第9話 オグニイーナ
カルデの言葉にウィルを絶望が襲う。
ウィル自身は警備兵に仕官する前に受けた騎士認定では初級中位であり、ヘルガルムはおろかカルデの分身体でさえ、はるか雲の上の等級であった。
そして分身体のカルデと、ヘルガルムの等級差もまた圧倒的であった。
「な、なぜ?そんな魔物がこんな所に…。」
そうこうしているうちに倒木の山が崩れて砂埃が巻き上がると、中から黒い炎を纏った無傷のヘルガルムが静寂を切り裂くように咆哮を上げ、ウィルたちに向かい地を蹴った。
「ガオオオオオッッ!!!」
カルデが両手をヘルガルムに構え叫んだ。
「とっとと逃げんかぁ!愚か者!」
カルデはその言葉と同時に手から2本の竜巻を発生させヘルガルムの行く手を阻む。
ウィルはとっさにアリスを抱き上げ叫び声をあげながらカッシアの丘の方へと走り出した。
「うわあああっ!!!」
ヘルガルムはカルデが発生させた2本の竜巻の間をいとも簡単にこじ開け、カルデに襲いかかった。
「ガオオオオォォォッッ!!!」
「チッ!家畜風情がナメるなよ!」
それをカルデは横に飛んで避けると右腕に旋風を纏わせ顔面を殴りつけようとするが、ヘルガルムはその動きに反応し、カルデの右腕を喰いちぎった。
『ブチィッッッ!!』
「クッ!」
美しいカルデの顔が歪み喰いちぎられた右上腕部から血しぶきが飛び散った。
しかし今度は左腕に旋風を纏わせ、ヘルガルムの鼻を殴りつけた。
「でやあああっ!!」
『バキッッッ!』
ヘルガルムはのけぞりそうになるのを耐え、右前足の鋭い爪でカルデの身体を引き裂こうとする。
「ガオォォォッッ!!!」
咄嗟にカルデは竜巻で全身を覆い攻撃を流そうとするが、ヘルガルムの攻撃力が勝り流しきれずにカルデの身体が宙を舞い地面を転がった。
『ズシャァァァァ!!』
その後も格上の強さを持つヘルガルムを相手に、カルデは奮戦するも徐々に追い詰められていく。
「チッ、このままではジリ貧か。ならば…。」
ヘルガルムは勝ち誇ったようにゆっくりとした足取りでカルデに歩み寄る。
「クッ、これでもくらえ!」
カルデが左手を天にかざすと今まで雲ひとつ無かった夜空に暗雲が立ち込め巨大な竜巻が出現した。
そして周囲の森の木々もろともヘルガルムを巻き上げ竜巻の中央で切り裂いた。
『ゴォォォォォォッ!!!』
「ガオオオオオッッッ!!!」
巨大な竜巻に飲み込まれ皮膚を切り裂かれながらもヘルガルムが咆哮をあげると、全身に纏った黒い炎が膨れ上がり巨大な竜巻をかき消した。
『ボオオオォォォン!!!』
ヘルガルムが地面に着地すると引き裂かれた皮膚がみるみるうちに回復していく。
カルデが分身体で使える最強の魔法であっても、ヘルガルムには効いていなかった。
「チッ!やはり、通じんか!我の本体が到着するまで持ちそうにないな。あやつらも逃げれたようだし、我も一旦退くか。」
カルデの本体は戦闘が始まると同時に、王都からサウストン領に急ぎ向かっていたが、いくらカルデの神級の高速移動魔法であっても辺境のサウストン領地には到着まで、もうしばらく時間が必要だった。
カルデが退こうとしたその時、森の奥から若い女の声がした。
「あら、カルデちゃん。まさか、逃げるつもりかしら?」
カルデが声のした方を見ると、そこには燃え盛る炎のような髪の色をした20歳位の可憐なドレスを着た美女が、不敵な笑みを浮かべながら立っていた。
カルデはその女を無表情のまま一瞬見るが、何も見ていないかのようにつむじ風を起こし体を浮かび上がらせその場を飛び去ろうとする。
「ちょ、ちょっと無視ですって!?無視してんじゃないわよ!」
そう言った瞬間、女を中心に半径100mほどのドーム状の赤い魔力結界が展開し、カルデを結界内に閉じ込めた。
そんなカルデを見ながら女は高笑いしている。
「あはははははっ!カルデちゃん、逃げられないわよ。まさかこんな所で会えるなんて、ヘルちゃんには悪いけど、この私オグニイーナ自らグチャグチャに殺してあげるわね。」
この女は火の神オグニイーナ。
この世界に存在する6人の神々の1人であり、ボルケニア帝国を加護する女神であった。
火の神オグニイーナ
女神 ??歳
燃え盛る炎のような髪の色をした美女で可憐なドレスを着ている。
見た目は20歳位に見えるが、実際の年齢は不明。
性格は情熱的で残酷なかまってちゃん。
ボルケニア帝国を加護する火の女神。




