!」
また笑いが起こる。
◇
「優斗は?」
湊が尋ねる。
「一番印象に残ってること」
「俺?」
優斗は少し考えてから、あっさり答えた。
「最後、みんなでコーヒーカップ乗ったことかな」
「結局あれが一番最高だった」
「あー!」
「先生ガチりすぎだったよね!」
「マジ目回った!」
一気に賛同の声が上がる。
「担任のくせに一番楽しそうだったわ」
「写真撮っとけばよかった!」
「先生、めちゃくちゃ笑ってたよな」
その話を聞いていた担任が苦笑する。
「お前たち、先生を何だと思ってんだ」
「青春を満喫してる人です」
優斗が即答すると、店内は大爆笑になった。
「違うわ!」
「でも否定できませんよね?」
「……そ、それが俺の仕事だ!」
その一言で、さらに笑いが広がる。
◇
楽しい時間は、本当にあっという間だった。誰かがジュースをこぼして大騒ぎになったり。デザートを賭けてじゃんけん大会が始まったり。文化祭の写真を見返しては、
「この時の朝比奈の顔! めっちゃ真剣!」
「いや、ひまり笑いすぎ!」
そんな何気ない会話が途切れることはなかった。湊はふと、テーブルを見渡す。みんなが笑っている。文化祭の準備中には見られなかったくらい、自然な笑顔だった。
(……良かったな)
心からそう思う。あのコーヒーカップを作ると決めた日。正直、不安しかなかった。本当に完成するのか。みんなは協力してくれるのか。お客さんは来てくれるのか。そんな心配ばかりだった。でも今。目の前には、この笑顔がある。それだけで十分だった。
◇
「そろそろ時間だな」
担任が時計を見る。
「帰る準備しよう」
「えー」
「もう終わり?」
名残惜しそうな声が上がる。
「またみんなで集まろうよ」
「今度は夏休み!」
「海とか行きたい!」
「花火も!」
次々と未来の予定が飛び交う。まだ決まってもいない約束。それでも、そのどれもが楽しみに思えた。
店の外へ出ると、空はすでに暗闇に包まれていた。ふと、夏の訪れを感じさせる少し湿った風が吹く。
「じゃあな!」
「また明日!」
「……あ、明日学校ないか」
「ははは!」
そんな笑い声とともに、それぞれが帰路につく。湊も優斗、ひまりと坂を下っていく。少し前を歩くクラスメイトたちの背中を見ながら、優斗がぽつりと呟く。
「ほんと、いいクラスだな」
その言葉に、湊は静かに頷く。
「うん」
「文化祭が今あって、本当に良かった」
ひまりも微笑みながら二人の横に並んだ。
「高二がこのクラスで良かった」
三人は顔を見合わせ、小さく笑う。文化祭は終わった。けれど、あの二日間で生まれた絆は終わらない。そんな温かな確信を胸に、それぞれの帰り道を歩き始めたのだった。
間話でした。みんな文化祭ロスっぽくなってましたが、一番ロスってるのは作者でした。この空気感をまだ描きたい、楽しんでいたいと思ってたら勢いで書いてました。でも、打ち上げって必須だよね。しょうがないよね。読者の皆様もそう思いますよね。ね?感想、ブックマーク等お待ちしております。改めて次回、第十九話から新章開幕です……!!!お楽しみに!




