表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/38

25 初めてのキャンプはテンションが上がる


「はぁ……はぁ……。そろそろ休憩しない? 俺もう歩けないかも……」


 ダンジョン内は黄昏に沈み、マグマの世界がより鮮明な深紅に染まっていた。

 スマホの時計を見ると18時を回っている。

 どう見ても現実の世界ではないダンジョンに夜が訪れるとは驚きだが、今の俺にはそれ以上に『早く休みたい欲』が勝っていた。

 


「確かに、夜が来たら無理に進むのは危険だよね。この辺りで野営しましょうか」

「ああ……そうだな。あのビルの中とか丁度いいんじゃないか?」


 七花が賛同してくれたので、めでたく野営が決定した。

 七花はたまに怖い時があるので、俺も神丸も彼女にはあまり逆らえない。

 

 近くに廃墟と化した5階だてのビルがあったので、壁面に階段を生成して最上階へと登り、割れた窓ガラスから屋内に侵入した。

 


 3人での探索は想像以上に順調だった。

 神丸の魔法の威力はすさまじく、蟻や巨人程度のモンスターであればほぼ一撃だった。流石はロゼさんの弟だ。

 七花も、回復、防御、攻撃と、オールマイティになんでもこなしていた。特に身体強化による体の動かし方には無駄がなく、俺と神丸は火傷や傷が絶えなかったのに対し、彼女はほぼ無傷。しかも、俺たちの傷まで彼女が癒してくれるのだから、まったく頭が上がらない。

 

 俺は俺で壁をつくってモンスターの進路を誘導したり、足元に球体をつくって転ばせたりと大活躍だった。

 いや、本当に大活躍だったんだって! 神丸が戦士、七花が賢者だとしたら、俺は踊り子とか遊び人って感じ。ほら、めっちゃ優秀だろ? な?


 シエルはというと、ずっとリュックの中で寝ている。最近気づいたのだけれどシエルはよく寝る。彼女曰く、寝ている方がエーテルを溜めこみやすいらしい。たださぼりたいだけのような気もするけど、いちいち小言を言われるのも面倒なので、寝てくれていた方が楽かもしれない。

 

 そんなこんなでだいぶ距離を稼いだし、流石に今日は朝から色々ありすぎた。

 そろそろ休んでもばちは当たらないだろう。

 

 

 ――廃墟の屋内は荒れ果てており、地べたで寝るのには勇気が必要そうだった。いや、屋根があるだけでもマシと考えるべきか。

 七花も険しい顔で、なんとか寝られそうな場所を物色しているようだった。

 仕方がない、一番いい場所は彼女に譲ってあげるとしよう。お世話になってるしな。だが神丸よ、お前との寝床バトルには最後まで降りるつもりはないぜ?


 

「じゃあ、ここにテントを張るってことでいいよな? 桜井も同じテントだけど文句はなしだぜ」


「「――へ?」」


 俺と七花は、神丸が何を言っているのか理解できずに気の抜けた声を発してしまった。

 何故なら、神丸は小さなリュックしか背負っていなかったからだ。

 七花も大きめのリュックを背負っているが、とてもテントが入る大きさには見えない。俺は言わずもがなだ。

 

「俺、『魔導収納』持ってるから。だいたい車のトランクくらいの量は入る」


 神丸はそう言うと、リュックから折りたたまれたレジャーシートのようなものを取り出し、床に敷いた。

 そして、『げに愛しきは君が魂。その深淵へと繋がれ(アル・セル・ベル)』と呟くと、シートの上に複数のキャンプ用具がファンッっと出現した。

 

「神丸君、魔導収納持ってたの!? それ、5千万円以上するよね!? 私、冒険者になったらまずは魔導収納を買うのが最初の目標だったの!」

「親父のおさがりだから型は古いけどな。もし桜井が冒険者になれたら、兄貴の残したものでよけりゃ安く譲ってやるよ。……安くっつってもそれなりの値段だけどな」

「うそ!? めちゃくちゃ嬉しいんだけど! そのときは是非お願いね! 約束だよ絶対だよ! 指切りげんまん嘘ついたら針千本を穴という穴から飲~ます! 指ちょんぎった!」


