第98話 拾い食い
時はほんの1時間ほど前に遡る。
グリドールは護衛役の王宮騎士達を煙に巻きマクグラン城から抜け出すと、飛行魔法で城塞都市タツタの近郊にあるハスターの牧場へと向かっていた。
「ハスターに会うのは久しぶりだな。アイツも随分と老け込んで来やがったからな。元気でやってるといいが…。」
グリドールにとってハスターは尊敬する剣術の師であると共に、多忙でほとんど接する事のなかった前国王である父に代わり、
良いことも悪い事も時に優しく時には厳しく教えてくれた父のような存在だった。
グリドールは物心つき始めた3歳頃からハスターに剣術を習い始め、それはハスターが王宮騎士団を辞めてタツタの名主になってからも続いた。
そしてグリドールが12歳になる頃には、ハスターから剣帝の異名を引き継ぐほどの剣の使い手になっていた。
しかしそれから1年後、タツタ疫病事件をきっかけにハスターが名主の座を追われると表立って会う事は出来なくなり、会いに来ないで欲しいというハスターをよそに、こうしてたまに城を抜け出しては様子を見に行っていた。
「それにしてもハンバーめ。護衛の数を増やしやがって、せっかく厄介なミツハをウィルの所へ追っ払ったっていうのに、これじゃあ余計に城から抜け出せねぇじゃねえか。」
ブツブツとハンバーに対する不満を漏らしながら晴れ渡る青空を飛んでいると、遠くにハスターの牧場が見えてきた。
「んっ?あれは何をしているんだ?」
牧場の敷地内では農奴と思われる人々が広範囲にわたり地面を掘っているのが見えた。
そのいつもとは違う牧場の様子を察したグリドールは近くの林に身を隠した。
「ハスターの姿が見えねぇな。しかし、あんなに大勢の農奴を使って何を掘ってんだ?
つーか、ガーデンフレイ領は罪人の農奴以外は解放したはずだが、それにしちゃあ女や子供が多いな?ここはタツタの管轄だったはずだが農奴を隠していたのか?」
ウィルは領主になるとすぐに領地内に2000人程いた罪の無い農奴達を買い上げたうえで解放し、希望する者にはフレイの市民権と仕事を与えていた。
そして、現在では領地内における罪人への懲役を意図したものを除く農奴制度を禁止していた。
グリドールがしばらく様子を窺っていると牧場の中で農奴に指示を出している大男に目が止まった。
「あれは自警団のモーガンじゃねぇか。」
モーガンとは以前グリドールがお忍びでタツタに行った時にたまたま出くわした窃盗団をボコボコにしている時に知り合いになり、それからはタツタに行くと一緒に酒を飲む仲だった。
ちなみに地方の小さな城塞都市の自警団員であるモーガンがマクグラン国王の顔など知る訳もなく、グリドールの事は貴族上がりの腕の立つ冒険者だと思っていたりする。
「モーガンがいるって事はタツタの名主あたりがこれを仕切っているのか?まぁこのままここにいても仕方ねぇし、ちょっと行ってみるか。」
林の茂みから出て牧場に向かって歩いていると、グリドールに気付いた自警団員達が駆け寄って来た。
「おい!お前、この牧場は立ち入り禁止だ!とっとと立ち去れ!」
「副団長のモーガンに用事があって来たんだが呼んでもらえるか?」
「えっ?フリーソンさんの知り合いですか?」
「ああ、グリ坊が訪ねてきたと言えばわかるだろう。」
「はい。わかりました。」
しばらく待っていると自警団員の男がモーガンを呼んできた。
「おおっ!グリ坊、久しぶりだな!元気にしてたか!?」
「ああ、お前も相変わらず元気そうだな?」
「おう!まあ丈夫なのが取り柄だからな!わっはっはっはっ!それにしてもよくここにいるのがわかったな?」
「飲み屋のババアに聞いたんだ。」
「ああ、ウメ婆か!?ここに来るのは極秘事項だっていうのにあのババアどこで聞きつけやがったんだか。」
「さあな、それよりここは牧場だろ?あんなに大勢の農奴を使って何してんだ?」
適当に誤魔化しながらグリドールが尋ねると、モーガンは首を横に振った。
「そりゃあいくらオレとグリ坊の仲でも部外者のお前には言えねぇな。それよりわざわざここまでオレに会いに来るなんて、何の用だ?とうとう自警団に入る気にでもなったか?って、風来坊のお前がそんな訳ねぇか!?わっはっはっはっ!」
「そうだ。自警団に入れてもらおうと思ってな。」
「えっ!?…マジか?前にオレの誘いを散々断ったじゃねぇか?」
「少し落ち着こうと思ってな。気が変わったんだ。それで入れるのか?」
