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ただいま

読者の方には申し訳ないのですがストーリーの大改変を行う意向を固めたので、エピソード7からストーリーに変更が加わります。

混乱するとは思いますが、頑張って食いついてきてください。ファイト❤︎

「ただいま帰りました〜!」


 ヒーニアが大扉を強く開け放つ。返事はない。


 薄暗い大聖堂の中に足を踏み入れた途端、僕はあるものに目を奪われた。


 高い天井を支える四本の石柱の奥、左右に分かれた階段の先で、巨大なステンドグラスが太陽を乱反射させて輝いていた。


 描かれているのは、純白の布を深くかぶり杖を抱いた人物。おそらくは女性だ。

 微かに上がった口元は、人のあらゆる罪を許し見守っているように見えた。


 薄暗いギルドの中が、このステンドグラスを引き立てる舞台のようにすら思える。けれど……


 ステンドグラスから目を落とした途端に、僕は我に帰った。


 汚い。


 四つの柱のど真ん中に、ドンと主張強く置かれた長机。

 その上や周りには物が無造作に投げ捨てられている。剣やら杖やら酒樽やら、なんなら食べかけの食事まで放置されてる始末。


 せっかくの綺麗な内装が台無しじゃないか……。


 僕は、ギルドの中がステンドグラスを引き立てる舞台なんて言ったことをさっそく後悔した。


 その時、女神の写されたステンドグラスに影が入った。


 何やら人のシルエットで起き上がった様子のその影に、ヒーニア達は近づいていく。


「ボスー!ヒーニアが帰りましたよ〜!」


 階段の手前まできたところで、ヒーニアが大きな声で影に向かって叫ぶ。


「酒乱女め、また酔い潰れてたな」


 ヴィルが呆れっぽい視線を向けた。

 すると、その影は手すりに寄りかかるように身を乗り出して、


「水ぅ……」


 それだけ言って、また項垂れた。


 ステンドグラス越しに通る陽光によって、その影に光が入る。


 露わになったそれは、全裸の女だった。


 艶めく褐色の肌。傷跡の目立つしなやかな体躯に長い赤髪。そして何より目を引くのは、額から生えた真紅の角。艶やかな輝きを放つその二本の角は宝石のように透き通るような美しさを持っていた。


 しかしその全ては、手に持った酒瓶と涎を垂らしたゆるい口元のおかげで台無しなのだが。


「あちゃ〜、これはひどい。どうしましょう、ボスをこのままにしておくわけにもいきませんし……」


 キョロキョロと辺りを見回して、ヒーニアが困ったように漏らす。


「他の奴らも出払ってるみてーだ。チッ、めんどくせぇ」


 頭をガシガシと掻いて、ヴィルが階段を上がっていく。

 苛立っているようで、その足取りは乱暴だ。


「ボスって言ってたけど、あれって……」


 僕は全裸の女を指差す。


「フーリギルドのギルドマスター。バーゼリア・エンリさんです。酒好きなので、朝まで飲んではいつもこうして酔い潰れているんです。ここまで酔ってるのは久々な気もしますが……」

国家会議(エンタム)がちけーからな!やけ酒だろ、ったく。おいバーゼリア!!」


 階段を上がったところで、ヴィルがバーゼリアに向かって怒鳴り声を上げる。


「う〜ヴィル。貴様の声は鼓膜を直接ぶん殴りにくるな……。ぶん殴りボイスだ。略してぶんボだな。ぶんボ……ぐぅ…………」

「誰がぶんボだ!!寝てんじゃねぇ!!」


 酒瓶を抱いて眠るバーゼリアには、ヴィルのぶんボも小鳥のさえずりくらいにしか聞こえていない様子。あれは長くかかりそうだ。


「ここはヴィルに任せて、私たちは別の目的地へ急ぐとしましょう!」


 見上げた視線を戻して、ヒーニアは僕の手を引いた。


「別の目的地って?」

「それはまだ秘密です」


 人差し指を口元に当てる仕草。


 ヒーニアの軽快な足取りは、左右の階段の間にある巨大な鏡に向いている。

 その鏡には何も映っておらず、闇だけが蠢いていた。


 まさかこの中に入るのか?


 一抹の不安がよぎる。


「お、おい、待てっ!」

「何を躊躇いますか!ほらっ!行きますよ!!」

「おわっ!!」


 ヒーニアは僕の手を強く引いて、迷いなく鏡に飛び込んだ。


 視界が闇に飲み込まれる。

 落下感。耳鳴り。血液が逆流するような感覚。


「くっ……」


 光が差した。僕は恐る恐る目を開く。


 そこは、赤いカーペットが真っ直ぐ伸びた廊下だった。右手にある窓の外からは、広い庭園が見える。まるで城の中なんじゃないかと錯覚するほどの、純白で気品のある景色だ。


 だけど違和感があった。


 僕の記憶が確かであれば、ギルドの周りは庭園ではなく広場になっていたはず。それにこんな長い廊下も、あの外観からはあり得ない。


 不思議な空間を前に困惑していると、僕の手がまたグイッと引かれた。


「うわっ」

「ほれほれ〜!止まってると置いて行っちゃいますよ!」

「……この場所は?」


 やけに上機嫌なヒーニアを半眼で睨みながら、僕は先ほどの疑問をぶつける。


「おやおや〜!気づきましたか、ここが先ほどとは異なる場所ということに!」


 ニヤニヤとした笑みを浮かべて、ヒーニアは振り返った。


「ここは神であるフーリ様が、権能で創造した幻想空間。今通ってきた鏡はここと現実空間をつなげるトンネルになっているんです!」

「へぇ」


 両手を広げて、自慢げだ。


 神フーリ。確かヘイルフェンを守護する神の一柱……だったか?


「汚染域活動の要である『加護』や幻血獣(クリムゾア)に有効な力の『祝福』。それらの権能を持つフーリ様は、綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)にはなくてはならない存在なんです。分かって頂けましたか?」

「……ま、ちょっとは見直した」

「なんであなたが上からなんですか。やはり罰当たりです」


 ぷくっと頬を膨らませて、ヒーニアは僕を睨んでくる。


 そんな目を向けられても、仕方ない。僕は加護なしで汚染域に入れていたからまだ神様の恩恵を実感できていないんだ。


「僕は神様要らずみたいだからな。上も下もない」

「ぐぬっ……!ジンも綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)になればきっと……あ、そうです!ジンもフーリギルド所属の綺麗好きな冒険者(ラインリッヒ)になりましょう!そうすれば食いっぱぐれることはありませんし、神様との距離もグッと近くに────」

「勧誘はお断りだ。それに僕は、ヒーニアたちみたいな大義を抱えているわけでもないし」


 目を輝かせるヒーニアをそう一蹴して、赤いカーペットの上を急ぎ足で進む。


「あ、ちょっと待ってくださいよー!!」


 廊下を渡る最中、ふと僕は思う。


 神の権能と汚染。相対する力と力。神でしか対抗できない力になぜ、僕は……僕たちは……何も持たぬままそれに抗えていたんだろう。

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