第56話 不気味なピエロ
ウィリアムの思わぬ行動に呆気にとられていたマイセンが喚き立てた。
「おい!ウィリアム、何してんだ!ふざけてんじゃねぇぞ!お前、必ず死刑にするからな!おい!聞いてんのか!」
ウィリアムは先程までの悲しげな表情から一変、鬼の形相でマイセンを睨みつけた。
「ヒィッ!?」
その余りの迫力にマイセンが押し黙ると、ウィリアムは大剣を構えたままのトーマスを見た。
「私は我等が神が再び過ちを犯すのであれば、神殿騎士を辞めようと心に決めていた。どうやら、今がその時のようだ。私が詫びて済む事ではないのは承知しているが、どうか私の首で手打ちとしてはくれないだろうか?当然、ララ殿は必ずお返しする。」
そのウィリアムの真っ直ぐな覚悟の込もった眼差しを受け、トーマスは再びマイセンのいる方へと向き直った。
「私達はただララを返して欲しいだけだ。どうしても許しを請いたいのであれば、私達の邪魔をしないでくれ。それだけで十分だ。」
トーマスは大剣を大きく振りかぶり魔力を込めた。
すると、徐々にその巨大な刀身は青白い光を放ち始めた。
「む、無駄だ!この結界はお前には破れない!もうすぐオグニイーナも戻ってくる!そうすれば、お前ら全員皆殺しだ!特にお前とウィリアムはミンチにしてもらうからな!覚悟しろよ!ヒャハハハハハッ!!!」
そんなマイセンを冷めた視線で一瞥するとトーマスは大剣を振り下ろした。
「ハァァァァァッ!!!」
『ズバァァァァン!!!』
大剣から放たれた青白く光り輝く斬撃が隔離結界を切り裂き、そのままマイセンの右腕を切り飛ばした。
「ギャァァァァッ!!!痛い!痛い!痛いぃぃぃっ!」
マイセンは絶叫を上げながらベッドから転げ落ちると、床に頭を打ち付けそのまま気を失った。
一瞬にして部屋が静まり返る中、トーマスは大剣を背中に背負うとララの横たわるベッドに歩み寄った。
「ララ…。」
虚ろな表情を浮かべるララの頬にトーマスが触れようとしたその時、その手を氷の矢が貫いた。
「クッ!?」
そして、トーマスが怯んだ隙にララの身体は浮き上がると、いつのまにか部屋の中にいたピエロのような格好をした男の頭上へと移動した。
この男は元帝国魔導師団長のニョルニ・プチパンク・パッカードである。
「はいはい。惜しかったですね。それにしても良いモノが見れました。その大剣はマクグラン王国の宝剣ティオネではあーりませんか?
良いですね。凄いですね。格好良いですね。でもティオネは他の宝剣とは違って勇者にしか扱えないはずだったような?貴方、もしかして勇者…うわっ!?」
「ララを返せぇぇぇっ!」
その話を遮るようにトーマスが目にも留まらぬ速さで斬りかかるが、それをフニャフニャとした奇妙な動きでかわし続け、不気味な笑みを浮かべると素手で大剣の刀身を掴んだ。
「何っ!?素手で受け止めただと!?」
「はぁー。人の話は最後まで聞きましょうって、習わなかったんですか?貴方、勇者の血縁ではあるようですが、勇者ではありませんね。本物の勇者がティオネを使ったなら最初の一撃で今のワタクシなんて木っ端微塵でしょうから。惜しいですね。残念ですね。なんちゃって勇者ですね。おっと、あまり長話をしていると余興が始まっちゃうので、ワタクシはこの辺で失礼します。
っとその前にウィリアムさん!裏切りはいけませんね!これはお仕置きです!」
突如、円錐状の氷の塊が出現し、ウィリアムの腹へと突き刺さった。
「ぐはっ!」
ウィリアムが血を吐きその場に倒れこむと、慌ててミレーヌが駆け寄った。
「団長!いやぁぁぁぁっ!!!」
そんなウィリアム達を尻目にパッカードは気を失っているマイセンの身体を浮かび上がらせると、ララの横へと移動した。
「こんなゴミみたいな奴でも何かしら使い道があるかもしれませんし、一応連れて行きますか。
あっ!そうそう、これは私からのプレゼントです。」
パッカードは掴んでいた大剣をトーマスごと投げ飛ばすと、被っていた水玉の帽子の中から帽子のサイズとは不釣り合いな大きさの箱を取り出し床へと置いた。
箱は水玉模様の包装紙でラッピングされリボンが付いている。
「それでは、サヨナラ!バイバイ!さよおなら!プゥーーー!」
トーマスは体勢を立て直すと再びパッカードへと斬りかかるが、次の瞬間、パッカード達は眩い光に包まれそれと共に姿を消した。
「くそっ!!!あと少しだったのに!」
悔しさに身を震わせるトーマスを見ていたアリスだったが、パッカードが置いていった箱の中から魔力が漏れているのに気付いた。
「トーマス様!その箱から魔力が漏れてます!何か危険な感じがします!とにかくここから離れましょう!」
アリスがトーマスとゲンの手を取り部屋から出ようとしたその時、突然、箱が真っ赤な光を放ち大爆発を起こすのだった。




