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第39話 狂気との遭遇

「てめえらに食わせるもんなんてねぇんだ!とっとと帰りやがれ!」

外から聞こえてきた怒鳴り声にサーシャは店から飛び出し、ウィルも後を追うように外へ出ると、そこではゲンと神殿騎士団のムスクが揉めていた。

「なんだ?その態度は?このムスク様が食べに来てやってるんだ!

おっ!サーシャじゃねえか?店員の教育がなっちゃねぇなぁ?ほらっ、老いぼれがどけよ!」

店から飛び出してきたサーシャに気付くとムスクは、ゲンを突き飛ばしそのままサーシャの方へと歩み寄った。

突き飛ばされたゲンはちょうど店から出てきたウィルが受け止めた。

「乱暴はやめて!帰って!ゲンさんの言う通り、貴方達に食べさせる物なんてありませんから!二度と来ないで!」

「ツレないじゃねえか!?せっかく今夜城で行われる晩餐会で、マイセン王子の御前で踊れるように口利きしてやったのによぉ。まぁ気に入られちまったら帰ってこられねぇかも知れねぇがな。」

「何を勝手に!?アタシはそんなの頼んでない!あんな王子の前なんかで踊ったりしないんだから!」

「へっへっへっ。そんな事が出来るとでも思ってんのか?もし招集に応じなければお前だけじゃなく連帯責任でそこの老いぼれも罰せられるだろうなぁ。

そうなれば、せっかく出した店も終わりでお前が望むアルティーネ子爵家の再興も叶わねぇがな!おっと、そもそも皇室の金を横領して取り潰しになった家なんて再興出来る訳ねぇーか!?あはははははは!」

アルティーネ子爵家は元々はボルケニア帝国皇室の舞踊指南役であったが、マイセンの叔父であり帝国の大蔵大臣でもあるカーチス公爵の不正を告発しようとして、逆に濡れ衣を着せられ爵位を剥奪されていた。

そして、サーシャはアルティーネ子爵家の一人娘だった。

「違う!父様はそんな事してない!あれは濡れ衣よ!」

サーシャはムスクを睨みつけながら、唇を噛み悔しさに震えている。

「晩餐会は夜からだ。それまではまだまだ時間があるんだ。店の中でゆっくりしようぜ。…んっ?なんだお前?」

サーシャの横をすり抜けて店に入ろうとするムスクの前に、それまで黙って話を聞いていたウィルが立ちはだかった。

「サーシャさん達の話聞いてなかったんですか?この店にアンタ達に食べさせる物なんて無いって言ってたじゃないですか?それより酒場のテーブルはひっくり返せたんですか?」

その言葉にムスクは、目の前にいるウィルが昨晩の酒場の男だと気付く。

「てめえ!フザけた真似してくれた野郎じゃねぇか?こんな所で何してやがる!」

「何ってご飯食べてるに決まってるじゃないですか?昨日から気分良く食べてるのにアンタが邪魔するから迷惑してるんですよ。とりあえずそのタコ頭ウザったいので、二度と俺の前に現れないでもらえますか?」

ムスクの殺気が一気に膨れ上がった。

「ブッ殺す!!!」

その言葉と共にムスクは剣を抜き放ちウィルに斬りかかるが、ウィルは左手にかけた反射ラフレクションで剣戟を弾き返すと、腰を下ろし右拳に銀撃ラアクションをかけた。

「何だと!?」

「歯をくいしばって下さいね。手加減しないんで。」

ウィルは剣を弾き返されてガラ空きになったムスクの腹に、右拳を思いきり打ち込んだ。

「ゴフッ!?」

すると拳を打ち込まれた部分の鎧は砕けムスクは真っ直ぐ取り巻きの神殿騎士達の方へと吹っ飛び、取り巻きもろとも向かいの建物の壁に激突した。

「ふぅ。ちょっとやり過ぎたけどスッキリしたからまぁいいか。」

そんな信じられない光景にサーシャとゲンは唖然としている。

この世界に住む者にとっては、神殿騎士団や王宮騎士団は上級以上の強さがないと入団出来ないというのは一般常識であり、その騎士をいとも簡単に倒す事などあり得ない事だった。

