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第35話 変なオッサン

ウィル達が宿屋に戻ると、アリエルは目を覚ましていた。

お腹が減ったらしく酒場でもらってきた焼きそばを嬉しそうに口の中いっぱいに頬張っている。

「アリエルちゃん、焼きそば美味しい?はい、お茶だよ。」

「うん。美味しい。ありがとう。」

アリエルはウィルから受け取ったお茶を飲むと、再び焼きそばを口の中いっぱいに頬張った。

ウィルはそれを見ると席から立ち上がった。

「それじゃあ俺はそろそろ自分の部屋に戻りますね。あれ?俺の部屋って…。」

「ん?何を言ってるのかねぇ。部屋はここしか取ってないさねぇ。」

ドアノブに手をかけたままウィルは固まった。

「えっ!?でもこの部屋にはベットが2つしかないですよ。足りないんじゃ?」

テスカはいつも以上に、艶っぽい笑みを浮かべながらウィルを見た。ウィルの背筋に悪寒が走る。

「足りるさ。あちきとウィルは一緒に寝るんだからねぇ。」

「ええーっ!?な、何でそうなるんですか!この場合はテ、テスカとアリエルちゃんが一緒じゃないですか?

ねっ、アリエルちゃん?」

まさかのテスカの言葉にウィルは後ずさり壁に背中を付けながら、焼きそばを一心不乱に食べ続けるアリエルに助けを求めた。

「アリエルはレオちゃんと寝るから、テスカ様とは寝ないよ。お兄ちゃんがテスカ様と寝て。」

アリエルはレオナルドのぬいぐるみを抱きしめ首を横に降る。

「ええーっ!?ア、アリエルちゃん何言ってるの!レオちゃんは今ぬいぐるみだからテスカと一緒でも大丈夫じゃないかな?」

「嫌、アリエルはレオちゃんと2人で寝るの。」

その後もウィルは必死にアリエルの説得を試みるが、アリエルはレオちゃんと2人で寝るの一点張りで説得に応じようとしない。

「フフッ、アリエルがこう言ってるんだ。ウィル大人気ないさねぇ。まぁアリエルもいるんだ、変なことは流石にしないから諦めなねぇ。」

「いや、それはダメでしょ!もう一部屋借りれないか聞いてみますよ。」

「フフ、それならもう部屋は空いてないよ。今は内乱で傭兵や冒険者が集まっているからバーナの宿屋はどこも埋まってるみたいだよ。どうするかねぇ?」

「はぁー、わかりましたよ。とりあえず大浴場行ってきますね。」

小悪魔のような笑みを浮かべながらキセルを燻らせるテスカを見て、ウィルは完全にハメられた事を悟り大浴場へと向かうのだった。


ここは、宿屋自慢の大浴場。

大人が10人以上は余裕で入れるであろう大きな檜風呂からは、心地よい檜の香りが湯気とともに立ち昇っている。

大浴場にはウィルも含めて数人の宿泊客がいた。

ウィルは身体を洗い終わり、ゆっくりと湯船に浸かると大きく息を吐いた。

「ぷはぁ!あー気持ちいいなぁ。まさか転生して檜風呂に入れるなんて思わなかったなぁ。それにしてもテスカも無茶苦茶な事言うよなぁ。まぁソファーで寝ればいいかぁ。」

ウィルがブツブツと独り言を言っていると、湯船に浸かっていたボサボサの金髪に髭を蓄えたワイルドなオッサンが湯船の中を移動し近付いてきた。

「何も悩む必要は無いではないか?テスカはいい女だぞ。それにおぬし顔は凡人顔なのに、ここはなかなかの男前ではないか?」

オッサンはそう言うなり、いきなりウィルの股間を鷲掴みにした。

「うわっ!?アンタ、いきなり何するんですか!…ん?今テスカって?アンタ誰ですか?」

ウィルは突然股間を鷲掴みにされ慌てふためき後ずさるが、オッサンがテスカの事を話しているのに気付きオッサンを凝視した。

「んっ?なんだチミはってか?そーです。ワシが変なレオナルドさんです!へんなレオちゃん、だから変なレオちゃん。ぎゃっふんだ!」

変な人に関わらない方が良いのは、たとえそこが異世界であろうと子供でも知っている常識である。

ウィルは変なオッサンの自己紹介を聞かなかった事にすると湯船から上がろうとする。

「あーいいお湯だったな。上がってフルーツ牛乳でも飲もうかな。

よっこいしよ。」

「お、おい!無視するでない!この姿になるのは久しぶりなのだ。少しくらい、はしゃいでも良いではないか!昼間はヌルヌルになったおぬしを舐めてやったではないか?なっ?気持ち良かっただろう?」

