第47話 潜入
ここは帝都バーナの中央にあるボルケニア城。
城内の大広間では、神聖派の主要な諸侯達が招かれ晩餐会が催されていた。
そして玉座の前では踊り子達による華麗な踊りが披露されていたが、突如マイセンの下品な笑い声とサーシャの悲痛な叫び声が大広間に響いた。
「まぁいいや。今夜、俺様のベッドで踊らせてやる。今日はどんな媚薬を試すとするか?ヒャハハハハハ!」
「マイセン様!どうかお許しを!どうか……。」
サーシャはへたり込みマイセンに懇願するが、それを無視するように近くに立っていた神殿騎士のムスクを含む数名の騎士達が駆け寄るとサーシャの両わきを抱え大広間から出て行った。
大広間を出て少しするとムスクが他の神殿騎士に話しかけた。
「後は俺1人で十分だろう。大広間の警備が手薄になるのもまずいだろうし、皆は先に戻ってくれ。」
「ムスクさん、そんな事言ってつまみ食いする気でしょ?それなら俺も付き合いますよ。へっへっへっ。」
「そうですよ。俺達にも楽しませて下さいよ。」
神殿騎士達のフルフェイスのヘルムの隙間から興奮した息遣いが漏れるとサーシャは身の危険を感じ更に泣き叫んだ。
「いやぁ!離して!お願いだから許して!」
「そんな事するかよ!お前らがいると余計に騒ぐだろうが!とっとと戻りやがれ!」
「はいはい、分かりましたよ。今度、口止め料として酒でもオゴって下さいね。それじゃあ俺達は先戻ってるんで宜しくお願いします。」
そう言うと他の神殿騎士は大広間へと戻って行った。
残されたムスクは泣き叫ぶサーシャを連れ、地下牢へと続く通路の途中にある倉庫の扉の前で立ち止まると辺りを見回しサーシャを連れてその中へと入った。
するとムスクはへたり込むサーシャの前で片膝をつきフルフェイスのヘルムを外した。
「サーシャさん、遅くなってすみませんでした。助けに来ました。」
サーシャを大広間から連れ出した神殿騎士はムスクではなく、ムスクの鎧を着て城に潜入していたウィルだった。
時は今から数時間前。
「チッ!まさかあのウィルとかいう奴がクラスティ様の兄貴だったなんてな。どうりで強えワケだぜ!あーあ、スペアの鎧も小さくて動きづれぇし、このまま巡回しててもかったりーから酒でも飲みに行くかぁ。」
ムスクはクラスティから言いつけられた城門での入城手続きの手伝いを終え、腹の部分が砕けた鎧からスペアの鎧に着替えると神殿騎士の子分ABCを引き連れ城下町の巡回をしていた。
「でもムスクさん、ウィリアム団長から神殿騎士団は夕刻に城へ集合するようにと通達が出てますよ。」
子分Aが通達の事を思い出すとムスクは立ち止まり、その肩に手を回した。
「だからその前に一杯引っ掛けておこうってんじゃねえか。貴族様達は晩餐会でたらふく美味い酒を飲めるのに俺達は飲めねぇんだぜ?だったら少しくらい飲んだってバチは当たらねぇだろうが。」
「そ、そうですね。さすがムスクさん!俺も行きます!」
「俺も!」
「俺も!」
ムスクの全く筋の通らない話に子分Aが納得すると、それに続くように子分Bと子分Cも手を挙げる。
「よーし!それじゃあ行くぞ!わっはっはっは!」
ムスク達が肩を組み楽しげに酒場のある方へと歩き出したその時。
突如、銀色の隔離結界がムスク達を包み込んだ。
「か、隔離結界だと!?誰がこんなふざけた真似を!?」
ムスク達が突然の出来事に困惑していると、結界内に紫色の霧が立ち込めた。
「うわっ!?ムスクさん!変な霧が出てきましたよ!」
「わ、わかってる!クソがぁぁぁ!!」
ムスクは剣を抜くと結界に向かって斬りつけるが結界には傷一つ付かない。
「ちくしょう!銀色の隔離結界なんて聞いた事ねぇぞ!俺達をどうしようってんだ!」
そうこうしている内に更に霧は濃くなり結界内は何も見えなくなった。
