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起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
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19/22

間話 まあ、文化祭終わった後といえば、コレだよね

間話です。新章開幕の緩衝材にしていただければ、と。

 文化祭終了から、およそ一時間後。二年C組の生徒たちは、学校近くのファミリーレストランに集まっていた。店内の一角を貸し切るような形で並べられたテーブルに、制服姿の生徒たちが次々と腰を下ろしていく。つい数時間前まで文化祭を運営していたとは思えないほど、みんな肩の力が抜けた表情をしていた。


「いやぁ~!」


「腹減った!」


「今日は食うぞ!」


「朝から動きっぱなしだったもんな!」


 あちこちから笑い声が上がる。店員が料理を運んでくるたびに、「おぉ!」という歓声が起こり、誰かが「写真撮ろう!」と言い出してはスマートフォンを構える。そんな賑やかな空気の中、湊は優斗とひまりの向かいに座っていた。


「ようやく終わったね」


「いや、終わっちゃった、かな」


 ひまりがオレンジジュースを持ち上げながら笑う。


「なんか、まだ実感ないけど」


「分かる」


 湊も苦笑する。


「明日も学校に行ったら文化祭やってそうな気がする」


「それな!」


 優斗が吹き出した。それにつられて、三人で笑い合う。その時。担任教師が席を立ち、グラスを持ち上げた。


「はいはい、静かにー」


「ヨッ、先生おいしいとこどり!」


 そんなヤジもほどほどに、店内が少しずつ静かになる。


「二年C組」


「文化祭、本当にお疲れさま。」


 先生は教室で見せていた笑顔とは違う、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。


「最初はどうなることかと思った」


「企画決めでも揉めたし」


「準備も予定通りには進まなかったな」


「それでも、お前たちは最後まで諦めなかった」


 クラス全員が静かに耳を傾ける。


「先生は、そんなお前たちを担任として誇りに思う」


 一拍置いて、


「じゃあ」


「二年C組に!」


「乾杯!」


「乾杯ー!!」


 グラスが一斉にぶつかる。炭酸の弾ける音。ジュースを飲む音。そして、大きな笑い声。文化祭は終わった。でも、この瞬間だけはまだ「二年C組の文化祭」は続いているようだった。


 ◇


 料理が運ばれ始めると、会話はさらに賑やかになった。


「湊、その唐揚げ一個ちょうだい」


「やだ」


「ケチ」


「自分で頼めよ」


「じゃあ、ポテト一本!」


「一本だけな」


「やったー」


 そんなやり取りを見ていたひまりが笑う。


「男子って本当に子ども」


「女子だって早すぎるデザート交換してたじゃん」


「それは別!」


 すぐに反論が返ってくる。教室では見られなかった、気の抜けた会話。文化祭を乗り越えたからこその空気だった。


 ◇


「そういえばさ」


 誰かが大きな声で言った。


「文化祭MVP決めようぜ!」


「いいじゃん!」


「先生、表彰してください!」


 担任は笑いながら肩をすくめる。


「勝手にやれ」


「じゃあ推薦制!」


 あちこちから名前が挙がる。


「受付頑張ってたひまり!」


「大道具班!」


「会計!」


「呼び込み!」


 どの名前にも拍手が起こる。


 そして――


「やっぱ朝比奈じゃね?」


 誰かの一言で、空気が変わった。


「確かに」


「企画決めたの朝比奈だし」


「中心になって動いてたもんな」


「MVP!」


「MVP!」


 いつの間にか手拍子まで始まる。


「いやいや!」


 湊は慌てて両手を振った。


「違うって!」


「一人じゃ何もできなかったから!」


「またまた」


 優斗がにやりと笑う。


「謙遜しちゃって」


「本当だって」


 湊は真剣な表情になる。


「俺が一人で考えただけじゃ完成しなかった」


「優斗たちが作ってくれて」


「ひまりたちがまとめてくれて」


「みんなが毎日残ってくれたから完成したんだ」


 店内が少し静かになる。


「だから、」


「MVPがいるなら……」


 湊はクラス全員を見渡した。


「二年C組全員だと思う!」


 一瞬の静寂。そして、


「……まあ、湊らしいかな」


 優斗が笑った。


「ほんと」


 ひまりも微笑む。誰からともなく拍手が始まった。今度は、一人のためではない。二年三組全員へ向けた拍手だった。店内は再び、大きな笑顔と拍手に包まれた。



 料理も一通り運ばれ、テーブルの上はすっかり賑やかになっていた。ポテトの皿はいつの間にか空になり、ピザも残りはあと一切れ。ジュースのおかわりを取りに行く生徒の姿も減ってきた。そんな中、自然と話題は文化祭の思い出へ移っていく。


