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起きてください、しろさん  作者: アメリカンフットボーラーの威を借るオタク
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15/22

第十五話 青嶺祭、開幕!!!

第十五話です。ついに湊たちの文化祭が始まる!開場に向けて、それぞれの気持ちは高まっていく。

 六月。澄み切った青空が、初夏の柔らかな日差しを校舎へと注いでいた。今日は、いつもとは違う朝だった。


 **青嶺高校文化祭――『青嶺祭』初日。**


 二日間にわたって開催される、一年で最も学校が賑わう日。この日のために、生徒たちは何週間も準備を重ねてきた。朝比奈湊も、その一人だった。


 ◇


「ご主人。」


 キッチンから優しい声が聞こえる。


「朝食の準備ができました」


「はい!」


 湊は制服のネクタイを整えながらリビングへ向かった。食卓には、焼き鮭、味噌汁、だし巻き卵、小鉢に入ったほうれん草のおひたし。文化祭当日とは思えないほど、いつも通りの朝食だった。


「「いただきます」」


 二人で手を合わせる。湊は味噌汁を一口飲むと、小さく息をついた。


「……緊張します」


 しろは湊の表情を見て、穏やかに笑う。


「昨日は眠れましたか?」


「あんまりです」


 正直に答える。


「楽しみすぎて、なかなか寝付けませんでした」


 しろが小さく笑う。


「遠足の前日のようですね」


「そんな感じです」


 湊も照れ笑いを浮かべる。しろは湊の前に温かいお茶を置いた。


「今日はきっと忙しくなります」


「朝ご飯はしっかり食べてください」


「はい」


 湊は力強く頷いた。


 ◇

 

 朝七時四十分。高校へ向かう坂道。この時間にしてはいつもより多くの制服姿が行き交っていた。手には荷物を抱えた生徒。看板を運ぶ生徒。クラスTシャツを着て歩く三年生。校門へ近付くにつれ、空気が少し浮き立っているように感じられる。校門の大きな立て看板には色鮮やかな文字で書かれている。


 **『ようこそ! 青嶺祭へ!』**


 その横では文化祭実行委員が元気よく挨拶をしていた。


「おはようございます!」


「おはようございます!」


 湊も自然と笑顔になる。


(始まるんだ)


 そんな実感が、ようやく湧いてきた。


 ◇


「湊!」


 校舎へ入ろうとしたところで、後ろから声がした。


「おはよう!」


 振り返ると、優斗が大きく手を振っている。


「おはよう」


「寝れた?」


「少しだけ」


「やっぱりか。 俺も」


 二人は顔を見合わせて笑った。そこへ。


「二人とも、おはよう!」


 ひまりも駆け寄ってくる。今日はクラスカラーを取り入れたヘアピンを付けていて、いつもより少しだけ華やかな印象だった。


「緊張してる?」


「してる」


「してるね」


 二人の答えが重なり、思わず笑い合う。その空気が、少しだけ緊張をほぐしてくれた。


 ◇


 二年C組の教室。昨日完成したコーヒーカップが、教室の中央で来場者を待っている。窓から差し込む朝日が装飾を照らし、色とりどりのリボンがきらりと光る。


「……」


 湊はしばらく言葉を失う。何度も見てきたはずなのに。文化祭当日の教室に置かれたそれは、どこか特別に見えた。


「湊」


 優斗が肩を叩く。


「ぼーっとしてる暇ないぞ」


「開場まであと一時間」


「準備だ、準備」


「……そうだね」


 湊は慌てて動き始める。


「受付確認!」


「装飾品最終チェック!」


「試運転お願い!」


 湊の一声で教室が一気に動き出す。その姿を見ていたひまりは、小さく微笑んだ。


(こういう時の湊かっこいいよね~)


 すぐにその考えを振り払う。


(……何考えてるんだ、私)


 頬を軽く叩いて気持ちを切り替えると、自分も持ち場へ走った。


 ◇


 開場十分前。校内放送が流れる。『まもなく開場します。各クラスは最終確認をお願いします。』廊下からは他クラスの元気な掛け声。吹奏楽部の演奏練習。中庭ではダンス部が円陣を組んでいた。学校全体が、一つの大きな祭りへ向かって鼓動を早めている。その時だった。


「朝比奈先輩」


 聞き覚えのある声がした。振り返ると、結衣が立っていた。


「雨宮さん?」


「お、お久しぶりです!」


 結衣はぺこりと頭を下げる。


「十話ぶり?だね。 作者が構成ヘタクソだから……」


「……あはは、それはいいんですけど」


「それはそうと私、今日の自分のシフトが終わったら遊びに行きます!」


「本当?」


「はい!」


 結衣は笑顔で頷く。


「コーヒーカップ、すごく楽しみにしてます!」


「一年の間でもすごい話題ですよ!」


「ありがとう」


 湊も自然と笑顔になる。


「ぜひ来てね」


「はい!」


 そう言って結衣は、自分の教室へと駆けていった。ひまりはどこか微笑ましそうにその様子を見ていた。


「湊って、学年関係なく仲良くなるよね」


「そうかな?」


「そうだよ」


 優斗も頷く。


「それがお前のすごいところ」


 湊は照れくさそうに笑うしかなかった。


 ◇


 午前九時。始業ベルとは違う、軽快なファンファーレが校内へ響き渡る。


『ただいまより――』


『青嶺高校文化祭、青嶺祭を開催します!』


 その瞬間。校舎中から大きな歓声と拍手が湧き上がった。廊下を歩き出す来場者。元気な呼び込み。笑顔で走る生徒たち。二年生に進級してから待ち望んでいた二日間が、ついに幕を開けた。湊は教室の入口に立ち、大きく息を吸う。


