幼稚園の爆弾発言
第十三章
幼稚園の爆弾発言
翌朝。
陽毬は、いつもより少しテンションが高かった。
理由は明白である。
昨夜、家族全員で腹筋崩壊した、
“雨の日びしょ濡れ遺伝子事件”
が、陽毬の中でまだ大ヒット中だったからだ。
朝ごはんの途中でも、
「おばあちゃんも、おみずとたたかってたんだよね!」
と、何度も確認していた。
隆は味噌汁を吹きそうになる。
「だから戦ってねぇって」
ひなたは笑いをこらえながら陽毬の髪を整える。
「幼稚園で変な説明しないんだよ?」
陽毬は元気よく頷いた。
「わかった!」
――全く分かっていない返事だった。
1.朝の幼稚園
幼稚園へ着くと、いつものように子どもたちの声が飛び交っている。
「ひまちゃーん!」
「おはよー!」
陽毬も元気いっぱい。
「おはよー!」
先生が笑顔で迎える。
「陽毬ちゃん、今日は元気いっぱいだねぇ」
陽毬は、待ってましたと言わんばかりに言った。
「きのうね! おとうさんとおばあちゃんとなぎしゃちゃんが、おみずとたたかってたの!」
先生、数秒停止。
「……え?」
2.自由時間
そのあと。
自由遊びの時間になると、陽毬はクラスの中心で熱弁を始めていた。
「おとうさんね! あめのひにね! こうやってね!」
実演つき。
ぴちゃぴちゃと水たまりへ突っ込む動きを再現する。
周りの園児たちは大爆笑。
「なんでー!?」
「びしょぬれ!?」
陽毬はさらに興奮していた。
「それでね! なぎしゃちゃんもね! おんなじおかおだったの!」
先生、吹き出しそうになる。
「おんなじ顔?」
「うん! こう!」
陽毬、全力で“勝利顔”を再現。
周囲の園児たちが転げ回る。
そこへ、年中組の内田道也がやってきた。
「ぼく、それしってる!」
陽毬が振り向く。
「みっちー!」
道也も興奮気味。
「なぎしゃおばちゃん、“あめにかった”っていってた!」
先生、もう限界だった。
後ろを向いて肩を震わせる。
3.先生、事情を聞く
昼前。
担任の先生は、ついに気になって陽毬へ聞いた。
「陽毬ちゃん、“お水と戦ってた”って、どういうことなの?」
陽毬は、得意げに説明を始める。
「しゃしんがあるの!」
「写真?」
「おとうさんも! なぎしゃちゃんも! おばあちゃんも! みーんなびしょびしょ!」
そこへ、道也が補足する。
「しかも、おんなじかお!」
先生、とうとう吹き出した。
「ちょ、ちょっと待って……」
陽毬は止まらない。
「おみずのなかで、“やったー!”ってかおしてた!」
先生は腹筋を押さえながら思った。
――なんだその家族。
4.お迎え
夕方。
ひなたがお迎えへ来ると、先生が笑いをこらえながら近づいてきた。
「今日、陽毬ちゃんがずっと“水たまり事件”のお話してくれて……」
ひなた、嫌な予感。
「あっ……」
「お父さんと、おばあちゃんと、なぎささんが、雨の日にずぶ濡れで戦ってたって……」
ひなた、吹き出す。
「あぁ、話したんですね……」
そこへ陽毬が走ってくる。
「おかあさん!」
「はいはい」
「せんせいにも、おみずのしゃしんのおはなしした!」
ひなたは、とうとう笑い崩れた。
「だろうねぇ……」
先生も笑いながら言う。
「“三人とも同じ顔だった”っていう説明が、もう面白すぎて……」
すると、陽毬が真顔で言った。
「でもね、わたしも、おおきくなったらやる!」
一瞬、空気が止まる。
ひなたが即座に言った。
「やらなくていい」
先生、完全に吹き出す。
5.夜の家族会議
夜。
その話を聞いた隆は、頭を抱えていた。
「絶対幼稚園で言うと思った……」
なぎさは、ソファで笑い転げている。
「いやでも、“みんな同じ顔”はほんとだったし!」
実里も、もう観念したように笑っていた。
「アルバムって怖いわねぇ……」
そこへ陽毬。
「おとうさん!」
「ん?」
「つぎ、あめふったら、わたしもたたかう!」
隆、即答。
「だめです」
「えー!」
なぎさが、にやにやしながら言う。
「でも遺伝子的に無理じゃない?」
隆が真顔で返す。
「お前が言うな」
すると実里がぼそっと言った。
「たぶん無理ね」
その瞬間、家族全員が吹き出した。
6.ひまちゃんダイアリー更新
その夜。
ひなたは、また『ひまちゃんダイアリー』を更新した。
『幼稚園で全部バレました』
陽毬が、幼稚園で“雨の日びしょ濡れ事件”を全部話したそうです。
しかも実演つき。
先生、本当にすみません。
でも陽毬の中では、
“家族の大事な歴史”
として認識されているみたいです。
少し困るけど、少し嬉しい。
笑われる記憶がある家族って、たぶん幸せなんだと思います。
短歌
笑い声
幼稚園まで
ひろがって
水たまりごと
家族になる日
川柳
遺伝子が
幼稚園でも
大暴れ
コメント欄
「先生の腹筋が心配」
実演付きは強すぎる。
「“みんな同じ顔”で無理」
園児に暴かれる家族の真実。
「陽毬ちゃん絶対将来やる」
もうこれは確定イベント。
「水たまりごと家族になる日」
短歌で急に泣かせに来るのやめてください。
「この一家ほんと好き」
重いテーマを描いた人たちが、家ではこんなに笑ってるの、本当に救われます。




