第87話 報酬
ウィルはアリスのおっぱい爆弾から解放されると、グリドールに呼び出されカルデと共に謁見の間に来ていた。
そこには、宰相のハンバーやウィルの祖母で大蔵大臣のアンジェリーナや産業大臣のフィレオを始めとした重臣達と、マッカランやラムやカサンドラ、そしてミツハといった騎士団や魔道士団の幹部も呼ばれていた。
ウィルが先日グリドールを殴りつけた事を思い出しながら胃をキリキリさせていると、玉座の近くの扉が開きグリドールが入ってきた。
そして、グリドールは気怠そうにウィルの前まで来ると口を開いた。
「ウィル、身体の調子はどうだ?」
「は、はい。もうすっかり良くなりました。あ、あの、陛下…。」
「そうか、それなら俺も遠慮する必要はねぇな。立て。」
「は、はい。」
次の瞬間、立ち上がったウィルのみぞおちにグリドールの放った拳がめり込んだ。
「ぐはっ!?」
身体が浮き上がる程の強烈な一撃に膝から崩れ落ちたウィルが身悶えしていると、グリドールはハンバーに目くばせして純銀製のワイングラスを持ってこさせた。
そのグラスには赤ワインが注がれている。
「ウィル、これで俺を殴った事は帳消しにしてやる。だがな、一国の王に手を上げたならどんな理由があろうと、その場で首を切り飛ばされても文句は言えねぇ。そして領主であればその瞬間領地は没収され大勢の者が路頭に迷う事になる。これからお前は辺境伯になるんだ。今後は自制する事も覚えろ。いいな?」
「…はい。申し訳ありませんでした。」
「フッ、まぁ説教はこの位にして本題はここからだ。ウィル、これを飲め。」
グリドールはハンバーから受け取ったグラスのワインを一口飲むとウィルに差し出した。
「陛下、これは?」
「これは義兄弟の盃だ。俺はお前が気に入った。だが、つまんねぇ身分や立場の違いがあっちゃあ、お前とは腹を割って話せねぇだろ?だから、俺の義兄弟になれ。そうすりゃあ、いくら殴り合ったって、それは単なる兄弟喧嘩だ。誰にも文句は言わせねぇ。どうだ、悪い話じゃねぇだろう?」
「…わかりました。お受けします。」
思わぬ申し出に驚きながらもウィルはグラスを受け取るとその中のワインを一気に飲み干した。
グリドールは満足げにそれを見届けると玉座に座った。
「これで俺たちは義兄弟になった。だが殴り合いをするなら最低限、時と場所は選べ。いいな?」
「はい。」
ウィルが返事をすると、その場にいた者たちから歓喜の拍手が上がる。
グリドールはそれを手で制すと話を続けた。
「そんじゃあ、話す事は腐るほどあるが、まずは賢者の石についてだな。ラム、説明しろ。」
「はい。ポテパでウィルさんが倒したゴーレムから回収した賢者の石のかけらを調査した結果、イカントリ共和国で押収された賢者の石と同じ特殊な聖属性魔力が検出されました。今後はイカントリ共和国の王宮魔道士団と共同で調査を進め製造方法の解明を行う予定です。」
「そういう訳だ。まだ聖の神ククルカンが関わった直接的な証拠が上がってねえ以上、軽々にクレームをつければ向こうからそれに託けて何を言ってくるかわからねぇ。だから今は静観しつつ製造方法の解明を進める。ウィル、お前は前世でククルカンと因縁があるみてぇだが今は手を出すな。」
「はい。俺も今はそのつもりはありませんから安心して下さい。」
「ああ、それならいい。次に今回のフライヤー争乱に関するウィルの褒美と論功行賞だ。アンジェリーナ、説明しろ。」
「はい。今回のウィルの働きはワタクシの孫だけあって素晴らしいの一言に尽きます。ウィル、良くやりましたね。」
「お婆さま、ありがとうございます。」
「まず、フライヤー争乱を鎮めた功績を評価し、英雄勲章と白金貨500枚を褒美として与えます。
続いて論功行賞に移ります。
まず、魔物の大群の討伐報酬として白金貨272枚がウィルに支払われます。
この内訳は概算となりますがウィルの討伐した魔物の数を2000匹とし、その内レッサーデーモンやガーゴイルなどの上級魔物が200匹で白金貨200枚、トロルやスケルトンなどの中級魔物が600匹で白金貨60枚、スライムやゴブリンなどの初級魔物が1200匹で白金貨12枚となります。ウィル、何か異論はありますか?」
「いえ、自分でも数えていた訳ではないので異論はありません。というか、褒美以外にもそんなに頂いて良いのでしょうか?」
「ふふっ、遠慮する必要はありません。貴方は今はまだ平民なのです。貴族であればまた話は違ってきますが冒険者の討伐報酬に照らし合わせれば妥当な金額なのです。それにまだまだありますよ。
次に討伐した魔物の素材についてですが、本来であれば自ら解体して市場に持ち込むのですが、流石にそれは1人では無理でしょう。それにもしそれが可能だとしても、この量の素材が一度に市場に流れれば、素材の価格が下落して混乱しかねません。なので、魔物の素材は全てマクグラン王国が一括で買い上げます。査定の結果、上級魔物や中級魔物の程度の良い素材が数多くありましたので全て合わせて白金貨1000枚となります。
ここから解体代行手数料を2割差し引いた白金貨800枚が貴方に支払われます。これについて何か異論はありますか?」
