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第27話 神聖派

ここは、帝都バーナの中央部に位置するボルケニア城。

城内の大広間では神聖派の主要な諸侯達が招かれ、晩餐会が催されていた。

そして玉座の前では踊り子達による華麗な踊りが披露され、それを玉座に座り下品な笑い声を上げながら、ギョロっとした目で舐め回すように見る小太りの青年がいた。

「ひゃはははははっ!踊れ踊れ!俺様が気に入った奴はこの後ベッドの上でも踊らせてやるぞ!」

この小太りの青年は、ボルケニア帝国第2王子のマイセン・カーチス・ボルケニアである。

マイセンはグラスの中のワインを一気に飲み干し舌舐めずりをすると、1人の踊り子を指差した。

「よーし、決めたぞ!そこの右端の女!

ん?お前、何処かで見た事があるか?

まぁいいや。今夜、オレ様のベッドで踊らせてやる。今日はどんな媚薬を試すとするか?ヒャハハハハハ!」

マイセンのその言葉に、指を刺されたオレンジ色の髪をした踊り子を絶望が襲う。

「マイセン様!どうかお許しを!どうか……。」

踊り子はその場にへたり込みマイセンに懇願するが、それを無視するように近くに立っていた神殿騎士達が踊り子の両脇を抱え大広間から連れ去っていった。

その騒ぎに一瞬大広間にいた者達も動きを止めたが、すぐにマイセンのいつもの悪い癖だと気付き、何事もなかったように食事や談笑を再開するのだった。

マイセンが満足そうにしていると、玉座の側に立っていた、金髪をオールバックにした中年の騎士が話しかけた。

「マイセン王子、昨日の娘はどうされたのですか?ここ数日、城の池掘りで若い娘の死体が毎日見つかっているのですが、もしや…。」

このオールバックの男は、オグニイーナ神殿騎士団団長のオルトレット・モルゴース・ウィリアムである。

ウィリアム伯爵家当主であり、帝国騎士団団長のノアルの叔父でもある。

「んっ?ああ、媚薬使ったら死んだから捨てた。なんかもっとすごいのないかなぁ。」

マイセンはウィリアムの方を見ずに鼻をほじりながら答えた。

ウィリアムの背筋に虫酸が走り、思わず不快な表情をしていると、それを察した玉座を挟んで反対に立っていたピンク色の髪を縦に巻いた女騎士がマイセンに話しかけた。

「マイセン様、死んでしまっては楽しもうにも楽しめないでしょう。それなら死なないようにパッカード子爵に新しい媚薬を調合してもらっては如何でしょうか?」

このピンクのたて巻きの女騎士は、オグニイーナ神殿騎士団副団長のミレーヌ・ハリス・アレミラである。

マイセンはミレーヌの提案に手のひらをポンっと叩いた。

「そうか!パッカード子爵がいたな!あの変態オヤジなら良い媚薬を作れるだろう!…おっ!あそこにいるな。」

マイセンは大広間を見渡すとピエロのような怪しげな格好をしたパッカードを見つけた。

「呼んできましょうか?」

「いや、俺様も少し動きたかった所だ。少し行ってくる。ミレーヌ、お前には褒美をやろう。それっ!」

「きゃあ!」

マイセンは立ち上がるとミレーヌの尻を掴み数回揉んでから、パッカードの元へと去っていった。

ミレーヌは近くの神殿騎士にマイセンの護衛につくよう目配せすると、気持ち悪そうにマイセンに触られた尻を払った。

「あー、気持ち悪いなぁ。王子じゃなければあんなクソガキ切り捨ててやるのに。それにしても団長露骨に嫌な顔し過ぎですよ。まったく、しっかりして下さいね。」

ミレーヌが詰め寄るとウィリアムは申し訳なさそうに頬をかいた。

「ああ、ミレーヌすまん。つい表情に出てしまった。とにかく、これ以上犠牲を出さないように事を起こす前に眠るよう、後で時限方式の睡眠魔法でもかけておくか。」