「それじゃあ、騒ぎが大きくなると困るのでそろそろ行きますね。あっ!お会計まだでしたね。はい、これ。」

ウィルは銀貨を取り出すと唖然としているサーシャの手を取り銀貨を置いた。

「それと何か困った事があれば、しばらく五つ星宿屋にいるのでウィルで呼び出して下さいね。」

サーシャは未だに唖然としながらもコクリと頷いた。

「それじゃあ、また食べにきますね。」

ウィルが立ち去ろうとしたその時、気を失ったふりをしながら祝詞の詠唱をしていたムスクが叫んだ。

「フィザルブレス!!!」

フィザルブレスは灼熱の炎を吐き出す炎属性の上級魔法である。

ムスクの吐き出した炎が火炎放射のように一直線にウィルに襲いかかる。

だが、ウィルはそれを難なく防御障壁を展開し防ぐと、瞬間移動バーギャングでムスクの真横に飛ぶと顔に手のひらをかざした。

「まだ続けますか?俺はこのままあんたの頭を吹き飛ばすことも出来るんですけど?」

その言葉にムスクは圧倒的なまでの力の差を思い知りガクリと両膝をついた。

すると、突如拍手と共に聞き覚えのある声が路地に響いた。


『パチパチパチパチ』

「すごい!ウィル兄さん、そんなに強かったんですね。今の僕じゃあ勝ち目はなさそうだ。」

その声のする方にウィルが目をやると、そこにはムスク達と同じオグニイーナ神殿騎士団の赤い鎧を着た金髪おさげの美少年が笑みを浮かべ立っていた。その左目には黒い眼帯をしている。

それはサウストン男爵家の三男でウィルの弟のクラスティだった。

「クラスティ…。やっぱり無事だったんだな。」

マクグラン王国を出発する前にトーマスとテスカが話してくれた、クラスティについての忠告がウィルの脳裏をよぎる。

「昨日からこの辺りで妙な魔法を使う男が現れるって噂を聞いて来てみたら、まさかウィル兄さんに会えるなんて思いもしなかったよ。

その言い方だと、僕が裏切ったのは気付いてたみたいだね?トーマス兄さんが気付いたのかなぁ?やっぱりトーマス兄さんはすごいなぁ!それにしても…オグニイーナ様からウィル兄さんの話を聞いて驚いたよ!まさかあの優しいだけしか取り柄のない、ただの凡人のウィル兄さんが実はものすごく強い無属性魔力の持ち主だったなんてね。ずっと隠して、僕を家族をバカにしてたのかなぁ。」

一瞬、クラスティのウィルに対する憎悪が膨れ上がるが、ウィルはひるむ事無く言葉を返した。

「別に隠してた訳じゃないよ。俺も最近この力を知ったんだから。そんな事よりクラスティ。その鎧はオグニイーナ神殿騎士団に入ったのか?」

「うん。ずっとオグニイーナ様の配下になるのが夢だったからね。今は筆頭騎士なんだ。すごいでしょ?」

無邪気な笑顔を浮かべ、クラスティは自慢げに筆頭騎士の証である胸の勲章を指差した。

そんな挑発的な態度にウィルは戸惑いながらも拳を握りしめ、叫んだ。

「クラスティ!わかってるのか!?サウストン男爵家を襲撃したのはオグニイーナ様なんだぞ!そのせいで父上も母上も行方不明になって、みんな死にそうになって、ララさんも…。」

「知ってるよ。というか僕の望んだ事だしね。そんな事よりウィル兄さんはララさんを助けに来たんでしょ?トーマス兄さんはいないみたいだけど、まさか1人で来たのかなぁ?まぁどうせ神聖派と皇帝派がやり合ってる隙に救出しようとか思ってたんでしょ?安易だなぁ。