「じゃあ、一番焦ったのは?」


 誰かがそう切り出すと、


「開場五分前!」


「ネジ一本見つからなかった時!」


「俺、心臓止まるかと思った!」


 あちこちから笑い混じりの声が飛ぶ。


「私は当日の朝!」


「列ができ始めた時、本当に人が来るんだって思った」


「分かる!」


 ひまりも大きく頷く。


「受付やってて、最初のお客さんが来た時は手が震えてたもん」


「え、そうだったの?」


 湊が驚く。


「全然そんな風に見えなかった」


「見せないように頑張ってたの!」


 ひまりは少し照れたように笑う。


「でも途中から楽しくなっちゃって」


「気付いたら『次のお客様どうぞ!』って叫んでたわ」


「確かに」


 優斗が笑う。


「後半なんか完全にベテラン受付だった」


「でしょ?」


「てか、褒めても何も出ないよ?」


「いや、ポテトくらいならあるぞ!」


どこかから声が飛ぶ。


「いらんわ!」


 また笑いが起こる。


 ◇


「優斗は?」


 湊が尋ねる。


「一番印象に残ってること」


「俺?」


 優斗は少し考えてから、あっさり答えた。


「最後、みんなでコーヒーカップ乗ったことかな」


「結局あれが一番最高だった」


「あー!」


「先生ガチりすぎだったよね!」


「マジ目回った!」


 一気に賛同の声が上がる。


「担任のくせに一番楽しそうだったわ」


「写真撮っとけばよかった!」


「先生、めちゃくちゃ笑ってたよな」


 その話を聞いていた担任が苦笑する。


「お前たち、先生を何だと思ってんだ」


「青春を満喫してる人です」


 優斗が即答すると、店内は大爆笑になった。


「違うわ!」


「でも否定できませんよね?」


「……そ、それが俺の仕事だ!」


 その一言で、さらに笑いが広がる。


 ◇


 楽しい時間は、本当にあっという間だった。誰かがジュースをこぼして大騒ぎになったり。デザートを賭けてじゃんけん大会が始まったり。文化祭の写真を見返しては、


「この時の朝比奈の顔! めっちゃ真剣!」


「いや、ひまり笑いすぎ!」


 そんな何気ない会話が途切れることはなかった。湊はふと、テーブルを見渡す。みんなが笑っている。文化祭の準備中には見られなかったくらい、自然な笑顔だった。


(……良かったな)


 心からそう思う。あのコーヒーカップを作ると決めた日。正直、不安しかなかった。本当に完成するのか。みんなは協力してくれるのか。お客さんは来てくれるのか。そんな心配ばかりだった。でも今。目の前には、この笑顔がある。それだけで十分だった。


 ◇


「そろそろ時間だな」


 担任が時計を見る。


「帰る準備しよう」


「えー」


「もう終わり?」


 名残惜しそうな声が上がる。


「またみんなで集まろうよ」


「今度は夏休み!」


「海とか行きたい!」


「花火も!」


 次々と未来の予定が飛び交う。まだ決まってもいない約束。それでも、そのどれもが楽しみに思えた。

店の外へ出ると、空はすでに暗闇に包まれていた。ふと、夏の訪れを感じさせる少し湿った風が吹く。


「じゃあな!」


「また明日!」


「……あ、明日学校ないか」


「ははは!」


 そんな笑い声とともに、それぞれが帰路につく。湊も優斗、ひまりと坂を下っていく。少し前を歩くクラスメイトたちの背中を見ながら、優斗がぽつりと呟く。


「ほんと、いいクラスだな」


 その言葉に、湊は静かに頷く。


「うん」


「文化祭が今あって、本当に良かった」


 ひまりも微笑みながら二人の横に並んだ。


「高二がこのクラスで良かった」


 三人は顔を見合わせ、小さく笑う。文化祭は終わった。けれど、あの二日間で生まれた絆は終わらない。そんな温かな確信を胸に、それぞれの帰り道を歩き始めたのだった。

間話でした。みんな文化祭ロスっぽくなってましたが、一番ロスってるのは作者でした。この空気感をまだ描きたい、楽しんでいたいと思ってたら勢いで書いてました。でも、打ち上げって必須だよね。しょうがないよね。読者の皆様もそう思いますよね。ね?感想、ブックマーク等お待ちしております。改めて次回、第十九話から新章開幕です……!!!お楽しみに!

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