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第55話 ウィリアム

私が生まれたウィリアム伯爵家は代々火の神オグニイーナに忠誠を誓う神殿騎士の家系だった。

その為、跡取りであった私は物心ついた頃から神殿騎士団長だった父から神殿騎士になる為の英才教育を受け、上級騎士学校を卒業すると何の迷いもなく神殿騎士団へと入団した。

それからしばらくして大戦が始まった。

当初、マクグラン王国との戦いは一進一退の攻防を繰り広げていたが、マクグラン王国に加わった白き大熊の活躍によりボルケニア帝国は徐々に劣勢に立たされていった。

そんなある日、私は神殿騎士団長の父に呼び出され、こう言われた。

「オグニイーナ様に忠誠を誓ったのは間違いだった。オルトレット、すまない…。」

私は父の裏切りとも取れる言葉に激怒し、その理由を聞く事なく部屋を後にした。

そして、その翌日、父は火の神オグニイーナ様が支持した陽動作戦の指揮を取り、運悪くオグニイーナ様の放った紅龍炎スカーレットドラゴンフラムに巻き込まれ、マクグラン王国の兵士1万人と共に焼死した。

だが、父への怒りが残っていた私の目から涙が流れる事は無かった。

その後、風の神カルデによってオグニイーナ様の魔力は封じられ、ボルケニア帝国は敗戦した。


それから更に数年が経ち神殿騎士団副団長となっていた私は、演習先の村の宿屋で働いていたナタリーと出会い結婚する事になった。

ナタリーは、堅物で無口な私とは真逆の天真爛漫でおしゃべり好きな明るい女性だった。

「本当にこんなつまらない男と結婚してくれるのか?」

私がそう言うと、ナタリーは笑いながら答えた。

「アハハハッ!何言ってるの?貴方はとても面白くて魅力的よ。オルトレット、愛してるわ。」

私達は夫婦になった。

子供を授かる事は無かったが平穏で幸せな日々は続き、いつしか私は父と同じ神殿騎士団長になっていた。

だが3年前のあの日、演習で帝都バーナを離れていた私にナタリーが殺されたという知らせが届いた。

私は急ぎ帝都バーナへと戻り、変わり果てたナタリーを見て崩れ落ちた。

そして、そんな私に皇帝陛下は頭を下げながらナタリーが殺された経緯を話した。

それは、オグニイーナ様にそそのかされたマルチナ妃が、シルバリオン公爵家の令嬢を毒殺しようとした所をナタリーが止めに入り、錯乱したマルチナ妃によって刺殺されたというものだった。

私はその話が信じられず、すぐにオグニイーナ様の元へと向かった。

すると、オグニイーナ様は悪びれた様子もなくこう言った。

「そうよ。悪い?アナタのバカな妻が邪魔しなければうまくいったのに。」

その言葉に愕然とする私を見てオグニイーナ様はこう言った。

「父親と同じでつまらない男ね。」

その時、私は初めてあの時の父の言った言葉の意味を理解すると共に、父は陽動作戦で運悪く紅龍炎に巻き込まれ死んだのではなく、最初から捨て駒として戦場へと送り込まれ殺されたのだと気付いた。

それでも、私は神殿騎士団を辞めなかった。

ここで辞めればナタリーの死が無駄になるかもしれない。そう思うと辞める事は出来なかった。

そして、私は決意した。

オグニイーナ様が再び過ちを犯すような事があれば、その時こそ神殿騎士団を辞め命をかけてでもお止めするのだと…。



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