「あははは。それは良いですね。妙な噂でも流れて、これ以上神聖派に対する民衆の支持率が下がるのも癪ですしね。なんなら、私があのクソガキに魔法かけときますよ。」

元々、オグニイーナとマイセンの民衆の人気は低かった事もあり、神聖派の帝都バーナ制圧は民衆には支持されていなかった。

「ああ、いつもすまんな。宜しく頼む。」

「はい。団長の頼みなら喜んで。」

ウィリアムのいつもながらの謙虚な態度に、ミレーヌは薄っすら頬を赤らめながら答えるのだった。


晩餐会は立食形式でおこなわれ、大広間には大小様々なテーブルが配置され豪華な料理や酒が並べられていた。

ここは大広間の中央にある一際豪華な肉料理が並べられたテーブル。

そのテーブルにへばりつく様に肉料理をむさぼるピエロのような格好をした男にマイセンは話しかけた。

「おい、パッカード子爵!少し良いか?」

パッカードはマイセンの呼びかけに気付かないのか、相変わらず肉を口に詰め込み続けている。

無視されたマイセンは苛立ち声を張り上げた。

「おい!パッカード聴こえてないのか!?」

その大きな声にパッカードは驚き、肉を喉に詰まらせると顔色がみるみる真っ青になり勢いよくその場に倒れた。

『バッターン!』

その音に大広間にいた者たちの視線が一瞬集まるが、倒れたのがパッカードだと分かると、何事もなかったように食事や談笑を再開した。

マイセンもそんなパッカードに慣れているのか、パッカードのアタマを蹴飛ばした。

「おい!起きろ!」

マイセンの蹴りで喉に詰まった肉が取れ、パッカードは息を吹き返し立ち上がった。

「マイセン様!ワタクシの命を肉から救って頂きありがとうございます!このご恩、一生涯忘れません!ではワタクシは肉への復讐がありますので失礼いたします!」

このピエロのような格好をした男は、パッカード子爵家当主で元ボルケニア帝国魔導師団団長の、ニョルニ・プチパンク・パッカードである。

ボルケニア帝国随一の奇人変人として知られていた。

パッカードがそう言って踵を返した瞬間、マイセンが首根っこを掴んだ。

「おい!オレ様の話を聞け!飲むだけで色欲が爆発するような媚薬を調合しろ!」

パッカードはマイセンに向き直ると、被っていた水玉の模様の帽子を取りその中から小瓶を取り出した。

「これ効きますよ!用法と容量はラベルに書いてありますのでそちらを見てください。それでは、ワタクシは憎っくき肉を倒しに行きますので、これにて失礼!」

パッカードは小瓶をマイセンに手渡すと再び踵を返し、テーブルの上の肉料理を貪り始めた。

「相変わらずの変態だな。フンッ、まぁいい。これで今夜が楽しみだぜ!ヒャハハハハ!」

マイセンが下品な笑いをしていると周囲がざわつき始め、数人の取り巻きを連れ灰色の長髪をなびかせた男がマイセンに近づいてきた。

「これは、これは、マイセン皇帝陛下…いや、まだマイセン王子でしたな。これは失敬。

ご機嫌麗しゅうございます。はて?あんな変態と何を話しておられたのですか?口が腐りますぞ。」

この高圧的な態度の男はカーチス公爵家当主でボルケニア帝国大蔵大臣のボルザード・シュナイツ・カーチスである。

カーチス公爵家はシルバリオン公爵家と並ぶボルケニア帝国屈指の名家であり、カーチスはマイセンの叔父にあたる。

マイセンはカーチスの威圧感に一歩引くと先程までの威勢は何処へやら、ビクビクしながら答えた。

「お、叔父上。こ、これはパッカード子爵からその…び、媚薬を貰いまして今夜使おうかと…」

カーチスはそれを聞くとマイセンに近づき耳元で囁いた。

