表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/13

信じて欲しい

「それで?大図書室をこんなにしたのはあんた?」


 部屋の中をグルリと見渡して、レフィが呆れたようにため息をついた。


 物が散乱した床に、傷だらけになった本棚。筒のような形をした吹き抜けの空間は、台風が過ぎ去ったのかと思うほどに荒れていた。


 弁償という言葉がチラつく。言い訳を考ようともしたが、すでにエイナに事情を話していたことを思い出して諦めた。


「魔術に没頭してたらつい……」


 きまりが悪くなって、僕は視線をそらす。


「ついって……あんたね!こんなとこで魔術を撃っちゃダメなことくらい分かんないの!?」

「……すまん」


 ごもっともなお叱りに、ぐうの音も出なくなる。

 夢中になるとは怖いものだ。


「エイナ!あんたからもなんか言ってやんなさい!!」

「んええ?え……えっと……」


 叱る。という行為に明らかに慣れていない様子のエイナは、僕の体を下から上へと眺めた後、


「んん……こ……こらっ」


 目一杯背伸びをして、僕の額をコツンッ、と控えめに叩いた。


 軽くデコピンされた感じだ。正直まったく痛くないのだが、レフィに目をやるとまだ納得いっていない表情をしていたため、とりあえず痛がっておくことにする。 


「イタタ……」

「私の顔色伺ったのバレてんのよ!!ったく、もっと強く叱らないとダメじゃないエイナ」

「あう……で、でもどうせ直るんだし……」

「それでも毎回こんなことされてたらたまったもんじゃないわ!」


 レフィがキッ、と責めるような視線を向けてくるが、それよりも僕はエイナの言葉が気になった。


「直るのか?」

「は……はい……。幻想空間は破損箇所を自動修復するから……明日にはここも元通りになってるはず、です」


 自動修復……。なら弁償も必要ない!?


「セーフ……」


 僕は安堵のため息をついて、額に滲んでいた嫌な汗を拭った。


「な〜に清々しい顔してんのよ!」


 グイッとレフィが顔を近づけてくる。


「元に戻るって言ってもしばらくはこのままなんだからね!二度としないで」

「り……りょーかい……」


 鼻息が当たるくらい近くなったレフィの圧に、僕はたじろぎながら頷いた。


「ふん」


 レフィの体が離れる。


 こいつを怒らせるのはやめておこう。僕はそう心に決めた。


「そういえば……ジンさんは異世界人なんだよね……?いつから魔術の練習を始めたの?」


 エイナが興味深そうに上目遣いを向けてくる。


「昨日からだけど?」


 正確には昨晩からだが……なんだろう、なぜかエイナが目を丸くしている。


「何を隠しているか知らないけど、正直に言っておいた方が身のためよ」


 レフィが脅すような口調で言った。


 本当のことを話した。それなのになぜか、レフィは僕を疑っている様子。


「どういうことだ?」

「一晩鍛錬しただけで魔術を撃てるわけないもの。嘘をつくってことはやましいことがあるんじゃないでしょうね」


 レフィの表情から一気に軽快の色が濃くなる。腰のナイフにまた、手が添えられた。


「待ってくれやましいことなんてない!使えるのはまだ一つの魔術だけだし、撃ったのも10回程度だ!!」


『異世界のすゝめ 〜魔術について〜』


 あの本に書かれていたのは魔術の構成要素と、等級。そして等級ごとの、多くの魔術の使い方が書かれていた。


 僕は昨晩、それの一番初めのページにあった魔術を試行錯誤しながらなんとか会得した。

 だがこれは、レフィの言う『一晩の鍛錬で魔術は使えない』その前提が僕には通用しなかったことになる。でも事実なんだ。


「本当でしょうね」


 手はナイフに添えたままで、レフィが顔をズイッ、と近づけてくる。


「ひ、ヒーニアとヴィルに聞いてくれ。あいつらと一緒にこの街に来た」

「……そ。それじゃ聞きに行く」


ふいっ、とレフィの視線が外れる。


「そこは信じてくれる流れだろ……」

「バカ言わないで。ただでさえ物騒な世の中なのよ、あんた見たな怪しいやつ疑わないわけないでしょ」


 レフィはどこか不機嫌そうにそう言って扉の方へ歩いて行く。

 

「ヒーニアと真逆でおっかないな」


 レフィの後ろ姿を見つめながら、その警戒心の強さに僕は思わずこぼした。


「優しいんだよ本当は」


 ふと、僕と同じようにレフィを眺めていたエイナが言った。


「でもレフィちゃんはそれを隠したがるから……」


どこか寂しそうな目。

言葉の続きは大体予想がつく。


「嫌われやすいのか?」

「……うん。レフィちゃんはそれでいいって言ってるけど、私は優しいレフィちゃんが嫌われちゃうのは悲しい」


 ……エイナは優しい。友達の悪口でちゃんと不安になれる人だ。


 だけど、彼女のそんな願いとレフィの気持ちは真反対にある気がした。


「レフィは、エイナが思っているより君に依存しているのかもな」

「え?」

「あいつ、エイナが泣いていたのを見た瞬間に俺を殺そうとしただろ?余程の仲じゃないとそうはならないと思う」

「……それなら、いっか」


 そう、依存は悪いことじゃない。寄りかかるものがあることはいいことだ。それを失った時が辛いだけで。


「いつまでそこいんのよ!早く来ないと閉めるからね!!」


 片方だけ開いたドアから、レフィが怪訝な顔を覗かせて叫んできた。


 これ以上不機嫌にさせると面倒臭そうだ。仕方ない。


 小さく嘆息をついて、僕は未だ座ったままでいるエイナに手を伸ばした。


「はえ?」


 僕の手をエイナが不思議そうに見つめる。どうにもこの子は察しが悪い。


「行かないのか?」

「っ!!い、行く!!」


 そこまで言って、やっとエイナは僕の手を取った。


 包むようにして握られた両手を僕は引っ張る。

 長い前髪から覗いた宇宙色の瞳が、少しばかり輝いて見えたのは気のせいではないだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