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16 ★神丸の心象魔法『グングニル』


 直径10メートルほどの真円の試合場。

 俺と神丸は、円を挟んで真っ直ぐに対峙している。

 周りには、神丸の戦いを観戦しようと集まったギャラリーでひしめき合っていた。

 

 胸が早鐘を打っていて、一向に落ち着かない。

 俺はこれまで空手やボクシングなどの格闘技経験はない。誰かと戦うなんて初めてだ。

 冒険者に挑戦すると決めた時から覚悟は決めていたけれど、いざ本番となるとそう簡単に割り切れるものでもない。

 

「やばい、シエル。思っていたより緊張がすげぇ。心臓がバックンバックンいってる」


 リュックの中のシエルに小声で話しかけ、少しでも緊張を抑えようとする。

 

「ふむ、そうじゃのぅ……。神丸の指数は1万2千。以前、戦ったマグマの獅子は4万5千じゃった。そう考えると奴は遥かに格下じゃ。どうじゃ、楽勝だとは思わぬか?」

「あの時はほとんどお前が戦っただろ?」

「じゃが、ぬしがおらんと勝てんかった。二人の勝利じゃ」


 シエルはそこで一拍置き、いつになく真剣な声で告げた。

 

「あゆむは、この試合をキャンバスにして、己の思い描いた絵を存分に描くが良い。わしがちゃんと見ておいてやる」

 

 ……そっか、そうだよな。俺の魔法は絵描きの魔法だ。これは格闘技じゃない、俺の『ライブペイント』なんだ。

 なら、俺は高校生ごときに負ける気はしないね。

 

 俺は両手で頬を「バチンッ!」と叩いた。痛みで気合が入る。

 

「サンキュー、シエル。おかげで緊張とれたわ」

「当然じゃ、バディじゃからな。それにぬしが冒険者になってくれんと、わしも箱舟に行けんからのう」

「ったく。それが本音かよ」


 呆れたように返しつつも、俺の口元は自然と緩んでいた。



「おい、六条麦、お前リュックを背負ったままでいいのか?」


 審判の声に振り向くと、あの後藤さんだった。

『特等席で楽しませてもらう』ってのはこういうことか。


「はい、こいつは俺の式神なんで」

「お前がそれでいいなら許可するけどよ、リュックを背負ってるから負けました、なんてのは通用しないからな」

「大丈夫、俺、負けないんで」


 後藤はフッと笑みを浮かべ、俺たちの顔を交互に見据えた。そして――。

 


「両者、前へ」



 試合場の中央。

 審判である後藤の声に促され、俺と神丸は一定の距離を保って対峙した。

 


「改めて言うが、俺は心象魔法アニマ・グラフは使わない。基本魔法だけでお前を圧倒してやる」


 神丸は俺を冷たい視線で見下し、自らハンデを宣言した。

 ラッキー、ラッキー。典型的な若さゆえの慢心ってやつだ。

 人生を懸けた勝負なのに、全力で立ち向かわないのは愚か者のすることだ。

 

「手加減してくれて助かるよ。怪我したら痛いからね」


 俺がひょうひょうと返すと、神丸はギリッと歯を鳴らした。

 

 

「始め!」



 後藤の号令と同時に――「アクセス!」俺の万年筆が、空中に『壁』を描く。

 次の瞬間、視界が紫色の閃光に塗りつぶされた。

 

「――ッ!?」


 俺の動体視力では、神丸の動きは『線』ですらなく、ただの『瞬間移動』に見えた。

 一瞬で間合いを詰められ、紫電を纏った拳が鼻先まで迫る。死のイメージが脳をよぎる。

 だが――俺はすでに指を鳴らしていた。描いていた壁が鼻先に具現化される。


 ドゴォォォォンッ!!


 壁越しに凄まじい衝撃が伝わる。

 

 プライドの高い奴のことだ。初手は「身体強化で距離を詰めての直接攻撃」か「遠距離から魔法を放つ」の二択であろうと予想していた。だとすれば、どちらが来ても、先読みでの『置き壁』で対処できる。

 

「……くそッ! 壁だと!?」


 神丸が驚愕に目を見開く。

 本来なら、猛スピードで壁にぶつかればタダではいられないはずなのだが、あまりダメージはなさそうだ。

 

「奴の動体視力はかなりのものじゃ。すんでのところで急ブレーキをかけよった。さらに肉体に常時『魔法障壁』を展開しておる。隙をつかねばダメージは与えられぬかもしれん」


 シエルが解説してくれる。なるほどね、指数1位は伊達じゃないってことか。

 

 神丸は一瞬で距離を離し、全身に紫の電光を溜めだした。

 俺はすぐさま2枚目・3枚目の壁を並べて展開した。

 

 神丸が指先をこちらに向け、パチンッ! と指を弾く。

 瞬間、空気を引き裂き数条の雷光が走った。遠距離からの魔法攻撃だ。


 雷光は壁に直撃して激しい紫電を散らしたが、1枚目をあっけなく溶かし破ると、その勢いのまま残り2枚も粉々に砕き散らした。

 その衝撃で、俺は会場の端まで吹き飛ばされる。

 

「うわぁぁッ!! ……いてて」


 やばい、体勢が崩れた!

