第101話 呪剣
その頃、グリドールはハイエン達と共に延々とつづく茶褐色の通路を進んでいた。
既に最初の部屋を出発してから30分以上が経ち、代わり映えのしない景色に眠たくなってきたグリドールがあくびをしていると、何も見つからない事に苛立ち始めたハイエンが声を荒げた。
「おい!この通路はどこまで続くんだ!?」
「あ?そんな事、俺が知ってる訳ねぇだろうが?ふわぁー、あー眠いなぁー。」
「き、貴様!なんだその態度は!?私は城塞都市タツタの名主だぞ!」
「うるせぇな。そんなデケェ声出さなくたって聞こえてる。偉ぶりてぇならどーんと構えて黙ってやがれ。底が知れちまうぞ?」
「ぐっ…!?」
そんなグリドールの言葉に思わず吹き出しそうになる自警団員達をハイエンは睨み付けると、込み上げる怒りを落ち着かせるように大きく息を吸い込んでから話を続けた。
「おい!貴様、随分と古代文明について詳しいようだが、その知識はどこで学んだ?」
「ああ、それは知り合いにやたらと古代文明に詳しい頭のおかしなエルフがいてな。そいつに教えられたんだ。そう言うお前は何でここにチャップ王の墓があると思ったんだ?」
グリドールのいうエルフとは王宮魔導士団長のラムの事である。
王族であるグリドールは幼い頃から、古代マヨ文明研究の第一人者でもあるラムからその知識を無理やり叩き込まれていた。
「お前!?ぐぬぬぬ!…わ、私はここの前の領主であるフライヤーからここの墓の場所が書かれた地図を手に入れたんだ。」
「フライヤー?」
「ああ、これだ。もう用済みだから貴様にも見せてやろう。ありがたく思え!」
そう言いながらハイエンは肩に掛けていた革のカバンから折り畳んでいた地図を取り出すと自慢げに差し出した。
「…いや、見せなくていい。」
しかし、グリドールは差し出された地図をチラリと見ると受け取る事無く、両手を頭の後ろで組んで歩き出した。
「なっ!?き、貴様!私が見せてやろうと言っているのだぞ!?」
「あ?だからいいって言ってんだろうが。そんなガセネタの地図を見せられた所で時間の無駄だ。」
「ガセネタだと!?ふざけた事を言うんじゃない!ちゃんと見ろ!」
ムキになったハイエンはグリドールの前に回り込むと地図を広げて見せた。
「この地図にはこの墓以外にもポテット山のネーズ王の墓が書かれてたんだぞ!ガセネタのはずがないだろうが!?」
「面倒臭ぇな。ここはチャップ王の墓はおろかその僕の英雄の墓ですらなかったじゃねえか?それに…。」
「ゔっ!?そ、それに何だ!?」
「ポテット山の古代遺跡はネーズ王の墓なんかじゃねえぞ?あれは単なるマヨ王国の全盛期に使われた廃棄物処理場跡だ。」
「えっ?廃棄物処理場…?」
「ああ、ゴミ捨て場だ。」
「ゴ、ゴミ捨て場…?だ、だがこの地図の通りここには古代遺跡があったではないか!?」
「たまたまじゃねぇか?そもそもポテット山はフライヤーの領地内にあるんだ。いくらポテット山の古代遺跡が国の管理下に置かれたからって領主だったフライヤーがネーズ王の墓じゃねぇ事くらい知ってただろうし、ここに古代遺跡があるのを知ってたら自分で掘ってただろうよ。まぁー、ガセネタだったとはいえ三下の墓でも見つかって良かったじゃねぇか?お前、ツイてるぜ。」
グリドールはフライヤーのクーデター計画を潰した際に、捉えた共犯者達からフライヤーが嘘の古代遺跡の場所を記した地図を地方の名主や商人に高値で売り捌いている事を聞いていた。
実際、グリドールの言う通りハイエンが手に入れたのはガセネタの地図であり、スカラベヤンの墓を見つけたのも偶然だった。
「たまたま…だと!?」
愕然とするハイエンをスルーしてグリドールが再び歩みを進めていると通路の奥に何か見えてきた。
