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第92話 完成予想図

ウィル達が丘に戻ると、ゲンはミツハにはがい絞めされたカルデを見て一瞬驚きながらも、触らぬ神に祟りなしと何も見なかった事にしてウィルに話しかけた。

「ウ、ウィルの旦那、お帰りなすって。それじゃあ続きといきやしょう。」

「は、はい。お待たせしました。次はミコノス地区ですね。」

ウィルはやり場のない怒りに身を震わせるカルデと目を合わせないように西の方角を見た。

視界の先には茶色の屋根に白壁の可愛らしい建物が立ち並び、さらにその向こう側の牧草地帯には牧場や風車小屋などの建設中の建物が点在していた。

「ミコノス地区はどんな感じですかね?」

「へい、開発自体は他の地区と同じく計画より早く進んでおりやす。ただそれぞれの現場責任者はいるんですが、畜産全般を取り仕切るもんがいねぇもんで個別に注文を聞かなきゃならない分、少しやりづれぇですかね。」

「うーん、クリフさんは財務担当をやりながら産業担当も兼務してもらっちゃってるしな。あとは畜産関係で精通してる人といえばペルシャさんとシャペルさんなんだけど、あの2人は水産担当やる前提で仕官してるからなぁ。総務担当のミレーヌさんもやりづらいような事を言ってたし、明日の採用面接で良い人がいないようならグリドール陛下とロベール陛下に良い人材がいないか相談してみますね。」

「へい、宜しくお願いしやす。それで最後になりやすが、それぞれの地区の開発も終わりが見えてきたんで、そろそろガーデンフレイ城とエビス地区の開発に着工しようと思っておりやす。」

「ということは、とうとう設計図が完成したんですね!?」

「へい、ウィルの旦那の無茶苦茶な要望に苦労しやしたが、間違いなくこれは俺っちの大工人生の集大成になりやすぜ!これは完成予想図になりやすが、まぁ目ん玉ひんむいてみてくだせえ!」

そう言いながらゲンは丸めてあった大きな紙を勢いよく広げた。

「おおっ!こ、これは!?す、すごい…。」

ウィルの前に広げられた紙にはこの丘に築城されるガーデンフレイ城とその周囲のエビス地区に建設される高層塔街の完成予想図が描かれていた。


まず、この丘に築上されるガーデンフレイ城は高さ167mを誇り、従来の西洋様式の城とは一線を画したまるで恵比寿のとあるビルのような近代的なデザインとなっていた。

中にはウィルの住居やカルデの別邸を始め行政機関の役所や最大収容人数3000人を誇る大広間や議会を行う議事堂の他に、一般市民も利用出来る展望エリアなど様々な施設が入っていた。

そして、そのガーデンフレイ城を中心とした周囲のエビス地区には以下の主要な構想塔や整備された公園などがあった。

北 アカパビルデ… 高さ141m。騎士団本部や魔導研究所の入る建物。

東 モートヘンプヒルズ… 高さ96m。ガーデンフレイ領の家臣とその家族の住居や学校や保育園などの教育施設の入る建物。

南西 レッドクロスセンター… 高さ61m。ガーデンフレイ領の基幹病院や大聖堂や介護施設が入る建物。

南東 ビッグエッグシティ… 高さ155m。高級宿屋の塔を中心に闘技場や歌劇場や商店街などの娯楽施設がある。

西 キタマールスクエア… 高さ111m。同盟国と友好関係にある貴族領の大使館などが入る建物。


完成予想図を見ながらウィルがそれぞれの建物の説明を受けていると、カルデとミツハが興味深げに話に入ってきた。

「ウィル、随分と変わった形の城だな?どことなく恵比寿ラブストーリーに出てきた建物に似ていないか?」

「ふふふっ、わかっちゃいました?俺のヘタクソな落書きからゲンさんが書き起こしてくれたんです!」

「ふむ、城というよりは塔に近いがこれはこれでなかなか良いではないか。」

「あのカルデ様、えびすらぶすとーりーとは何の事でしょうか?」

「あっ、いやまあそのなんだ…ま、前にナゲッタの歌劇場でウィルと見た舞台の事だ。ウィル、そうだな?」

「は、はい!そ、そうでしたね!いやぁー、あの舞台はよかったですね!そ、そんな事よりミツハさんは完成予想図をどう思いますか?」

ミツハは慌てて誤魔化す2人を不思議に思いながらも完成予想図に目を通すと口を開いた。

「どの塔も外壁がほとんど無くて開口部ばかりですが強度は問題無いのでしょうか?それにこんなに高くては飛行魔法が使えない者は上り下りが大変で役所や住居には不向きかと思います。」

