第68話 褒美
謁見の間にいた者達からララとロベールに歓喜の声が上がる中、その様子を見ていたカルデが口を開いた。
カルデはどこからともなく出現させた巨大な玉座に座り足を組んでいる。
「ロベール、もうララの素性を隠す必要はないだろう。こうなるようにあえて話を持っていったトーマスに感謝するといい。それにオグニイーナの封神石の封印はウィルの魔力量が我の想像を超えていて、今後30年は解ける事は無いだろう。
例え30年後に封印が解けても、その頃にはララも年老いていてオグニイーナも魂移しなどといったバカな真似はしないだろうしな。それと1つ言い忘れていたが、トーマスはまだマクグラン王国の貴族だぞ。」
「えっ!?カルデ様、それはどういう事ですか!?私は確かに継承権の破棄をしました!」
トーマスはマクグラン国王であり無二の親友でもあるグリドールから宝剣ティオネを借用する際に爵位継承権を破棄する申し立てをしていた。
「んっ?グリドールが受理前の申請書類に飲み物をこぼしたらしくてな。その申請書類は読めなくなったから捨てたそうだ。必要なら再申請しろと言っていたぞ。」
「さ、再申請!?で、ですが、それでは六神六国条約に違反して…。」
「トーマス、何を言っている?おぬしは我の護衛としてボルケニア帝国に来たのではないか?」
「そ、そんな、滅茶苦茶です!」
カルデの取ってつけたような嘘にトーマスが困惑していると、それを聞いていたロベールが吹き出した。
「ぷっ!わっはっはっはっ!これはグリドールの小僧にしてやられたな!わっはっはっはっ!そ、そうであったな!確かにカルデの言う通りトーマスは正式な手続きに則って我が国に来ているのだったな!」
「陛下まで何を言っているのですか!?」
「だが、トーマスよ。これだけは申しておくぞ。そなたに爵位を授けたのはララをこの国に引き止めたかったからという理由だけではないぞ。
我は心底そなたが欲しかったのだ。そなたほど有能な男はそうはおらんからな。どうだ?やはり我に仕える気はないか?」
ロベールが真剣な顔でトーマスに言い寄ると、そこにララが割って入った。
「お父様!」
「わっはっはっ!すまん!すまん!さて、褒美を授けている途中だったな。トーマス、爵位は授けられぬが何か希望はあるか?」
「…それでは、元神殿騎士団長のウィリアム殿と副団長のミレーヌ殿に恩赦を頂けないでしょうか?」
トーマスの思わぬ希望に周囲にいた貴族達から疑問の声が上がる。
それもそのはず、ウィリアムとミレーヌはオグニイーナの企てた内乱に加担した主要人物として、他の神殿騎士団員より重い処罰が与えられ爵位の剥奪と禁固刑に処されていた。
「ふむ、理由を述べてみよ。」
「彼らは確かに内乱に加担しました。ですが、それは神聖派内に残り火の神オグニイーナの暴走を止める為でした。その証拠に最初の皇帝派と神聖派の衝突の際に神殿騎士団と戦った皇帝派の兵には怪我人はいても死人は出ていないと伺いました。それに先日の戦いでも彼らが神殿騎士団員達を改心させ狂奪の覇気に侵された兵を止めなければ被害は更に拡大していた事でしょう。どうか、彼らに恩赦を。」
「ふむ、わかった。だが処罰を全て無くす事は出来ん。他の貴族や騎士達に示しがつかんからな。しかし、処罰については再考する事を約束しよう。」
「ありがとうございます。」
ロベールは玉座に戻ると、葉巻を燻らしていたナターシャに目配せをした。
「兄上、あんまり長いから葉巻が無くなるかと心配したよ。まぁララの件は近いうちに国民に公表するよう段取りは考えておくさ。今、この国にはめでたい話題が必要だからな。」
「わかった。宜しく頼む。」
「それでは最後にウィル・バークリー・サウストンへの褒美だが英雄勲章と白金貨1000枚。それと今度新たに新設される特別中立領の領主として辺境伯の爵位を授ける。」
「えっ、それってどういうものなんですか?」
ウィルが鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしていると、ロベールが口を開いた。
「そなたはボルケニア帝国とマクグラン王国の平和条約を記念して、両国の間に新設する事になった特別中立領の領主になるのだ。これはマクグラン王国のグリドールとも合意している。トーマスのように断る事は出来ぬぞ。わっはっはっはっ!」
「ええーーー!?」
全くもって予想外の褒美に、謁見の間にウィルの驚愕の声が響き渡る。
「とは言っても、この話はマクグラン王国側の正式な手続きが必要でな。近々、グリドールからも呼び出しがあるだろう。」
「そ、そんな急に領主だなんて、私には政治経験なんてありませんよ。」
「安心しろ。最初は我が国からも有能な者を派遣するからな。それに特別中立領は両国に隣接する取り潰しとなった貴族領を活用する事になっている。我が国からは先日没収した元大蔵大臣のカーチスの領地の一部を、マクグラン王国からは確かフライヤーという者から没収した領地の一部を提供する事になっている。職を失った者達も多くいるはずだから人材には困らんだろう。」
「陛下、今フライヤーと言いましたでしょうか?それはフライヤー伯爵の事でしょうか?」
「んっ?ああ、グリドールはフライヤー伯爵と言っていたな。その者は領地内に魔物を集めてクーデターを企てていたらしくてな。その事が明るみになり先日爵位と領地を剥奪したそうだ。そなたの知り合いか?」
「はい。以前、フライヤー伯爵の屋敷の警備兵として仕えていました。半年前に屋敷の外を巡回中にいきなり現れたゴブリンに襲われまして、意識を失っている間に解雇されてしまったのですが…。
もしかして、あのゴブリンも…?」
「な、なにっ!?そなたを倒すほどのゴブリンがいたと申すか!?それは一体どのようなゴブリンなのだ!?」
オグニイーナや骨龍を倒した神級の力を持つウィルを倒す程のゴブリンがいる事にロベールを始めその場にいる者達から驚きの声が上がる。
「ロベール、落ち着け。ウィルが力に目覚めたのはつい最近の事だ。半年前はそれこそ、どこにでもいる初級程度の力しか無かったのだ。」
「なっ!?ウィルは最近まで初級程度の力しか無かったのか!?…ふむ、確かにウィル程の力があれば国を超えて噂になっていてもおかしくはないな。それが今まで噂の1つも無かったというのは最近力に目覚めたからという事か。
ウィル、そなたは一体…?」
「は、ははは。そ、それにしてもフライヤー伯爵がそんな事をしていたなんて知りませんでした。」
「ふむ、どうやら因縁のある相手のようだな。その領地をそなたに与えるというのは何かグリドールにも思惑があるやもしれんな。」
「思惑ですか?」
ウィルは横目でカルデの反応を伺うが、カルデは不敵な笑みを浮かべたまま黙っている。
「ふむ、まあ良い。詳細はマクグラン王国に戻ってからグリドールに聞いてみると良い。それではこれで褒美の授与は終了する。それと今宵はそなたらの功績を祝う宴を催すから是非とも出席してくれ。以上だ。」
こうして、ウィルはグリドールの思惑が気になりながらも謁見の間を後にするのだった。
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