第24話 湖畔の2人
ウィルがしばらく見とれていると、それに気付いたカルデが少し照れくさそうに羽衣を靡かせながら近づいて来た。
「ウィル、お、おはよう。どうした?こんな所で。眠れなかったのか?」
ウィルは見とれていたのをごまかす様に頬を掻いた。
「お、おはようございます。ちゃんと寝れはしたんですが、早く目が覚めてしまいまして散歩していた所です。カルデ様はこんな朝早くから、何をされていたんですか?」
「我はここに滞在する時は、毎朝この場所で精神統一するのが日課でな。綺麗な湖だろう?」
カルデが深呼吸しているのを見て、ウィルはふと昨日の大浴場での出来事を思い出す。
「あ、あの、カルデ様。昨日はすみませんでした。」
ウィルが頭を下げると、カルデは恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「もう良い。ハニエルのいつもの悪戯で騙されて風呂に浸かってた我にも落ち度があるからな。そ、それに夕食の時にその何だ、我も素っ気無くして悪かったな。」
「いえ、もう気にしてませんから。あの昨日…あまり話せなかったので少し話しませんか?」
「良いだろう。我も話したい事があったしな。」
2人は湖畔にあった倒木に座りながら、ウィルの転生前の世界の事や転生後のサウストン家での生活について話をしていた。
「そういえばトーマス兄さんやアリスに、転生者である事を黙っていてくれてありがとうございました。」
「それはおぬしが言って欲しくなさそうな顔をしていたからな。おぬしが転生者である事は誰にも言ってないし、言うつもりもないから安心しろ。
…2人だけの秘密だ。」
「えっ?」
カルデが最後に言った言葉が聞き取れずにウィルが聞き返すが、カルデは照れくさそうに話を続けた。
「それに我も全部見ていないのに、トレンディドラマを広められるのも癪だしな。」
「あはは。お互いこの一週間忙しくてそんな暇なんてなかったですもんね。なんなら今から恵比寿ラブストーリーの続きを見ますか?」
この一週間ウィルは朝から晩までマッカランと訓練漬けで、カルデは今回の作戦の根回しや準備に追われていた。
ウィルが頭を差し出すが、カルデは首を横に降った。
「フフッ。見たいのは山々だが、朝から刺激が強すぎる。
それはおぬしがボルケニア帝国から帰ってきてから楽しませてもらおう。だから、必ず無事に戻って来るのだぞ。」
「はい。カルデ様。」
2人はいつの間にか見つめ合っていることに気付き、互いに照れくさくなり顔を背けた。
「あっ、そうだ。ウィル、おぬしにこれを渡しておこうと思ってな。」
するとカルデはどこからともなく、手のひら程の小さな布袋を取り出すとウィルに手渡した。
「ありがとうございます。これは?」
ウィルが布袋の中身を確かめると、半透明の結晶、青白い宝石があしらわれた指輪、それと金色の宝石があしらわれたロザリオのペンダントが入っていた。
「まず、半透明の結晶は転移結晶だ。
ボルケニア帝国のヒノッコ村に転移出来る。帰りの転移結晶はヒノッコ村にいる協力者のテスカといういけ好かない女が持っているから、そやつから受け取ってくれ。それとテスカには必要以上には近づくな。いいな!」
「は、はい。わかりました。」
テスカの名前を口に出した瞬間、眉間にシワが寄り沸き上がる怒りを抑えようとするカルデを見て、ウィルはなんとなく因縁がある相手なのだろうと察し、深く聞くのをやめた。
「次に青白い宝石の付いた指輪だが、この青白い石は念話石という特殊な石でな。
元々1つの石だったものを2つに割って、片方をその指輪に付けて、もう片方を我がしている指輪に付けてある。」
カルデはそう言うと、左手の薬指にしている揃いの指輪を少し恥ずかしそうに見せた。
「これは付けていると自動的に魔力を蓄積して、その魔力で石の片割れとどんなに離れていても1日に数分間だけ会話が出来る。
まぁ情報交換の為だ。ふ、深い意味は無いからとりあえず付けておけ。」
ウィルは早速付けてみようとするが何故か、左手の薬指にしかサイズが合わなかった。
「あれ…?ここにしか合わないなぁ。」
ウィルが照れながら左手の薬指に指輪をはめるとカルデは真っ赤な顔の両頬に手を当てながら声にならない声を上げて悶えている。
「コホン。そ、それでは最後にそのペンダントだが、そのペンダントに付いている金色の石は封神石といってな。
それを神に着けて術者が魔力を流し込むと、その量に応じて神の魔法の行使を一定期間封じる事が出来るというものだ。
ララやクラスティの救出となれば、いくら隙をつくとはいえオグニイーナとの戦闘も想定しておいた方が良いだろうしな。奥の手だと思って持っておけ。」
「一定期間とはどの程度ですか?」
カルデは少し考え答えた。
「ふむ、相手の力量にもよるが、ウィルがオグニイーナに使えば10年以上は魔法が使えなくなるだろうな。」
「えっ!?そんなにですか?長くないですか?」
ウィルはせいぜい数分程度だと思っていた為、カルデの答えに驚きを隠せない。
「長いか?先の大戦でボルケニア帝国が敗戦した時に我がオグニイーナの魔力を封じたのだが、それは15年持ったぞ。」
「そ、そうですか。それじゃあ、いざとなったら使わせてもらいますね。」
自分ごときが神様の魔法を封印するなんて、そんな罰当たりなことは是非とも避けたいと思いながら、ウィルは封神石のペンダントを布袋に入れた。
「それとこれは伝えるべきか迷ったのだが…。クラスティには気を付けろ。オグニイーナにサウストン屋敷への転移結晶を渡したのは奴だ。」
カルデの予想に反し、ウィルに動揺は無かった。
「気付いていたのか?」
「はい。一週間前にトーマス兄さんがここを発つ時に話してくれました。恐らくサウストン屋敷への転移結晶を作ったのはクラスティだろうって…。だから、ある程度は覚悟出来てました。気を遣わせてしまい申し訳ありませんでした。」
ウィルが申し訳なさそうにしているのをカルデは、手で制した。
「それならクラスティが敵として現れたら、覚悟は出来ているな?」
真剣な瞳で見つめるカルデにウィルは力強く頷くと静かに答えた。
「はい。それでも何とかやれる事はやってみようと思います。」
「そうか。それなら我がとやかく言う事も無いだろう。」
カルデは座っていた倒木から立ち上がり、つむじ風を発生させるとその上に乗りウィルに手を差し出した。
「よし!それではそろそろ朝食の準備も出来ている頃だろうし戻るとするか。」
「はい。」
ウィルがカルデの手を取った次の瞬間、2人は雲ひとつない真っ青な空へと舞い上がるのであった。




