第83話 叫び
朝靄の漂う草原に馬の蹄の音を轟かせながら、グリドール率いる国王軍はポテパへと向かっていた。
『ドドドドドドドッッッ!!!』
先頭を走るグリドールの少し後方には途中から合流したハニエルやボルボット達の姿が見える。
「そろそろポテパだな。ハニエル、カルデからウィルの状況について何か連絡はあったか?」
「いいえ。カルデ様も昨晩からずっとウィル君の念話石に呼びかけているみたいだけれど、隔離結界のせいでうまく繋がらないみたいね。」
「そうか、ミツハからの報告だとウィルの隔離結界はまだ消えちゃあいねぇみてぇだから生きてるとは思うが急ぐに越した事はねぇな。」
「そうね。ウィル君が死んじゃったら、貴方カルデ様に殺されちゃうものね。ウフフ。」
「フッ、やめろ。冗談にもならねぇよ。
…見えて来たな。」
グリドールとハニエルが話をしていると徐々に朝靄が薄れ前方にポテパの街を覆い尽くす直径数キロメートルはあろうかという銀色の隔離結界が見えて来た。
「でけぇな…。」
街に近付くにつれ濃くなる臭気にグリドールが眉を顰めながら進んでいると、隔離結界の外にいるミツハの姿に気付いた。
「ボルボット、シャペル、ペルシャ、お前らは兵の半分を連れて隔離結界の周囲の警戒に当たれ。」
「ハッ!承知しました!」
「はーい!ペルシャ行くニャー!」
「あっ!?シャペル待つニャー!」
グリドールはボルボット達に指示を出してから、残り半分の兵を連れてミツハの前まで来ると馬を降りた。
「ミツハ、ご苦労だったな。他の者はどうした?」
「手分けして隔離結界から逃れた魔物の討伐に当たっています。」
「ラムとカサンドラもか?」
「はい。お2人も魔力の補充をすると魔物の討伐に向かいました。」
「そうか、それで報告じゃ隔離結界内には2000近い魔物とアダマンタイトのゴーレムが残っているって事だったが、今はどうなっている?」
「それが隔離結界内には煙や煤がこもっていて外から中の様子を伺う事が出来ないのです。それでも夜が明ける迄は戦闘する音が聞こえて来ていたのですが、つい先程からその音も聞こえなくなってしまいました。ウィル様の身に何事も無ければ良いのですが…。」
ミツハが心配そうに隔離結界の方を見つめていると、国王軍が到着した事を知ったラムとカサンドラがやって来た。
2人はグリドールの前まで来ると敬礼した。
「ラム、ご苦労だったな。隔離結界から逃れた魔物は片付いたのか?」
「はい。後はポテット山とその周囲に潜んでいる魔物だけですが、そのほとんどは初級の魔物ばかりですので事態が落ち着いてから対処しても問題にはならないでしょう。」
「カサンドラ、お前もご苦労だったな。ゴーレムにやられたキズはもう大丈夫なのか?」
「あらまっ!?グリちゃん、ワタシの事心配してくれてたの?見ての通りウィルちゃんが回復魔法をかけてくれたから、もうピンピンよ!なんなら試してみる?」
カサンドラはそう言うとグリドールにまとわりついて股間を触ろうとするが、次の瞬間グリドールの剣先が喉元に突きつけられると動きを止めた。
「なるほど、無駄に元気そうだな?それじゃあいっぺん死んでおくか?」
「あらヤダ!?じ、冗談よ。グリちゃんのイ・ケ・ズ♡」
グリドール達が話をしていると、突如隔離結界に亀裂が走り始めた。
『ピキッ、ピキッ、ピキッ、ピキキキッ…。』
「隔離結界が解けるぞ!総員、魔物の襲撃に備え警戒体制を取れ!」
グリドールの言葉と共に兵士達が一斉に剣を抜き放った直後、隔離結界はガラスが割れるような音を立てて飛び散った。
『パリィィィィィン!!!』
銀色の魔力の粒がまるで粉雪のようにキラキラと舞い散る幻想的な光景に目を奪われたのも束の間、今まで隔離結界内に閉じ込められていた煙や煤が吹き荒び、グリドール達は思わず腕で目を覆った。
そして、煙や煤が落ち着き始めグリドール達が目を開けると、その目に映ったのは一面焼け野原と化したポテパの変わり果てた街並みと、そこら中に積み上げられたいくつもの魔物の死骸の山だった。
グリドール達は魔物に警戒しながらも街の中心部へと向かっていた。
「どうやら魔物は全てウィルが片付けたみてぇだな…。」
中心部に近付くにつれ増えていく魔物の死骸とそこから発せられる悪臭に顔を歪めながら進んでいると、視界の先に胴体を真っ二つに両断されたゴーレムの残骸が現れた。
「これが例のアダマンタイトで出来たゴーレムか?完全に動作は停止してるみてぇだな。」
「すごい…。アダマンタイトをこんな風に切断するなんて、ウィル様は一体どんな魔法を使ったの…?」
「そうね。ワタシの聖風五月雨斬でもキズ一つ付かなかったのに、こんな綺麗に真っ二つにしちゃうなんてゾクゾクしちゃうわ。」
「ウフフ、ウィル君なら出来てもおかしくないでしょうね。だって火の神オグニイーナを倒した子なんだもの。」
グリドール達がゴーレムの残骸を見ながらウィルの強さに改めて感心していると、突如旋風が巻き起こり中からカルデとマッカランが現れた。
カルデは羽衣を靡かせながら舞い降りるとグリドールを見た。
「グリドール、どうやらおぬしの出番は無かったようだな?」
「ああ、ウィルが全部片付けちまったぜ。」
「まぁウィルの力なら当然だろうな。」
「わっはっはっはっ!流石はウィル殿なのだ!」
「フッ、それで肝心のウィルの姿が見えないが何処にいる?」
カルデが周囲を見渡していると、少し離れた所にある崩れ落ちた教会の中でカルデを模した石像に寄りかかりながら項垂れるウィルの姿があった。
そして、その前には栗色の髪の少女が横たわっていた。
「ウィル!」
カルデが駆け寄ると、ウィルは力なく顔を上げた。
「…カルデ、来てくれたんですね…。」
「ああ、遅くなってすまなかった。ウィル、良くやってくれた。」
「はは、良くなんてないですよ…。俺はこんな小さな女の子さえ救う事が出来ないんですから…。良い訳ないじゃないですか!」
ウィルの前で横たわる少女は息をする事なく安らかに眠っている。
「ウィル…。」
「最後の1匹だったんです…。この子はずっと怖い思いをしながらも諦めないで隠れてたのに…。俺は救う事が出来なかった…。クソォォォオッッ!!!」
ウィルはそう叫びながら少女に覆い被さるように泣き崩れるのだった。
いつも読んで下さっている皆様、これまでブクマや評価をして下さった皆様、そして、35、36件目のブクマをして下さった方々、
とうとう総合評価が100ポイントを達成する事が出来ました^_^
これも皆様のおかげです!
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今後とも頑張りますので末永くお付き合いいただけると幸いです^_^




