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第91話 貯水湖のドラゴン

ウィル達が丘へと戻ると突然、爆風大砲ブラストキャノンがそのすぐ横を掠め空の彼方へ飛んでいった。

驚いたウィルが飛んできた方に目をやると、そこでは両腕に旋風を纏わせたカルデと剣を構えたミツハが気まずそうに苦笑いを浮かべていた。

「2人とも何してるんですか!?危うく吹き飛ばされる所だったじゃないですか!」

「ウ、ウィル、思ったより早かったな?暇だったからミツハに稽古をつけてやってたんだ。」

「ウィル様、申し訳ありません。お怪我はありませんか?」

「俺は大丈夫だけどゲンさんが…。」

ウィルが横を見るとゲンが腰を抜かしてへたり込んでいた。

「は、ははは、流石にビビっちまったぜ。イテテテ…。」

「ゲンさん、大丈夫ですか?今、回復魔法かけますね。2人ともこんな所で稽古なんかしないで下さいよ!ほらっ、ちゃんとゲンさんに謝って!」

「ゲン、すまなかった。」

「ゲンさん、すみません。」

「いや、俺っちはもう大丈夫なんで気にしないでくだせぇ。それより、視察の続きをしやしょう。」

ゲンはウィルに回復魔法をかけてもらい立ち上がると北の方角にあるコルマール地区を見た。

その視界の先には広大な田畑の中に茶色の屋根と白壁の農家が点在しのどかな田園風景が広がっていた。

コルマール地区は元々は小さな田畑が点在するだけの平野だったが、ポテパを追われた農民達の頑張りもありわずか2ヶ月足らずでそのほとんどが田畑であるものの、フレイの5つある地区で1番の面積を誇るまでになっていた。

