第25話 騒々しい出発
その後、朝食を済ませたウィルは出発の時を迎えていた。
世話になった神殿騎士や従者長達と別れの挨拶をしていると、昨日の訓練後から姿の見えなかったマッカランが荷物を持ってウィルに駆け寄ってきた。
「ウィル殿!間に合って良かったのだ!さぁこれを見てくだされ!」
マッカランが何かを包んである布を地面に置いて広げると、そこには簡素な装飾のされた銀色の胸あてと短剣があった。
「マッカランさん、これは?」
その言葉にマッカランはぶ厚い胸板を叩いてから自慢気に説明を始めた。
「これは我がマッカラン公爵家に伝わる家宝で、この胸あてと短剣はあの伝説の金属と呼ばれるオリハルコンで作られているのだ!しかも伝承によると無属性魔力を持つ者が装備する事で性能が飛躍的に上がるらしいのだ。
しかしながら、我がマッカラン一族は代々風属性魔力の家系であるし、何よりサイズが小さくて大柄な男しかいない我が一族の中には装備出来る者がいないのだ。
そこで是非とも今後、我輩の一人娘であるミツハの夫となるウィル殿に貰って欲しくてな。昨日急いで戻って取って来たのだ。」
マッカランの話に、一瞬その場が静まり返るも、次の瞬間ハニエルを除くその場にいた全員が驚きの声を上げた。
「エエーーーッ!?」
ウィルが呆気に取られていると、焦ったカルデが話に割って入ってきた。
「な、な、何を勝手な事を言っている!?
マッカラン、おぬしついこの間まで娘は絶対嫁には出さん!と言っていたではないか!?それをよりによってウィルにだと!?そ、それだけはこの神であるカルデが許さんぞ!」
最初、マッカランは何故カルデが怒っているのかわからなかったが、ウィルと同じ指輪を左手の薬指にしているのが目に留まり、その理由を理解する。
「ほほう。カルデ様、その指輪は念話石の指輪ですな?いくら情報交換の為とはいえ、ウィル殿の左手の薬指に付けさせるとは職権乱用ではないですかな?
それに嫁に行かせないと言っていたのはもう10年以上も昔の事ですぞ!」
マッカランの鋭いツッコミにカルデは一瞬怯むが負けじと言い返す。
「おぬしだって物で釣ろうとしているではないか!?オリハルコンなぞ持ち出しおって!それにそんな話、ウィルが了承した訳でもなかろう!」
カルデのカウンターにマッカランも一瞬怯むが打って立つ。
「了承も何も、ウィル殿は我輩の心の友ですぞ!断わる訳がありますまい!それにきっとミツハもウィル殿の事を気に入ってくれる事でしょう!」
カルデの中で何かがプツンと切れた。
「ええーい!うるさい!うるさい!うるさーい!!!我は認めんぞ!マッカラン、いくらおぬしが無理やり進めようと、結婚の契りは誰に誓うと思っている!?神であるこの我だ!我が認めねば結婚など出来ぬぞ!わはははははっ!」
カルデは勝ち誇った様に両手を腰に当て高笑いしている。
「うぐっ!?なんと卑怯な!それはいくら何でも卑怯ですぞ!一番大事なのは本人達の気持ちですぞ!それを尊重してこその神ではありませぬか!?」
その後も2人の身勝手な口論は続くも、困り果てたウィルのすがる様な視線に気付いたハニエルが仲裁に入り、結局オリハルコンの装備はレンタル扱いという事でその場はなんとか収まったのであった。
「ハニエルさん、色々とお世話になりました。」
カルデとマッカランの身勝手な争いもひと段落し、ウィルはハニエルに挨拶をしていた。
「いえいえ、ワタシも色々と楽しませてもらいましたわ。無事に帰って来たら、また楽しませて下さいね。ウフフ。」
ウィルが困惑しているとハニエルが耳元で囁いた。
「それとテスカ様に食べられちゃわない様にね…。ウフフ。」
ハニエルの艶っぽい声と甘い香りにウィルが思わずぼーっとしていると、そこにカルデがハニエルを追い払う様に割って入った。
ハニエルはそんなカルデの反応を楽しむ様に、色っぽい笑みを浮かべ離れていった。
「ハニエルの奴め。いつも近すぎるのだ。それでは、気を付けて行ってくるのだぞ。」
「はい、行ってきます!」
「そ、それと、毎日の報告は忘れないようにな…。」
「はい。毎日報告しますね。」
カルデが照れくさそうに乙女の表情を浮かべると、妬み、嫉み、僻みの入り混じった視線をウィルに向ける神殿騎士達からブーイングの嵐が巻き起こり、その声に背中を押される様にウィルは転移結晶をかざし光の中へと消えていくのであった。
ここまで読んで頂き本当に有難うございます。
後付けですが、ここで第1章 異世界転生編 は終わりとなります。
次回以降もお話は続きますが、もし良ければここまでのご感想、レビューや評価などを頂けますと今後のモチベーションにも繋がるのでとても嬉しいです。
今後ともご愛読宜しくお願いします^_^