「このカーチス公爵家の面汚しが。私に恥をかかせるな。人形は大人しく玉座にでも座ってろ。また仕置されたいのか?」

その言葉にマイセンは顔を真っ青にしブルブルと震えている。

そんなマイセンの様子を嘲笑うと、カーチスは耳元から離れ人当たりの良さそうな笑顔を浮かべた。

「マイセン王子はまだ17歳なのですからそんな物に頼るようではいけませんぞ!ははははっ。」

マイセンは引きつった笑みを浮かべコクリと頷くと逃げる様にその場から立ち去った。

そんなマイセンを蔑む視線で見送るとカーチスは取り巻きに話しかけた。

「そういえば、オグニイーナ様がいらっしゃいませんな?先の戦の論功行賞について話をしたかったのだが。」

カーチスが周囲を見回していると玉座の後ろの扉が開き、カルデ神殿騎士団筆頭騎士のクラスティを先頭に、大天使ジェレミエル、大天使ミカエル、そして火の神オグニイーナが入ってきた。


オグニイーナは先程までマイセンが座っていた玉座に腰をかけた。

すると今まで騒がしかった大広間が静寂に包まれ、その場にいる者たちすべての視線がオグニイーナに注がれた。

「先の皇帝派との戦いは本当に有難う。おかげでこうして帝都バーナから皇帝派を追い出す事が出来たわ。だけど、ついさっき皇帝派に潜入していた者から、皇帝派が明朝帝都バーナに進攻を開始するとの情報があったわ。だから、ワタシ達神聖派もこれを迎え撃つ為にグリル平原へと進軍する事にしたわ。

みんな、ヨロシクね。

それで、これからも頑張ってもらう皆の為に今日はとっても面白い余興を用意したの。

詳しい説明はミカエルがするから楽しみにしててね。」

オグニイーナが明るい声でそう伝えると、その場にいる者たちから歓声が上がった。

そして、マイセンは何も知らないまま話が進められているのを見て、奥歯を噛み締めながら静かに怒りを燃え上がらせるのであった。

「どいつもこいつも俺様を馬鹿にしやがって。今に目にもの見せてやる。ヒャハハハハ。」

こうして、皇帝派を迎え撃つべく神聖派も動き出すのであった。



マイセン・カーチス・ボルケニア

男性 17歳

ボルケニア帝国第2王子。

黒髪のもじゃもじゃ頭で小太り。

性格は陰険で残虐で臆病。チャールズとは腹違いの兄弟。母マルチナはカーチス公爵家の出身でボルザードの姉だが3年前に他界。


オルトレット・モルゴース・ウィリアム

男性 38歳

オグニイーナ神殿騎士団団長でありウィリアム伯爵家当主。

金髪のオールバックで精悍な顔立ち。

性格は誠実で実直で謙虚。

愛妻家として知られていたが妻ナタリーは3年前に他界。

帝国騎士団団長のノアルの叔父でもある。


ミレーヌ・ハリス・アレミラ

女性 28歳

オグニイーナ神殿騎士団副団長。

ピンク色の髪をたて巻きにした美女。

性格は明るくサバサバしている。

密かにウィリアムの事を想い続けている。


ニョルニ・プチパンク・パッカード

男性 ??歳

パッカード子爵家当主で元ボルケニア帝国魔導師団団長。

ボルケニア帝国随一の奇人変人として知られ、ピエロのような格好をしている。

やせ型だが大食い。肉料理を心の底から憎んでいる。


ボルザード・シュナイツ・カーチス

男性 45歳

カーチス公爵家当主でボルケニア帝国大蔵大臣。

灰色の長髪のイケオジ。

性格は冷徹な野心家。

マイセンの叔父にあたる。

シルバリオン公爵家を敵対視している。

いつも連れて歩いている取り巻きの男達は、アンド伯爵、トゥーワ子爵、トロワ男爵、ワーカラン男爵である。



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