 神丸のやつ、近距離より遠距離の方が強くないか? てっきりあいつの性格からして近距離型だとふんでいたんだが……。

 だが、奴の遠距離魔法は威力が高いぶん、連射はできなさそうだ。ってことは――。

 

「あゆむ! 来るぞ!」


 ――俺は急いで、全力で横に転がる。

 

 ドォォォンッ!! 一瞬の差だった。上空から神丸が紫電を纏った右拳を打ちおろしてきた。

 床が砕け、破片が目の前を飛び散る。

 ほんとやばい! 当たったら死ぬ! けど、だからこそ――。

 

 その流れのまま、神丸は紫電を纏った左拳で俺を捉えようとする。

 これを待っていた! この追撃を予想していた俺は、回避と同時にすでに『空中に絵を描いていた』。

 砕けた床の土煙が目隠しになって、奴は気づいていない。「パチン!」と指を鳴らす。

 

 迫ってくる神丸の胴体、そして両足首に、『ドーナツ状の拘束輪』を具現化した。


「……なッ、身体が……!?」


 神丸は2つの拘束輪に自由を奪われ、盛大に転がった。

 

「チャンス!!」


 さらに俺は、奴の真下の床に三つ目のオブジェを叩き込む。


「昇れ――『垂直円柱』!」


 ズガァァァンッ!!

 

 神丸の足元から、高さ3メートルの巨大な円柱が、一瞬で垂直に突き上がった。

 

「ガハ……ッ!!!」


 拘束され踏ん張りの効かない神丸は、円柱が突き上げる勢いそのままに、一気に高さ5メートルの空中へと放り出された。


「……うざいんだよッ!!」

 神丸が空中で全身の紫電を一気に爆発させると、すべての拘束輪は砕け散った。そして体勢を立て直そうとする。

 だが、俺は床から突き出している円柱を、一瞬で削除。

 

 すかさず、空中にいる神丸の頭上に、全精神エネルギーを込めた『一辺2メートルの巨大立方体』を描き込み、具現化させる。

 5メートルの高さから自由落下する、巨大な立方体。

 巨大立方体に上から叩き落とされ、体勢を立て直せないまま、神丸はそのまま地面へと――。



 ズドォォォォォォォンッ!!!!!



 アリーナ全体が地震のように揺れた。

 立方体が神丸を地面へと押し潰し、大量の土煙が舞い上がる。

 

 5メートルからの自由落下が生んだ圧倒的な速度と、巨大な立方体の質量。

 いかに魔法障壁があろうとも、地球そのものが牙を剥く「物理法則」の暴力は防ぎきれまい。


「……やるねぇ。六条麦の心象魔法アニマ・グラフは応用力がすさまじいな」

 二人の試合を見ていた後藤が思わず漏らす。


 土煙が晴れると、巨大な立方体に押し潰され、地面に縫い付けられた神丸の姿があった。

 その口の端からは一筋の血が流れ落ちている。


「よっしゃ! シエル、勝ったぜ!!」

「まだじゃ、気を抜くな!」



 次の瞬間、立方体が激しい雷光と共に砕け散った。

 


 そして、全身に紫電を纏った神丸がゆっくりと立ち上がった。

 神丸は口元から流れる血を乱暴にぬぐう。

 

「……先に謝っておく。すまなかった、お前を舐めすぎていた」


 何かがやばい。今までの神丸とは明らかに雰囲気が違う。屈辱に塗れたその瞳には、明確な殺意が宿っていた。

 


「アクセス」



 神丸は低く呟くと、右腕を前方に突き出した。

 その右腕に周囲の紫電が異常な密度で収束していく。

 紫電の奔流によって、右腕に巨大な()()が生成されていく。

 試合場全体がバチバチと凄まじい放電で包まれた。

 

「あゆむ! あれは危険じゃ! 顕現される前にくい止めよ!」


 俺は慌てて神丸の上空に立方体を描いて落下させるが、奴を守るように吹き荒れる周囲の紫電がすべてを砕いてしまう。

 すかさず下から突き上げる円柱も描いてみるが、こちらも紫電によって一瞬で砕かれてしまった。

 奴の放つ雷の出力が、すでに俺のオブジェの耐久力を完全に上回っているのだ。

 

「なんて出力だよ……」

 

 やがて、紫電の奔流が一気に収束し、強烈な光を放って弾けた。

 神丸の右腕には、紫電を纏った巨大な重火器が『装着』されていた。それは肘から先をすっぽりと包み込んでいる。


 一体あれはなんだ? ライフルでもガトリングでもない……まるでSF映画に出てくる『陽電子砲ポジトロンライフル』のようなバカでかい砲身だ。

 


「俺も全ての力を出し切る。全身全霊でお前を倒す」


 神丸の周囲には激しい雷の嵐が吹き荒れ、近づくことすら難しい。

 

 

「これが俺の心象魔法アニマ・グラフ――【グングニル】だ」





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