第82話 ゴーレム
話はほんの少し戻る。
ウィルとミツハは時折り遭遇する魔物を倒しながら飛行魔法でポテパへと向かっていた。
「そろそろポテパが見えて来る頃かな…あっ!あれは!?」
ウィルは遠くに見えた炎上するポテパの街とその周囲に群がる魔物の大軍に気付き思わず顔を歪めた。
「なんて数なの…。」
まるで街に黒い霧がかかっているかの様な魔物の数にミツハが言葉を失っていると、眼下にポテパから避難して来た大勢の人々とそれを守りながら魔物の群れと戦う王宮騎士や王宮魔道士の姿が見えた。
「押されてますね。ミツハさん、行きますよ!」
「はい!」
ウィルはその集団の近くまで行くと急降下しながら叫んだ。
「連弾重力渦!」
『ズドドドドドドドドッッッ!!!』
ウィルは重力渦で集団を襲う魔物達を消滅させながら地上に舞い降りると同時に、王宮騎士の背後からこん棒を振り下ろそうとしているトロールを銀震刃で切り捨てた。
そんなウィルに負けじとミツハは高速詠唱を終えると住民の乗る馬車を襲うレッサーデーモンに両手をかざした。
「爆風大砲!」
『ズゴゴゴゴォォォッッ!!!』
ミツハの力ある言葉と共に放たれたぶ厚い鋼鉄の壁すら貫く旋風はレッサーデーモンを吹き飛ばすと勢いそのままに、周囲にいた数匹のホブゴブリンを巻き込みながら空の彼方へと飛んでいった。
「ふぅ、護衛の皆さんが守ってくれていたお陰で大した怪我人は出ていないみたいですね。良かった。」
「はい。そのようですね…。」
ミツハが返事をしながら辺りを見回していると1人の王宮騎士が駆け寄って来た。
「ミツハ様!助けて頂き有難うございました!あ、あの、その青年は一体…?」
「いえ、お礼ならウィル様に言って下さい。この方はウィル・バークリー・サウストン様です。」
「えっ!?えーーーっ!?その、それってボルケニア帝国を救ったという!?し、失礼しました!私は王宮騎士団のクリフ・カーチス・モルガンと申します!この度は助けて頂き有難うございました!」
クリフが慌てて敬礼すると、いつの間にか集まって来ていた10人ほどの王宮騎士や王宮魔道士が一斉にウィルに向かって敬礼した。
「いえ、お礼なんていいですよ。それより戦況はどうなってますか?」
「ハッ!戦況は極めて厳しく、街にいた我々王宮騎士団と王宮魔道士団ともに半数近くの犠牲者が出ております。未だ街には2000匹以上の魔物がいると思われます。我々は総指揮を取っていた王宮魔道士団長のラム様の指示により生き残った住民を連れて避難して来ました!」
「お母様やカサンドラ副団長の姿が見えませんが、お2人はどうしたのですか?」
「ハッ!ラム様は可能な限り魔物を引きつけると言って街に残り魔物と戦っております!カサンドラ様は先程まで住民の避難誘導の指揮を取っておられたのですが、今しがたラム様の加勢に向かわれました!」
「そうですか。クリフ、貴方はこのまま住民達を護衛して可能な限り街から離れて下さい。」
「ハッ!承知しました!」
クリフの威勢の良い返事と共に、ウィルとミツハは空へと舞い上がり先を急ぐのだった。
間も無くしてウィル達がポテパに到着すると街の中ではまるで地獄絵図のような光景が広がっていた。
「くっ!なんて酷い事を…!?」
ウィルとミツハが襲い来る魔物を倒しながら進んでいると、突如轟音と共に街の中心部で爆発が起きた。
『ズドドドドドドドドッッッ!!!』
「何だ!?今の爆発は!?」
ウィルが爆発のあった方に目をやると燃え盛る炎の向こう側に赤い光線を放つ巨大なゴーレムが見えた。
「やっぱり動かしていたか!?ミツハさん、急ぎましょう!」
「はい!」
2人が魔物の群れを薙ぎ払いながらゴーレムのいる方に駆けつけると、そこでは魔物の大群に囲まれ身動きの取れないラムと、今にもゴーレムの足に踏み潰されそうになっているカサンドラの姿があった。
