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手をつなぐ理由  作者: リンダ


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問いかける勇気

第十一章


問いかける勇気


 特別セッションの余韻が、体育館にまだ残っていた。


 バットとボールとグローブ。

 犬猿の仲だった場合。

 ラブラブすぎた場合。

 そのどちらも爆笑だったのに、終わってみれば、生徒たちの顔には「なるほど」という表情が浮かんでいた。


 司会の先生がマイクを持つ。


「では、ここから質問の時間に入ります。生徒のみなさん、先生方、どなたでもかまいません」


 最初に手を挙げたのは、中学二年生の男子だった。



1.「悪気がなかったら、許されますか?」


「悪気がなかったら……それでも、いじめになるんですか?」


 体育館が静かになる。


 隆は、ゆっくりマイクを持った。


「なることがあります」


 男子生徒は、少し肩を縮めた。


「悪気がなかったことと、相手が傷つかなかったことは別です」


 ひなたも続ける。


「でも、悪気がなかったなら、次から変えられる可能性もあります。大事なのは、“悪気なかったし”で終わらせないことです」


 逸美が言った。


「人を傷つけた時に、“そんなつもりじゃなかった”って言いたくなる。でも、その前に“嫌だったんだね”って受け止めることが必要です」


 ひよりが頷く。


「悪気がないなら、なおさら学べる。そこで開き直ったら、ただの成長拒否だべ」


 生徒たちから小さな笑いが起きた。

 でも、その笑いのあとに、深くうなずく顔がいくつもあった。



2.「先生に言うのは、チクりですか?」


 次に手を挙げたのは、高校一年生の女子だった。


「先生に言うのは、チクりなんですか?」


 その言葉に、何人かの生徒が視線を落とした。


 ひなたが、はっきり答える。


「違います」


 短い一言だった。


「助けてって言うことは、裏切りじゃありません」


 隆も言う。


「“チクった”って言葉は、助けを求める人の口をふさぐ言葉になりやすいです。本当に問題なのは、助けを求めた人じゃなくて、助けを求めなきゃいけない状況を作った側です」


 ひよりがマイクを取る。


「チクったって言われるのが怖くて、誰にも言えなくなる。これ、めちゃくちゃ危ないんだよの」


 逸美も静かに続けた。


「相談は、逃げではありません。自分を守る行動です」


 女子生徒は、少し目元を赤くしながら頷いた。



3.「友達が誰かを傷つけていたら?」


 中学生の男子が立ち上がった。


「仲いい友達が、誰かをいじって笑ってる時、止めた方がいいって分かってても、空気悪くなるのが怖いです。どうすればいいですか?」


 ひよりが、少しだけ苦笑した。


「それ、めっちゃリアルだの」


 逸美が頷く。


「いきなり大勢の前で止めるのが難しいなら、あとで二人になった時でもいいと思います」


 ひなたが続ける。


「“さっきの言い方、ちょっときつくなかった?”って言うだけでも違います」


 隆は、少し考えてから言った。


「友達を止めるのは、友達を責めるためだけじゃないと思います。その友達が取り返しのつかないことをする前に止めることでもある」


 ひよりが言う。


「本当に友達なら、“お前それやばいぞ”って言ってやれる関係が強いんだと思う」


 男子生徒は、小さく「ありがとうございます」と言って座った。



4.先生からの質問――「どこで介入すべきか」


 今度は、若い女性教師が手を挙げた。


「教師側から質問してもいいでしょうか」


 司会がマイクを渡す。


「クラスの空気が悪くなっていると感じても、どこまで介入すべきか迷うことがあります。子ども同士の問題に大人が入りすぎると、かえって関係を壊してしまうのではないか、と」


 隆は、少しだけ表情を引き締めた。


「被害を受けた側として言うなら、早く気づいてほしかったです」


 体育館が静まり返る。


「でも、ただ叱ればいいわけでもないと思います。大事なのは、“先生は見ている”というサインを出すことだと思います」


 ひなたが続ける。


「誰かを傷つける笑いを見逃さない。相談した子を守る。そういうサインがあるだけで、教室の空気は変わります」


 逸美が言った。


「大人の沈黙も、子どもにはメッセージになります。“これは許されるんだ”って」


 女性教師は、深く頷いた。


「ありがとうございます。重く受け止めます」



5.先生からの質問――「加害側の子をどう見るか」


 次に、年配の男性教師が立った。


「加害側になった子を、私たちはどう見ればいいのでしょうか。厳しく指導する必要はある。しかし、その子を完全に切り捨ててしまえば、変わる道まで閉ざしてしまう気がします」


 隆は、ゆっくり答えた。


「したことの責任は消えません」


 まず、そこをはっきりさせた。


「でも、その人を“加害者”という一語だけで固定してしまうと、その先へ進む道もなくなると思います」


 ひなたが言う。


「行為は絶対に許さない。でも、人として変わる可能性までは奪わない。その両方が必要だと思います」


 ひよりが少し真面目な声で言った。


「本気で怒るって、見捨てないってことでもあるんだよの」


 逸美も続ける。


「叱ることと、人格を全部否定することは違います」


 男性教師は、静かに頭を下げた。



6.「泣いている子に何て言えばいい?」


 中学生の男子が、恥ずかしそうに手を挙げた。


「泣いてる子に、何て言えばいいか分かりません」


 会場に少しだけやわらかい空気が流れる。


 陽毬が、そっと手を挙げた。


 司会の先生が笑う。


「陽毬ちゃん、答える?」


「うん」


 陽毬はマイクを両手で持った。


「なにもいわなくても、となりにすわればいいよ」


 体育館が静かになった。


 そのあと、自然に拍手が起きた。


 ひなたは、娘の頭をそっと撫でる。


 隆が言った。


「本当にそうだと思います。無理に励まさなくてもいい。“泣かないで”より、“ここにいるよ”の方が届く時があります」


 男子生徒は、ほっとした顔で言った。


「それなら、できるかもしれません」



7.最後の問い


 最後に、校長先生が立ち上がった。


「学校という場所に、みなさんが一番望むことは何でしょうか」


 隆、ひなた、天庄屋の二人は少し顔を見合わせた。


 最初に隆が答えた。


「泣いている子を、笑わない場所であってほしいです」


 ひなたが続ける。


「助けてと言った子が、責められない場所であってほしいです」


 逸美が言った。


「間違えた子が、ちゃんと叱られて、でも変わる道を残される場所であってほしいです」


 ひよりが最後に言う。


「そして、笑いが誰かを傷つけるためじゃなく、みんなで前を向くために使われる場所であってほしいです」


 校長先生は深く頭を下げた。


「ありがとうございました」


 体育館に、大きな拍手が広がった。


 その拍手は、昨日よりも明るかった。

 でも、軽くはなかった。


 問いを受け取った人たちの拍手だった。

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