第78話 召喚魔法
ウィル達はチョコパ村の宿屋を出発し、一路ポテット山の麓にあるポテパという町へ馬で向かっていた。
ポテパにはフライヤーの屋敷があり、そこは警備兵だった頃にウィルが勤めていた場所だった。
「ミツハさん、この調子なら夜にはポテパに着けそうですね。」
「はい。ウィル様は以前ポテパで勤めていたんですよね?」
「はい。以前、フライヤー伯爵の屋敷で警備兵として仕えていました。まぁ半年前に突然現れたゴブリンに襲われて怪我しちゃって意識が戻った時には解雇されてたんですけどね。あはははっ。」
ウィルとミツハが並走しながら話をしていると前を走っていたシャペルとペルシャが話に入って来た。
「えーっ!?ウィル様ってば、ゴブリンなんかにやられちゃったのかニャー!?ホントに強いのかニャ?」
「でも火の神オグニイーナ様を倒したんでしょー?あっ、わかったニャ!オグニイーナ様がゴブリン並みに弱かったとか?」
シャペルとペルシャがウィルの強さを疑っていると後方を走るボルボットが声を上げた。
「コラっ!!シャペル!ペルシャ!ウィル様に失礼な事を言うんじゃない!ウィル様はグリドール陛下の爆風聖十字剣をいとも簡単に無効化するほどの方なんだぞ!」
謁見の間で警備をしていたボルボットはウィルとグリドールの闘いをすぐ傍で目の当りにしていた。
「ははは、ゴブリンにやられたのは本当なので気を使わなくてもいいですよ。」
すると、そんな話の流れに乗じてミツハが瞳をキラキラさせながらウィルに近付いてきた。
何故か少し息づかいが荒い。
「何を謙遜しているのです!ワタシもあの場で見ていましたが素晴らしい剣の腕前でした!今度ぜひ手合わせをお願いします!ウフフ…。」
「ははは、機会があれば…。そ、そういえば、フライヤー伯爵ってクーデターを企てたって事で爵位を没収されたって聞きましたけど、具体的に何をしたんですか?」
ミツハの瞳の奥に戦闘狂特有の危険なモノを感じたウィルは、誤魔化すように話を変えた。
「ウィル様、先程から気になっていたのですがフライヤーは既に伯爵位を失った罪人ですから、爵位付けで呼ぶのはやめた方が良いですよ。」
「あっ!すみません。ついつい癖で付けてました。それでフライヤーは何をしたんですか?」
「フライヤーが召喚魔法研究の第一人者だった事はご存知ですよね?」
「はい。知ってます。」
この世界の魔法は大きく攻撃魔法、回復魔法、補助魔法、移動魔法、錬金魔法、蘇生魔法、そして召喚魔法の7種類に分ける事が出来た。
召喚魔法は術者の魔力量に応じて魔物を召喚する事が出来るが、他の6つの魔法に比べ行使に必要な魔力消費が激しく、また複雑な魔法陣を描く必要があり実用性に乏しいという事で次第に廃れていった。
さらには魔物を呼び出しても言う事を聞かず術者自身が襲われる事も度々発生した事から、召喚魔法自体の使用を禁止する国も出てきた事も相まって数百年前には既に誰も使う者がいなくなっていた。
そして、マクグラン王国も一般人の召喚魔法の使用は禁止していたが、フライヤーは国から許可を得た上で召喚魔法の研究をしていた。
ちなみに、召喚魔法と錬金魔法は全く異なるものであり、錬金魔法は無機物の鉱石や金属を錬成する魔法でウィルの磁力操作がこれに当たる。
「半年ほど前にフライヤーは召喚魔法の研究費の追加申請をしたのですが、研究成果が乏しかった事からグリドール陛下とバークリー大蔵大臣に却下されたのです。
それを逆恨みしたフライヤーは自分に縁のある王宮騎士や王宮魔道士を唆して事もあろうにクーデターを企てたのです。
幸い企みはすぐに明るみになり、クーデターに加担しようとした者達は粛清されたのですが、フライヤーは捕まる直前に屋敷から逃亡したのです。」
「お、お婆様が絡んでたんですね…。」
ウィルはアンジェリーナの性格なら恨みを買うのも仕方ないと思いながらも、そうするとウィルがゴブリンに襲われたのもただの偶然ではないのでは?と思い始めていた。