「危ない!」
ウィルは咄嗟に瞬間移動でゴーレムの足の裏へ移動するとカサンドラを担いでその場を離れた。
「随分と派手にやってくれたみたいですね。これなら俺も手加減しなくて良さそうだ。」
ウィルはゴーレムを睨み付けると、意識の無いカサンドラをその場に寝かせ回復魔法をかけた。
「ミツハさんはこの人とあそこで戦っている人を連れて街から離れて下さい。」
「えっ!?それはどういう事ですか!?」
「このままだと街にいる魔物がさらに外に出てしまいます。だから魔物の大群ごとこの街を隔離結界で封鎖します。俺が100数えたら隔離結界を展開するので、それまでに街から離れて下さい。」
「そ、それではウィル様はどうされるのですか!?」
「俺はあのゴーレムと隔離結界内の魔物を倒します。」
「そんなっ!無茶です!ワタシも戦います!」
「それはダメです。見た感じあそこにいる人ももう魔力が無いみたいですし、この人と2人で街を出るのは無理でしょう?」
「ですが…!」
「俺なら大丈夫ですよ。サクッと片付けますから。ねっ?」
「で、ですが…。」
2人が話をしているとゴーレムは雄叫びと共に目から赤い光線を放った。
「ウガァァァァッ!!!」
『ズゴゴゴゴォォォン!!!』
しかし、光線はウィルの展開した防御障壁に防がれ飛散した。
「ほらっ!行って下さい!」
「…はい、わかりました。どうかご無事で!」
ミツハはそう言うとカサンドラの腕を担ぎ上げラムの元へと向かった。
そして、ミツハがラムと合流し街の外に向かい飛び去るのを確認すると、ウィルは連続して放たれる光線を防御障壁で飛散させながら、ゴーレムに向かって歩き出した。
「1、2、3、4…。」
「ウゴッ!?」
いとも簡単に光線を防がれている事にゴーレムは驚きつつも更に出力を上げるが、ウィルはものともせずゴーレムの足元まで来ると銀震刃でその足を斬りつけた。
『ギィィィィィン!』
「ウガァァァァッ!!!」
銀震刃はけたたましい金属音を立てながらゴーレムの足へと食い込んだ。
「23、24、25…。うーん、これじゃ短すぎて断ち切れないか。よし、アレを使ってみるか!」
ゴーレムは一瞬怯みながらもすぐに体勢を整えると、足元のウィルへと拳を振り下ろした。
ウィルはその拳を反射で弾き返すと、銀撃を二重にかけた拳で殴りつけた。
「ウガァァァッッ!?」
「47、48、49…。」
その一撃にゴーレムの巨体がグラつくと、ウィルは空へと上がり片手を天にかざした。
「銀震輪円斬!」
その言葉と同時にウィルの頭上に高速で回転する銀色の輪が出現した。
銀色の輪はウィルがカウントしている間も回転速度を上げながら徐々に大きくなっていく。
「75、76、77…。」
そんな隙だらけのウィルを見逃す訳もなくゴーレムは両手を構え左右の拳を発射するが、ウィルは構う事なくかざしていた手をゴーレム目掛けて振り下ろした。
「いけぇぇぇぇっっ!」
『キュィィィィィィン!!!』
銀色の輪は空気を切り裂く音を上げながら迫り来るゴーレムの拳を真っ二つにすると、更に速度を上げアダマンタイトで出来たゴーレムの巨体を両断した。
『ギィィィィィン!!!』
「ウガァァァァァァッッッ!!!」
次の瞬間、ゴーレムはけたたましい叫び声を上げながら絶命すると動きを止めた。
「97、98、99、100。」
動作の停止したゴーレムを見ながらウィルはカウントを終えると、銀色の隔離結界を展開するのだった。
クリフ・カーチス・モルガン
男性 32歳
マクグラン王国王宮騎士団員。
騎士団の中では会計係を担当している七三分けの声がデカい男性。
実家は王国屈指の豪商であるモルガン商会。
次男であるため、家業が継げず泣く泣く王宮騎士団に入団した。
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