第99話 古代マヨ文明
一方その頃、ウィルはハスターとミツハ、そして駄々をこねてついてきたカルデと共に飛行魔法でハイエンのいる牧場へと向かっていた。
「はぁー、カルデは絶対余計な事しないで下さいね!」
「さっきからわかっていると言っているだろう?手は出さんから安心しろ。」
「そんな事言って、この間だってポルタの浜辺に大量発生した軍隊ヤドカリの討伐についてきたと思ったら、いきなり神級魔法をぶっ放して浜辺を入江にしちゃったじゃないですか?元に戻すのかなり大変だったんですからね!」
「あ、あれは変なゲジゲジの虫がいきなり我の足にくっついてきたのが悪いのだ!」
「それにその前は石材場で石を切り出すのを手伝ってやるとか言って、山の一角を吹き飛ばして危うくメイソンさん達を生き埋めにしかけたじゃないですか?本当に大人しくしてて下さいよ!」
「ウィル、しつこいぞ!我だって良かれと思って手伝おうとしているのだ。それをまるで邪魔者みたいに言うとは、神を邪険に扱うとバチが当たるぞ!」
「良かれと思うなら大人しくお茶でも飲みながらゆっくりしてて下さいよ。苦情を受けるのは俺なんですから。」
ウィルが愚痴りたくなるのも無理は無かった。
カルデがフレイに滞在してからというもの、その悪気のない破天荒な行動によってウィルの元にはほぼ毎日と言って良い程、カルデ絡みの苦情が寄せられていた。
そんな苦労を察したハスターはウィルの横まで行くと、その肩をポンと叩いた。
「坊主、お前若いのに随分と苦労してるんだな…。さっきはすまん。」
「いえさっきは俺もズケズケと偉そうな事言ってすみませんでした。でも、本当にカルデは目茶苦茶やるんで大変なんですよ?フレイに初めてきたあの日だっていきなり修繕したばかりの館の屋根を吹き飛ばして出た言葉が、このボロ家はどうしたんだ?ですよ!?そりゃあ、ゲンさんも泣きますよ!それから…ブツブツ…。」
「た、大変だったな…。」
ウィルが溜まりに溜まった愚痴をハスターに吐き出していると、面白くなさそうにふてくされるカルデに気付いたミツハが話を遮った。
「ま、まあまあ、ウィル様。カルデ様も反省してますし、それくらいにしてあげて下さい。」
「はぁー、わかりましたよ。それにしても、この前のポテット山の古代遺跡といい、今回の古代遺跡といい、そもそも古代文明って何なんですかね?」
「なんだ?ウィルは古代マヨ文明を知らないのか?」
「はい。学校では習いませんでしたし、前世の記憶にも古代文明に関するものはありません。」
「確かウィル様は初級普通学校でしたよね?それなら知らないのも無理はありませんね。古代マヨ文明は上級以上の学校でないと習いませんから。ただ、それもざっくりとしたもので、詳しく知るには王宮魔導士団や国の研究機関に所属するしかありません。」
「それじゃミツハさんも詳しくは知らないんですね?」
「はい。ワタシの場合、そもそも古代文明の拷問に関する部分しか興味がありませんでしたので、それ以外はサッパリです。」
「ははは、そ、そうですか…。ハスターさんはどうですか?」
「まぁ王宮騎士団にいた頃は任務の中で古代文明に触れる事はあったが、所詮は研究機関じゃねえからな。学校で習った事に毛が生えた程度だな。」
「そうなんですか。カルデは当然知ってるんですよね?」
ウィルが後ろを振り向くと、そこでは待ってましたと言わんばかりにドヤ顔をするカルデがいた。
「コホンッ!それなら我が無知なおぬしらにマヨ文明の説明をしてやろう!但し…。」
「いや、遠慮しておきます。」
「なっ!?何故だ!?」
「どうせ教えてやる代わりにフレイに置いてけぼりにしようとした事を謝れとか言うんでしょ?」
「うっ!?な、何故わかった!?」
「その顔見れば誰だってわかりますよ。俺は謝りませんからね。俺は別に苦情が来るのが嫌とか意地悪で留守番をお願いした訳じゃないんです。万が一、大事なカルデの身に何かあったら大変だと思ったから留守番をお願いしたんです。」
ウィルの口から何気なく出た、大事なカルデという言葉にハスターが口笛を吹くと、みるみるうちにカルデの顔が真っ赤に染まっていく。
