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第17話 対を成す世界

トーマスはしばらくすると涙に濡れた顔を拭い、カルデに向き直り頭を下げた。

「カルデ様、お見苦しい姿をお見せし申し訳ございません。」

「気にせずとも良い。今、己自身を悔い改めているのであれば、我が何か言う必要もないだろう。

それに今回はラスクに救われたな。良い息子を持った事を誇るがいい。」

「はい!有り難うございます!」

カルデの言葉の意味を知ってか知らずかラスクは、再びハニエルの太ももの上に戻るとドヤ顔をしている。

「それにトーマスの話で皆が生きている可能性が高い事も分かったしな。」

「本当ですか!?」

ウィルは思わず声を上げトーマスとアリスと顔を見合わせ期待に笑みを浮かべた。

「まず、今回の襲撃の目的はオグニイーナが言っていた様にララをボルケニアに連れ戻す事なのだから、ララはひとまず安心だろう。

マイセンのヘタレ小僧が何かするとも思えないしな。

クラスティは敵の本拠地で無謀な事をするような愚か者でもないだろうし、オグニイーナとしても殺すよりは人質として捕えていた方が利用価値があると考えるだろう。それに…いや、考えすぎか。何でもない。」

カルデは何かを言いかけるが、それを飲み込むと話を進めた。

「それからブライトとメリーだが、恐らく魔界に飛ばされているだろう。」

「魔界!?父上と母上が吸い込まれたあの巨大な門の先は魔界に繋がっているのですか!?それに…。」

トーマスの驚きのこもった質問にカルデは静かに頷いた。

魔界とはこの天地界と対を成す異次元にある、6人の魔王が統治する世界である。

この世界の一般教養として、ウィル達が住む世界である天地界と魔界は不可侵条約により互いの世界の往来を原則禁止しており、それは神や王族であっても例外ではなかった。

そしてトーマスの驚きはそれを指してのものだった。

「ミカエルが使った魔法は最後の審判という、魔界に送られたものの魔力量と引き換えに大爆発を引き起こす神級魔法だ。といっても、あの魔法はそもそもミカエルが作り出した天地界から魔界への転移魔法だったんだが、ある事をきっかけに魔王サタンが簡単に使えぬよう呪いをかけてな。それが魔界への転移と引き換えに起こるあの爆発という訳だ。まったくサタンも厄介な真似をしてくれたものだ。」

教科書には載っていない魔法の話を聴きながら、ウィルがそれって極秘情報なのではと思っていると、アリスが居ても立っても居られず口を開いた。

「カルデ様、それで旦那様と奥様はご無事なのでしょうか!?」

「ああ、あの魔法の転移先はサタンの治めるサンフラテス王国のとある場所と決まっている。今頃、サタンの耳にも入って丁重にもてなされている頃だろう。」

「えっ!?それって危ないのでは!?」

アリスが不思議に思うのも無理はなかった。

不可侵条約を破って魔界へ行く事自体が重罪であり、更に魔王が統治する国に許可なく入ったとすれば極刑となってもおかしくはなかった。

アリスがカルデの言葉に困惑しているとハニエルが色っぽい笑みを浮かべた。

「ウフフ。アリスさん、サタンはミカエルが誰よりも大嫌いなんですのよ。だから、ミカエルの敵に塩を送る事はしても塩を振るような真似は絶対にする訳がないのですわ。」

「それでは、旦那様と奥様はご無事なのですね。良かったぁ。」

アリスはホッと胸を撫で下ろした。

「それに近々マクグラン王国とサタンの治めるサンフラテス王国の間で数年に一度の外交交渉が予定されていてな。ブライト達の身柄についても話が上がるだろう。まぁ、悪い話にはならないだろうから安心しろ。」

カルデはティーカップの紅茶を一口飲むと大広間にいた神殿騎士を呼んだ。

「今の話は聞いていたな?ブライト達の捜索をしているマッカランに捜索を終了するように伝えてくれ。

それから、一部の騎士はそのまま爆発があった周辺の警備にあたらせ、マッカランは急ぎここに戻るよう伝えてくれ。」

神殿騎士が敬礼し大広間から出て行くと、カルデは皆を見て頭を抱えた。

「それで、問題はララ達の救出についてだが今ボルケニアは複雑な状況にあってな。我やマクグラン王国が表立って動ける状況では無いのだ。」

「えっ!?それじゃ…。」

カルデの突き放すような物言いに納得できないウィルが口を挟もうとするが、トーマスがそれを遮るように口を開いた。

「複雑な状況とは、ボルケニア内で起きている第1王子と第2王子の跡目争いのことでしょうか?」

その言葉にウィルは昨晩のブライトの話を思い出した。

そしてカルデは、事情が分かっているなら話が早いとばかりに語り始めるのであった。


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