「よし」


「二年C組『コーヒーカップ』、開店です!」


 その声とともに、最初のお客さんが教室へ足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ!」


 二年C組の教室に、元気な声が響く。開場から十分ほど。まだ人は少ないが、少しずつ来場者が教室へ足を運び始めていた。入口では受付係が笑顔で案内をする。


「こちらで受付をお願いしまーす!」


「グループは四名様まで同時にご利用いただけます!」


 廊下から教室を覗き込んだ来場者は、思わず足を止める。


「えっ、すご!」


「教室の中にコーヒーカップある!」


「本物じゃん!」


 歓声が上がる。それを聞いた湊は、胸の奥が少し熱くなるのを感じた。準備してきた時間は、無駄じゃなかった。その一言だけで、何週間もの苦労が報われる気がした。


 ◇


「では、一番奥のカップへどうぞ!」


 係の合図で、一組目のお客さんがカップへ乗り込む。親子連れだった。小学校低学年くらいの男の子と、その両親。


「すごーい!」


 男の子は目を輝かせながら席へ座る。


「本当に回るの?」


「どうかな?」


 父親が笑いながら答える。安全バーを確認し、ゆっくりと固定する。


「準備できました!」


「スタート!」


 ゆっくりと、本当にゆっくりと。コーヒーカップが動き始めた。


 ギィ……。


 手作りならではの、木材が擦れる小さな音。しかし、それさえも温かみがあった。


「動いた!」


 男の子が歓声を上げる。


「お父さん! 回ってる!」


「すごいな!」


 母親も思わず笑顔になる。ゆっくりと回るカップの中で、三人の笑い声が教室いっぱいに響いた。その笑顔を見た瞬間、湊は思わず拳を握る。


(よかった)


(ちゃんと楽しんでもらえてる)


 その安心が、自然と表情に表れた。


 ◇


 二組目は女子中学生三人組だった。


「え、すごーい!」


「写真撮ろう!」


「待って待って!」


 乗る前から大騒ぎ。


「はい、チーズ!」


 カシャッ。


 スマートフォンのシャッター音が響く。


「文化祭って感じ!」


「最高!」


 そして回り始めると。


「キャー!」


「楽しい!」


「ちょっと速くない!?」


「速くない速くない!」


 笑い声が止まらない。カップの中央に付けられたハンドルを握り、三人で力を合わせて回そうとする。すると。くるり。速度が変わる。


「ほんとに回った!」


「すごーい!」


 歓声がさらに大きくなる。教室の外を歩いていた人まで、その笑い声につられて足を止めた。


「何だろう?」


「面白そうだね」


「見に行ってみよう!」


 気付けば、入口には列ができ始めていた。


 ◇


「朝比奈!」


 受付担当の男子が慌てて駆け寄ってくる。


「列できてるぞ!」


「え?」


 廊下を見ると。十人。二十人。三十人近い人が順番を待っている。


「本当だ……」


「どうする?」


 湊は一瞬だけ考えた。


「待ち時間と整理券の案内しよう」


「それから、乗ってる間に次のお客さんを準備できるように」


「了解!」


 クラスメイトたちはすぐに動き出す。


 列整理。整理券配布。誘導。事前の安全説明。


 何度もシミュレーションした流れが、そのまま形になっていく。その様子を見ていた担任教師が、小さく頷いた。


「よくここまでまとめたな」


 隣にいた別の教師も感心したように言う。


「生徒だけで運営してるとは思えませんね」


「二年C組、いいクラスになった」


 ◇


 昼前になる頃には、教室の外まで笑顔があふれていた。子どもが目を輝かせながら手を振る。高校生同士が写真を撮り合う。卒業生らしき若者が「懐かしいなぁ」と笑う。誰かが笑えば、その笑顔がまるで波紋のように周りへ伝わる。小さな笑顔が、また次の笑顔を生んでいく。湊は受付からその光景を眺めていた。コーヒーカップがゆっくりと回り、それに合わせて笑顔も回る。何週間もかけて作ったのは、木でできた遊具ではない。そこに集まる人たちの、楽しい時間だった。


「……」


 ふと、湊は小さく笑う。


(しろさん)


(見てくれてたら、きっと喜んでくれるだろうな)