「…大事?い、今、だ、だ、だ、大事なカルデと言ったか?」
「えっ?言いましたけど…!?あっ、こ、これは別に深い意味は、カ、カルデは神様だから、そのなんというか…。」
「し、仕方ないな!こ、今回は特別にマヨ文明について教えてやろう!」
ウィルの言い訳など既に舞い上がっているカルデの耳に届く訳もなく、カルデは古代マヨ文明について語り始めた。
天地界がまだ天界と地上界に分かれていた遥か1万年前、地上界には大小200以上の国々が存在し、領土や領海、食料や水、宗教や種族、様々な事を理由に人々は争い続けていた。
しかし、長きにわたり続いた争いによりいつしか人々は貧困に喘ぎ苦しみ、心が蝕まれ、自分達が何の為に争い続けているのか分からなくなる程に疲れ果てていた。
そんなある日、東方の小さな島国であるマヨ王国で生まれたのが、ネーズ・キュピダム・マヨリースという女の子だった。
ネーズは生まれて10日で成人し絶世の美女へと成長すると単一世界論という、国が1つしか無ければ争いは起きないという思想を唱え、生まれながらに有していた未来を見通す事の出来る第3の目と、今の天地界には存在しない天属性の強大な魔力を用いて地上界を統一すべく歩み出した。
そして、生まれてから30日後にはマヨ王国の王となり、さらに100日後には6人の英雄を従え地上界の半分を支配すると、それからさらに100日後には12人の英雄を従え地上界全てを統一した。
その後、マヨ王国はネーズの善政の元、栄華を極め以降1000年は争いの無い平和な日々が続いた。
ネーズは驚く事に老化する事なく1000年を生き続け、またネーズに仕えた12人の英雄達も不老の魔法をかけられ歳を取る事はなかった。
しかし、ネーズが地上界の統一を果たしてから1000年目に事件は起きた。
天界の神であったガイアスが掟を破って地上界へと下り、ネーズと恋に落ち、間も無くして2人の間にチャップという名の男の子が生まれた。
それを知った天界を統べる王であると共にガイアスの妻だったカオスは激怒し、ネーズの目の前でガイアスを八つ裂きにした。さらにはネーズとチャップを殺すべく地上界に宣戦布告し天地大戦が幕を開けた。
大戦は熾烈を極め、大地は裂け、海は干上がり、天は堕ち、先の見えない戦いは2000年続き、いつしか天界も地上界も崩れ落ち1つの世界になっていた。
そして、そんな2人の戦いについて行けなくなった6人の属性神と勇者ラインハイゼンを始めとする地上界の人々は魔界にいた6人の魔王に協力を求め、ネーズとそれに仕える12人の英雄を倒し、カオスは激戦の末、亜空間へと封印したのだった。
こうして、マヨ王国は滅亡し、6人の属性神は天界と地上界が崩落して出来た世界を天地界と名付け、生き残った人々と共に6つの国を作り共存し始めたのだった。
カルデが話し終わる頃には遠くにハスターの牧場が見えてきていた。
「ふぅー、まぁこんな所だ。我もその頃の記憶は何度も記憶の引き継ぎをするうちに薄れてしまって憶えていないから、ほとんど王宮魔導士団の書庫にあった古い文献の受け売りだがな。」
属性神は死ぬとその記憶と力が神代へと引き継がれ新たな属性神が誕生するが、記憶自体は通常の記憶と同じように時が経つにつれ薄れる為、何十回も記憶の引き継ぎを行って来た今のカルデに数千年前の記憶が残っていないのは無理もなかった。
「へぇー、そうなんですか。それにしてもツッコミどころ満載の話ですね。ちなみにチャップはどうなっちゃったんですか?」
「ああ、確かネーズが戦いに専念する為に20歳で王位を継承したんだが、すぐに病で死んでしまったらしい。」
「なるほど、今度、俺もラムさんにお願いしてマヨ文明の文献読ませてもらおうかな。…あっ!あそこに見えるのがハスターさんの牧場ですか?」
「ああ、何か掘っているな。」
ハスターが牧場の西側を指差すとウィルは眉を顰めた。
「あれは…農奴を使って掘らせているのか?女の人や子供もいる。隠していたのか?とりあえず、降りてみましょう。」
かくして、ウィル達はハイエンのいる牧場へと到着したのだった。