変なオッサンは卑猥な事を言いながらウィルの足にしがみついた。

「えっ、レオナルドってレオちゃん!?っていうか、ただの変なオッサンじゃないですか!それに変な言い方しないで下さいよ!あれはアンタのせいでヌルヌルになったんじゃないですか!あの後、臭くて大変だったんですよ!」

ウィルとレオナルドのやりとりに、宿泊客達は変な修羅場に巻き込まれてはたまらないとばかりにそそくさと大浴場から出て行き、あっという間に大浴場はウィルと変なオッサンの2人きりになるのだった。

しばらくコントのような掛け合いをしていた2人だったが大浴場から人がいなくなっているのに気付くと、気まずくなり外にある露天風呂へと移動していた。


「それでレオナルドさんは何者なんですか?口の臭いペットじゃなかったんですか?」

「失敬な!ペットじゃないもん!神獣だもん!もうヌルヌルになっても舐めてなんかやらないんだからね!」

どこで覚えたのか、レオナルドは仁王立ちすると腰に手を当てビシッとウィルを指差した。

「ツンデレみたいに言わないで下さいよ!気持ち悪いなぁ!で神獣様がなんでアリエルちゃんのペットなんてやってるんですか?神獣は魔物の頂点に君臨する伝説の魔物ですよね?しかも口臭いし…。」

神獣は魔物の頂点に君臨する伝説の魔物でありながら、人間を脅かす魔物を成敗する聖なる魔物として崇められていた。

その強さは属性神に匹敵し、世界に存在する6つの属性魔力を自在に操る伝説の魔物とされていた。

しかし、神獣がどんな姿をしているかは知られておらず、人々はさまざまな姿を想像しては祀っていた。

「口臭い言うな!あれは覇気を使うと臭くなるのだから仕方ないだろう!おぬしもニンニクとかニラとか食えば口臭くなるだろう?それと同じだ!」

何故かレオナルドはドヤ顔をしながら金色の胸毛がワサワサ生えた胸を張っている。

「どこが同じだ!?あー、もう話進まないなぁ!口臭いのはわかりましたから、話進めてください!」

「なっ!?おぬしが臭い臭い言ったのではないか!なんか神獣の扱い雑じゃない!?まぁ良い。ワシもそろそろのぼせてきたからな。話を進めよう。…口臭い言わないでね。気にしてるから。」

レオナルドはいじけたように人差し指を合わせイジイジしながらウィルをチラチラ見ている。

「ナイーブか!?はいはい、わかりましたよ!言わないから話進めて!」

「フム!では、話すとしよう。ワシがアリエルと一緒に旅をしているのは、アリエルが可愛くて可愛くて仕方なくてのぉ。最初は影から見守っていたのだが、つい我慢出来なくなってこの姿を隠し、獅子の姿となりペット…じゃなくて友達として一緒に旅をしてるのだ!わははははっ!」

レオナルドは照れ臭そうに笑っているが、ウィルは無言のままゆっくりと立ち上がると、銀震刃を手に出現させレオナルドの首元に突きつけた。

「この変態ロリコンストーカー野郎が、許せん!あんな小さな女の子を騙して付き纏うとは叩き斬ってやる!」

「お、おい!ちょっと待て、なんでそうなる!?おぬし、何か勘違いしてないか!?」

「うるさい!どうせアリエルちゃんやテスカを乗せて、いい尻してんなぁーとか思って興奮してたんだろ!?神獣を名乗る変態野郎が!覚悟しろ!」

ウィルが銀震刃を振りかぶる。

「うわー!ちょ、ちょっと待て!たしかにおぬしの言う通り、いい尻だなぁーとは思ってはいたが自分の娘の尻なんだから大目に見てくれても良いではないか!?」

自分の娘という言葉にウィルの銀震刃を持つ手が止まる。

「えっ!?今なんて?」

「だからアリエルはワシの娘なの!」

「ええーーー!?」

露天風呂にウィルの驚きの声が響き渡った。

その後、最初は疑っていたウィルもレオナルドの必死の説明を受け、しばらくするとアリエルがレオナルドの娘である事を納得するのであった。


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