第100話 罠
グリドール達は発掘現場で見つかった墓の入口から中に入ると、地下へと続く細い階段を通過し、古代文字が刻まれた大きな扉のある石造りの部屋に来ていた。
「これは古代文字か?誰か読める者はいるか?」
ハイエンの問いかけに同行している自警団員達から古代文明の事すら知らなかったのにそんなの読めてたら自警団なんかに入らねぇよという空気が流れる中、グリドールは興味深げに前に出ると扉に刻まれた文字を読み始めた。
「これは古代マヨ文明の撹拌文字だな。
ここに眠るは偉大なるネーズ王の僕にして、天に抗いせし英雄であるスタードマ・イエロン・カラーシャの生涯唯一の愛弟子である。
その名は、オデッカ・ケーデン・スカラベヤン。
ゆりかごを荒らせし邪の者いれば、その魂はスカラベヤンの呪いによって、輪廻を巡る事も混沌を漂う事も許されず、永遠の苦しみを味わう事になるだろう。
スカラベヤン?聞いた事ねぇ名前だな。」
スラスラと扉に刻まれた文字を読むグリドールにモーガンを始めとする周囲の者たちから驚きの声が上がると、それを遮るようにハイエンが声を荒げた。
「おい!貴様、ここはチャップ王の墓ではないのか!?」
「ああ、違うみてぇだな。確かカラーシャはネーズ王に仕えた12人の英雄の1人だが、まさかその弟子の墓だとはな。なんでここがチャップ王の墓だと思ったのか知らねぇがちゃんと裏を取った上で発掘してたんじゃねぇのか?フッ、お粗末だな。」
「き、貴様!なんだその態度は!?私をバカにしているのか!?」
鼻で笑うグリドールに頭にきたハイエンが顔を真っ赤にしながら詰め寄ろうとするが、すかさずモーガンが2人の間に割って入った。
「ま、まあまあ、ハイエン様、コイツの態度のデカさと口の悪さは今に始まった事じゃないんで、多めに見てやって下さい。」
「チッ!今は役に立つようだから許してやるが、今後は気を付けるんだな。それで、ここがチャップ王の墓ではないというのは本当なのか?」
「ああ、扉にはそう刻まれているしな。それに王の墓にしちゃあ、この扉は質素過ぎる。」
「そうか、チャップ王の墓で無いのは残念だが、コイツの言う通り英雄の弟子の墓ならそれなりに古代文明の宝があるかもしれん。モーガン、扉を開けろ!」
「わかりました。お前らも手伝え!いくぞ!せーの、ぐぐぐぐぐっ!でやぁぁぁぁぁ!!!」
『ゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!!』
掛け声と共にモーガン達が扉を押し開けると、そこには茶褐色の石造りの数十畳はあろうかという部屋があり、正面と左右の3方向に続く通路が見えた。
「おお!かなり広いな。それにしても陽の光がある訳でもないのに、なんでこんなに明るいんだ?」
ハイエンが辺りを見回していると、壁の所々に嵌め込まれているぼんやりと光る石が目についた。
「んっ?あれは…蛍光石か?」
蛍光石とはその名の通り、ぼんやり光を放つ天然の鉱石であり、発掘量はそこまで多くない為、地方の城塞都市の名主であるハイエンにとってはそれなりに希少な代物だった。
「ふふふっ、これだけでもかなりの金になるな。よしっ、通路が分かれているから、手分けして探索をするぞ。グリムと言ったな?お前と団員3人は私について来い。正面の通路を行くぞ。
カーサとモーガンはそれぞれ団員4人を連れて、左右に続く通路の探索をしろ。
」
「わかった。アタシは右の通路を行くから、モーガンは左の通路を行きな。」
「おう、わかった。」
カーサとモーガンが左右の通路へと消えていくと、ハイエンもグリドール達を連れて正面の通路へと歩みを進めるのだった。
ハイエン達と別れたモーガンはハリーと3人の団員を連れて、大人5人が横並びで歩いたとしても十分に余裕のある広い通路を進んでいた。
「一体、この通路はどこまで続いてるんだ?」
しばらくモーガン達が進んでいると、先頭を行くハリーが声を上げた。
「モーガンさん!この奥、部屋になっているみたいです!…んっ?何か見えます!」
ハリーが目を凝らすと部屋の中にある祭壇の上には金色に光り輝く棺があり、それを取り囲むように赤地に金色の装飾が施された箱がいくつも置かれているのが見えた。