「開口部?ああ、ミツハさんここの何もないように見える部分にはガラスがはめ込んであるんですよ。それにこのガラスはビニガラスといって、ビニクラゲを加工した膜をガラスの中に挟んだ特殊なガラスなのでとっても丈夫なんですよ。」

ビニクラゲとはこの時期になると大量にポルタ地区の海岸に打ち上げられる初級魔物で、食べる事も素材の価値もなく処分されていた所をウィルが見つけガラスの強度を上げる素材として活用出来ないか王宮魔導士団のラムに研究を依頼していた。

「お母様がウィル様から何かお願い事をされたと言っていましたが、ビニクラゲの事だったんですね。」

「はい。先日、ラムさんに試作品を見せてもらったんですけど強度は鋼鉄並でした。」

「鋼鉄並みですか!?それはすごいですね!でも王宮魔導士団で作られてしまったら特許権はマクグラン王国のものになってしまいますね。」

「ええ、でもクリフさんがフィレオさんと交渉してくれたおかげでマクグラン王国で生産したビニガラスの売り上げの1割とエビス地区の開発で使うビニガラスを格安で譲ってくれる事になりました。クリフさんにはガーデンフレイ領内で開発してればボロ儲けだったのにって怒られましたけどね。」

「ウィルの旦那、ビニガラスはこの世界の建築を大きく変えちまうかもしれねぇ大発明だからな。しかも材料は今までゴミとして捨てられてたビニクラゲときちゃあクリフが怒るのは当然ですぜ。そりゃそうと、ミツハ嬢はさっき上り下りが大変だと言ってたがこのそれぞれの建物にはそれを補う特別な仕掛けがあるんでい。」

「特別な仕掛けですか?」

「へへへ、これもウィルの旦那が言い出した物なんだが、その名も自動昇降箱と言ってな。ここに見える箱の中に乗ってそれぞれの階を行き来するんでい。」

ゲンは完成予想図の自動昇降箱が描かれている部分を自慢げに指さした。

ちなみに自動昇降箱とは現代でいう所のエレベーターの事である。

「この箱に乗って昇り降りするのですか!?ウィル様、すごいです!」

「俺は好き勝手言ってただけですよ。」

「ふむ、だが動力源は何なのだ?まさか人力で動かす訳にはいかぬだろう?」

「それはぬかりねぇですぜ。カルデ様、この完成予想図を見て何か気付きませんかね?」

思わせぶりな言葉にカルデは完成予想図をまじまじと見るとエビス地区にある建物やそれに面した大きな通りが、ある規則性をもって配置されている事に気が付いた。

「んっ?これは五芒星…。魔法陣か!?」

「流石はカルデ様!その通りでい。このエビス地区はそれ自体が大気中の微量な魔力を集める巨大な魔法陣になっておりやして、集めた魔力を使ってさっきの自動昇降箱や建物の色んな仕掛けを動かすようになっておりやす。それとこの魔法陣には有事の時にフレイの街全体とエビス地区全体とガーデンフレイ城を覆う3つの多重結界を展開する機能もありやして守りも万全ですぜ!それから…。」

「あー、ゲンよ。もう説明しなくてよいぞ。どうせ我やミツハが疑問に思った所で万事上手いこと作っているのだろう?それにしても、これを全て作るとなると、かなりの金がかかると思うがそれは大丈夫なのか?」

「開発費はゲンさんの概算で白金貨25万枚はかかるかと…。」

「白金貨25万枚だと!?それではおぬしが手に入れた報奨金がほとんど無くなってしまうではないか!他の地区の開発でもかなりの金がかかっているのに、財務担当のクリフは城とエビス地区の開発にこんなに金がかかる事を知っているのか!?」

「そ、それは…これから相談しようかと、あ、あのカルデもクリフさんを説得するのを手伝ってくれませんか?」

「我は知らん。」

「そ、そんなぁ、それじゃあゲンさん手伝ってくれませんか?」

「すまねぇが、俺っちは作るのが仕事でい。そっちはウィルの旦那にお任せしやす。」

「そんなぁ、そ、それじゃミツハさん…。」

「あっ、ウィル様、申し訳ありません。ワタシはこれからアリスのお料理教室に行かねばなりませんので、これで失礼しますね。」


その後もウィルは一緒にクリフを説得してくれる協力者を探したが、誰一人協力してくれる者はいなかった。

結局、腹を括ったウィルは1人で寝耳に水の途方も無い開発費用に今朝の減税の話も相まって発狂するクリフを朝までかけて説得し、なんとか了承を得たのであった。





またブクマをして頂きました!ブクマしてくれた皆様、本当にありがとうございます^_^

それと前話が久々に500PVを超えました!

いつも読んでくださる皆様も初めて読んでくださった皆様も本当にありがとうございます^_^

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