「異論はありません。こちらこそ色々とご配慮頂き有難うございます。」
「いえいえ、可愛い孫の為ならこの程度の労は惜しみませんよ。
それでは最後にアダマンタイトのゴーレムについてですが、これはカルデ様の鑑定の結果、等級は超級上位に認定されました。それに基づき討伐報酬は白金貨100枚となります。」
「えっ!?あのゴーレムって超級上位だったんですか?」
「うむ、間違いないだろう。今回動力源に使われた賢者の石が試作品だから良かったものの、これが本物の賢者の石なら神級になっていただろうな。全くあんな物を放置しておくとは、少しはグリドールもアンジェリーナも反省するんだな。」
呆れたようにカルデが言うとグリドールとアンジェリーナはバツが悪そうに顔を見合わせた。
「コホン!そ、それで、ゴーレムは知っての通り希少価値の高いアダマンタイトで出来ています。査定の結果、あのゴーレムは重量が約30トンでその内アダマンタイトは約10トン。アダマンタイトの取引相場は1キロ当たり白金貨30枚ですから、ざっと計算してあのゴーレムの素材価値はアダマンタイトだけでも白金貨300000枚になります。」
アンジェリーナの説明にその場が一瞬静まり返り、次の瞬間その静寂を切り裂くようにウィルが叫んだ。
「ええーーーっ!?アダマンタイトってそんなに高いんですか!?」
ちなみに、白金貨は現代の貨幣価値に換算すると1枚で100万円である。それが300000枚ともなれば3000億円という事になり、いくらボルケニア帝国の内乱を鎮めた褒美で既に白金貨1000枚を受け取っているとはいえ、ウィルが驚くのも無理はなかった。
「はい。アダマンタイトは滅多に市場には出回りませんので。それにあのゴーレムの残りの部分は純銀で出来ていてその部分だけでも白金貨200枚になるのです。
ですが、なにぶんあの硬さゆえ解体するにも莫大な資金と人材が必要になるのです。そこでウィルが自ら解体してくれるのであれば、マクグラン王国が白金貨310000枚で買い上げさせていただきますが如何でしょう?」
「白金貨310000枚ですか!?ですがあのゴーレムは元々王国管理の古代遺跡にあったんですよね?王国の物なのに俺が頂いても良いのですか?」
「ええ、素材の所有権は討伐した者に与えられるという原理原則があるのです。それにマクグラン王国としても加工可能なレベルに解体してもらえるのであれば、決してこの金額は高いものではありません。」
「わかりました。そう言う事なら是非とも俺に解体させて下さい!」
「わかりました。それでは、ゴーレムの素材の買い上げ金額も含めて、ウィルには全て合わせて白金貨311672枚が支払われます。以上です。」
アンジェリーナが話し終わるとグリドールが口を開いた。
「それと最後にお前に会わせたい奴がいる。ハンバー、マロンを呼べ。」
ハンバーは近くの扉に入ると1人の少女を連れて出てきた。それはポテパでレッサーデーモンに殺されたはずの、あの少女だった。
「えっ!?君はあの時の…あ、ああ…良かった…。生きてたんだね…。本当に良かった…。う、ううっ…。」
気付けばウィルは少女を抱きしめながら泣き崩れていた。
「ウィル様、あの時は助けてくれてありがとう。ボクはもう大丈夫だから泣かないで…。ねっ?」
「ご、ごめん!つい嬉しくて…。お礼を言うのは俺の方だよ。あの時、俺を助けてくれてありがとう…。君の名前は?」
「ボクはマロン。マロン・キュリアス・キャスタニーだよ。」
「マロン、ありがとう!」
「エヘヘ。」
マロンの頭をウィルが優しく撫でているとその様子を微笑ましく見ていたカルデが口を開いた。
「ウィル、マロンはあの時確かに一度死んだのだ。だが、グリドールがマクグラン王家に伝わる奇跡の雫という秘宝を使って蘇生させたんだ。」
「えっ!?そうだったんですか…。陛下、有難うございます!」
「別にお前に礼を言われる筋合いはねぇよ。俺は俺の出来る事をしたまでだ。それでマロンの事なんだが、元々身寄りが無くて教会で保護されていたらしくてな。これも何かの縁だ。どうだ、お前の所でメイドとして雇ってみる気はないか?どの道、辺境伯になって屋敷を構えればメイドは必要だろうしな。」
「えっ?俺はいいですけど、マロンはそれでいいの?」
「うん!ご主人様、これからヨロシクね!」
「うん。こちらこそヨロシクね!」
こうして、ウィルがマクグラン王国に帰国して早々巻き込まれたフライヤー争乱は、どこぞの元アメリカ大統領の総資産並みの莫大な報酬とマロンとの奇跡的な再会によって幕を閉じたのだった。
ちなみにこの世界の貨幣価値は以下の通りであり、平民の平均月収は金貨30枚程度である。
銅貨… 100円
銀貨… 1000円
金貨… 10000円
白金貨… 1000000円
マロン・キュリアス・キャスタニー
女性 10歳
栗色の髪をした可愛い女の子。
5年前に家族で旅をしている時に魔物に襲われ両親を失い、それ以来ポテパの教会で保護されていた。
自分の事をボクと呼ぶ、ボクっ子。




