第19話 交差する思惑
「えーーーーっ!?」
大広間にいた者達から驚きの声が上がると、ウィルが間髪入れずにツッコミを入れた。
「な、な、何を言ってるんですか!?冗談を言ってる場合じゃ!」
「冗談ではない。本気だ。何を驚く必要がある?我もグリドールもたとえゆくゆくは戦争になろうとも、マクグラン王国からボルケニア帝国に戦争を仕掛けるような真似はしないし、戦争の口実にされかねん交渉をするつもりもない。
他の国々の目もあるしな。
だとすれば、どこにも仕官していないおぬしが動くしかないだろう?」
「マジですか…。」
ウィルが困惑していると今まで黙っていた、というより話しについていけずに呆然としていたアリスとトーマスが立ち上がった。
「そんな!無茶です!」
「カルデ様!恐れながらアリスの言う通り、それは余りにも無謀です!
ウィルは屋敷の警備兵はしていましたがララ達の救出などとても…。」
トーマスが言い終わる前にカルデが話を遮る。
「出来ないとでも言うのか?トーマス、おぬしハニエルから何を聞いた?昨晩、我を救ったのはウィルだぞ。」
カルデはチラッとハニエルを睨むが、ハニエルは気にする様子もなく、むしろこの状況を楽しんでいるかのように色っぽい笑みを浮かべている。
「ハニエル様からは、ウィルがカルデ様の分身体を助けたとしか聞いておりませんが…。」
カルデは紅茶を一口飲んで喉の調子を整えると少し嬉しそうに話し始めた。
「そうか。では仕方ないな。我が説明してやろう。
ウィルは、我の分身体がオグニイーナとその家畜のヘルガルムに殺されかけていた時に颯爽と現れ、オグニイーナの攻撃を軽々と防ぎ、その直後ヘルガルムの頭を消滅させ胴体を一刀両断。
この時はなかなか格好良かったな。
それでその後オグニイーナの紅龍炎を受け切り、さらにはミカエルの片翼を吹き飛ばし奴の聖剣を破壊といったところだ。
どうだ?なかなかの戦果だろう?
まぁ、まだ戦い方は素人同然だが鍛えれば我をも凌ぐ強さになるだろうな。」
ヘルガルムを倒した時に側に居なかったカルデが、あたかも見ていたように話しているのをウィルが不思議に思っていると、トーマスが間の抜けた声を出した。
「あ、あのカルデ様?誰の話をしているのでしょうか?」
「ん?聞いていなかったのか?ウィルの話だぞ。」
トーマスとアリスはカルデの言っている意味を理解するのに時間が掛かりながらも、ウィルを見てタイミングを合わせたように驚きの声をあげた。
「ええーーーーっ!?」
ウィルは2人の反応にほんの少し優越感を感じつつも、そんな2人の反応を以前のウィルにも見せてあげたかったと思うのであった。
そして、トーマスとアリスはしばらく半信半疑だったが、カルデが転生の事は伏せつつウィルの中に眠っていた強大な無属性魔力に気付き根詰まりを解消した事を話すと、ようやく2人は納得したのだった。
「まさか、ウィルにそんな力があるなんて全く気付きませんでした。父上や母上が知ったら驚くでしょうね。昔から本人には言いませんでしたが、ウィルには無理せずに平凡でも良いから幸せに生きて欲しい、と言うのが父上や母上の口癖でしたから…。」
その話を聞いてウィルは納得した。
雄介が転生してまず最初に感じたのは、ウィルと家族の関係はとても良好であるにも関わらず、ウィルの記憶の中には家族のハイスペックな経歴に関する情報が不自然な程に少なかった。
なぜなら、今のウィルが持っている家族の経歴に関するほとんどの情報は、転生後に調べたものであった。
また、以前のウィルが家族のそういった情報に触れると話を逸らすような言動も多く、そんな家族にウィルは疎外感を感じていたようだった。
そしてそれは、ハイスペック過ぎる一族に生まれてしまった凡人のウィルに対するブライトの優しさだったのかもしれないと思うと、なんだかウィルは切なくなるのであった。
「それで話を戻すが、我は本気でウィルならララ達の救出もそうだが、現在のボルケニアの情勢すら変える事が出来ると考えている。どうだ?やってみないか?」
カルデは真っ直ぐウィルを見ている。
その表情には全く偽りなど感じられない。
ウィルはカルデの狙いがボルケニアの情勢変化であり、ララ達の救出はオマケなのでは?と思いながらも嫌な感じはしなかった。
むしろ、自分の狙いを隠す事なく率直に述べ、腹を割って話すカルデに好感すら感じていた。
そしてなによりも自分を信じ期待をしてくれる事に嬉しさを感じていた。
「わかりました。俺がララさんとクラスティを助けます。但し、俺にとってはあくまでもララさんとクラスティの救出が最優先で、それ以外は全てオマケです。
それだけは忘れないで下さいね。」
ウィルが真っ直ぐカルデを見ると、カルデは嬉しそうに微笑み頷いた。
「ああ、わかった。それで良いだろう。」
「それで俺は何をすればいいんですか?
まさか表立って動けないからといって、後は知らんって訳じゃないでしょう?
当然、裏でサポートして頂けるんですよね?」
「フッ、当然だ。それでは具体的な話を始めるとしようか。」
こうしてカルデがいつのまにか作り上げていたララとクラスティの救出作戦の説明は休憩を挟みながら、途中カルデに呼び戻された神殿騎士団の団長であるマッカランも加わり、夕方まで続いたのだった。




