第18話 諦めない想い
ボルケニア帝国で起きている内乱は、単なる次期皇帝の座を争う兄弟間の跡目争いではなかった。
ボルケニア帝国の第1王子チャールズが率いる皇帝派は元々現皇帝ロベールが率いていた穏健的な派閥で、20年前の大戦でボルケニア帝国がマクグラン王国に敗戦した直後、ロベールが皇帝に即位すると共に第1派閥となり、今日に至るまでボルケニアの政治を担ってきた。
そして、これまでマクグラン王国との融和政策を進めてきたロベールの危篤によりその政策を継承するとしたチャールズを後継者に担ぎ上げた。
これに対して、第2王子マイセンが率いる神聖派は実際はオグニイーナが実権を握る革新的な派閥であり、20年前の大戦でボルケニア帝国がマクグラン王国に敗戦するまでは第1派閥としてボルケニアの政治を担っていたが、敗戦後は第1派閥の座を皇帝派に奪われ力を失っていた。
それでも今日に至るまでマクグラン王国への敵視政策を訴え続け、徐々にどちらの派閥にも属さない中立派を切り崩し勢力を回復するとロベールの危篤を機に、マクグラン王国への敵視政策を支持するとしたマイセンを後継者に担ぎ上げたのだった。
そして、現在のボルケニア帝国の内乱の状況は、チャールズがマクグラン王国に帝国の機密情報を不正に漏らした国家反逆罪の疑いがあるという理由でマイセン率いる神聖派が挙兵し、これに対抗すべくチャールズ率いる皇帝派が挙兵。
間も無くボルケニア帝国の帝都バーナ近郊で大規模な衝突が発生し、当初、皇帝派が優勢に進めるもオグニイーナ達の策略により形勢が逆転し神聖派が勝利。
その後、神聖派は帝都バーナ全域を占拠し、チャールズと皇帝派の生き残りは皇帝派の中心人物でありララの父でもあるシルバリオン公爵の領地に撤退。
それ以降、皇帝派と神聖派の大規模な衝突は発生していないものの、皇帝派への締め付けを強める神聖派は現皇帝ロベールが崩御した段階で、マイセンを次期皇帝に即位させ、皇帝派を一掃するつもりなのだろうという事だった。
カルデの話が終わると大広間に沈黙が流れた。
トーマスは既に詳細を把握していたのか、ララの父であり自分の義父でもあるシルバリオン公爵の話が出た時も黙って話を聞いていた。
またアリスも驚く様子はなく黙っている。
ウィルはそんな2人を見て事情を知らなかったのは自分だけかと思い、少し寂しくなりながらも気を取り直して口を開いた。
「なるほど、カルデ様やマクグラン王国が表立って動けないのは、ここで動いてしまえば神聖派というかオグニイーナ様の思うツボって訳ですね。
ちなみにマクグラン王国はボルケニア帝国と戦争したくないんですか?」
「ああ、その通りだ。我もグリドールもボルケニア帝国との戦争は望んでいない。
むしろその逆で平和条約交渉を進めていたくらいだ。
あと一歩で条約締結にこぎつけたものをロベールの奴め。倒れおって…。」
カルデはそう言うと悲しげな表情を浮かべた。
だがウィルにはその返答は納得できなかった。
「でも、結局このままマイセン王子が即位したら遅かれ早かれ戦争は避けられないんですよね?
そうであれば、カルデ様やグリドール国王陛下が動けないと言うのもおかしくないですか?
俺には平和条約がどんなものか知りませんけど、たった1人の国民も助けられないような国が平和を語るなんておかしくないですか?」
「ウィル!」
その挑発的な言葉にトーマスが声を上げるが、カルデが手を挙げてを制した。
「フッ、綺麗事にもならない戯れ言だな。おぬしもそれなりに長い年月を生きて来たのだろう?
それなら時に国とは民の命よりも、国としての体裁や都合を優先する事くらい知っているはずだ。
それを知っていて尚、そんな戯れ言を言うのは何故だ?」
ウィルはその言葉がウィルではなく雄介としての自分に投げかけられたものだと気付く。
「それは…俺はずっと勉強にしても仕事にしても恋愛にしても、全部何かと言い訳しながら諦めて、結果的に自分でも冴えない人生だなって思いながら生きてきたんです。
そしたら…いざ死んでというか死にかけて思ったんですけど、今まで色々と諦めてきた分、今度の人生は頑張ってみようって思ったんです。
でも、昨日の夜ボルケニアの内乱の話を初めて聞いた時はビビって、俺なんかじゃ何も出来ないって早速諦めて、俺って情けねえってヘコんだんですけど、それでも、その後また死にそうになったりしてやっぱりもう諦めたくないって思えたんですよね。って返答になってますかね?」
ウィル自身、自分が何を言っているのかわからなくなり頭をポリポリとかいていると、カルデが吹き出し笑い声が響いた。
「ぷっ!あはははははっ!す、すまん!つい面白くてな。そうだったな。
ウィル、今のおぬしには戯れ言を言う権利も、その戯れ言を突き通すだけの力もあったな。
それならウィル、おぬしがララ達を助けてみせよ。」
突拍子も無いその言葉に大広間に再び沈黙が訪れるも、次の瞬間ウィル達の驚きの声が響き渡るのであった。