それを聞いたモーガンは満面の笑みを浮かべ、グリドールの肩に腕を回した。
「おおっ!大歓迎だとも!お前ほどの男が入ってくれるならこの自警団にもハクがつくってもんだ!歓迎するぜ!」
「世話になるぜ。」
こうして、グリドールは情報を得る為に自警団へと入団し、牧場ではハイエンの指示で古代マヨ文明のチャップ王の墓の発掘が行われている事と、肝心のハスターは牧場を立ち退きになった際に支払われた金を受け取らず、いつの間にか姿を消した事を知るのだった。
話は戻り、モーガンが大人のムフフなお姉さんのいる店に誘うと、グリドールは気怠そうにあくびをした。
「ふわぁー、いや俺は間に合ってる。それにお前カミさんいなかったか?あんまりカミさん泣かすんじゃねぇぞ。」
「カ、カミさんは関係ねぇだろうが!男には息抜きってもんが必要なんだぜ!?」
「カミさんも同じ事を言ってなきゃいいがな。」
「ゔっ!?」
グリドールとモーガンが話をしているとハリーが不思議そうに話に入ってきた。
「フリーソンさん、その人はどなたですか?」
「ああ、コイツはグリ坊だ。今さっき自警団に入団したんだ。」
「そうなんですか!僕はハリーです。宜しくお願いします。」
「俺はグリムだ。宜しく頼む。」
「コイツは強えぜ!なんてったって1人であのベニクジラ窃盗団を壊滅しちまった奴なんだ!」
「ええーっ!?あの時の人ですか!?てっきりもっとゴツい人だと思ってました!」
「そんな事より探索の準備はしなくていいのか?無駄話をしている間に名主様が小屋から出て来ちまったぞ。」
グリドールの視線の先には小屋から出てこちらに歩いて来るハイエンの姿があった。
「フリーソン、何を油を売っている!?探索の準備は出来たのか!?」
「あっ、今ハリーからその話を聞いていました!急いで準備します!グリ坊、ハリー、行くぞ。」
モーガンがそう言ってその場を立ち去ろうとすると、グリドールに気付いたハイエンが呼び止めた。
「ちょっと待て!そこにいる緑色の髪をした男、見ない顔だな?」
ハイエンはそう言いながらグリドールの前まで来ると顔を覗き込んだ。
「んっ?お前どこかで見たような顔だな?」
「ハイエン様、コイツはグリムです。前にベニクジラ窃盗団を壊滅した冒険者ですよ!報告したでしょう?」
「おお、確か1人で窃盗団を壊滅したとかいう冒険者だったな。だが、そんな奴が何故ここにいる?」
「そ、それは…実は少し前に自警団には入団してたんですが、道端に落ちていた物を拾い食いしたら腹を壊しやがって、しばらく休んでたんです。でも探索には腕の立つもんが必要だと思いまして呼び出したんです。」
「…そうか、確かに拾い食いしそうな顔をしているな。モーガン、お前にしては気が効くじゃないか?わかった。そいつも探索に連れて来い。」
「へへへ、わかりました。ほら、2人とも行くぞ!」
ハイエンを適当にあしらって3人が発掘現場の方に向かっていると、ハリーが口を開いた。
「フリーソンさん、グリムさんは今さっき入団したんじゃ?」
「バカヤロウ!コイツはウメ婆さんに聞いてここに来たんだぞ。そんな事言ったら情報が漏れてた事がバレてオレが怒られるんだよ。とりあえず他の団員にもさっきのように伝えておけ。これは命令だ!」
「は、はい!わかりました!」
モーガンがハリーを丸め込んでいると、納得いかない表情を浮かべたグリドールが尋ねた。
「おい、モーガン。」
「グリ坊、なんだ?」
「俺は拾い食いしそうな顔をしているのか?」
「…気にしてたのか?ま、まぁそうだな。顔自体はかなりの男前だとは思うが、その気怠そうな雰囲気がそう思わせるんじゃねえか?」
「…。」
「そ、その目は何だよ!?上手い言い訳が思いつかなかったんだから仕方ねぇだろ!」
「…そうか、そう見えるのか。だが、俺は拾い食いなんかした事ねぇからな。」
「わ、わかったよ!案外、ナイーブな奴だな…。」
かくして、準備を終えたグリドールはハイエン達と共に墓の探索へと向かうのだった。
前回の投稿で累計40000PVを突破いたしました^_^
いつも読んで下さっている皆様、初めて読んで下さった皆様、そして読み返して下さった皆様、これも皆様のお陰です!
本当に有難うございました^_^
また、新たにブクマして下さった皆様も有難うございます!
これからも頑張って投稿しますので、末永くお付き合い頂けると幸いです^_^
ああ…。俺にはこうして作品を読んでくれる皆さんがいる…。こんなに嬉しい事はない…。(ア○ロ風)




