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30 ★手をとりあって


 俺は考えた作戦を手短に話した。

 

「まず神丸は、心象魔法【グングニル】を限界までチャージしてくれ! 三次選考で俺に撃とうとした以上の、120%の威力のやつを!」

「限界突破か……それなら3分はかかるぜ?」


 すかさず、俺は後藤へと向き直る。


「後藤さん、3分、稼いでくれるよな?」

「はぁ……3分だけだぜ? それ以上はビタ一文まけないからな」


 後藤が「やれやれ」とため息をつき、うな垂れた。

 

「七花は、獄炎竜のコアを守る首元の装甲を破壊してくれないか? おそらく、相当頑丈だとは思うけど、あいつはマグマのドラゴンだろ。七花の『水魔法』ならあるいは……」

「わかった。あいつの弱点は私が絶対にさらけ出す」


 七花は小さく頷き、覚悟に満ちた瞳で俺を見つめ返す。

 

「で、六条麦。肝心のお前は何をするんだよ?」


 神丸の問いかけに、俺は口角を吊り上げて答えた。

 

「神丸が絶対に仕留められるよう、最高のお膳立てさ」

 


 

 ――凄まじい轟音と共に獄炎竜が大きく羽ばたき、その巨体を再び上空へと躍らせる。

 

「じゃあ、とどめは頼んだぜ! しくじったら化けて出てやるからな!」


 言葉を言い終えるより早く、後藤は漆黒の刀を構え、怒り狂う竜の懐へと単騎で飛び込んでいった。

 


「アクセス!」

 神丸が叫ぶと同時、その右腕に紫電を纏った陽電子砲ポジトロンライフルが顕現し、かつてない密度のエーテルを収束し始めた。

 