 やけに物騒な約束を交わす七花と、若干引いている神丸の姿に気をとられたが、……魔導収納! この世界にはそういったものまで存在するのか。これはかなり便利だぞ。ダンジョンでのサバイバルが一気に楽になる。俺もめっちゃ欲しい。

 そういえば、神丸は父親もロゼさんも冒険者って話だから、相当な金持ちなのか。

 

「あの~神丸さん、もしお家にまだ余りものがありましたら、この私めにも……」

「断る」

「ですよね~」


 くそ、下手したてに出たら調子に乗りやがって。もう二度とお願いごとなんかしてやらないんだから覚悟しとけよ。

 

 

 神丸が部屋の4隅に謎の機械を置くと、蒼色の光の壁が発生し部屋を包み込んだ。

 魔法障壁を発生させる魔導具らしい。ある程度のモンスターならこれで防げるということだった。

 

 だいぶ日は暮れて暗くなってきたので、七花が魔法で光を灯してくれた。部屋の中をぼんやりとオレンジに照らす照明魔法だった。

 出し続けるとエーテルを消費し続けるという話なので、急いでテントを建てる。

 

「この棒ってどうしたらいいの? 俺は神丸の指示が無きゃ動けないから、しっかり指示してくれよ」

「お前さぁ……なんでそう偉そうなの? その支柱はこっちの支柱と繋げてくれ。あと同じのが4対あるはず」

「俺はキャンプって初めてだから、全然建て方が分からないの。その代わり指示くれたらテキパキ動くから」


 神丸が持ってきたテントはまあまあの大きさで、大人3人くらいなら寝られそうだった。そのぶん建てるのも少し大変で、初めての俺は神丸とあーだこーだ言い争いをしながらなんとか作業を進めていった。

 

 七花はたき火をおこして食事の準備をしている。

 火魔法で着火は容易だったが、薪に引火させるのに苦労していたようだ。

 

「おい、桜井。別にたき火はしなくていいんだぜ? 簡易コンロがあるからそれで飯は作れる」

「私もキャンプ初めてだから……折角だからたき火もしてみたいなって。だいたい、薪を持ってきてる神丸君が悪いんだよ。こんなの見たらやりたくなっちゃうじゃない。だよね、あゆむ君!」


 七花が目を輝かせながら薪をくべている。

 

「おうよ! 実を言うと俺も少しテンション上がってきててさ。これも冒険って感じだよな!」


「どっちが遊び気分なんだよ……」

 そう呆れながらも、手際よくキャンプ道具を設置してゆく神丸の表情は緩んでいて、たまに笑顔を見せるほどだった。

 

 

「床がコンクリートだから杭は打たなくてもいいか。室内だから風で飛ばされることもないだろ」


 なかなか立派なテントが完成し、3人のボルテージは一気に上昇した。

 

「私のたき火もバッチリだよ!」

「よ! たき火職人!」

 テンションが上がっている俺は寒いノリで七花にツッコむが、彼女もまた「私って、たき火の才能あるかも」とまんざらではなさそうだった。

 

「おい、お前ら食料はどのくらい持ってきたんだ? 全員のをまとめて調理しようと思うんだけど」


「私は栄養ゼリーが10個と栄養バーが10個……ごめんね、あまり料理には使えなさそう……あ、でもツナ缶は5個あるよ。あとマヨネーズも」


 栄養ゼリーとかは分かるけど、何故ツナ缶とマヨネーズだけを大量に? いや、乙女の事情にこれ以上は踏み込むまい。

 

「俺は母さんが作ってくれたお弁当と羊羹かな。あと……ひと口チーズ」


 そう言いながら、お弁当の蓋を開けてみると、中には溢れ出んばかりの()()()()()()がつまっていた。

 

 ……!? 目を見開いたまま凍り付く俺。

 な、何故お弁当の中にカレーが……!? 母さんの野郎……息子の冒険者試験という晴れ舞台になんてお弁当をよこしたんだ!

