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第23話 恵比寿ラブストーリー3

ここはヨウタの勤める大手広告代理店のオフィス。

大きな嵌め込みガラスからは都心の夜景を一望する事が出来るがそんな夜景を楽しむ余裕など無く、社員達は慌ただしく働いている。

「おい、ナオキ!このプレゼン資料チェックしといたから印のある所、修正したら審査回しといて!」

ヨウタは部下で3年後輩のナオキに指示を出すと、ふとお気に入りの高級腕時計に目をやった。

時刻は21時を指している。

「はい。今日中に修正して審査回しておきます。あれ?そう言えば、ヨウタさん今日用事あるとか言ってませんでしたっけ?」

「ああ。悪いけど、先に上がるわ。お前もあんまり無理すんなよ。それじゃおつかれ!」

「了解です。お疲れ様でした!」

ヨウタはジャケットとカバンを手に取ると足早にオフィスを後にした。

「やっぱ、ヨウタさんカッチョ良いな。仕事も出来るし男として憧れるぜ。彼女とかいんのかなぁ?なぁ、チサト知ってる?」

ナオキはパーテーション越しのデスクで仕事をしているチサトに話しかけるが、

チサトは無視して仕事を続けている。

ナオキは無視されている事など気にする様子など無く再びチサトに話しかけた。

「なぁ、チサト!ヨウタさんって彼女…」

『バンッ!』

突如、ナオキの言葉を遮るように、チサトがキーボードを叩いた音がオフィスに響く。

「うるさいわね!知らないわよ!仕事の邪魔しないで!」

チサトはナオキを睨み付けると席を立ち給湯室へと去って行った。

「なんなんだよ。チサトの奴。あんな怒鳴らなくてもいいじゃんか。チェッ!」

ナオキはチサトが何故怒ったのか訳もわからず戸惑いながらも仕事に戻るのであった。


ヨウタは恵比寿にある行きつけのダイニングバーに着くと店内を見渡しカウンターに座る1人の男に近付き背中を叩いた。

「エイジ、遅くなった。悪い。」

ヨウタは横の席に座るとバーテンダーにモヒートを注文した。

「気にするな。それより忙しい中、呼び出して悪いな。」

そう言うエイジの目の下には隈があり、どこかげっそりと窶れた印象だった。

「何、水臭い事言ってんだよ。親友の為ならいつでも時間くらい作るさ。」

ヨウタがお手拭きで手を拭いていると、バーテンダーがヨウタの前にモヒートの入ったグラスを置いた。

「それじゃ、お疲れ!」

ヨウタはそう言うとグラスを持ち上げ、エイジの持つグラスに軽く当てるとモヒートを乾いた喉に流し込んだ。

そして、一息つくとタバコを取り出し口にくわえ火をつけた。

「それで、俺を呼び出したって事はサオリと何かあったのか?」

エイジは図星だったのか少し気まずそうに口を開いた。

「ああ、サオリが浮気しているのがわかって問い詰めたらフラれた…。」

ヨウタはある程度事態を予想していたのか、ため息をつき頭を掻いた。

「あーそう、なるほどね。要するにお前はサオリを信じないで傷つけて、その挙句フラれたって事だな。」

「なんでそうなるんだよ!浮気したのはサオリだぞ!俺は見たんだ!サオリのポケベルにケイスケって奴から会いたいってメッセージが着てて、こっそり跡をつけたらお前ん家の近所のマンションに親しげに若い男と消えていくのを見たんだよ!」

エイジはグラスのビールを一気に飲み干すと、カウンターに顔を伏せた。

その様子を見てヨウタがタバコをふかしながら呆れたように頭を掻いた。

「はぁー、お前なぁ。それは弟だよ。サオリには双子のケイスケっていう弟がいるんだよ。」

その言葉にエイジは顔を上げヨウタの両肩を持ち揺さぶった。

「何だって!?だって、サオリはそんな事言ってなかったぞ!あの時だって…。」

エイジの手を外してからヨウタはモヒートを飲み干した。

「サオリはお前に信じてもらいたかったんだろ?だから、言わなかった…。」

ヨウタはタバコの火を消すとバーテンダーにウィスキーを注文した。

「俺は…。どうしたら……。」

エイジが頭を抱えていると、ヨウタがエイジの背中を叩いた。

「行ってこいよ。サオリ、きっとお前の事、待ってるぜ。ここは俺が持つから早く行け。」

その言葉にエイジは何かを決心したように荷物を手に取り席を立った。

「ヨウタ、ありがとう!俺、行ってくるよ!」

エイジはそう言い残すと店を後にした。

それを見計らったようにバーテンダーはヨウタの前にウィスキーとミックスナッツをそっと置いた。

「ミックスナッツ?エイジ注文してたのか。」

「いえ。私からのサービスです。」

バーテンダーの心遣いにヨウタは微笑み礼を言うと、ナッツを一粒口に放り込み、その香ばしい味を楽しむとウィスキーを流し込むのであった。


「ん…ふわぁ…。今の恵比寿ラブストーリー…だよな?前に夢で見たのもそうだけど、こんなシーン無かったよな…。妄想かなぁ?」

ウィルは眠い目をこすりながらベットから起き上がると、カーテンを開けて窓から外を見た。

「まだ少し薄暗いなぁ。日の出まではもう少しかかりそうだな。

まぁ、目も覚めちゃったし散歩でもするか。」

ウィルは手早く身支度を整えるとまだ時間も早い事から周りに気を遣わせない様に瞬間移動で外へ出た。

その後も、敷地内を巡回している神殿騎士の目を盗みながら何回か瞬間移動を使い、離れた針葉樹の森まで来るとようやくトボトボと歩き始めた。

その頃には少しずつ朝日が昇り始め、朝靄も相待って幻想的な風景の中を歩いていた。

「あー。気持ちいいなぁ。マイナスイオン全開だな。でも何か喉乾いたな。確かこの間、訓練でこの辺に来た時に綺麗な湖があったよな。行ってみるか。」

しばらく森の中のマイナスイオンを感じながら歩いていると、ウィルの目の前の視界が開け透き通るように美しい湖が現れた。

「おおっ!?なんか絶景だなぁ!んっ?あれは?」

ウィルが目を凝らすと、少し離れた湖の中心の水面の上に坐禅を組みながら浮いているカルデの姿があった。

ウィルはその神々しい佇まいに思わず息を飲み、見とれてしまうのであった。



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