「んっ?何か見えるな。…あれは部屋か?」
その目に映ったのはモーガン達が襲われたのと似た作りの金色に光り輝く黄金の部屋であり、その中央の祭壇には黄金の棺とそれを取り囲むように赤地に金色の装飾が施された宝箱が祀られていた。
「おおっ!やっと着いたか!?行くぞ!」
まさかモーガン達が酷い目に遭っているとは知る由もなく、ハイエンと自警団員達は部屋に気付くとグリドールを追い越し中へと入っていった。
そして、ハイエンの指示で宝箱を開けると中の財宝を見て自警団員達は歓喜の声を上げた。
しかし、ハイエンはそんな自警団員たちを無視して宝箱の中に入っている財宝を次から次へと床へとひっくり返すと何かを探し始めた。
「どこだ!どこにある!?クソッ、ここにも無い!そっちはどうだ!?無い!無い!無い!…チッ!次は棺だ!お前ら、とっとと開けろ!」
そんなハイエンの意味不明な行動に困惑しながらも自警団員達が棺のフタを開けると、そこには、全身をボロボロの包帯で覆われた一体のミイラが横たわり、その胸には一本のナイフが突き刺さっていた。
「そ、そのナイフは!?お前ら、邪魔だ!どけっ!」
すると、ハイエンは棺の側にいた自警団員達を押し退けて、ミイラの胸からナイフを引き抜いた。
「…あった!ふふふっ、あったぞ!これだ!このナイフだ!これさえあれば、この忌々しい身体からおさらば出来る!あはははははっっ!!!」
狂ったようにハイエンが歓喜の声を上げていると、その様子を離れた所から見ていたグリドールが眉を顰めた。
「そのナイフは身代わりの呪剣か?」
その言葉にハイエンは一瞬驚きながらも不敵な笑みを浮かべるとグリドールに歩み寄った。
「ほう、まさかこれを知っていたとはな?まぁ古代文明に詳しい貴様の事だ。知っていても不思議ではないな。くくくっ、そうだ。これは身代わりの呪剣だ。」
「それを探していたのか?お前それがどんなものか知っているのか?」
すると、ハイエンはグリドールの肩に手を置いて耳元で囁いた。
「ああ、知ってるさ。このナイフで殺した相手と姿が入れ替わるんだろ?くくくっ、どうせチンピラのお前が言いふらした所で誰も信じないだろうから良い事を教えてやろう。私は一度これを使って入れ替わっているんだ。」
「何っ!?」
「くくくっ、驚いたか?私はもともと城塞都市タツタの前の名主の息子だったんだ。そして、今度はこれを使ってガーデンフレイ領の領主になる。くれぐれも私を敵に回すなよ?あはははははっ!」
なんとハイエンは10年前に自害したはずのスターロンだった。
スターロンは10年前のあの日、ハスターの書斎を飛び出すと心配して様子を見にきたハイエンをフライヤーから手に入れた身代わりの呪剣を使って刺殺し入れ替わっていた。
「…!?」
高笑いしながらスターロンは唖然とするグリドールの肩をポンポンと叩くと後ろを振り向いた。
「お前ら布袋に財宝を詰めろ!入りきらない分は他の通路を探索している奴らと合流してから回収する!」
指示を受けた自警団員達は布袋へと財宝を詰め込み始めた。
「貴様は詰めなくていいぞ。1人くらい身軽な奴がいないと何かあった時に対処出来ないからな。あははははっ!」
すこぶる上機嫌になったスターロンが部屋から出ようとしたその時。
突如、不気味なうめき声と共にミイラが起き上がると瞬く間に部屋の壁は金色から茶褐色へと変わり、自警団員達の悲鳴が部屋中に響き渡るのだった。
いつもお読み下さり有り難うございます。
また評価を頂きました!評価を入れてくれた皆様有り難うございます^_^
P.S. 私事ですが、日本唐揚協会から協会章が届きました!これで晴れて私もカラアゲニストとなった事をご報告申し揚げます(笑)




