レイナ=ヴォルテックスについてその2
レイナ=ヴォルテックスは、かつて「光炎の魔女」と呼ばれた魔法の天才だった。王国軍魔導部隊副長として数多の戦果を上げ、その実力は若き魔導士たちの憧れの的でもあった。
しかし、どれほどの天才であっても「完全な分身魔法」は至難の業。レイナ自身も一度はその魔法を「神の領域」として諦めていた。だが、彼女にはやらねばならない理由があった。
クラウスの屋敷――レオンの実家――。追われる身となった彼女を匿い、剣と魔法の再鍛錬の場を与えてくれた恩義。その恩を忘れることはなかった。
やがて彼女はレジスタンスを創設し、団長として各地を飛び回る必要が生じた。屋敷に滞在する時間はどんどん短くなっていく。そこでレイナは、自らの限界に挑む決意をする。
そしてついに成し遂げた。「自分と同一の魔力波を持ち、外見・言動・思考すら模倣できる完全なる分身」――それは単なる幻影や人形ではない、まさしく“もう一人の自分”だった。
更に彼女は、その分身に変装魔法を施し、屋敷の使用人として仕える姿に変えた。分身とは意識の一部を通じて常時接続しており、レジスタンスで得た情報も、レオンたちの訓練の進捗も、すべてリアルタイムでクラウスへと伝えられていた。
「クラウス様には、私が命を拾われた。その恩は決して忘れません」
分身の姿で微笑むその顔は、真実を語らぬまま、レオンたちの成長を静かに見守っていた。
---
だが、どれほど完璧に見える魔法であろうと、そこには“綻び”があった。
レイナが生み出した「完全なる分身魔法」。外見、声、魔力量、思考すらも本体と一致するよう設計されていた。しかしその内部構造には、やはり不自然な“魔力の流れ”が存在していた。
魔力とは、本来生物の内から外へと絶え間なく循環しているエネルギーである。だが、分身体における魔力の流れは「外部から注ぎ込まれたものが滞留している」ような、どこか人工的な波動を含んでいた。
この違和感は、一般人には決して気づけない。だが、リュシェル――魔神教団の筆頭魔術師であり、精霊術すら応用するその女にとっては、まさに“異質の存在”として即座に認識されてしまう。
ゆえに、レイナの分身体を士官学校に送り込む案も一度は検討されたものの、却下された。
「教団には、リュシェル以外にも〈見通しの魔眼〉や〈波動感知〉を持つ者がいる。あの場所で正体を見破られれば、それこそ全員が危険に晒される」
それがレイナの判断だった。
ゆえに、彼女の分身はクラウスの屋敷の結界内――安全が保障された場に限って活動していた。あくまでレジスタンスと屋敷の“情報の橋渡し役”として。
「それでも十分。今の私は、レオンたちの未来に繋ぐ“橋”であるべきだわ」
それが、光炎の魔女と呼ばれた一人の天才が、自らに課した静かな使命だった。
---