「ウィルの旦那、コルマール地区なんですが建物や用水路の工事はほとんど終わっておりやす。ゴンズが海が近いわりに土壌が農作物の栽培に適してるって喜んでましたぜ。」

「それは収穫が楽しみですね。あっ、ゴンズさんと言えば昼食の時に田植えをするとか言ってたな。ちょっと様子を見に行ってみましょう。」

「ウィルの旦那、そういう事なら俺っちはここで少し休ませて貰ってもいいかい?」

「わかりました。それじゃああまり人もいないだろうから、カルデとミツハさんついてきますか?」

「田植えか。うむ、面白そうだな。我も行くとしよう。」

「はい。ワタシもお供します。」

ウィルは2人が腕に掴まったのを確認するとコルマール地区へと瞬間移動した。


「さてと、ゴンズさんはどこかな?…んっ!?」

ふとウィルがミツハの足元に目をやると、そこには顔面を踏みつけられたゴンズの姿があった。

「ミツハさん!ゴンズさんを踏み付けてますよ!」

「えっ!?きゃあ!」

ミツハが驚いて足をどけると、そこには顔面に足跡を付けられたゴンズが恍惚の表情を浮かべていた。

「ゴンズ、何を黙って踏まれているのだ?早く起き上がらぬか?」

「あははは、その気持ち良く…ミツハ様を驚かせてはいけないと思いまして踏まれておりました。」

「ゴンズ、すみませんでした。」

「いえ、お気になさらないで下さい。ミツハ様の御御足であれば、いつでもウェルカムです!」

「ゴンズ、そんな事ばかり言ってるからアイシャに相手にされぬのだ。」

「えっ!?そ、そうなんですか!?…そうか、わかりました!もう私の顔面はアイシャさん以外には踏ませません!ミツハ様、申し訳ありません!」

「な、何故、ゴンズがワタシに謝るのですか!?何かこう釈然としない感情が込み上げて来るのですが…。」

「まあまあ、ミツハさん落ち着いて下さい。そ、それより、田植えはまだ始まって無いみたいですけど、これからですか?」

ウィルがあたりを見回すと農民達が水の張られていない水田を見ながら困ったような顔をしていた。

「それが今朝から貯水湖の水が流れて来なくなってしまい、水田に十分な水が張れず田植えが出来ないのです。」

「貯水湖の水門は1ヶ月前に完成したばかりですよね。故障でしょうか?」

「いえ、水門はちゃんと開いているそうなんですが、何か大きなモノが詰まって水を堰き止めているらしいのです。」

「大きなモノですか?それじゃ、貯水池に行ってみましょう。」

ウィルは早速皆を連れてコルマール地区からさらに北の方角にある貯水湖へと瞬間移動した。


貯水湖に着くと、そこでは数人の農民が水門の方を見ながら何やら話をしていたが、ウィル達に気付くとその場に平伏した。

「そんなにかしこまらなくても良いですよ。それで水門の方を見てましたけど何が詰まっているのかわかりましたか?」

ウィルが声を掛けるとその中の少し派手目な格好の鼻の下に髭を生やした中年の男が顔を上げた。

「い、いえ、何かはわからないのですが水の中に大きな影が見えてたまに動いているのです。」

この男はコルマール地区の水田の管理を任されているウォン・ヌマール・サンライスである。

「生き物ですか…。でもそうだとすると結構大きいですね。とりあえず持ち上げてみますか?もしかすると魔物かもしれないので皆さんは下がってて下さい。」

ウィルは農民達が離れると右手を天にかざして叫んだ。「重力操作シャワークラフト!」

ウィルの力ある言葉と共に目の前の湖面が盛り上がり、間も無くして激しい水飛沫を上げながら大きな水竜ウォータードラゴンの頭部が現れた。

「グオオオオオオッッッ!!!」

「ドラゴン!?」

「これは水竜だな。ウィル、水の中だと厄介だ。そのまま浮かび上がらせて地面に降ろすのだ。」

「はい!くっ、かなり重いな!?ぐぬぬぬっ!でやあああああっ!」

『ザッバァァァァン!!!』

次の瞬間、空高く水柱が上がると同時に青光りする鱗を全身に纏った体長20mはあろうかという水竜が空中に浮かび上がった。

ウィルは暴れ狂う水竜を陸地まで移動させると通常の100倍の重力をかけて動きを止めた。

「カルデ、これどうしましょうか?」

「うむ、天地界では水竜は珍しいからな。鱗や骨は武器や防具の素材として高く売れるだろうから、バラして街の開発の資金にでも当てたらどうだ?」

「そうですね。こんなのが貯水湖にいたんじゃ危ないですからね。」

そう言いながらウィルが銀震刃ビブリランドキリンジを出現させて水竜に歩み寄った、その時。

突如、水竜の全身が眩い光を放ちながら収縮し青いワンピースのような服を着た三つ編みの女に姿を変えた。

「えっ!?お、女の人!?」

突然の出来事に戸惑いながらもウィルが重力操作を解除した途端、女は大声で泣き始めた。

「うえーーーん!殺さんでおくれーーー!オラ、なんも悪いことしてねぇだー!うえーーーん!!!」

「あ、あの、えーと困ったなぁ。ほら、泣かないで。ねっ?」

大声で泣き続ける女にウィルがどうして良いかわからずあたふたしていると、業を煮やしたカルデが女を一喝した。

「うるさいぞ!泣き止まぬか!貴様、何者だ?何故、魔界に住まうはずの水竜がこんな所にいる?」

「うえーーーん!何者だって聞くなら自分から名乗るのが筋だって兄ちゃんが言ってたべー!うえーーーん!!!」

「貴様、我を愚弄するとは殺されたいのか?」

「ヒィッ!?このオバさん、顔がおっかねぇだべー!うえーーーん!!!」

「オ、オバさんだと!?…殺す!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!この人の言う通り名乗るなら自分からっていうのが正しいですよ!俺はこの辺りで領主をしてるウィル・サウストン・ガーデンフレイという者で、このおっかない…じゃなくて、優しそうなお姉さんはこの国を加護する風の神カルデって言うんだ。君の名前を教えてもらえるかな?」

