第十二話 Continue?
先日はお休みしてすみませんでした。第十二話です。
午後四時過ぎ。休日の校舎は少しずつ静かになっていた。他の教室では片付けを始めるクラスも増え、廊下を歩く生徒の姿もまばらになっている。二年C組では、最後の作業が続いていた。
「よし!」
「これで今日の分は終わり!」
優斗が大きく伸びをする。
「終わったーーー!」
「疲れたぁ……」
あちこちから安堵の声が上がった。予定よりも多くの作業が進み、教室にはどこか達成感が漂っている。
「みんな、お疲れ様」
湊が笑顔で声を掛ける。
「今日は本当に助かったよ」
「湊のおかげだろ」
優斗が笑う。
「いや」
湊は首を横に振った。
「今日は僕じゃなくて……」
皆、自然と視線がしろへ向く。しろは黙々と机を拭いていた。最後まで片付けをしている。
「しろさん」
湊が近づく。
「もう終わりなので、片付けは僕たちでやります」
「ありがとうございます」
「ですが」
しろは柔らかく笑う。
「最後まで終わらせるのが、お手伝いですので」
「……」
しろは、誰よりも働いているのに、本人はそれを特別なことだと思っていない。
「しろさん!」
装飾班の女子の一人が近寄る。
「今日は本当にありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
周りの女子たちも頭を下げる。
「いえ」
「皆さんが一生懸命だったからです」
しろはそう言うが、女子たちは一斉に首を振る。
「違います!」
「しろさんが来てくれたから、こんなに進んだんです!」
「そうそう!」
「めちゃくちゃ助かりました!」
「……ありがとうございます」
少し照れたように笑うしろ。その笑顔に、教室の空気も和らぐ。
◇
少し離れた場所で、その様子を見ていたひまりは、ふと湊へ目を向けた。湊はしろのことを、自分のことのように嬉しそうな顔で見ている。
(湊って)
(こういうところなんだよね)
誰かが褒められると、自分のことみたいに喜ぶ。誰かが困っていれば、真っ先に駆け寄る。だからみんな、自然と頼ってしまう。
(……だから)
放っておけない
無理をしていても、「大丈夫」と笑ってしまう人だから。ひまりは小さく息を吐いた。
(ちゃんと誰かが見てないと、また一人で抱え込んじゃうんだから)
「ひまり?」
湊が不思議そうに声を掛ける。
「え?」
「どうかした?」
「……ううん」
ひまりは慌てて笑顔を作る。
「なんでもない!」
「そう?」
「うん!」
その笑顔の奥にある気持ちは、自分でもまだ名前を付けられなかった。
◇
「そうだ!」
装飾班の女子が声を上げた。
「しろさん!」
「はい?」
「来週も来てくれませんか?」
教室が静まり返る。
「え?」
湊が思わず声を漏らす。
「だって!」
「しろさんいたら安心だもん!」
「私もそう思う!」
「ぜひ来てください!」
次々と声が上がる。優斗も笑って頷いた。
「俺も賛成」
「しろさんがいると、なんか教室の空気が良くなるから」
「……」
しろは少し困ったように湊を見る。こういう時、自分だけで決めることはしない。まず、主人の考えを聞く。その視線に気付いた湊は、小さく笑った。
「皆の気持ちは嬉しい」
「でも、しろさんにも予定があるから」
「返事は、少し待ってもらってもいいかな」
「もちろん!」
「お願いします!」
クラスメイトたちは笑顔で頷いた。しろはそんな温かい空気を見渡し、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じていた。
(……ご主人)
(素敵なクラスですね)
その言葉は胸の中でだけ小さく呟いた。
◇
帰り道。夕焼けに染まる住宅街を、湊としろが並んで歩く。
「今日はありがとうございました」
湊が頭を下げる。
「皆、本当に喜んでました」
「そうでしょうか」
「はい」
「しろさんが来てくれて、本当に助かりました」
しろは少しだけ前を向いたまま微笑む。
「……ご主人」
「はい?」
「皆さん、とても良い方ばかりですね」
「ええ」
湊も笑う。
「自慢のクラスです」
その一言に、しろも嬉しそうに頷いた。
「だから、ご主人は毎日楽しそうだったのですね」
「そうかもしれません」
二人は穏やかな空気のまま歩き続ける。そして来週。文化祭まで残り一週間。
しろは再び学校を訪れる。
第十二話でした。お楽しみ頂けましたでしょうか。少々短かったですが、嵐の前の静けさだと思ってください。感想、ブックマーク等お待ちしております。次回第十三話もお楽しみに。