「あれは棺です!宝箱もあります!」
「おっしゃあ!この通路が当たりだったみたいだな!行くぞ!」
興奮を抑えきれずモーガン達が急ぎ足で通路を抜けると、金色の壁一面に撹拌文字が刻まれた部屋に出た。
「こりゃあ、すげーな!金ピカじゃねぇか!?」
「モーガンさん、やりましたね!まずはハイエン様に報告ですね?」
「いや、それはちゃんと棺と宝箱の中身を確認してからだ!中身が空っぽじゃあ話にならないからな!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!こういう宝箱にはワナが付きものだって騎士学校で習いましたよ!ほらっ、入口の扉にも不気味な言葉が刻まれてたじゃないですか!?」
「なんだ?ビビったのか?それならお前はハイエン様の所に行って知らせてこい!オレ達はここに残って棺と宝箱の中身を確認するからよ。」
「ビビってなんかいませんよ!わ、わかりました!僕も一緒に中身を確認します!」
「よし!それじゃお前ら、まずは宝箱からだ!」
モーガン達はそれぞれ宝箱の前に立つと一斉にフタを開いた。
『ギィーッ…。』
次の瞬間、部屋の中にモーガン達の歓喜する声が響き渡った。
「おおーーーっ!!!」
宝箱のフタを開けると、その中には黄金に輝く見た事もない金貨や色鮮やかな宝石の付いた装飾品が溢れんばかりに入っていた。
「わっはっはっはっ!こりゃあ、すげーな!金銀財宝とはまさにこの事だぜ!どの宝箱にもぎっしり詰まってやがる!」
「す、すごい!こんなの初めて見ました!」
しばらくその場にいる全員が目の前にある財宝に魅了されていると、モーガンはおもむろに小さな金貨を自分の胸当ての内側へと忍ばせた。
「お前らも取っていいぞ!」
「えっ!?良いんですか!?」
「ああ、どうせハイエン様が独り占めしちまうんだ。少し位ならバチは当たらんだろう。それでたまには家族に美味いもんでも食わせてやれ。但し、胸当ての内側に入る分だけだ!音が鳴ったり、こぼれ落ちたりしないように気を付けて詰めろよ?」
「さすがフリーソンさん!話がわかるぜ!」
「ヒャッホーー!これで借金が返せる!」
「うううっ、自警団の安月給に我慢してきてよかったぁー!」
団員達が喜びの声を上げながら胸当てに財宝を詰め込むのをハリーが何もせず見ていると、その様子に気付いたモーガンが声をかけた。
「ハリー、お前はいらないのか?」
「僕は遠慮します。何か嫌な予感がするので…。あっ、でも皆さんの事はハイエン様には口が裂けても言わないので安心して下さい。」
「用心深い奴だな。まぁ、お前がいらんなら無理に持っていけとは言わんがな。」
「モーガンさんはそんな小さな金貨1枚で良いんですか?」
「ああ、オレはカミさんの誕生日に花が買えれば十分だからな。逆にいきなりそんな財宝持って帰ったら、何か悪い事したのって怪しまれちまうぜ。」
「ははは、流石のフリーソンさんも奥さんは怖いんですね?」
「うるせーよ!…おっ!?詰め終わったな。それじゃあ、次は棺の中を確認するぞ!かなりフタが重そうだから全員で押すぞ!…せーの!」
『ズズズズズッッ…。ゴトン!』
モーガン達が棺のフタを開けると、中には長い年月の経過を感じさせるボロボロの包帯で全身を覆われた1体のミイラが横たわっていた。
「うわっ!?化け物!…あれっ?動かない?」
「これはミイラだな。グリ坊が言ってたスカラベヤンってのかはわからねぇが棺の中にはお宝は無いみたいだな。よしっ、ハイエン様に報告しに戻るぞ!!」
棺と宝箱の確認を終えたモーガン達が部屋から出ようとした、その時。
突如、背後から不気味なうめき声が聞こえモーガン達が振り向くと、棺の中に横たわっていたミイラが立ち上がっていた。
「ヴヴヴッッ…ヴヴ…ヴガァァァ…。」
そして、ミイラがゆっくりと歩き出すと今まで金色だった部屋の壁が茶褐色へと変わり、宝箱に詰まっていた財宝もみるみるうちに毒々しい色をした蛇や気色の悪い無数の足が生えた虫へと変わると一斉に這い出してきた。
「うわあああああっ!!!」