でもウィル兄さんに都合の良いタイミングで攻め込まれるのもなんか癪だな。

…あっ!良い事思いついちゃった!」

次の瞬間、クラスティはサーシャの後ろに回り込むと剣を首筋に突きつけた。

サーシャはあまりの恐怖に言葉が出ない。

「この女の人、今日の晩餐会でマイセン王子の前で踊らなきゃならないんだけど、マイセン王子は女癖が悪くて気に入った女の人がいるとイタズラして殺しちゃうんだよぉ。多分、マイセン王子の好きなタイプだからきっと気に入られちゃうよ。」

「何が言いたいんだ!?」

「だからさぁ、この人助けたかったら今夜マイセン王子がイタズラする前に助けに来ないとね。」

「その人は俺とは何の関係も無いじゃないか!そんな挑発に乗るはずないだろ!」

クラスティは不気味な笑みを浮かべるとサーシャの首先を剣先でなぞった。首筋に赤い一筋の線が入り血が滲む。

「あ、あああ、た、助けて…。」

か細い声で助けを求めるサーシャの瞳から涙がこぼれ落ちる。

「やめろ!クラスティ!」

ウィルが叫ぶとクラスティは記憶の中にはない不気味な笑い声をあげた。

「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!関係無いんじゃないんですかぁ?

関係なくてもウィル兄さんは助けに来ますよねぇ?だってウィル兄さん優しいもんねぇ!ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!」

「くっ!クラスティ!なんて真似を!」

「それじゃあ、こっちの隙を狙おうなんて思ってるとこの人死んじゃいますから早めに助けに来て下さいねぇ?

オグニイーナ様やミカエル様と一緒に待ってますね。あっ、だけど来たら来たで皆でグチャグチャに殺しちゃいますけどねぇ!ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ!!!」

剣先をサーシャに突きつけたままクラスティが高速詠唱を行い魔法を唱えると、旋風が巻き起こった。

「さてと僕はこの女の人を連れて帰りますけど、ムスクさんも一緒に来ますか?このままここに居ても惨めなだけでしょう?」

「は、はい!クラスティ様!ご一緒させて下さい!」

今まで呆然とウィルとクラスティのやり取りを見ていたムスク達は、慌ててクラスティに駆け寄った。

そんな様子をウィルは悔しさを浮かべ、じっと見ている事しか出来ないでいた。

ウィルは、今のクラスティなら自分が手出しした瞬間に迷いなくサーシャを殺すだろうと感じ、手出しが出来なかった。

そして、その間に旋風は空高くクラスティ達を巻き上げるとボルケニア城のある方角へと凄まじいスピードで飛び去って行った。

「あの、オヤジさん。俺のいざこざに巻き込んでしまって本当にすみませんでした。サーシャさんは俺が必ず助けますから。」

ウィルは店の前で悔しげに空を見上げていたゲンに声をかけた。

「頭を上げてくだせぇ。あんたが謝る事はねぇさ。そもそもサーシャ嬢は目を付けられてたんだ。遅かれ早かれこうなってたさ。それに神殿騎士の奴の話からすりゃあ、サーシャ嬢が今すぐどうにかなる訳じゃなさそうだ。

ただ、色々とわからねぇ事があるんだ。話を聞かせちゃあくれねえか?」

ウィルは簡単に事情を説明すると、ひとまずテスカ達と合流する為に宿屋へと向かうのだった。



サーシャ・サルサート・アルティーネ

女性 17歳

サーシャのにゃんにゃん軒店主兼厨房担当。

オレンジの髪色をしたショートカットの可愛い女の子。

アルティーネ家はもともとボルケニア帝国皇室の舞踊指南役だったが、カーチス公爵に濡れ衣を着せられ爵位を剥奪された。

サーシャはアルティーネ家の一人娘で舞踊は師範代の腕前。ラーメン屋と掛け持ちで踊り子としてたまに酒場でも踊っている。


ゲント・モーリス・ダイクーン

男性 52歳

サーシャのにゃんにゃん軒店員で接客担当。

角刈りの頭にねじり鉢巻をした無愛想な頑固オヤジ。

もともとはアルティーネ子爵家が舞台で使用する舞台装置や大道具を作る一流の職人だったが、アルティーネ子爵家の取り潰しと共にサーシャの後見人となる。



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