第67話 幸せ者
ウィルが城の中に入ると、そこには仁王立ちするカルデとテスカとアリスの姿があった。
3人は城の中からウィルとサーシャがキスする瞬間を目撃していた。
その後、そこに様子を見に来たララも加わりウィルがしばらく説教されていると、いつまで経ってもやって来ないウィル達に痺れを切らしたノアルが割って入り、ウィルはようやく説教から解放されロベールの待つ謁見の間に到着したのだった。
謁見の間では中央にロベールの座る玉座があり、その両脇にチャールズを始めシーザーやナターシャといった重臣達が立ち並び、更に壁際には数十人の貴族達が控えていた。
「ウィル、よく来たな。なかなか来ないから待ちくたびれたぞ。」
「も、申し訳ありません。ちょっとハプニングがありまして…。」
「ははは!冗談だ。若いと言うのは良い事だ。しかし、過ぎた遊びとは身を滅ぼす事もある。ほどほどにな。」
ロベールのその言葉に今まで静まり返っていた空間に笑いが起こる。
カルデ達がウィルを説教する声は謁見の間まで響いていた。
「は、はい!気を付けます。」
「さて、此度は火の神オグニイーナと魔王ベリアルの企てた陰謀からこのボルケニア帝国を救ってくれた事、心から礼を言うぞ。ありがとう。」
「いえ、私は自分がしたいように動いたまでです。感謝されるような事は何もしていません。それにマイセン王子があのようになってしまったり、神聖派とはいえ大勢の貴族や兵士が命を落としたと聞きました。それは私が動いた結果起こった事でもあるのです。」
「ふぬ…。マイセンの事はそなたが気に病む必要はない。むしろ、これまでのマイセンのしてきた悪行からすれば当然の報いであるし、あの命を失ってもおかしくない状況下で助かる事が出来たのだ。父親として感謝はすれど憎む事は何一つ無いぞ。」
「ですが…。」
「それに、あの夜失われた命は1000人弱。
これに対し、ミカエルが言うにはオグニイーナは魂移しとベリアルへの取引で10万人の命を犠牲にする計画だったようだ。更にはベリアルの陰謀通りオグニイーナの魂が骨龍に移されていたら、数百万人、いや数千万人の命が失われていただろう。
目的がどうであれ、そなたが動いた事で失われた命より救われた命が多いのもまた事実なのだ。それにこの感謝は我だけのものではない。ボルケニア帝国に住む者達全てからの感謝でもあるのだ。そなたにも色々と思うところはあると思うがどうか受け止めてはもらえぬだろうか?」
「…承知しました。」
「それではそなたらに褒美を取らせよう。」
ロベールが目配せするとナターシャが目録を読み上げた。
「まず、アリス・ミラーズには白金貨10枚と本人から希望のあったボルケニア帝国製フライパン10点セットを授ける。」
「はい。ありがとうございます。」
「次に、闇の神テスカポリトカ様と大天使アリエル殿にはそれぞれ白金貨300枚と本人たちから希望のあったヒノッコ村温泉無料宿泊券1年分を授ける。」
「早く温泉に浸かりながら一杯やりたいねぇ。」
「アリエルも温泉入りたいな。」
「次に、トーマス・バークリー・サウストンには白金貨300枚とボルケニア帝国子爵位と領地を授ける。」
「…それはどういうつもりでしょうか?」
トーマスは爵位の裏にあるロベールの思惑に気付き、声をあげた。
「子爵位では不満か?我はそなたのような有能な者であれば伯爵位でも良いと考えていたのだが、流石にそれでは古くから仕える貴族達に示しがつかないとナターシャがうるさくてな。どうだ?我に仕えぬか?」
いきなり名前を出されたナターシャは一瞬ロベールを睨みつけるが、呆れたように近くの椅子に腰掛けると葉巻を燻らせ始めた。
しかし、ロベールの表向きの理由に納得出来ないトーマスは首を横に振った。
「その説明では納得出来ません。それに私達には帰るべき場所があります。」
「うむ、だがそなたはボルケニア帝国に来る前にサウストン男爵位の継承権を破棄したのではなかったのか?であれば、今は平民。我が国の貴族となっても問題はないだろう?」
「陛下の仰る通り私は既に平民です。ですが、陛下が本当に欲しいのは私ではないのでしょう?
私はたとえ平民であってもあの土地にララとラスクと共に帰ります。
それに恐れながらロベール陛下もあの土地に込められた父ブライトの想いをご存じでしょう!?」
ララの出生の秘密に関わるトーマスの微妙な言い回しに、それを知るシーザーを始めとするごく一部の者達が息を飲んで成り行きを見守っていると、ロベールは少し考えてから口を開いた。
「…はて?何の事かな?我がその気になればそなたをボルケニアに留め置く事も出来るのだぞ?それでも、そなたは断ると申すか?」
「はい。陛下が本音で語って頂けない以上、お受けする事は出来ません。」
緊迫した重い空気が流れる中、2人のやり取りを黙って見ていたララが前に出た。
「ロベール陛下…いえ、お父様。もうトーマスを困らせるのはお止め下さいませ。」
ララの口から出たその言葉にその場が騒然となるが、それをロベールは手で制すとララを見た。
「そうか…。知っていたのか!?シーザーから聞いたのか?」
「いいえ。お義父様からはワタシが火の神代だという事は聞かされてましたが、本当の父が陛下だなんて事は聞かされておりません。」
「では何故?」
「この城の西塔の最上階の部屋に飾られていたワタシにそっくりな肖像画ですわ。始めはマイセンがワタシを描かせたものだと思っていましたが、よく見るとそこにはレイチェルという名前が書かれてましたの。お義父様からは叔母様が皇后だった事は聞かされてましたが肖像画が火事で焼失したという事で今までどんな方なのか伺い知る事は出来ませんでした。ですが、肖像画に書かれたレイチェルという名前をみて、それが叔母様ではなく本当のお母様であり、その夫であるロベール陛下が本当のお父様である事に気付きましたの。」
「そうか、レイチェルの肖像画を見たのか…。」
すると、ロベールは先日カルデがウィルに話した話と同じララの出生の秘密について静かに語り始めた。
途中、貴族達の中からすすり泣く声が漏れる中、話が終わるとロベールは玉座から立ち上がりララの前まで来ると膝をつき頭を下げた。
「ララ、我はそなたを捨てたのだ。本当に済まない事をした。どうか許してくれ…。」
「お父様、どうか頭をお上げくださいませ。許すも何もワタシは怒ってなどおりませんわ。」
「…そなたを捨てた父を憎んではいないのか?」
「はい。憎むなんてとんでもないですわ。…だって、そのおかげでワタシの事を心の底から大事に想ってくれる2人のお義父様が出来ました。それにずっとお父様もワタシの事を見守っていてくれたのでしょう?ワタシ、お父様がお忍びで学校行事に欠かさず来られていたのを知っていましたわ。その時は誰が陛下の隠し子なんだろうって思っていましたが、まさかワタシだったなんて、ウフフ。」
「ララ…。」
「ワタシは世界一の幸せ者ですわ!だって、こんなにステキなお父様達がいるんですもの!」
満面の笑みを浮かべたララの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちると、ロベールは優しく包み込むようにララを抱きしめるのだった。




