第94話 採用面接
ここはニューハウン地区に新しく作られた公民館に設営された採用面接会場。
会場の中は採用面接に来た大勢の応募者達で賑わっていた。
採用面接はまず各部門の担当と複数人の応募者による集団面接を行い、次に集団面接を通過した者を対象にウィルと各部門の担当を交えた個人面接という流れで進めていた。
ちなみに担当者がまだ不在の部門の面接は、今いる担当の中で持ち回りで対応していた。
個人面接を行う会議室の中では、ウィルとミレーヌが医療部門の個人面接を終え一息ついていた。
「ふぅー、今の人で医療部門は終わりですね。それにしても、午前中に広報部門の面接でいたゴシップって人もキャラが濃かったけど、今のジョーイさんってオバさんもすごかったな…。」
「そうね。今のは強烈だったわね。でも悪い人ではなかったし、医療部門を取りまとめてもらうには適任ね。」
「そうですね。次は研究部門ですね。これも代理担当はミレーヌさんか。総務担当はただでさえ大変なのに負担かけてすみません。」
「それは言いっこなしよ。ウィル君だって他の皆だって忙しい中やりくりしてるんだもの、文句なんか言えないわ。」
「ありがとうございます。それじゃ研究部門の個人面接始めましょう。」
「はい、次の方どうぞ!」
ミレーヌがそう言うと会議室の扉が開き、メガネをかけた金髪サラサラヘアーの華奢なメガネ男子が入ってきた。
しかし、その表情は採用面接に来たとは思えないほどに暗く沈んでいる。
「お名前からどうぞ。」
「はい。キリシア・カルメール・クシュリナーダと申します。」
「ウィル様、彼はマクグラン王国のクシュリナーダ伯爵家の…ご子息です。えーっと、今年、上級魔法学校を次席で卒業しています。」
「次席って、すごいですね!でも、それなら王宮魔導士団から声が掛かったでしょうに、何故、ここの採用面接を受けたんですか?」
「家で引きこもっていたら父に無理やり連れて来られました。」
「なるほど、無理やりですか。ちなみに飛行魔法は使えますか?」
「…はい。使えます。」
「そうですか。えーと、趣味は読書なんですね。尊敬する人はレ◯レのおじさん!?」
「レレ・レーノ・オデュサーン、属性魔法理論という魔法書を書いた古の大賢者です。」
「あっ、そうなんだ。てっきりいつも玄関先をほうきで掃除してるあの人かと思いました。」
「ほうきで掃除ですか?」
「あっ、気にしないで下さい。へぇー、俺は魔法書なんて猿でも出来るはじめての魔法って本しか読んだ事ないや。」
「ウィル君、アレは魔法書じゃなくて、単なる教科書よ。」
「えっ?そうなんだ。あははは、それじゃ魔法書なんて読んだ事ないや。今度、読んでみようかな?」
その後も応募用紙を見ながらいくつか質問をしていると、キリシアが怪訝な表情を浮かべ口を開いた。
「…何故、引きこもっていたのか理由をお聞きにならないのですか?」
「うーん、話をしてくれるなら聞きますけど、無理矢理連れて来られたとはいえ、飛行魔法が使えるなら途中で逃げようと思えば逃げれましたよね?」
「…はい。」
「それでも逃げずにここにいるって事は、何かを変えたいと思ってるからなんじゃないですか?」
「…わかりません。」
「まぁ、ここに連れて来られたのも何かの縁でしょうし、それじゃ採用っと。」
「えっ?何故、採用なのでしょうか?」
「何でって言われてもミレーヌさんの集団面接を通過したのなら問題ないでしょ?それに1人はメガネ男子がいた方が色々と都合が良いんですよ。キリシアよろしくね。」
「…は、はい。宜しくお願いします。」
まさか採用されるとは思っていなかったキリシアが困惑しながら部屋から出て行くと、ミレーヌが少しホッとしたようにウィルに話しかけた。
「ウィル君、なんであの子を採用したの?」
「メガネ男子は色々と都合が…。」
「茶化さないで。」
「うーん、そうですね。なんかあの無気力で怠惰な雰囲気が昔の俺に似てたんですよ。俺はキリシアに何があったかは知らないし仕官した所で上手くいかないかもしれないけど、何かのきっかけにしてくれたらなぁと思っただけですよ。人って案外些細な事やどーでも良い事で前に進めたり、立ち直れたりするものだと思うんですよね。」
ウィルが前世の自分を思い出しながら話をしていると、ミレーヌが優しく微笑んだ。
「ウフフ、ただのエロガキ領主様だと思ってたけど色々苦労してるのね?」
「エロガキって、まだ今朝の事を根に持ってるんですか?あれはちゃんと謝って許してくれたじゃないですか?」
「ウィル君、女は根に持ち続ける生き物なのよ。でも、今は貴方に仕える事が出来て良かったと思ってる。」
「ははは、それは良かったです。よーし、それじゃただのエロガキって言われないように頑張りますかぁ。」
「あっ、そういえば、今のキリシアなんだけど、実はあの子…。」
ミレーヌが何か言いかけたその時。突如、部屋の外から男の怒鳴り声が聞こえてきた。
ウィルとミレーヌが急いで部屋の外に出ると、そこでは1人の男がハスターの胸ぐらを掴み怒鳴りつけていた。
「なんでテメェがこんな所にいやがる!?よくもノコノコと顔を出せたもんだな!」
「…すまない。」
「すまないで済むと思ってんのか!?フザけんじゃねぇぞ!テメェのバカ息子のせいでオレの母ちゃんは死んだんだ!チクショー!!!」
怒りのあまり男がハスターを殴りつけようとした、その時。
2人の間にウィルが瞬間移動で割って入り、殴ろうとする男の腕を取って投げ飛ばした。
「ぼ、坊主!?」
突然現れたウィルにハスターが驚いていると、そこへ騒ぎを聞きつけたミツハやオルトレット達が駆けつけてきた。
「何の騒ぎですか!?」
「ミツハさん、そこでノビている人を医務室へ連れて行ってあげて下さい。」
「承知しました。ですが、その男は?」
「この人は俺の知り合いです。この人からは俺が話を聞くので、オルトレットさんは俺の代わりに残りの個人面接に出席して下さい。」
「ウィル様、承知しました。」
「ウィルって、まさか坊主が領主様か!?」
「はい。別に隠していたつもりは無かったんですけど名乗り忘れてました。とりあえず、ハスターさんはこちらへどうぞ。」
驚いているハスターを部屋に招き入れると、ウィルは奥の椅子に腰掛けた。
「ハスターさんも座って下さい。あっ、そうだ。改めまして、ガーデンフレイ辺境伯領の領主をしているウィル・サウストン・ガーデンフレイです。今朝はありがとうございました。」
「いやー、まさか坊主が…じゃなかった。ウィル様が領主だったとは思いませんでした。」
「あははは、別に今さらかしこまらなくてもいいですよ。家臣の皆さんにもそう言ってるので、坊主と呼んでもらって構いません。」
「いや、そういう訳にもいかないだろう。まいったな。」
「それでさっきのは何だったんですか?あの男、ハスターさんの息子さんがどうとか言ってましたけど?」
ウィルが問題に触れると今まで飄々としていたハスターの表情が曇った。
「それは…俺の息子が街の人々を殺したからだ。」
「それはどういう事ですか?もっと詳しく教えてもらえますか?」
ウィルがそう言うとハスターは10年前にタツタで起きた事件について静かに語り始めるのだった。