「ぐすん、オラの名前はシャルル・オリバー・エリゴールだべさ。」

「エリゴール?」

エリゴールという家門名にカルデが反応した事にウィルは気付きつつも、また話がややこしくなってはたまらないと思い構わず話を続けた。

「シャルルっていうんだね。シャルルはなんでこの湖にいたのかな?」

ウィルが優しく語りかけると、シャルルはようやく泣き止み静かに語り始めたのだった。


シャルルの話をまとめるとこうだった。

13年前、シャルルは魔界のベリアント魔王国にあった水竜の住む村で暮らしていたが、ある日突然村の上空に発生した時空の歪みに吸い込まれ、気が付けば1人血だらけでこの貯水湖のほとりで倒れていた。

その後、シャルルは家族や村人を探す為に旅にも出たが見つける事が出来ないまま時間だけが過ぎ、結局この貯水湖に戻り静かに暮らしていたという事だった。

「それでなんで水門の水を堰き止めていたの?」

「そ、それはその近くで寝てたら吸い込まれて身体が挟まっちまっただけだべ。ワザとじゃねぇべ。」

「なるほど、でも人の姿になれば抜けられたんじゃ無いのかな?」

「それは無理だべ。水の中じゃこの姿にはなれねぇんだ。ウィル、オラはここ以外に行く場所がねぇんだ。どうかここに居させてくれねぇか?」

「うーん、それじゃあここにいてもいいけど、この貯水湖の管理をお願い出来るかな?」

「管理だべか?」

「うん。例えば水門の開け閉めとか、貯水湖が汚されないようにゴミを捨てる奴がいたら追っ払うとかかな?当然、賃金は払うし必要なら家も用意するよ?」

「本当だべか!?ウィル、ありがとうだべー!」

満面の笑みを浮かべシャルルはウィルに抱きついた。

「うわっ!?あははは、そんなに喜ばれると俺も嬉しいよ。シャルル、これからヨロシクね。」

「ウィル、こちらこそヨロシクだべ!」

「コホン!いつまで抱きついているのだ?話がまとまったならとっとと戻るぞ。」

「そ、それじゃあ、詳しい話はそこにいるゴンズさんとサンライスさんに任せるから、俺は行くね。」

「わかっただべ。今度はそこのおっかねぇオバさんは抜きで遊びに来るだべ。美味しい魚料理をご馳走するだべ。」

「なっ!?貴様、またこの我をオバさん呼ばわりしおって!もう許さん!今すぐ蒲焼にしてくれるわ!」

「ヒィッ!?ウィル、怖いだべー!」

「カ、カルデ、落ち着いて!ミツハさんもカルデを止めて下さい!」

「は、はい!カルデ様、落ち着いて下さい!」

「そ、それじゃあ、ゴンズさん、サンライスさん、後は宜しくお願いします!」

そう言い残すとウィルはミツハにはがい絞めにされたカルデを連れてゲンの待つ丘へと瞬間移動したのだった。



ウォン・ヌマール・サンライス

男性 40歳

コルマール地区の水田の管理を任されている。

小太りで鼻の下にマ◯オのような髭を生やし、いつも赤い帽子をかぶり、赤いシャツにオーバーオールを着ている。

元々はポテパで水田の管理を任されていたがポテパの取り壊しに伴い、フレイへと移住した。

ちなみにキノコを食べても大きくならない。


シャルル・オリバー・エリゴール

女性 17歳

貯水湖に住む水竜ウォータードラゴンの可愛い三つ編みの女の子。

臆病で泣き虫だが怖いもの知らず。

癖のある訛りは旅をしていた時にお世話になった老夫婦から学んだらしく、実は標準語で話せるらしい。





いつも読んで頂き本当にありがとうございます^_^

またいつの間にか評価が増えておりました!

評価を入れてくださった皆様、本当にありがとうございます^_^

コロナや花粉や黄砂のトリプルパンチに負けないよう頑張って書きますので今後とも宜しくお願いします!!!


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