あまりのおぞましさと恐怖にモーガン達は悲鳴を上げて逃げようとするが、その悲鳴は間も無くして悲痛な叫び声へと変わった。
「うぎゃぁぁぁぁっっ!!!」
一目散に逃げ出していたハリーが叫び声のする方へ目をやると、そこではモーガン達が胸当ての内側から這い出す蛇や虫に噛みつかれ床を転げ回っていた。
「皆さん!?くそっ!やっぱりワナだったか!?」
迫り来るミイラと無数の蛇や虫を気にしながらも、ハリーはもがき苦しむモーガンに駆け寄ると胸当てを固定している皮バンドを剣で切断し剥ぎ取った。
「マズイ!虫が体内に!?モーガンさん、かなり痛みますけど我慢して下さいね!」
ハリーはそう言うと、モーガンの皮膚を食い破り体内に潜り込もうとしている虫を剣先で抉り取った。
「うがぁぁぁっ!!」
「フリーソンさん!立てますか!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。他の奴らは?」
モーガンが朦朧としながら尋ねるとハリーは首を横に降った。
胸当て一杯に財宝を詰め込んでいた団員達は大量の蛇や虫によって全身の皮膚を食い破られ既に息絶えていた。
「もう手遅れです!とにかく逃げましょう!」
「ううっ、ちくしょう…。」
ハリーはよろめくモーガンに肩を貸してその場から逃げつつ魔法の詠唱をすると叫んだ。
「火炎障壁!」
その言葉と共にハリーの背後の通路を塞ぐように燃え盛る炎の壁が出現し、追ってくるミイラ達の行手を遮った。
「これで少しは時間が稼げるはずです!行きましょう!」
2人はなんとか最初の部屋へと戻るが墓の外へと続く扉とハイエン達の向かった通路が消えているのに気付き足を止めた。
「扉があった所が壁になってる…。それにハイエン様達が向かった通路も…。閉じ込められたのか?」
「な、なんてこった…。うぐっ!?」
「モーガンさん!?虫にやられた所が爛れてる。…毒か!?」
ハリーはその場にモーガンを寝かせて、回復魔法をかけるが所詮は初級回復魔法である為、傷口は治癒出来ても毒を消す事は出来なかった。
そうこうしているうちにモーガンは全身に毒が廻り始め意識を失っていた。
「くっ、まだ向こうの通路は塞がってない。とにかく、カーサさん達と合流しないと…。」
意識のないモーガンを担いでハリーがもう一方の通路へと向かおうとすると、その通路からカーサが悲鳴を上げながら飛び出してきた。
「キャアアアアアアッッッ!助けてー!」
「カーサさん!?」
カーサはそのままの勢いでハリーへと抱きついた。
その身は恐怖に怯え小刻みに震えている。
「うわっ!?」
「む、虫が!団員達が…あああっ!食い殺されて…うううっ!」
「カーサさん、落ち着いて下さい。大丈夫ですから…。」
ハリーはその様子からカーサも自分達と同じ目にあった事を察し、その震える背中を優しくさすった。
しかし、そんなハリーの慰めの言葉など虚しくカーサは再び悲鳴を上げて尻餅をついた。
「ヒィィィィッッ!?イヤァァァァァァァッッッ!!!」
その視線の先にはハリー達が逃げてきた通路から出てくるおびただしい数の蛇や毒虫と不気味なうめき声を上げるミイラの姿があった。
だがハリーもまた、カーサが逃げてきた通路の方を見て言葉を失っていた。
それはカーサが見ているものを鏡に写したと言っても過言ではないほどの光景だったが、今のハリーに振り返る余裕などはなく、ただただ目の前の光景に身を震わせるのだった。
祝!とうとう100話です^_^
いつも読んで下さりありがとうございます!
今週に入ってからブクマや評価を自分的にはですがたくさん頂きました!!!
今までこんな短い間にブクマや評価を頂けた事がなかったもので、まさかエイプリルフールだから?と疑心暗鬼になってしまうくらい嬉しかったです!!!
今までブクマや評価をしてくれた皆様、そして今回ブクマや評価をしてくれた皆様、本当にありがとうございます^_^
新年度となり色々と変化の激しい季節ではありますが、これからも皆様の貴重なお暇を潰せるよう頑張って書きますので、今後とも宜しくお願いします\(^o^)/
P.S. 最近、日本唐揚協会に入会して協会章を買ったんだけど早く届かないかなぁ…(笑)