 そう思った、その時だった。


「湊!」


 優斗が教室の奥から大きく手を振る。


「ちょっと来て!」


「トラブル!」


 湊の表情が引き締まる。


「すぐ行く!」


 楽しい時間は続いている。だからこそ、その笑顔を守るのも自分たちの役目だった。



「どうした?」


「ここの回転軸なんだけど」


 優斗がコーヒーカップの土台を指差す。


「さっきから回してて少し引っ掛かる感じがするんだ」


 湊はしゃがみ込み、実際に手で回してみる。


 ギ……。


 ほんのわずかだが、確かに途中でつっかかるのを感じる。


「……本当だ」


 試運転まではなかった感触だった。何十組もの来場者が利用したことで、固定部分のネジが少し緩み始めているのかもしれない。


「危ないかな?」


 ひまりも近寄る。


「いや」


 湊は落ち着いて首を振った。


「今すぐ危ないわけじゃない」


「でも、このまま使い続けるのはよくないのは確かだよ」


「じゃあ?」


 湊は立ち上がった。


「一回、止めよう」


「えっ?」


 教室中から疑問の声が上がる。


「列できてるよ?」


 入口には、昼飯時にもかかわらず三十人近い来場者が並んでいる。一時中断すれば、待たせてしまう。それでも、湊は迷わなかった。


「安全が一番だ」


「もし何かあったら、せっかく来てくれた人が悲しい思いをするかもしれない」


「だから、みんな十分だけ時間がほしい」


 その言葉に、優斗は笑った。


「まあ、そう言うと思ってたよ」


「俺、工具持ってくる!」


「ひまり、説明お願い!」


「任せて!」


 三人はすぐに動き出した。


 ◇


「申し訳ありません!」


 ひまりが列のお客さんへ頭を下げる。


「安全確認のため、十分ほど運営を中断させていただきます。」


 一瞬、列がざわつく。


 しかし、


「ちゃんと確認してな」


「しっかりしてるわね」


「その方が安心」


 文句を言う人はいなかった。むしろ、温かい言葉を掛けてくれる人ばかり。その言葉に、ひまりはほっと胸をなで下ろす。


 ◇


 教室の中では。


「六角レンチ」


「はい。」


「ありがとう」


 湊と優斗が手術でも行うかのような緊張感で作業をしていた。ネジを締め直し。軸の位置を微調整する。試しに回してみると、先ほどまであった引っ掛かりは、もう感じられない。


「もう一回」


 湊が言う。


「オッケー」


 二人で何度も回転を確認する。


 前。後ろ。左右。


 速度を変えながら確かめる。


 ようやく、


「……よし」


 湊は小さく息を吐いた。


「もう大丈夫」


 ◇


 誰かが呼びに行ったのか、担任教師も確認に来た。


「朝比奈」


「はい」


「問題ないか?」


「はい」


「ネジの緩みだけでした」


「念のため問題の箇所以外も全部確認しました」


 担任はコーヒーカップを一周見て回る。


「ご苦労」


 小さく頷いた。


「安全のために止める判断は正しかったと俺も思う」


「ありがとうございます」


 その言葉に、湊は少し肩の力を抜いた。


 ◇


「お待たせしました!」


 ひまりが元気よく声を上げる。


「運営を再開します!」


 列から拍手が起こる。


「頑張って!」


「ありがとう!」


 温かい声援が飛んできた。


「よかった……」


 湊は思わず笑う。優斗が肩を軽く叩いた。


「ほら」


「止めても大丈夫だったろ」


「うん」


「ありがとう」


「俺は何も――」


「気付いてくれたのは優斗だよ」


「……」


 優斗は照れくさそうに頭をかく。


「まあ、」


「こういう時くらい役に立たないとな」


 二人はコツン、と拳をあわせた。


 ◇


 運営再開後、コーヒーカップは以前にも増して滑らかに回った。


「すごーい!」


「楽しい!」


「もう一回乗りたい!」


 子どもたちの歓声。保護者の笑顔。高校生たちの笑い声。教室いっぱいに、幸せな空気が広がっていく。その様子を見ながら、ひまりはふと思った。


(私、このクラス本当に好きだなぁ)


 文化祭が終われば、こんな時間も終わってしまう。そう考えると、少しだけ寂しかった。でも。だからこそ。今日という日を思い切り楽しみたかった。


 ◇


 昼休憩を迎える頃。二年C組のコーヒーカップは、校内でも相当な評判になり始めていた。


「二年C組、もう行った?」


「完成度えげつないらしいぞ!」


「午後行こ、午後!」


 口コミは口コミを呼ぶ。教室の前には、午前中よりもさらに長い列ができ始める。その様子を見た湊は、小さく拳を握った。


(午後も頑張るか)


 文化祭初日は、まだ始まったばかりだった。

第十五話でした。お楽しみいただけましたでしょうか。えー、突然のメタ発言ですね。ちょっとやってみたかったんです。許してください。湊も言ってましたが、私、まだまだ未熟ですので、構成が下手です。いつ結衣を出してやろうか、と悩んでました。なかなかに物語をかき乱していく人物(になることを期待)ですので、楽しみにしててください。感想、ブックマーク等ぜひお願いいたします。次回、第十六話もお楽しみに。

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