そして、騒いでいたムスク達の声も徐々に聞こえなくなると、結界の外からその様子を見ていたウィルが横にいるテスカに話しかけた。
「そろそろ寝てますかね?」
「ああ、もう深い深い夢の中へと落ちてる頃さねぇ。」
「それじゃあ、結界を解くので霧が晴れたらあの人達を裏路地に運び込んで鎧を剥ぎ取っちゃいましょう。」
こうしてウィルはムスク達から神殿騎士の鎧を手に入れ、ボルケニア城へと潜入したのだった。
「えっ!?あ、あなたはあの時のお客さん!確かウィルさんでしたよね?でもその声は!?」
「シッ、静かに。声は魔法で変えてるんです。細かい話は後にしましょう。まずは城の外に出るので俺につかまって下さい。」
「えっ!?あ、はい!これで良いですか?」
サーシャは訳もわからずウィルの腕にしがみ付いた。
「はい。離さないでくださいね。」
ウィルは腕にカルデやアリスとはまた違ったサーシャの小ぶりな胸の柔らかな感触を感じつつ、城の警備をしている神殿騎士達の目を盗みながら瞬間移動を数回使い城壁の外まで出ると、更に瞬間移動を使いウィル達が泊まる五つ星宿屋へと移動した。
そしてそこではゲンが待っていた。
「あ、えっ?今何が!えっ?ゲンさん?」
「サーシャ嬢!よくぞご無事で!」
サーシャは何が起きたのかわからず混乱していたがゲンが抱きしめると安心したのか大声で泣き始めた。
「うえーん!ゲンさん怖かったよぉー!えーん!」
「ほら、もう泣かなねぇでくだせえ。」
泣きじゃくるサーシャの背中をゲンは優しくポンポンと叩きながらウィルを見た。
「ウィルさん、城の見取り図は役に立ちましたかい?」
ゲンはアルティーネ子爵家で舞台装置や大道具の職人をしていた頃、その腕を見込まれてボルケニア城の内装改修工事を取り仕切った事があり城内を隅々まで知り尽くしていた事から、何かの役に立てばとボルケニア城の見取り図を渡していた。
「はい。おかげで簡単に城へ潜り込めました。テスカとアリエルには鏡のありかを探ってもらってます。」
「それで城の西塔の結界は起動してましたかい?」
「はい。ゲンさんが言っていた通り特殊な隔離結界が起動していて、いくら塔を登っても上にあるはずの部屋には辿り着けませんでしたし、瞬間移動でもダメでした。結界を起動させているって事はあの塔にララさんがいると見て良さそうですね。俺1人で何とか結界を突破出来れば良かったんですけど無理でした。」
ウィルは、晩餐会が始まるまではムスクとして城内西側の警備を命じられていた為、その際に西塔の様子を見に行っていた。
「そうですか。あの結界は昔ボルケニア城の改修工事の時に俺っちが作ったものなんですが、解除方法は2つ。
1つは結界を起動した術者の魔力供給を断つ事。そしてもう1つは塔の地下の隠し部屋にある仕掛けを決められた順番で解除する事。
多分、結界を起動したのはオグニイーナ様でしょうから1つ目は難しいとして、2つ目となると…俺っちの出番ですかね?」
ゲンがニヤリと笑うとウィルは頷いた。
「ゲンさん、お願い出来ますか?」
「ああ!勿論ですぜ!こんなに世話になったんだ!ここで役に立たなきゃボルケニアっ子の名折れだぜ!是非とも協力させてくだせえ!」
そう言うとゲンは頭のねじり鉢巻を慣れた手つきで締め直した。
そんな張り切るゲンを止めるようにサーシャが抱きついた。
「ゲンさん!危ないよ!」
「サーシャ嬢、俺っちも力になりてぇんだ。必ず戻って来るから美味いラーメンの仕込みでもして待っててくだせえ。なぁ?サーシャ嬢…。」
「ゲンさん…。」
ゲンはにっこり笑いながらサーシャの頭を撫でると立ち上がった。
「さあっ!ウィルさん行きやしょう!」
こうして、ウィルはゲンを連れてボルケニア城へと戻るのだった。