 

「……あ? え? いや……その……違うんだ。実はこれ母さんじゃなくて、俺が昨夜の残り物を適当に詰めて……」


「おお! すっげぇうまそうなカレーだな。そのカレー、俺たちも分けてもらっていいのか?」

「……あ、え? ああ、はい。みんなで分けよう」

「やったぁ! やっぱキャンプといったらカレーだよね! あゆむ君のお母さんグッジョブ!」

「いやぁ、それほどでも」


 てっきり笑われるかと思ったのに、予想に反して二人とも大喜びだ。……不思議と嫌な気持ちはしなかった。

 

「桜井の栄養ゼリーなんかは明日の俺たちの朝飯にさせてもらってもいいか?」

「うん、いいよ。それで今夜は何を作るの?」

「ホットサンドとシチュー。俺が作るから二人はたき火で休んでてくれ」



 神丸はホットサンドメーカーを取り出し、食パンと具材を挟み、焼きだした。

 パンの焼ける香ばしい空気が肺に届く。

 黙々と料理をしている神丸の横顔は本当にイケメンだった。俺が女性だったらイチコロだったに違いない。

 

 俺と七花はたき火の近くに座り、暖をとった。このダンジョンはマグマの世界なのに、不思議とたき火の熱は心をホッとさせた。

 パチパチ……と燃えるたき火を、ぼーっと眺めていると、今日一日の疲れも相まってウトウトとしてくる。

 対面の七花も、頭がこっくりこっくりと揺れている。

 何かを忘れている気もするが、眠気に負け少しだけ瞼を閉じてしまった。




 

「――あゆむ! はよ目覚めるのじゃ、あゆむ!」


 不意に誰かに起こされ目を覚ますと、ちびシエルが目の前でぴょんぴょん跳ね回っていた。

 何かを忘れてると思っていたけど、こいつのことだったわ。

 

「神丸が夕餉を用意してくれたぞ! はよ食べたいからしっかりせんか!」

 

 見ると、小さな折り畳み式のテーブルの上に、ホットサンドの山とシチューの入った紙コップ、そしてカレーが人数分よそってあった。

 七花とシエルがよだれを垂らしながらその料理を見つめている。さながら、おあずけをくらっているヨークシャー・テリアとチワワの様だ。

 

「シエル、お前ずっと寝てただろ。なんだよその偉そうな態度は」

「ふふ、何を言う。わしは旨そうな匂いにいち早く目を覚まし、ずっと神丸の料理を手伝っておったのじゃ。ぬしら二人が居眠りをかましている間にな!」


 ちびシエルが偉そうにふんぞり返っている。

 

「……すまんな神丸。さぞかし邪魔だったことだろう」

「いや、けっこう助かったぜ。シチューを温めてくれたのはそいつだしな」


 おや? 思っていた反応と違う。まぁ、邪魔しなかったのならそれでいっか。

 

「じゃあ、食べようぜ。お前らの食材も使ってるんだ、遠慮はするなよ」


 早速シエルがホットサンドに手を伸ばそうとしたとき、神丸が慌ててそれを制した。

 

「あ、すまねぇ! 行儀が悪かったな。ほら、みんな手を合わして」


 俺たちは神丸に言われるまま合掌する。すると神丸が――

 

「命に感謝! いただきます!」


 つられて俺たちも復唱した。

「「命に感謝! いただきます!」」


「……ぷっ」その神丸のイメージと異なる所作に、思わず俺は吹き出してしまった。

 七花もつられて「ハハハ!」と笑い出した。

 

「なんだよ、何かおかしいか?」

「いや、お前ってけっこう可愛いところあるんだなって」

「……馬鹿にしてるのか?」


「ぜんぜん! さあ、食おうぜ! 神丸、このホットサンドって何が入ってるの?」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