「それが今から3週間ほど前の話で、それからというものポテット山の周辺で魔物の大量発生が確認され始めたのです。
我々はそれはフライヤーの仕業だと踏んでいるのですが、未だフライヤーの行方が掴めず今に至っております。」
「なるほど、でもそんなに魔物を召喚出来るほどフライヤーの魔力は強くなかったと思いますけど。」
ウィルの知る限りフライヤーの魔力は中級程度であり魔物の群れを呼び出せる程の魔力があるとは思えなかった。
「はい。ワタシもそれは不思議に思っていたのですが、先にポテット山の魔物の討伐に向かった王宮魔道士団長のラム様から気になる報告があったのです。」
「気になる報告ですか?」
「はい。これは極秘事項なのですがポテット山の周辺の森で倒した魔物から特殊な聖属性魔力が検出されたのです。ラム様が言うには何者かがフライヤーに手を貸している可能性が高いという事です。」
「特殊な聖属性魔力ですか。なんか、きな臭いですね…。」
ウィルは聖属性と言う言葉にふと、聖の神ククルカンの事を思い出していた。
ウィルとミツハが話をしていると前を走るシャペルとペルシャが何かを見つけ声を上げた。
「ミツハ様!馬車が魔物に襲われてるニャ!」
「あれはガーゴイルかニャー?いっぱいいるニャー!」
「ガーゴイル!?何故、こんな所に!?」
ガーゴイルとは紫色のトカゲにコウモリのような羽根を生やした人型の魔物で、普段は人の立ち入らないような深い森や洞窟の深層部に生息しており、攻撃性が高く群れともなると超級の騎士や魔道士でも手を焼く上級に属する魔物である。
ウィルとミツハが馬の速度を上げて前に出ると前方で空を飛ぶガーゴイルの群れに襲われている馬車の車列が見えた。
「うわぁぁぁっっ!!!助けてくれぇーーー!!!」
「きゃぁぁぁぁ!!!」
馬車の周りには悲鳴を上げながら逃げ惑う数十人の人々が見えた。
「10匹以上はいるな。ミツハさん、馬を頼みます!」
「えっ!?ウィル様!?」
ウィルはそう言うと瞬間移動で馬車の近くまで飛び両手を突き出した。
「連弾重力渦!」
ガーゴイル達は突如現れたウィルに気付いたのも束の間、ウィルの両手から放たれた無数の重力渦によって悲鳴すらあげる事なく消滅していった。
そして、ウィルはものの数秒でガーゴイル達の群れを全滅させると、何が起こったのか訳も分からず呆然と立ち尽くす人々をよそに血を流し倒れている皮の鎧を纏った女の元へと向かった。
「あっ!?あなたはアスティさん!?」
「うっ…うううっ…。」
そこに倒れていたのはウィルが警備兵をしていた時の先輩のアスティ・クリープ・ベイルマンだった。
ウィルがアスティに回復魔法をかけているとミツハ達が追いついてきた。
その顔は驚きに満ちている。
「…す、すごい!一瞬であのガーゴイルの群れを倒してしまうなんて…。」
「ミツハさん!怪我人の手当てと他に魔物がいないか確認して下さい!」
「は、はい!シャペルとペルシャはワタシと共に怪我人の手当てを!ボルボットは他に魔物がいないか警戒にあたって下さい!」
ミツハ達が散らばって間も無く回復魔法をかけられていたアスティが意識を取り戻した。
「うぅっ、ウ、ウィル、どうしてここに…?」
「アスティさん!大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、大丈夫だ。ウィル、お前が助けてくれたのか?」
「はい。ガーゴイルの群れはもういません。もう大丈夫です。俺は怪我人の手当てに行くので、起き上がれますか?」
「あ、ああ…。」
ウィルはゆっくりとアスティを起き上がらせると近くに倒れている怪我人の元へと向かうのだった。
アスティ・クリープ・ベイルマン
女性 25歳
ウィルがフライヤー屋敷の警備兵をしていた頃の先輩。
ショートカットの赤い髪と日焼けした小麦色の肌が健康的な女性。
性格は姉御肌でサバサバしており警備兵時代はウィルを可愛がっていた。
一年中恋人を募集しているが、なかなか見つからず実は焦っている。