 俺は宇宙色の万年筆を虚空に滑らせ、起死回生となる『絵』を描きはじめる。

 一筆走らせるごとに、脳が軋むような頭痛と激しい耳鳴りに襲われ、鼻と耳から生ぬるい血が流れ出した。

 だが、構うものか。痛みすらも極限の集中が塗り潰していく。

 俺の作戦に、みんなが命を懸けてくれている。絶対にこの信頼は裏切れない。



「――あと2分!」

 荒れ狂う紫電の奔流の中で、神丸が切迫した声を張り上げた。



 後藤は【外道村正】による重力操作で獄炎竜の巨体をいなし、決死の時間稼ぎに徹していた。

 しかし相手はS級モンスター。学習したのか先ほどのように容易く軌道操作が決まらない。それでも後藤は斬撃と重力を巧みに織り交ぜ、執拗な牽制を続ける。


 やがて――小賢しい足止めに苛立ちを募らせた獄炎竜が、ついに動きを止めた。

 後藤ごと周囲を消し飛ばすべく、再びあの『極大獄炎魔法』の詠唱を開始したのだ。口元に、幾何学模様の魔法陣が幾層も展開されていく。

 だが、極大魔法を放つためにその巨体を無防備に晒すことこそが、決定的な隙だった。


「そりゃあ、悪手ってもんよ! やれ桜井!」


 後藤が不敵に笑い、刀を振り抜きながら七花に合図を出した。



『万物を育む青の揺り籠よ。相克する灼熱を喰らい、深き怒りと化して弾け飛べ――』


 七花の詠唱に応えるように、水の猫がその姿を変え、巨大な激流のこぶしへと変貌した。



『ぶちかませッ! 【水神裂傷拳すいじんれっしょうけん】ーーーーーーーッ!!!』



 荒れ狂う巨大な水塊が、詠唱で動きを止めていた獄炎竜の首元へと直撃する。

 直後――超高熱の巨体と衝突した水は瞬時に数千倍へと体積を膨張させ、未曾有の水蒸気爆発を引き起こした。

 凄まじい轟音と共に、首元を覆っていた分厚い装甲が木端微塵に吹き飛ぶ。その規格外の衝撃により、極大魔法の詠唱も強制的に破棄される。


 やがて、もうもうと立ち込める水蒸気が晴れると――


 そこには、脈打つ真っ赤な『コア』が無防備な姿を晒していた。



「――あと30秒!」

 神丸の叫びが響く。

 限界を超えて膨れ上がる紫電のエネルギーを強引に抑え込む彼の右腕は、その負荷に肉体が耐えきれず、無惨に皮膚が裂けて血を滲ませていた。



「大人もいいとこ見せなきゃな! 」

 爆発の衝撃でたたらを踏む獄炎竜を見据え、後藤は【外道村正】を上段に構える。


『驕れる翼に泥濘の鎖を。四界の重圧をもって虚空に縫い付けよ――』


 詠唱を紡ぎ終えると同時、上段に構えた刀を一気に振り下ろした。



『【黒蠅之磔刑くろばえのはりつけ死匹しひき】ーーーーーッ!!!』



後藤の正面空間が歪み、4本の巨大な漆黒の重力杭が顕現する。それらは砲弾のような速度で一直線に飛翔し、獄炎竜の4枚の翼を正面から深々と貫いた。


「ギィヤァァァァァァァッ!!」

 鼓膜を裂くような悍ましい悲鳴が轟いた。獄炎竜が狂ったように巨体をよじらせるが、重力の杭は文字通り竜を虚空へとはりつけにし、一歩たりとも逃がさない。



「充填率199%!! 3……2……1――」

 神丸の周囲では、暴走寸前の紫電が凄まじい嵐となって吹き荒れていた。



 神丸のカウントダウンと同時に、俺も全精神力を注ぎ込んだ絵を完成させる。

【グングニル】の射線を覆い尽くして顕現したのは、巨大で精密な、八枚の連なる『収束レンズ』。

 神丸の放つエネルギーを屈折させ、一点に無限の熱量を集約するための究極の構造体だ。

 

 あとはシエルに観測してもらうだけだ。だが、シエルの小さな体はいまだ大地に伏していた。


「頼む、シエル……目を覚ましてくれ……ッ!」


 口内に滲んだ血を吐き捨て、俺は祈りを込めて叫んだ。

 頼む、届いてくれ。その悲痛な想いに呼応したのか――倒れていたシエルがうっすらと瞳を開ける。

 彼女は力を振り絞り、その小さな手を虚空の『収束レンズ』へと真っ直ぐにかざした。

 

「……まったく、人使いの荒いやつじゃ……」


 そして――。

 


波束はそくを断ち、しょうを成せ。――収束せよ、其が真名は【オーディン・アイズ】』


 

「……あゆむ。こいつで、トカゲ風情に目にもの見せてやれ……」


 言い終えると同時、シエルの小さな体からすっと力が抜け、地面へと崩れる。だが、俺を真っ直ぐに見据える深紅の瞳は閉じられることなく、その口元には相棒を信じ抜くような誇らしげな微笑みが浮かんでいた。

 

「サンキュー、シエル!! 絶対にこれで終わらせる!」


 眩い黄金の光が弾け、空中に八枚の連なる『神鏡』が顕現する。

 真名と共に実体化したそれは、【グングニル】の砲口から、標的である獄炎竜のコアへと、寸分の狂いなく続く『美しき光の回廊』を形作っていた。

 


「充填率200%!! いくぜ六条麦ッ!!!」


 神丸は荒れ狂う紫電の嵐の中、限界を迎えたグングニルの凄まじいエネルギーを強引に押さえつけてる。



『暴虐なる獄炎の王よ、貴様への慈悲はとうに尽きた! ならばこの極光でその座ごと灰燼に帰せッ!!』



「神丸ッ!! 撃てェェェェェェェェーーーーッ!!!!」




『【オーヴァー・ラグナロク】ーーーーーーーッ!!!!!!』




 神丸のグングニルが限界突破の輝きを放ち、鼓膜を千切るほどの轟音と共に、破滅の極光が撃ち出された。

 その極太のレーザーは、溶岩の大地をえぐり飛ばしながら、最初の鏡へと激突する。


 1枚、2枚、3枚――荒れ狂う膨大なエネルギーは、【オーディン・アイズ】を通過するたびに幾重にも屈折し、極限まで圧縮されていく。

 最後の8枚目を通過した瞬間。極太だったレーザーは、空間を歪ませるほど高密度に圧縮された『針のように細い一筋の閃光』へと変貌していた。


 すべてを穿ち抜く恐るべき密度の細線は、七花がさらけ出した獄炎竜の首元のコアを、寸分の狂いもなく正確に貫き抜く。



 ――すべての音が消え去ったような静寂。



 直後。



 

 パァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!



 

 大気を揺るがす断末魔と共に、無敵を誇った獄炎竜は眩い光の粒子となって爆散した。


 マグマの海へと降り注ぐ光の粉雪。



――ここに、深度70のエリアボスは完全に討ち果たされたのだった。





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