第80話 乙女心
ウィルは地上から遥か上空まで来ると話を切り出した。
「ここまで来れば大丈夫でしょう。話して下さい。」
「うむ、実はポテット山の周辺の森で倒された魔物から検出された特殊な聖属性魔力と同じものが、イカントリ共和国で大量発生した魔物からも検出されていたという事がわかってな。」
「だからカルデはイカントリ共和国に行ったんですね。」
『ああ、それで今しがたトラロックと情報交換していたのだがイカントリ共和国の魔物の大量発生に関与していた魔道士から特殊な聖属性魔力を秘めた賢者の石を押収したそうだ。話によるとそれを使って魔物を召喚していたらしい。恐らくポテット山で大量発生した魔物も賢者の石を使って召喚されたんだろう。』
「賢者の石ってものすごい魔力を秘めたとても貴重な魔石ですよね?そんな簡単に手に入るものなんですか?」
この世界における賢者の石とは自然界で数万年かけて生成された強大な魔力を秘めた天然の鉱石であり、過去から現在に至るまで数個しか存在が確認されていない幻の魔石として知られていた。
『ああ、確かに天然の賢者の石なら手に入らないだろうな。だが、賢者の石を人工的に生成しようと長年研究していた者がいるのだ。我は今回の魔物の大量発生に使われた賢者の石はその者が人工的に作り出したものだと考えている。その者の名は…。』
「聖の神ククルカン…ですか?」
『気付いていたのか?』
「いや、なんとなくですかね。ミツハさんから特殊な聖属性魔力が検出されたって話を聞いた時にククルカンの事が頭に浮かんだのを覚えていただけです。
それでククルカンの作った賢者の石というのはたくさんあるんですか?』
「イカントリ共和国で捕まった魔道士が言うには白銀の鎧を纏った天使から賢者の石を3個受け取って、その内の2個を使い初級から上級の魔物を3000匹ほど召喚したらしい。ラムから報告のあった、ポテット山から攻め込んで来た魔物の数も同程度だと聞いている。だとすれば、フライヤーの手元にも2、3個は渡っていると見て良いだろう。』
「そうですか…。白銀の鎧の天使はククルカンの配下のサンダルフォンかメタトロンでしょうか?」
サンダルフォンとメタトロンはグラヴィザードの実弟であり、300年前にククルカンに殺されたものの、すぐに生き返されるとククルカン配下の大天使になっていた。
『それはわからん。ククルカン配下の大天使は4人いるからな。だが、白銀の天使は賢者の石を渡し終えるとすぐに転移結晶で姿を消したそうだ。同じだとすればフライヤーの元には既にいない可能性が高いだろう。』
「ククルカンの目的は何でしょうか?いくら人工的に賢者の石を作れるとしても大天使を使って運ばせているという事はそれなりに貴重な物のはずですよね?ただ単に魔物を大量発生させたいだけなら術者に直接魔力を分け与えれば良いのに、なんでわざわざ賢者の石を使ったんでしょうか?」
『ウィル、直接魔力を分け与える事は簡単だが受け入れる側の魔力許容量を超える魔力を与える事は出来んのだ。
その点、賢者の石は魔力許容量が小さい者でも強大な魔力を扱えるからな。恐らく人工的に作った賢者の石にどれ程の力があるのか召喚魔法の使える者で実験しているのだろう。召喚された魔物の等級や数を見ればどの程度の力があるのか分かり易いからな。』
「なるほど、出来たから試しに使ってみようって事ですか。ふざけた話ですね。」
『ああ、まったくだ。ククルカンの奴め。我の国でナメた真似をしおって、必ず我の手で殺してくれる!』
ウィルは指輪越しのカルデからククルカンに対する凄まじい殺意を感じながらも話を続けた。
「カ、カルデ、何か他に情報はありますか?」
『あ、ああ、そうだな。これは賢者の石が無ければ気にする事は無かったのだが、実はポテット山には古代文明の遺跡の採掘場があってな。数年前にそこでアダマンタイトで出来た巨大なゴーレムが発見されたのだが魔力切れで動かす事が出来ず放置してあるんだ。…我が言わんとする事はわかるな?』
「わかるな?じゃないですよ!アダマンタイトって伝説の鉱石じゃないですか!?」
アダマンタイトはこの世界ではオリハルコンと並ぶ伝説の鉱石であり、その硬度はオリハルコンをも凌駕すると言われていた。
『コホン!うむ、実はそのゴーレムの動力源は賢者の石なんだ…。』
「何でそんな物騒なモノを放置してるんですかー!?それって絶対動かされてるパターンじゃないですか!?」
『それはグリドールとアンジェリーナに言ってくれ。あやつらが、アダマンタイトは硬すぎて解体費用も嵩むだけだし賢者の石なんて手に入らないから放っておいても問題ない。とか言って解体費用をケチりおったのだ。』
「はぁー、またお婆様ですか…。わかりましたよ…。アダマンタイトのゴーレムもいると思ってポテパに向かいます。他には無いですね?」
ウィルは今回の件はフライヤーが諸悪の根源なのではなく、実はアンジェリーナなのではないだろうかと思い始めていた。
『うむ、今の所は無いぞ。』
「それじゃ、俺はポテパに向かうので念話を切りますね。」
『ウィル!ちょっと待て!まだ切らないでくれ!』
「んっ?まだ何かありますか?」
『何って…。そ、そのなんだ…。す、すまなかったな…。』
「えっ?今なんて?」
『だから、すまなかったと言っている!我はおぬしを信用していない訳ではないからな!むしろ、今は誰よりも信用しているのだ!』
「それなら何でミツハさんには特殊な聖属性魔力の事を話していたのに、俺には話してくれなかったんですか?」
『そ、それは我が話したのでは無い。この事を知っていたのは我を除けばグリドールとラムとマッカランだけだ。多分、マッカランの馬鹿者がミツハに漏らしたのだろう。』
「たとえそうだとしてもカルデは俺に隠してたじゃないですか?」
『別に隠していた訳ではない!わ、我はおぬしに間違った情報を伝えぬよう裏を取ってから話をしようと思っていたのだ!それがおぬしに不愉快な想いをさせたのなら、すまなかった。』
「そうだったんですか…。でもカルデが俺の事を本当に信用してるって言うならやっぱり何でも話して欲しいです。少しくらい情報が間違っていたって俺は気にしませんよ。だって俺はカルデの事を…。」
『こ、事を…?』
「心の友だと思っていますから。」
『ガシャーーーン!!!』
ウィルの、トレンディドラマを見て何を学んで来たのかと思わずツッコミを入れたくなる悪意のない言葉をまともにくらったカルデは目の前のティーテーブルを巻き込みながらズッコケていた。
「カ、カルデ!どうしたんですか!?今、すごい音がしましたけど大丈夫ですか?」
『だ、大丈夫だ…。すまぬがよく聞こえなかったからもう一度言ってくれるか?』
「だから、カルデは心の友だと。あっ、でも神様にこんな事言っちゃ失礼ですよね?あははは!」
『むむむ…。もう良い!切るぞ!ブチッ!ツ、ツー、ツー…。』
「あれっ?切られちゃった。気のせいか怒っていたような…。まっ、いいか。」
こうして、ウィルはカルデの乙女心を傷付けた事にも気付かず、地上で待っていたミツハ達の元に戻ると馬車の車列の護衛をボルボット達に任せ、飛行魔法を使えるミツハと共にポテパへと向かうのだった。




